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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第一章 始まり
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9/72

9話 本当のボス

レイは再びダンジョンの中へ戻っていた。


目的は一つ。


――ユージたちを探すこと。


昨日までなら、ただの実習場所だった。


しかし今は違う。


ユージたちはまだ戻ってきていない。


そして、レイは彼らが向かったと思われる道に、不自然なほど濃い魔力を感じていた。


「……ここだな」


レイは先ほどの分かれ道まで戻ってきた。


目の前には、右と左に分かれた二つの道。


レイは右の道を見つめる。


「右の道、やっぱ魔力濃度が異常に高いな」


すると、頭の中から声が聞こえた。


『小僧』


「ん?」


『そこの道は、お前にはまだ早い』


レイは少し驚いた。


「起きてたのか」


『貴様が勝手に危険な場所へ向かっているからな』


酒呑童子の声には、いつものような呆れが混じっている。


『この右の道には、幻覚魔法が施されていたようだ』


「幻覚魔法?」


『あぁ。だが、それを解いて進んだ奴がいる』


レイはすぐに理解した。


「ユージたちか」


『恐らくな』


レイは右の道を見つめる。


「……だからこそ、行かなきゃな」


『お前、死ぬぞ?』


「はぁ……」


レイはため息をついた。


「俺だって行きたくない」


一度、深呼吸する。


「でも、ユージやカナたちが心配だ」


そして、少しだけ笑った。


「それに、俺が死にかけても契約で俺を助けるんだろ?」


『……』


酒呑童子が沈黙する。


『勝手にしろ』


「はいはい」


レイは右の道へ足を踏み入れた。


⸻


進めば進むほど、魔力の濃度が高くなっていく。


空気そのものが重くなっているようだった。


「どんどん魔力濃度が高くなってるな……」


レイは周囲を警戒しながら歩く。


しばらく進むと、やがて道が開けた。


「……広いな」


そこは、まるでボス部屋のような巨大な空間だった。


そして――


「……!」


レイは目を見開いた。


部屋の奥に、何人もの人間が倒れている。


セニア。


ミリー。


レノバ。


ヴィーナ。


そして、その前ではアルス、ルナ、ユージ、カナが必死に戦っていた。


全員、かなり消耗している。


「……あいつら」


レイの視線が、四人の前にいる存在へ向く。


巨大な身体。


人間のように二本の足で立ち、全身を黒い肉体で覆っている。


悪魔を思わせる顔。


そして頭には大きな角。


「……グリードか」


グリード。


Bランクに分類される巨大な魔物。


強靭な肉体と圧倒的な腕力を持ち、巨大な拳による攻撃だけでなく、闇魔法まで操る危険な魔物だ。


その拳が――


カナへ向けて振り下ろされた。


「――!」


カナは逃げようとする。


しかし、身体が動かない。


「も、もう……ダメです……!」


グリードの巨大な拳が迫る。


次の瞬間――


ドォンッ!!


