7話 Sクラス
翌朝。
レイは荷物をまとめ、魔法学園へ向かっていた。
今日から、いよいよ魔法学園での生活が始まる。
昨日までは入学試験を受ける側だった。
しかし、今日からはこの学園の生徒だ。
少しだけ緊張しながら歩いていると、やがて大きな門が見えてくる。
門の前にはすでに多くの新入生が集まっており、その中には新入生を案内している教師たちの姿もあった。
そして、その中心に見覚えのある人物が立っている。
レイはすぐに気づいた。
「おはよう、レイ」
学園長であるクラウスだった。
「おはよう、おじちゃん」
「おじちゃんじゃなくて、じいちゃんじゃろうが」
クラウスは呆れたように笑う。
「まぁいい。それより、まずは魔法学園の寮へ行きなさい。そこで案内人に部屋を教えてもらうんじゃ」
「分かったよ」
「荷物を部屋に置いたら体育館へ向かうんじゃ。そこでクラス分けを行うからのぉ」
レイは頷いた。
「うん。じいちゃんはこの後来るの?」
「おう、もちろん行くぞ。ただ、今は新入生の案内をせにゃならんからな。先に行っておいで」
「分かった。また後で」
「またのぉ」
レイはクラウスと別れ、寮へ向かった。
教えてもらった部屋に到着すると、荷物を置く。
これからしばらく、この部屋が自分の生活する場所になる。
「……ここが俺の部屋か」
まだ何もない部屋を見回し、レイは少しだけ感慨深くなる。
昨日まで家族と一緒に暮らしていた。
今日からは、少しだけ違う生活が始まる。
レイは荷物を整理すると、体育館へ向かった。
⸻
体育館に到着したレイは、思わず足を止めた。
「……広い体育館だな」
かなり大きい。
新入生全員を集めても余裕がありそうなほどだった。
「そうだな。でかすぎだよなぁ」
隣から声が聞こえた。
レイが振り向く。
そこには茶色い髪をした少年が立っていた。
「うんうん」
レイは何気なく頷く。
すると、少年と目が合った。
「ん?」
「ん?」
二人とも少しだけ首を傾げる。
そして、レイから声をかけた。
「俺はレイ。よろしく」
「俺はユージ。よろしくな!」
ユージは人懐っこい笑顔を浮かべた。
「せっかく話せたんだし、同じクラスにならないかなぁ」
「だな。同じになるといいな」
そんな話をしていると――
「あっ!」
聞き覚えのある声がした。
レイが振り向くと、こちらへ駆け寄ってくる少女がいた。
「レイさん! 昨日ぶりです!」
カナだった。
「昨日ぶりだな」
「はい!」
カナは嬉しそうに笑う。
「クラス分け、ちょっと緊張します!」
「俺もまぁ、少しはな」
そのとき、カナが隣にいたユージへ視線を向けた。
「……レイさんのお友達ですか?」
「まぁな」
レイが答えるより早く、ユージが手を差し出した。
「俺はユージ。よろしく!」
「私はカナです! よろしくです!」
二人が握手を交わす。
すると、ユージはレイの耳元へ顔を近づけた。
「なぁ、レイ」
「なんだ?」
「え、もしかして彼女さん的な? めっちゃ可愛いじゃん」
次の瞬間。
レイの拳がユージの脇腹に軽くめり込んだ。
「そういうのじゃねぇよ」
「い、いてぇ! ご、ごめんって!」
ユージが脇腹を押さえる。
カナは不思議そうな顔をした。
「二人とも、どうしたんですか?」
「何もない」
「な、何もないよぉ……」
「そ、そうですか?」
カナは納得していないようだったが、それ以上は追及しなかった。
そのとき――
体育館の前方へ、クラウスが歩いていく。
ざわついていた新入生たちも、クラウスに気づいて静かになった。
クラウスは全員を見渡す。
「新入生全員、集まったようじゃのぉ」
そして、ゆっくりと口を開いた。
