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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第一章 始まり
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4話 赤い狼

魔法学園へ向かうため、レイは馬車に揺られていた。


窓の外を流れていく景色を眺めながら、レイはぼんやりと考える。


――魔法学園。


どんな場所なのだろう。


どんな人がいるのだろう。


そして、自分はそこでやっていけるのだろうか。


そんなことを考えているうちに、馬車は途中の街で停車した。


「少し休憩を取ります」


御者の声が聞こえる。


レイは窓の外へ目を向けた。


街はそれなりに賑わっている。


馬車から降りて休憩しようかと思った、その時だった。


一人の女性が馬車へ近づいてきた。


女性は少し慌てた様子で馬車へ乗り込むと、レイへ向かって頭を下げた。


「ラ!ラミール王国までよろしくお願いします!」


「……俺、御者じゃないんだ」


「…………え?」


女性の動きが止まる。


数秒の沈黙。


「す、すみません!」


顔を真っ赤にして、女性は慌てて御者のところへ向かった。


どうやら本当にレイを御者だと思っていたらしい。


「……そんなに似てたか」


レイは自分の服装を見下ろす。


確かに旅用のローブを着ている。


だが、どう考えても御者には見えない。


女性は御者へ料金を支払うと、改めて馬車へ乗り込んできた。


「す、すみませんでした……」


「いや、別に気にしてないよ」


「ありがとうございます……」


女性は恥ずかしそうに俯く。


そのまま馬車が再び動き始めた。


しばらくすると、女性は鞄から一冊の本を取り出した。


それだけではない。


魔導書。


歴史書。


魔法に関する参考書。


次々と本を取り出しては、真剣な表情で読み進めている。


レイは思わず視線を向けた。


ページをめくる手。


集中して文字を追う目。


かなり勉強しているようだった。


しかし――


「……あ、あの」


女性が本から顔を上げる。


「そんなに見られると……恥ずかしいです」


「あ、ごめん」


レイは慌てて視線を逸らす。


「もしかして、魔法学園の入学試験を受けるのかなと思って」


「あ……」


女性は少し驚いたように目を開いた。


「は、はい! そうです!」


そして、今度は少し嬉しそうに尋ねる。


「あなたもですか?」


「おう。俺も受けるよ」


レイは笑った。


「俺の名前はレイ。よろしく」


「私は……カナです!」


カナは少し緊張しながら頭を下げる。


「よろしくお願いします、レイさん!」


「そんなにかしこまらなくていいよ」


「は、はい!」


カナは頷いた。


少しだけ間が空く。


すると、カナがレイのローブの下に着ている服を見て尋ねた


「レイさんは……貴族ですか?」


「貴族だな」


「や、やっぱり……」


カナの表情が少し固くなる。


それを見たレイは苦笑した。


「でも、そんなの気にしないでくれ」


「え?」


「俺は俺だし。普通に話してくれればいいよ」


「……はい」


カナは少し安心したように笑った。


「分かりました」


「お互い試験、頑張ろうな」


「そうですね!」


二人は笑い合った。


それが、レイとカナの最初の出会いだった。


◇◇◇


それからしばらくして――


馬車が突然、大きく揺れた。


「ん?」


レイが身体を支える。


カナも慌てて本を閉じた。


「な、何ですか!?」


馬車が止まる。


すると、御者が焦った声を上げた。


「お、お客さん達!」


レイが外を見る。


御者は顔を青ざめさせていた。


「逃げてください! 魔物です!」


「魔物?」


レイが馬車から降りる。


その先には――


五体の狼型の魔物がいた。


低い唸り声を上げながら、馬車を取り囲んでいる。


カナも馬車から降りる。


「五体も……!」


「多いな」


御者が慌てて叫ぶ。


「危険です! お二人とも、早く逃げてください!」


しかし、レイは魔物を眺めながら落ち着いた様子だった。


「試験には遅れたくないし……」


レイは一歩前へ出る。


「すぐ倒そう」


「えっ?」


カナが驚く。


「レイさん、一人で!?」


「大丈夫」


レイは手を前へ向ける。


魔力が集まる。


「――瞬炎」


次の瞬間。


狼たちの周囲で炎が一斉に燃え上がった。


魔物たちは驚き、散ろうとする。


しかし、炎の壁に阻まれて動きを止めた。


「ガウッ!」


「グルル……!」