巨大な衝撃音が響いた。


地面が大きく揺れ、土煙が舞い上がる。


カナは目を閉じた。


「……あれ?」


そして、恐る恐る目を開いた。


「え……?」


「危ねぇ……間に合ったな」


レイはカナを抱えたまま、少し離れた場所に立っていた。


グリードの拳が振り下ろされる直前。


レイが高速で移動し、カナを攻撃範囲から連れ出したのだ。


「れ、レイさん……!」


カナの目から、安堵の涙がこぼれる。


「大丈夫か?」


「は、はい……」


「なら良かった」


レイはカナを立たせる。


「とりあえず、後ろで休んどけ」


「はい……!」


カナは頷き、後ろへ下がった。


「レイ……」


ユージが声を絞り出す。


レイはユージを見る。


「お前も寝とけ」


「でも……あいつ、強くて……」


「おう」


「……」


「だから寝とけ」


「……分かった」


ユージは素直に後ろへ下がった。


続いて、アルスが立ち上がろうとする。


「ま、まだ戦える……!」


レイはアルスの身体を見る。


「お前、その腕と足……もろにあいつの攻撃を喰らったろ?」


「うっ……」


「そんな状態で何するんだよ」


「し、知るか!」


「はぁ……」


レイは呆れたように息を吐く。


「死にたきゃ勝手に死んどけ」


「冷たっ……!」


その会話を聞いていたルナが、不安そうに尋ねる。


「……あなた一人で勝てるの?」


レイはグリードを見つめる。


「こいつには……多分」


「こいつには?」


ルナが首を傾げる。


「こいつ、一体しかいないよ?」


「あぁ」


レイは頷いた。


「確かに目の前には一体しかいない」


だが――


レイの視線は、グリードのさらに奥へ向いていた。


そこには巨大な扉がある。


そして、その扉の向こう側から――


とてつもない魔力が漏れ出していた。


「……」


レイの表情が変わる。


「グリードは門番ってところか」


誰も答えられない。


レイは巨大な扉を見つめた。


「あの扉の奥には何がある?」


一瞬、間を置く。


「……いや」


レイの目が細くなる。


「何がいる?」


その瞬間。


「ウボォォォォォッ!!」


グリードが雄叫びを上げた。


巨大な拳が迫る。


「来るか」


レイは刀を抜く。


「焔纏い」


刀身に炎が纏われる。


そして――


「鬼炎乱舞」


レイは大きく息を吸った。


グリードが拳を振り下ろす。


レイはその攻撃をかわし、一気に踏み込んだ。


「一閃」


炎を纏った刀が走る。


グリードの拳を受け止めるのではなく、そのまま振り下ろされた腕を斬り抜いた。


「グァッ!」


グリードが一歩後退する。


レイは再び息を吸う。


「二連」


先ほどよりも強烈な斬撃。


炎が周囲へ広がり、グリードの両脚を捉える。


「グァァッ!」


グリードの巨体が大きく揺れる。


レイはさらに息を吐いた。


「三段」


最後の一撃。


これまでの二撃を遥かに上回る斬撃が走る。


炎がグリードを包み――


巨体が崩れ落ちた。


静寂。


レイは刀を収める。


「……ふぅ」


その場にいた全員が、言葉を失っていた。


「疲れた」


「へ……?」


カナが呆然とする。


ユージも目を見開いた。


「い、いや……」


アルスも言葉が出ない。


「たった三回の攻撃で……」


ルナが呟く。


「……あいつを倒した?」


レイは何でもないように答える。


「まぁ、倒したな」


そして――


「早めに帰るぞ」


レイが歩き出そうとした、その瞬間。


ゴゴゴゴゴゴ――。


巨大な音が響いた。


「……ん?」


レイが振り返る。


グリードの背後にあった巨大な扉が――


ゆっくりと開いていく。


「ちっ……」


レイは舌打ちする。


「開いてしまったか」


扉の向こう側。


そこには、古代の宮殿を思わせる巨大な空間が広がっていた。


そして、その中央には――


一つの玉座。


その玉座には――


黒い騎士が座っていた。


全身を黒い鎧で包み、腰には一本の剣を携えている。


しばらくすると、黒い騎士がゆっくりと立ち上がった。


「……」


その瞬間。


空気が変わった。


「……っ」


ユージが息を呑む。


「な、なんだよ……この圧……」


黒い騎士から、とてつもない魔力が溢れ出している。


ただ立っているだけ。


それだけなのに、身体が動かなくなりそうなほどの圧力だった。


レイも刀を握り直す。


だが――


酒呑童子の声が響く。


『小僧』