「儂はこの学園の学園長、クラウスじゃ。これから君たちには魔力測定を行ってもらう」
新入生たちがざわめく。
「そして、その魔力量によってクラスが分かれる」
クラスはE、D、C、B、A、そしてS。
上位になるほど、魔力総量の多い生徒が集められる。
つまり――
Sクラスは、この学年でも特に優れた生徒たちが集まるクラスということだ。
カナが説明を聞きながら、隣のレイへ尋ねる。
「水晶に触れるだけでいいんですね」
「だな」
ユージも二人の会話に加わった。
「二人はどのクラス行きたい?」
レイは少し考える。
「俺はまぁ……Sに行けたら嬉しいくらいで」
「わ、私もです!」
カナが勢いよく手を挙げる。
「じゃあ俺もS!」
ユージも便乗する。
「お前ら、適当だな」
「いいじゃん。目標は高い方が!」
ユージが笑った。
やがて教師たちが水晶を運んでくる。
一人ずつ、水晶へ手をかざして魔力量を測定していく。
しばらくして――
「そろそろ俺の番かぁ」
ユージが前へ出ようとする。
レイは軽く手を振った。
「派手に散ってこい」
「それ、どういう意味だ?」
「さぁな」
「お前、絶対わざと言っただろ!」
そこへ教師から声が飛ぶ。
「次の方、来てください」
「俺の番だ。じゃあ後でな!」
「おう」
「はい! 後で!」
ユージは水晶の前へ歩いていく。
そして、手をかざした。
次の瞬間――
水晶が青く輝いた。
教師が目を見開く。
「これはすごい。Sランクです」
「よっしゃー!」
ユージは思い切りガッツポーズをした。
「やった! Sクラスだ!」
戻ってきたユージは、どこか誇らしげだった。
「どうだ!」
「良かったな」
「反応薄っ!」
そんなやり取りをしていると、次の教師が声をかけてくる。
「次の方、どうぞ」
「俺の番か」
レイが立ち上がる。
そのとき、カナも別の教師から呼ばれた。
「私も別の先生に呼ばれたので行きますね!」
「おう。また後で会おう」
「はい!」
二人と別れ、レイは水晶の前へ立った。
「水晶に手をかざしてください」
「はい」
レイが手をかざす。
――その瞬間。
水晶が赤く輝いた。
「……?」
しかし、それだけでは終わらなかった。
赤。
青。
黄色。
次々と色が変化していく。
周囲にいた教師たちも、異変に気づき始めた。
「な、なんだ……?」
水晶はさらに強く輝く。
そして――
金色。
まばゆい光が体育館の一角を照らした。
ピシッ。
小さな音が響く。
レイが目を向けると、水晶に一本の亀裂が入っていた。
「……」
教師が固まる。
「こ、こんなことって……」
「……あの」
「…………」
「先生?」
「あっ! す、すみません!」
教師は慌てて我に返る。
「こ、これは……Sランクです!」
「は、はい。ありがとうございました」
レイは何とも言えない表情で頭を下げ、その場を離れた。
⸻
体育館を出ると、そこにはクラウスが立っていた。
まるでレイを待っていたかのようだった。
「じいちゃん。体育館の中にいなくてもいいのか?」
「そりゃあのぉ……」
クラウスは苦笑する。
「水晶をあんな状態にした奴を見るのは、初めてじゃからのぉ」
「そ、それは……」
レイは視線を斜め上へ逸らす。
クラウスがニヤリと笑った。
「あの水晶、少し高いんじゃが」
「うっ……」
レイの表情が固まる。
しかし、クラウスはすぐに笑った。
「まぁ、儂から言ってなんじゃが、気にするでない」
「は、はい……」
「それより、Sクラスおめでとう、レイ」
「ありがとうございます」
「部屋はもう教えてもらったか?」
「さっき先生から教えてもらった」
「おう。それならいい」
「じゃあ、また」
「またのぉ」
