5話 試験
魔法学園入学試験当日。
ラミール王国の魔法学園には、朝早くから多くの受験生が集まっていた。
広大な敷地。
立派な校舎。
そして、その周囲を歩く大勢の少年少女たち。
誰もが緊張した面持ちで、試験会場へ向かっている。
レイもその中に混ざりながら、周囲を見回していた。
「……結構、人いるな」
思っていた以上の人数だった。
これだけの人間が同じ試験を受ける。
当然、その中には自分よりも強い人間もいるだろう。
レイは少しだけ気を引き締めた。
「まあ、やれるだけやるか」
受付を済ませ、指定された会場へ向かう。
すると――
「受付はこちらです」
試験官が受験生を案内している。
「ここか」
レイは受付を済ませ、そのまま最初の試験会場へ向かった。
***
最初の試験は魔法。
会場へ入ると、広い訓練場のような場所が広がっていた。
その中央には、人型の的がいくつも並べられている。
試験官が受験生たちへ説明する。
「最初の試験は魔法試験です。皆さんには、あちらの的へ得意な魔法を一つ放っていただきます」
「なるほど」
レイは的を見る。
「要するに、あれに魔法を当てればいいんだな」
「はい。ただし、威力や魔法の精度なども評価対象になります」
「分かりました」
その時――
「レイさん!」
聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこにはカナが立っていた。
「カナ」
「おはようございます!」
「おう。ちゃんと来たな」
「はい!」
カナは嬉しそうに笑う。
「今日、頑張りましょう!」
「そうだな」
「私、昨日教えてもらった魔法を少し練習したんです」
「お、じゃあ期待できそうだな」
「頑張ります!」
カナは的を見る。
「……あの的に打てばいいんですよね?」
「そうだな」
「じゃあ、私から行きます!」
カナは一歩前へ出る。
試験官が頷いた。
「どうぞ」
カナはゆっくりと息を吸う。
そして――
「風魔法――ウインドブラスト!」
圧縮された風が一直線に放たれる。
ドォンッ!
風圧によって、的が大きく吹き飛んだ。
さらにその衝撃で、的の一部が壊れる。
「…………」
レイは目を丸くした。
「昨日より威力出てるな」
「はい!」
カナは嬉しそうに頷く。
「昨日、宿に戻ってから少し練習したんです!」
「一晩でここまで上げたのか……」
レイは感心したように呟く。
カナは少し照れながら笑った。
「レイさんに教えてもらったので」
「なるほどな」
試験官が記録を取る。
「次の方」
「じゃあ、俺もやるか」
レイは的の前へ歩いていく。
「得意な魔法……か」
少し考える。
そして右手を前へ向けた。
「炎魔法――フレイムバースト」
瞬間。
地面から巨大な炎が噴き上がった。
ゴォォォッ!
炎が複数の的を一気に飲み込む。
一つ。
二つ。
三つ。
次々と的が壊れていく。
「…………」
会場が静まり返った。
レイは炎が消えたのを確認する。
「……中々だな」
しかし、周囲の受験生たちは唖然としている。
カナも目を丸くしていた。
「へ?」
「どうした?」
「……レイさん」
「ん?」
「強すぎません?」
「そうか?」
「そうですよ!」
カナは思わず声を上げる。
試験官も困惑したようにレイを見る。
「……素晴らしい威力です」
「ありがとうございます」
「ただ……」
試験官は壊れた的を見る。
「一度の魔法で複数の標的を破壊するとは……」
「やりすぎました?」
「……いえ。評価はしておきます」
「ならよかった」
レイは特に気にした様子もなく、列へ戻った。
カナが小声で話しかける。
「レイさん、すごいです……」
「カナも十分すごかったぞ」
「私とは全然違いますよ!」
「そんなことないって」
レイは笑った。
その後も試験は順番に進んでいく。
そして――
「魔法試験は以上です」
試験官が告げる。
「次は能力試験へ移ります」
***
「能力試験……ですか」
カナが少し不安そうな顔をする。
「うぅ……」
「どうした?」
「私、能力を上手く使えないんですよ」
「まあ、筆記試験で取り返せばいいんじゃないか?」
「そうですね……!」
レイはカナを見る。
「でも、さっきの魔法を見る限り、魔法の方は充分他の人よりすごいと思うぞ」
「レイさんのおかげです!」
「俺はちょっと教えただけだよ」