「……分かってる」


『今のお前では勝てん』


「……あぁ」


レイは黒い騎士を見つめる。


「俺もそう思う」


レイはすぐに振り返った。


「逃げるぞ!」


「は、はい!」


「おう!」


「うん!」


全員が一斉に走り出す。


レイはフードの中へ手を伸ばした。


「アカマル、起きてくれ!」


「ガウッ!」


眠っていたアカマルが飛び起きる。


黒い騎士を見た瞬間――


「ガルルル……!」


アカマルが激しく威嚇する。


「お前も分かるのか」


レイはアカマルを見つめた。


しかし、立ち止まっている暇はない。


「とにかく逃げるぞ!」


アカマルの身体がみるみる大きくなる。


小さな子犬ほどだった身体が、あっという間に大きくなっていく。


「すげぇ……」


ユージが驚く。


「レノバとセニアは俺が運ぶ!」


レイは倒れている二人を抱える。


「アカマル、ミリーを頼む!」


「ガウ!」


アカマルがミリーを背中に乗せる。


「ユージ、そこのヴィーナだっけ?」


「おう!」


「運べ!」


「任せろ!」


ユージがヴィーナを抱える。


「アルス、ルナ、カナ!」


レイが叫ぶ。


「走れ!」


「お、おう!」


「うん!」


「はい!」


全員が一斉に駆け出した。


背後から、黒い騎士の気配が迫ってくる。


振り返ることはできない。


ただひたすら走る。


そして――


なんとかダンジョンの入り口まで戻ってくることができた。


「はぁ……はぁ……」


全員が息を切らす。


待っていたローベルが、負傷した生徒たちを見て驚愕する。


「ど、どうしたんだ、その怪我は!?」


レイが答える。


「グリードです」


「グリード?」


ローベルが目を見開く。


「あのBランクの魔物か?」


「はい」


レイは頷く。


「そいつがユージたちをボコボコにしてました」


「待て!」


ローベルが慌てる。


「グリードがいたとして、ここのボスは蜘蛛のはずだ!」


「……俺も分からないです」


「とにかく、学園へ戻るぞ!」


「はい」


⸻


学園へ戻ると、負傷した生徒たちはすぐに治療を受けることになった。


レイはローベルへ尋ねる。


「カナたちはどうですか?」


「重傷の者もいるが、命に別状はない」


「それは良かった」


「じゃあ、詳しい話を聞かせてもらおうか」


「分かりました」


レイはローベルとともに、学園長室へ向かった。


⸻


「ほぉ……」


クラウスは腕を組みながら話を聞いていた。


「つまり、蜘蛛が本当のボスではなく――その黒い騎士がボスだったということか」


「はい」


レイが頷く。


ローベルも信じられない様子だった。


「そんなことが……」


クラウスはしばらく考えたあと、ローベルへ向き直る。


「ローベル君」


「はい」


「冒険者ギルドと王国騎士団へ報告を頼む」


「分かりました。すぐに報告します」


ローベルは部屋を出ていった。


静かになった部屋。


クラウスがレイを見る。


「レイから見て、その黒い騎士はどう思った?」


「……あれはやばい」


レイは即答した。


「挑んだら、100%死ぬ」


「そうかぁ」


クラウスは少し安心したように笑う。


「無事で良かったワイ」


「うん」


そのとき――


「レイ!」


クラウスが呼びかける。


「酒呑童子にも聞いてみたいのぉ」


「酒呑童子?」


すると――


レイの身体から、酒呑童子が姿を現した。


「あ?」


クラウスは目を細める。


「寝てたのかのぉ?」


「寝る邪魔するな」


「少し聞きたいことがあってのぉ」


酒呑童子は面倒そうにクラウスを見る。


「……あいつか?」


「あぁ」


「俺なら余裕だ」


酒呑童子は腕を組む。


「ただし――」


レイを見る。


「小僧は死ぬだろうがな」


「やっぱりか……」


クラウスは頷く。


「そうか」


そこへ、扉が開いた。


「レイー!」


ソフィアが入ってくる。


「レイが無事で良かった〜!」


ソフィアはそのままレイへ抱きついた。


「うっ……」


「ごめんねぇ」


「大丈夫……」


ソフィアの力は相変わらず強い。


レイは何とか耐える。


「じいちゃん」


「なんじゃ?」


「あいつ、どうする?」


クラウスは少し真剣な表情になる。


「もし、あの黒い騎士による被害が出るようなら――ワシが出向こう」


「なら……安心か」


「そうよぉ」


ソフィアも笑う。


クラウスはレイを見る。


「それよりレイ」