レイはクラウスと別れ、Sクラスへ向かった。
⸻
しばらく歩き、レイは教室の前で足を止めた。
「ここか……」
扉を開ける。
中にはすでに二十人ほどの生徒が集まっていた。
何人かはすでに会話を始めており、そこかしこで小さなグループができている。
「……もしかして俺、一番最後?」
そう呟いた瞬間――
「よう! レイ!」
ユージと目が合った。
「Sクラスか! 同じクラスとして、改めてよろしくな!」
「よろしく、ユージ」
レイは教室を見回す。
そして、カナの姿を見つけた。
しかし、カナはすでに別の女子生徒たちと楽しそうに話している。
「やっぱ俺、一番最後だったか」
「ん? 確かにそうかもな。レイだけ来るの遅かったし」
「やばい」
「ん?」
「まだ誰にも話しかけられてない!」
レイが少し焦った様子を見せる。
すると、ユージが大笑いした。
「そんな焦らなくてもいいんじゃね?」
「……」
「ちなみに俺、もう全員と話したからな!」
ユージはなぜか誇らしげだった。
「それは良かったな」
「もっと褒めろよ!」
「すごいすごい」
「絶対思ってないだろ!」
そんな二人のやり取りを遮るように、教室の扉が開いた。
一人の男性教師が入ってくる。
「俺はこのSクラスの担任になった、ローベルだ」
生徒たちの視線が一斉に集まる。
「みんな、話したいのもやまやまだと思うが、今は少し我慢してくれ」
ローベルは教壇の前に立った。
「知らせることがたくさんある。まずは魔力測定の結果を今から発表する」
そう言うと、教室の前方に大きな魔法映像が浮かび上がった。
そこには、生徒たち一人一人の名前と魔力総量が表示されている。
「このクラスは二十一人いる。これは、その二十一人の魔力総量をランキングにしたものだ」
そして、順位が表示される。
魔力総量ランキング
1位 アルス
2位 ルナ
3位 ラウス
4位 セニア
5位 ミリー
6位 レノバ
7位 カナ
8位 エリック
9位 ダリウス
10位 ヴィーナ
11位 ユージ
12位 ラント
13位 アリア
14位 ウラヌス
15位 カルマ
16位 ミア
17位 クレア
18位 グリム
19位 シュナ
20位 エルフィ
21位 レイ
「……」
レイは画面をじっと見つめる。
そして――
自分の名前が一番下にあることに気づいた。
「俺、最下位か」
「俺は真ん中くらいだ!」
ユージが妙に嬉しそうに言う。
「お前、そこ嬉しいのか?」
「真ん中って結構すごくね?」
「まぁ……そうかもな」
すると、ローベルが続ける。
「もちろん、このランキングは今後の行動によって変動する。今はあくまで入学時点での結果だ」
生徒たちは真剣に画面を見つめる。
「それと、分かっていると思うが、Sクラスで一位になった者は、この学年では最も魔力総量が多い生徒ということになる」
レイは上から下まで順位を眺める。
自分はSクラス。
だが、魔力総量だけなら最下位。
その事実に、少しだけ興味が湧いた。
「……まぁ、いいか」
レイは小さく呟いた。
そしてローベルが最後の話へ移る。
「最後に、早速だが――明日、君たちにはダンジョンへ行ってもらう」
「え?」
ユージが固まった。
「え!? いきなりですか?」
「あぁ。いきなり実戦してもらう」
教室が一気にざわつく。
「君たちの明日の目標は、ダンジョンのボス討伐だ」
ローベルは淡々と続ける。
「Sクラスの君たちならできるだろう。チームを作ってもいいし、作らなくてもいい。一人で戦いたいという奴もいるだろうからな」
「一人でもいいんですか?」
「構わない。ただし、無理だと思ったら無理をするな。明日の準備はしっかりしておくように」