「その『ちょっと』が大きいんですよ!」
カナが笑う。
「じゃあ、能力試験の会場に行くか」
「はい!」
二人は能力試験の会場へ向かった。
◇◇◇
会場では、受験生たちが一人ずつ呼ばれていた。
「次の方」
「はい!」
一人ずつ試験官のもとへ進んでいく。
しばらく待っていると――
「次、レイさん」
「俺か」
レイが立ち上がる。
カナが声をかける。
「レイさん、頑張ってください!」
「おう」
レイが歩き出す。
その背中を見ながら、カナはふと思い出した。
「そういえば……」
レイが振り返る。
「ん?」
「レイさんの能力って、何なんですか?」
「俺?」
「はい」
レイは少し考える。
「まあ……身体強化みたいなものかな」
「身体強化……」
カナは納得したように頷く。
「なるほど」
――本当は酒呑童子の力だ。
しかし、それをそのまま説明するつもりはない。
レイは心の中でそう考えながら、試験会場へ向かった。
すると、カナが自分の能力について話し始める。
「私は未来視なんです」
「未来視?」
「はい」
「めちゃくちゃすごい能力じゃん」
「そうなんですけど……」
カナは苦笑する。
「使いこなすのが難しくて」
「まあ、能力は人によって難しさが違うからな」
「いつか上手く使えるようになりたいです」
「そのうちできるようになるだろ」
「……そうでしょうか?」
「きっとな」
レイが笑う。
その時――
「次の方、どうぞ」
「俺の番だな」
「また後で!」
「おう」
レイは試験官のもとへ向かった。
***
「能力を教えてください」
「身体強化です」
レイは答える。
「では、試しにそこの測定器を攻撃してください」
「分かりました」
目の前には、魔力や身体能力を測定するための装置が置かれていた。
レイは軽く拳を握る。
「これ、殴ればいいんですよね?」
「はい」
「分かりました」
レイは拳を引く。
そして――
「ん!」
ドンッ!
拳が測定器へ叩き込まれる。
次の瞬間。
バキッ。
「…………」
「…………」
レイと試験官。
二人とも動かない。
測定器には、大きな亀裂が入っていた。
「……あ」
レイが呟く。
試験官の顔が引きつる。
「こ、壊れるなんて……」
「すみません」
「い、いえ……」
試験官は慌てて記録を確認する。
「……もう一度、別の測定器で」
「はい」
しかし――
「……やっぱり壊れました」
「…………」
試験官は頭を抱えた。
「……もう大丈夫です」
「そうですか?」
「大丈夫です」
「分かりました」
「あ、あの弁償とかって...」
レイはビビりながら尋ねる
「大丈夫ですよ」
「すいません...」
レイはそのまま試験会場を出ていった。
◇◇◇
数分後。
「レイさん〜……」
カナが戻ってきた。
「どうだった?」
「うぅ……ダメでした〜」
カナは肩を落とす。
「能力、全然上手く使えませんでした……」
「まだ全然チャンスあるって」
「そうだと嬉しいんですが……」
カナは顔を上げる。
「レイさんはどうでしたか?」
「まあまあだな」
「まあまあ?」
「身体強化だし」
「でも、レイさんなら使いこなせるんじゃないですか?」
「そうかな」
レイは少し考える。
「でも身体強化なら、魔力を身体に纏わせるだけでもある程度は強化できるからな」
「確かに……」
「まあ、次の試験頑張ろう」
「はい!」
カナは元気を取り戻す。
「次は最後ですよね?」
「ああ」
「筆記試験!」
「そうだな」
「私、筆記は頑張りました!」
カナは自信満々に胸を張る。
「めっちゃ自信あるんだな」
「めっちゃってわけではないですよ!」
カナは少し慌てる。
「でも、充分頑張ったつもりです!」
「なるほど」
レイは笑った。
「こりゃ負けるかもな」
「負けませんよ!」
「じゃあ行くか」
「はい!」
◇◇◇
二人が筆記試験の会場へ向かっている途中――
カナがふと思い出したように尋ねた。
「そういえば……」
「ん?」
「アカマルさんは?」
「ああ」
レイは笑う。
「宿で寝てるよ」
「また寝てるんですか?」
「昨日もずっと寝てたからな」
「ふふっ」
カナが嬉しそうに笑う。
「また会いたいです!」
「おう。もちろんだ」
「嬉しいです!」
二人はそのまま筆記試験の会場へ入っていった。
◇◇◇
「席に座ってください」
試験官の指示に従い、レイとカナはそれぞれの席へ座る。