「ん?」


「グリードを倒してくれてありがとうのぉ」


「うん」


「今日はもう教室へ戻っていいぞ」


「分かった」


レイは立ち上がる。


「またね、レイ」


ソフィアが手を振る。


「また」


レイも手を振り返した。


⸻


教室へ戻ると、ローベルが生徒たちへ声をかけた。


「みんな、今日はダンジョン実習をよく頑張った」


そして、一息つく。


「今日はこれで終わりだ。あとは自由にするといい」


レイはそのまま保健室へ向かった。


⸻


保健室。


ベッドにはカナ、ユージ、ルナ、アルスたちがいた。


「大丈夫か?」


レイが入ると、カナがすぐに顔を上げた。


「レイさん!」


「私は大丈夫です!」


「俺も、他の奴らに比べたら軽傷だ」


ユージが笑う。


「私も〜」


ルナも元気そうに手を振った。


「俺は骨折れてたけどな……」


アルスは少し不満そうだった。


「そうか」


レイはそれだけ答える。


「レノバたちは?」


「まだ寝てる」


アルスが答えた。


「そうか」


すると、アルスがレイを睨む。


「なぁ、お前のあの技……なんなんだ?」


「何が?」


「逃げようとするなよ」


アルスが身を乗り出す。


「あのグリードを一瞬で倒した技だよ」


「まぁまぁ」


レイは適当に流す。


「すごかったよなぁ」


ユージも思い出したように笑う。


「本当にかっこよかったよ〜」


ルナも笑う。


カナは深々と頭を下げる。


「本当にありがとうございました!」


「大丈夫そうで何よりだ」


レイはそれだけ言った。


すると、アルスが少し俯く。


「……俺は何もできなかった」


「がんば」


「冷たっ!」


アルスが叫ぶ。


「もうちょっと何か言ってくれよ!」


レイは苦笑した。


そのとき、ユージがふと思い出したように尋ねる。


「なぁ、レイ」


「ん?」


「最後に出てきた、あの黒い騎士って何者なんだ?」


ユージの表情が真剣になる。


「あれ……圧だけで押し潰されそうだったんだけど」


「俺も知らん」


「そうかぁ……」


ユージは天井を見上げる。


「一体なんだったんだろうな」


誰も答えを出せなかった。


⸻


その後。


カナがレイへ声をかけた。


「レイさん」


「ん?」


「私……能力を使いこなせるようになりたいです」


カナは自分の手を見つめる。


「未来視……全然うまく使えないので」


「がんばれ」


「……はい」


カナは一瞬だけ固まった。


しかし、すぐに顔を上げる。


「……手伝ってくれませんか?」


「うーーーーん……」


レイが悩む。


すると、横からルナが口を挟んだ。


「こんな可愛いカナちゃんの頼みを断るつもりなの〜?」


「わ、分かった」


「ありがとうございます!」


カナが嬉しそうに笑う。


「傷はもう癒えてるか?」


「はい!」


「なら、練習するか」


「はい!」


⸻


学園の訓練場。


二人は向かい合っていた。


「未来視だっけか?」


「はい」


カナは頷く。


「難しくて……」


「じゃあ、魔力に集中してみろ」


レイが説明する。


「目に魔力を集めるイメージで」


「はい!」


「それから精神統一」


「分かりました」


カナは目を閉じ、静かに呼吸する。


周囲の音が遠ざかっていく。


魔力を集中させる。


そして――


「……!」


カナの脳裏に、一つの光景が浮かんだ。


レイが火魔法を放とうとしている。


「……!」


カナが目を開く。


「レ、レイさん!」


「ん?」


レイはちょうど火魔法を放とうとしていた。


「未来……見えたかもです!」


「良かったな」


「はい!」


カナは嬉しそうに笑った。


しかし、すぐに少し疲れた表情を見せる。


「でも……魔力の消費が激しいです」


「慣れないうちは、魔力を無駄に消費するもんだ」


「そうですかね?」


「あぁ」


レイは頷く。


「使っていけば、そのうち慣れる」


「はい!」


カナは元気よく返事をした。


そして――


「レイさん」


「ん?」


「何もかも手伝ってくれたり、助けてくれたり……」


カナは笑顔を浮かべる。


「本当にありがとうございました!」


「いや、大丈夫」


「私にできることなら、なんでもします!」


レイは少し考えた。


「……考えとく」


「はい!」


カナは嬉しそうに頷いた。


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