炎が消えた時には、魔物たちはすでに弱っていた。


レイは一体ずつ距離を詰める。


拳に魔力を纏わせ――


一撃。


続けて蹴りを放つ。


残った魔物たちも次々と倒れていった。


「…………」


カナは呆然とその光景を見ていた。


御者も同じだった。


「……あ」


レイが振り返る。


「大丈夫ですか?」


「あ、はい!」


御者は慌てて頭を下げる。


「ありがとうございます!」


「いえいえ」


レイは軽く手を振った。


その時だった。


レイの視界に、一体の魔物が入った。


他の狼たちとは少し違う。


身体が赤い。


そして――まだ子供だ。


「……ん?」


レイは近づいていく。


その赤い狼は、他の魔物と違って攻撃してくることはなかった。


よく見ると、戦う前から傷を負っている。


「お前、大丈夫か?」


「グルル……」


赤い狼は警戒するようにレイを見る。


レイはしゃがみ込む。


「怖がらなくていい」


「…………」


赤い狼は唸りながらも、逃げようとはしなかった。


レイは傷を確認する。


「……結構傷ついてるな」


赤い狼は小さく鳴いた。


「クゥ……」


「大丈夫そうだな」


レイが立ち上がり、後ろを向く。


すると――


トコトコ。


小さな足音が聞こえた。


「……ん?」


振り返る。


赤い狼がレイの足元までついてきていた。


「なんだ?」


「クゥゥン……」


赤い狼はレイを見上げる。


レイはしばらく見つめ返した。


そして――


「……可愛いな」


レイは思わず笑った。


「お前、怪我してるしな」


レイは荷物から回復薬を取り出す。


「これ飲めるか?」


赤い狼に少しずつ与える。


しばらくすると、傷が徐々に癒えていった。


赤い狼は身体を動かし、自分の身体を確認する。


「元気になったか?」


「ガウ!」


元気な声が返ってきた。


レイは少し考える。


「……そうだな」


そして、赤い毛並みを見ながら言った。


「名前、まだないよな」


「ガウ?」


「じゃあ……アカマル」


「ガウッ!」


「気に入ったのか?」


「ガウ!」


レイは笑った。


「じゃあ、お前は今日からアカマルな」


アカマルは嬉しそうに尻尾を振った。


レイは少し考えると、自分のローブを開く。


「ついてくるか?」


「ガウ!」


アカマルは迷うことなくレイの懐(ローブの中)へ入った。


「おいおい……」


レイは苦笑しながらローブを閉じる。


そこへカナが近づいてきた。


「だ、大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ」


「その狼……」


「俺も詳しくは分からない」


レイが答える。


「でも、こいつは俺についてきたいみたいだ」


ローブの隙間から、アカマルがひょこっと顔を出す。


「……!」


カナの目が輝いた。


「可愛いです……」


「だよな」


「触ってもいいですか?」


「もちろん」


カナがそっとアカマルを抱き上げる。


「クゥン……」


アカマルは嫌がるどころか、気持ちよさそうに目を細めた。


「ふふっ」


カナは嬉しそうに笑う。


レイはその様子を見ながら呟いた。


「そっちの方が似合ってるな」


「え?」


「いや、何でもない」


カナはアカマルを優しく撫で続ける。


「可愛いですね……」


「気に入ったみたいだな」


「はい」


しばらくして、二人は再び馬車へ乗り込んだ。


◇◇◇


馬車が再び走り始める。


カナはアカマルを抱いたまま、レイを見る。


「レイさんって、強いんですね」


「そうか?」


「そうですよ!」


カナは少し興奮した様子で言う。


「狼の魔物を、あんなに簡単に……」


「まあ、あれくらいなら」


「…………」


カナは改めてレイを見る。


すると、レイのローブの中から――


ひょこ。


アカマルが顔を出した。


「へ?」


カナが目を丸くする。


レイはアカマルを見る。


「あ」


「どうしたんですか?」


「いや」


レイはアカマルの頭を撫でる。


「名前つけてなかったな」


「さっき付けてませんでした?」


「そうだった」


「もう付けてますよ!?」


二人は顔を見合わせて笑った。


カナはアカマルを見つめる。


「アカマル……可愛い名前ですね」


「だろ?」


「はい!」


少しして、カナが何かを言いづらそうに口を開いた。


「あの……レイさん」


「ん?」


「お願いがあるんですけど……」


「何?」


「魔法を……少し教えてもらえませんか?」


「え?」


カナは持っていた本を抱きしめる。


「その……入学試験が近いのに、どうしても難しくて」


