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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第一章 始まり
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6/72

6話 レイの祖父母

コンコン。


宿の部屋に、突然ノックの音が響いた。


「はい?」


レイが返事をすると、扉の向こうから宿のおばちゃんの声が聞こえてきた。


「お客様に会いたいという方がいらっしゃるんですが、入ってもらっても大丈夫ですか?」


「いいよ」


「分かりました。呼んできますね」


足音が遠ざかっていく。


「……誰だ?」


レイは首を傾げた。


自分がこの国に来たことを知っている人間は、そう多くない。


家族がわざわざ来るとも思えない。


しばらくすると、再び足音が近づいてきた。


そして――


「失礼します」


扉が開いた。


入ってきたのは、二人の男女だった。


「レイ、久しぶり!」


女性が嬉しそうに笑う。


「……え?」


レイは目を丸くした。


「ひ、久しぶり……」


「久しぶりだなぁ、レイ!」


隣にいた男性も、豪快に笑った。


レイは二人の顔を交互に見る。


「な、なぜここに……?」


「何を言っておる」


男性が笑う。


「孫の入学試験の合否通知を、わざわざ持ってきたんじゃよ」


「合否通知?」


「ああ」


男性――クラウスは、一枚の紙を取り出した。


この男こそ、レイの祖父であるクラウス。クラウスは魔法学園の学園長も行っている。


そして隣にいる女性は、祖母のソフィアだった。


二人とも五十歳を超えている。


しかし、その外見はとても五十を超えているようには見えない。


レイからすれば、普通に若々しい祖父母だった。


「はい、これ」


クラウスが紙を差し出す。


レイは恐る恐る受け取った。


「……見ていい?」


「もちろんよ」


ソフィアが優しく笑う。


レイは紙を開いた。


そこに書かれていた文字を確認する。


そして――


「ご、合格だ……」


「おめでとう、レイ!」


ソフィアが嬉しそうに笑う。


クラウスは腕を組み、当然のことのように言った。


「そりゃそうに決まっておるわ」


「そうかな?」


「そうじゃよ」


クラウスは豪快に笑う。


「酒呑童子がおるうえに、実技も筆記もかなりの記録を残したんじゃろ?」


「まあ……そうだけど」


「落ちる方がおかしいわい」


「そんなに?」


「そんなにじゃ」


クラウスは自信満々に言った。


その隣で、ソフィアが突然クラウスへ抱きついた。


「本当に可愛いわねぇ、レイ!」


「ちょ、祖母さん!?」


「久しぶりに会えたんだから、もっと近くで見せてちょうだい!」


「ソフィアやめんか。レイが窒息しそうじゃよ」


「あ、ごめんねぇ、レイ」


「だ、大丈夫……」


レイは苦笑した。


――この家族、やっぱり似ている。


そんなことを思っていると、ソフィアがレイの頭を撫でる。


「明日から魔法学園が始まるわ」


「明日から?」


「ええ。だから今日はしっかり荷物を準備しておくのよ」


「はい」


レイは合格通知を大切にしまう。


するとクラウスが何かを思いついたように言った。


「そうじゃ。合格祝いでもするかのぉ」


「いいですね」


「ミレーヌたちは来ておらんのじゃろ?」


「おう。俺とアカマルだけ」


「ならちょうどいい」


クラウスは楽しそうに笑った。


「久しぶりに祖父ちゃんと飯でも食うか!」


「うん」


レイも笑った。


そして、ふと疑問が浮かぶ。


「そういえば、爺ちゃんって……」


「ん?」


「魔法学園の学園長なんだよな?」


「おう。そうじゃよ」


「すごいな」


「まぁな」


クラウスは胸を張る。


すると――


「でも、この人、魔法使えないわよ」


「…………え?」


レイが固まる。


ソフィアは平然と続けた。


「なんなら能力も持ってないし」