「これより筆記試験を開始します」
机の上に問題用紙が置かれる。
「試験科目は魔法、数学、歴史の三科目です」
「…………」
レイは問題用紙を見る。
「……思ったより難しいのか?」
しかし、ここでフィーアとの特訓が生きた。
魔法の基礎。
魔法理論。
歴史。
数学。
これまで何度も勉強してきた内容だ。
レイは一問ずつ問題を解いていく。
少し離れた席では、カナも真剣な表情で問題を解いていた。
――そして。
長い試験時間が終わった。
「そこまでです」
受験生たちが一斉に筆記用具を置く。
「これで全ての試験は終了です」
試験官が告げる。
「合否の判定は数日後、皆様のもとへ手紙にてお届けします」
「……ふぅ」
レイは大きく息を吐いた。
「疲れましたね……」
隣にいたカナも疲れた様子だった。
「疲れた」
「筆記試験、どうでした?」
「大分解けたと思う」
「私もです!」
カナが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、もしかしたら二人とも受かってるかもしれませんね!」
「そうだな」
レイも笑った。
試験は終わった。
あとは結果を待つだけだ。
◇◇◇
試験会場を出た二人は、学園の外へ向かって歩いていた。
「結果が届くまで数日かかるらしいし……」
レイは街を眺める。
「この国を見て回ろうかな」
「…………!」
カナが反応する。
「私もそうします!」
「そうか」
「よ、よければ……」
「ん?」
カナの顔が赤くなる。
「い、い……」
「い?」
「…………」
カナは頭の中で必死に言葉を探す。
一緒に国を回りませんか?
ただそれだけを言えばいい。
それなのに。
なぜか緊張してしまう。
「い……」
「い?」
「い、芋は好きですか?」
「…………」
レイが固まる。
カナも固まった。
「芋?」
「…………はい」
「芋は好きだけど?」
「そ、そうですか……」
カナの顔から少しずつ力が抜けていく。
「…………」
「…………」
「なんか、しょんぼりしてない?」
「してません……」
明らかにしている。
レイは首を傾げる。
「もしかして、芋嫌いだった?」
「ち、違います!」
カナは慌てて手を振る。
「芋は好きなのですが……」
「そ、そうか」
「…………うぅ」
カナは俯いた。
言い間違えすぎました。
本当は、一緒に国を回りませんかって誘いたかったのに。
どうして私は「芋は好きですか」なんて聞いたんでしょう……。
カナは心の中で頭を抱えた。
一方のレイは、何が起きているのか全く分かっていない。
「……ほんとに大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですぅ……」
「ならいいけど」
レイは笑う。
「それじゃ、またな」
「……はい」
「またです……」
二人はそこで別れた。
◇◇◇
レイが宿へ戻ると――
「ガウ!」
「お、起きてたか」
アカマルがレイへ駆け寄ってくる。
「ガウ?」
「うん、そうだな」
「ガウガウ!」
「確かになぁ」
「グゥルル……」
「まじかぁ!?」
レイはアカマルと何かを話している。
傍から見れば、ただの鳴き声と独り言にしか聞こえない。
しかし――
なぜかレイには、アカマルの言葉が分かっていた。
そしてアカマルも、レイの言葉を理解しているようだった。
「……俺たち、普通に会話できてるな」
「ガウ!」
「まあ、いいか」
レイはアカマルを抱き上げる。
「試験も終わったし、結果が来るまで暇だな」
「ガウ?」
「そうだな」
アカマルが尻尾を振る。
レイは笑った。
「じゃあ明日は――」
少し考える。
「この国を見て回るか」
「ガウ!」
「アカマルも来るか?」
「ガウガウ!」
「分かった」
レイはアカマルの頭を撫でる。
「明日は街を探索だな」
アカマルは嬉しそうに尻尾を振った。
◇◇◇
試験から二日後。
朝。
レイは宿の部屋で身支度を整えていた。
「今日は国を見て回るか」
「ガウ!」
アカマルも元気よく返事をする。
「よし」
レイは笑う。
まだ合否の手紙は届いていない。
だからこそ、今は自由に過ごせる。
魔法学園。
新しい街。
そして――
昨日出会った少女、カナ。
レイの知らない世界は、まだ始まったばかりだった。
「行くぞ、アカマル」
「ガウ!」