「でも、能力があるんだろ?」


「はい」


「それを使えば受かるんじゃないのか?」


カナは困ったように笑った。


「私、能力も上手く使えなくて……」


「そうなのか」


「はい……」


レイは少し考えた。


「なら、魔法を少し教えるよ」


「本当ですか!?」


「ただ、馬車の中だから実際に使うのは難しいけどな」


「それでもお願いします!」


「分かった」


レイはカナの持っている本を見る。


「じゃあ、風魔法にしよう」


「はい!」


カナは集中する。


そして、手を前へ向けた。


「風魔法――風刃!」


風が一気に集まり、鋭い風の刃となって馬車の外へ飛んでいく。


レイは目を丸くした。


「……普通に強いじゃん」


「え?」


「その威力なら、十分受かると思うけど」


「ほ、本当ですか?」


「うん」


カナは嬉しそうに笑う。


「よかった……!」


「中級魔法は覚えてる?」


「……」


カナは気まずそうに目を逸らした。


「覚えられてなくて……」


「なら、今から教える」


「え?」


レイは少し考えてから説明を始める。


「風魔法の中級は、魔力を一ヶ所に集めて一気に放出する」


「はい」


「イメージは、風をただ飛ばすんじゃなくて――」


レイは手を前へ向ける。


「圧縮して、撃ち出す」


魔力が集まっていく。


「ウインドブラスト」


強烈な風が放たれ、街道の先にある地面を大きく削った。


カナは目を見開く。


「す、すごい……!」


「今の感覚を覚えておいて」


「はい!」


「後は何度も練習すればいい」


「分かりました!」


そこから、王国へ着くまで――


レイはカナへ魔法を教え続けた。


魔力の込め方。


風の圧縮。


魔法を放つタイミング。


そして、魔法を維持する方法。


最初は上手くいかなかったカナも、少しずつ感覚を掴んでいく。


「もう一回!」


「いいぞ」


「ウインドブラスト!」


風が前方へ放たれる。


「…………!」


カナ自身が驚いた。


レイが放ったものより威力は少し落ちる。


それでも――


地面が大きく削れていた。


「できた……!」


「うん。十分だ」


レイは頷いた。


「その威力なら、ちゃんと使いこなせれば試験でも役に立つと思う」


「本当ですか?」


「本当」


カナは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます、レイさん!」


そして――


馬車が止まった。


御者の声が聞こえる。


「ラミール王国に到着しました!」


「もう着いたのか」


レイが外を見る。


大きな城壁。


その先には、今まで見たことのないほど大きな街が広がっていた。


カナも窓から外を見る。


「明日……試験ですよね」


「おう」


「レイさんはどうしますか?」


「俺?」


レイは少し考え――


「寝る」


「……え?」


「寝ないと万全の状態で試験に臨めないだろ」


「あ……」


カナは納得したように頷いた。


「確かにそうですね」


「カナもちゃんと休めよ」


「はい!」


二人は馬車から降りる。


「それじゃ、また明日」


「はい!」


カナは頭を下げる。


「今日は本当にありがとうございました! 魔法まで教えていただいて……」


「そんなかしこまらなくていいって」


「でも……」


「試験、一緒に頑張ろう」


「……はい!」


カナは笑った。


「明日、頑張りましょう!」


「ああ」


二人はそれぞれ別の宿へ向かっていった。


◇◇◇


その夜。


レイは宿の部屋でベッドに横になっていた。


「……疲れた」


隣を見る。


そこには――


「…………」


アカマルが丸くなって眠っている。


「お前も疲れたか」


レイは小さく笑う。


「明日は入学試験だ」


アカマルは眠ったまま動かない。


「まあ、俺たちなら大丈夫だろ」


レイも目を閉じた。


そして、そのまま眠りについた。


◇◇◇


翌朝


窓から差し込む朝日に、レイは目を覚ました。


「……朝か」


身体を起こす。


隣を見ると――


「…………」


アカマルはまだ眠っていた。


「よく寝るな、お前」


レイは苦笑する。


そして、身支度を整える。


「さて」


窓の外を見る。


今日はいよいよ――


魔法学園の入学試験。


「行くか」


レイは荷物を持つ。


眠っているアカマルをそっと抱き上げ、ローブの中へ入れる。


「起きたら怒るなよ」


アカマルはまだ眠っている。


レイはそのまま宿を出た。

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