「…………ん?」


レイはクラウスを見る。


「え、あ……え?」


クラウスは何でもないことのように笑った。


「そうじゃよ」


「本当に?」


「魔法も使えん。能力も持っておらん」


「じゃあ、どうやって学園長に……?」


クラウスはニヤリと笑う。


「魔力だけは、たくさん持っておるからの」


「それだけ?」


「それだけじゃ」


クラウスは自信満々だった。


ソフィアが笑う。


「でもね、レイ」


「うん」


「この人、めっちゃ強いから」


「…………」


レイはクラウスを見る。


「強い?」


「そうじゃ」


クラウスが自分を指差す。


「何かあったら、遠慮なく頼りなさい」


「自分で言うのもなんだが、わしは強いぞ」


「お、おう……」


どうにも信じられない。


魔法も能力も使えない。


それなのに強い。


その理由が、レイにはまだ分からなかった。


すると、ソフィアが少し声を落とした。


「……ここだけの話ね」


「うん?」


「あの人、若い頃に酒呑童子と戦ったことがあるのよ」


「…………」


レイの目が大きく見開かれた。


「え?」


クラウスが笑う。


「まじじゃよ」


「本当に!?」


「ああ」


「どっちが勝ったんだ?」


ソフィアはクラウスを指差した。


「この人」


「え!?」


レイは思わずクラウスを見つめる。


「いやいやいや!」


レイは慌てて声を上げる。


「魔法も能力も使えないんだろ!?」


「そうじゃな」


「なのに酒呑童子に勝ったのか!?」


「そうじゃよ」


クラウスは笑った。


ソフィアが説明する。


「魔法が使えなくても、魔力で身体を強化することはできるでしょう?」


「そうだな」


「あの人、それが異常なの」


「異常?」


「ええ」


ソフィアは苦笑する。


「身体能力だけなら、人間どころか他の種族や魔物すら超えるくらいだったのよ」


「…………」


レイは絶句した。


その瞬間だった。


レイの身体から、異様な気配が溢れ出す。


「……はぁ」


声が聞こえた。


レイの隣に、酒呑童子が姿を現した。


「お前か」


酒呑童子はクラウスを見る。


クラウスも酒呑童子を見る。


「久しぶりだのぉ」


「……もう戦いたくない、お前とは」


酒呑童子が珍しく嫌そうな顔をする。


「そんなこと言うなよぉ」


クラウスが笑う。


「人聞きが悪いのぉ」


「貴様が言うな」


酒呑童子は腕を組む。


「お前の身体能力は、人並みどころか……全ての種族、魔物の身体能力を超えている」


「ほう」


クラウスが嬉しそうに笑う。


「褒めてくれたのぉ」


「褒めていない」


「そうかそうか」


「…………」


酒呑童子はため息をつく。


そして、クラウスをじっと見る。


「……今でもその覇気は残っているのか」


「多少はな」


「だが――」


酒呑童子はクラウスの身体を見つめる。


「若い頃の方が強いか」


クラウスは少し笑った。


「流石に、歳には抗えんよ」


「ふん」


「それでも十分強いと思うけどな」


レイは二人を交互に見る。


「本当に知り合いなのか…」


「知り合いどころじゃないぞ」


クラウスが笑う。


「わしが一度、こいつをボコボコにした仲じゃ」


「…………」


酒呑童子が黙った。


「…………」


レイも黙った。


いつもなら、すぐに言い返す酒呑童子。


それが――


何も言わない。


「……まじ?」


レイが酒呑童子を見る。


酒呑童子はしばらく沈黙したあと、レイへ言った。


「小僧」


「うん?」


「こいつとは絶対に戦うな」


「え?」


「俺が二人に負けた内の一人が、こいつだ」


「二人?」


レイが驚く。


「それより、こいつの身体能力は化け物だ」


「…………」


レイはクラウスを見る。


普通のおじいちゃんにしか見えない。


だが――


酒呑童子がここまで警戒している。


それだけで十分だった。


「安心せぇ」


クラウスが笑う。


「孫と戦うお爺ちゃんがどこにおる」