そのとき、明るい声が上がった。
「は〜い〜質問で〜す」
手を挙げたのは、先ほどランキング二位だった少女――ルナだった。
「なんだ?」
「チームは何人でもいいんですか〜?」
「あぁ。何人でも構わない」
「ありがとうございま〜す」
ルナは満足そうに手を下ろした。
「これで今日のやることはない。今からは自由だ。寮に戻るのもよし、クラスで話すのもよし。チームを作るのもよし」
ローベルはそう言い残すと、教室を出ていった。
教師がいなくなった途端、教室は再び騒がしくなる。
「明日いきなり実戦ってやばくね?」
ユージがレイへ顔を向けた。
「俺、魔物と戦ったことねぇよ」
「そうか。がんば」
「レイ冷たいって!」
「まぁ」
「一人じゃ不安だし、チーム作りたい!」
「がんば」
「応援が雑すぎる!」
ユージは頭を抱える。
「レイはどうするんだ? 一人でダンジョンに行くのか?」
「ダンジョンは初めてだし……そうだなぁ」
レイは周囲を見る。
すでに何人かの生徒たちは集まり始めていた。
「俺はチーム入るわ。レイも入りたかったら言えよー」
「分かった。ありがと」
ユージが他の生徒たちのところへ向かっていく。
教室では、どんどんチームが作られていった。
レイはそれを眺めながら呟く。
「一人の方が動きやすいんだよな」
すると――
「レイさん!」
聞き慣れた声がした。
振り向くと、カナが立っている。
「よっ」
「同じクラスですね!」
「あぁ。まぁ、俺は一番弱いんだが」
カナは少し驚いたような顔をする。
「そんなわけないですよ。レイさんは私より強いですし」
「いや、カナの方が強いと思うよ」
「むぅ……」
カナは頬を少し膨らませる。
「どうしてレイさんは、いつも自分を低く見るんですか?」
「別に。事実だろ」
「私はそう思いませんけど……」
カナは少しだけ不満そうだった。
「まぁ結果として最下位なんだし」
「あれは絶対間違いです!」
「それより、カナは明日のダンジョンどうするんだ?」
「私はですね!」
カナは指を折りながら説明する。
「ルナさんとアルスさん、レノバさん、ミリーさん、セニアさん、それとユージさんも一緒に行きます!」
「……トップチームじゃん」
ランキング上位の名前がずらりと並んでいる。
「もっと人数が増えるかもしれません。その方が安全なので」
「確かにな」
カナは少し考えたあと、レイを見る。
「レイさんはどうするんですか?」
「決めてない」
「……一緒に行きます?」
カナが少し遠慮がちに尋ねる。
レイは一瞬考えた。
「誘ってくれてありがと。考えとくよ」
「はい!」
カナは嬉しそうに笑った。
⸻
その日の夕方。
レイは寮へ戻ってきた。
部屋の扉を開ける。
「ただいま」
「ガウ!」
すると、部屋の中から元気な鳴き声が返ってきた。
アカマルだった。
「ふっ、アカマル。起きてたか」
レイはアカマルを抱き上げ、そのまま膝の上へ乗せる。
アカマルは尻尾を振っている。
「そうだ。明日、アカマルも連れていくか?」
「ガゥ?」
「いいのか?」
「ガウガウ!」
「ありがと」
アカマルが嬉しそうに鳴く。
「明日は一緒にダンジョンだな」
「クゥゥン」
「だな」
レイはアカマルの頭を撫でながら、明日の準備を始めた。
⸻
そして翌日。
ダンジョン実習の日。
Sクラスの生徒たちは、学園の前に集まっていた。
全員がそれぞれ武器や荷物を準備している。
ローベルが全員を見渡す。
「さぁ、今日はダンジョンだ。準備はできたか?」
「できてまーす!」
ユージが元気よく手を挙げる。
「じゃあ、行くとしよう」
こうして――
レイたちSクラスの、初めての実戦が始まった。