ソフィアも頷く。


「そうよ」


「いや、まあ……そうだが」


レイは苦笑した。


すると――


「……クゥン」


小さな鳴き声が聞こえた。


「ん?」


レイのベッドの上で、アカマルが目を覚ましていた。


クラウスがアカマルを見る。


「この狼は?」


「ああ」


レイがアカマルを抱き上げる。


「アカマル。最近、俺の仲間になったんだ」


「ガウ」


アカマルがクラウスを見る。


「ほう」


クラウスが嬉しそうに近づく。


「可愛いのぉ」


ソフィアも目を輝かせる。


「まあ! 可愛い!」


「ガウ……」


次の瞬間――


「きゃー!」


ソフィアがアカマルを抱きしめた。


「可愛いわぁ!」


「クゥ……」


「ふふふ」


ソフィアは幸せそうにアカマルを撫で続ける。


クラウスも笑っている。


「これは可愛いのぉ」


「アカマル、人気だな」


レイが苦笑する。


その様子を眺めながら、ソフィアが尋ねた。


「レイはこの後どこか行くの?」


「この国を探索」


「それはいいわね!」


ソフィアが嬉しそうに笑う。


「せっかく来たんだから、楽しんでらっしゃい」


「そうじゃな」


クラウスも頷く。


「明日からは学園じゃ。今日は自由に過ごすといい」


「うん」


レイが頷く。


すると酒呑童子が口を開いた。


「俺は戻る」


「もう?」


「眠い」


「相変わらずだな……」


酒呑童子はそのままレイの身体へ戻っていった。


クラウスが笑う。


「では、また明日学園でな」


「はい」


ソフィアも笑顔で手を振る。


「明日、楽しみにしてるわね」


「うん」


レイは二人に別れを告げ、宿を出た。


◇◇◇


街を歩きながら、レイは酒呑童子へ話しかける。


「……あの酒呑童子が負けたのか」


「昔の話だ」


「でも本当か?」


「黙らんか、小僧」


「キレすぎだろ」


「うるさい」


「今なら勝てるの?」


「当たり前だ」


酒呑童子は即答する。


「今なら勝てるわ」


「へぇ」


レイは少し考える。


「昔はどうだったんだ?」


「…………」


酒呑童子が黙る。


「酒呑童子?」


「し、知らん」


「絶対知ってるだろ」


「知らん!」


「相当ボコられたのか?」


「殺すぞ、小僧」


「わ、分かった」


レイは素直に口を閉じた。


――酒呑童子がここまで嫌がるとは。


クラウスという男が、ますます分からなくなった。


◇◇◇


その後、レイは街を歩きながら、いくつかの店を見て回った。


「……ん?」


一軒の店の前で、レイの足が止まる。


「なんだこれ」


ショーケースに並んでいるのは、丸く膨らんだ焼き菓子。


その中には白いクリームが入っている。


「シュークリーム?」


店員に勧められ、レイは一つ買ってみた。


「いただきます」


一口。


「…………」


レイの目が輝く。


「うま」


もう一口。


「中のクリームが特に美味しいな」


「…………」


酒呑童子も興味を持ったらしい。


「人間も面白い物を作るものだ」


「気に入ったの?」


「……悪くない」


「絶対気に入ってるじゃん」


「黙れ」


レイは笑いながら街を歩く。


アカマルも嬉しそうについてきている。


「やっぱり広いな、この国」


大通り。


店。


広場。


様々な人々。


「何でも売ってるし」


レイが周囲を見回す。


その時――


「ガウ!」


アカマルが突然走り出した。


「え?」


アカマルはそのまま、薄暗い路地裏へ入っていく。


「ちょ、アカマル!」


レイは慌てて後を追った。


「どこ行くんだよ!」


路地を曲がる。


すると――


「…………!」


そこには、五人ほどの男に囲まれているカナがいた。


「あっ」


カナがレイに気づく。


「レイさん!」


レイはすぐにカナのところへ向かった。


「大丈夫か?」


「はい!」


男たちがレイを見る。


「誰だ、お前?」


レイは少し考える。


そして――


「俺は……」


真顔で答えた。


「そこら辺にいる一般人男性です」


「は?」


「は?」


男とレイ、二人同時に首を傾げる。


「舐めんなよ!」


「調子乗ってる奴ってムカつくんだよ!」


男たちが一斉に向かってくる。


「……面倒だな」


レイはため息をついた。


そして――


数秒後。


路地裏には、男たちが倒れていた。


「ふぅ」


レイは軽く息を吐く。


カナは呆然としている。


「あ……」


「大丈夫か?」


「は、はい!」


カナは慌てて頷く。


「ありがとうございます!」


「そっちこそ大丈夫か?」


「はい!」


カナは笑った。


「レイさんが来てくれたので!」


「ならよかった」


レイは肩の力を抜く。


「……疲れた」


「帰ります?」


「いや、流石に早いわ」


「そうですよね」


カナが笑う。


そして、ふと思い出したように尋ねる。


「そういえば、レイさんは試験の通知、来ました?」


「さっき直接来た」


「直接?」


「…………」


レイは一瞬固まる。


「……あ」


「どうしたんですか?」


「いや、何でもない」


「?」


カナは首を傾げる。


「私も来たんです!」


「そうなのか」


「はい!」


カナは嬉しそうに笑った。


「私、合格しました!」


「おお!」


レイも笑う。


「良かったな」


「はい!」


そして、レイも続ける。


「俺も合格した」


「本当ですか!?」


「うん」


カナの顔がぱっと明るくなる。


「嬉しいです!」


「そんなに?」


「だって……」


カナは笑う。


「レイさんと一緒に入学できるんですよ!」


「……そうだな」


レイも嬉しそうに笑った。


「明日からか」


「はい!」


「同じクラスになれるといいですね」


「だな」


レイは少し考える。


「クラス分けは魔力測定で決めるらしいけど」


「魔力測定?」


「ああ」


レイは説明する。


「魔法学園にはE、D、C、B、A、Sの六つのクラスがある」


「六つ……」


「その中で一番上がSクラス」


「なるほど」


「魔力測定の結果でクラスが分けられるらしい」


カナは少し不安そうな顔をした。


「そ、そうなんですか……」


「どうした?」


「私、Sクラスは無理かもしれません」


「行けるだろ」


「え?」


レイは何でもないことのように言う。


「カナなら行けると思うぞ」


「でも……」


「昨日の魔法、かなり良かったし」


「……!」


カナが嬉しそうに笑う。


「レイさんはSクラスでしょうし」


「俺はどうかな」


「絶対Sクラスですよ」


「分からないって」


「でも……」


カナが少しだけ笑う。


「私は、レイさんを信じます!」


「……そうか」


レイも笑った。


「じゃあ、カナも信じてる」


「はい!」


二人はそのまま街を歩き始めた。


「そういえば、カナは今何してたんだ?」


「私は国の探索です!」


「俺もだ」


「広いですよね、この国」


「めっちゃ広い」


「私、ある程度は見ましたよ!」


「もうそんなに?」


「はい!」


「さすがだな」


「えへへ」


カナが少し嬉しそうに笑う。


しばらく二人で街を歩いた。


昨日出会ったばかりだった二人。


それでも、今では自然に話せるようになっていた。


やがて、夕方が近づいてくる。


レイが空を見る。


「そろそろ戻るか」


「そうですね」


「また明日会おう」


「はい!」


カナが笑顔で頷く。


「明日から、よろしくお願いします!」


「こちらこそ」


アカマルがカナへ顔を向ける。


「クゥン……」


「ふふっ」


カナが笑う。


「アカマルさんも、また明日ですね」


「ガウ!」


「相変わらず可愛いです」


「だろ?」


レイは笑った。


こうして――


レイとカナは、それぞれの宿へ戻っていった。

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