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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第一章 始まり
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3/72

3話 出発

結構長くなりましたが見てくれると嬉しいです

それから、十六年の月日が流れた。


あの日、医者から「三日の命」と告げられた小さなレイは、今では十六歳の少年へと成長していた。


ヴァルト家の屋敷。


暖かな日差しが差し込む部屋で、レイは母親であるミレーヌと話し合っていた。


「母さん?」


「どうしたの、レイ?」


ミレーヌが首を傾げる。


レイは少しだけ視線を落とした。


「フィーアから聞いた。俺が生まれた時のこと」


その言葉を聞いたミレーヌは、一瞬だけ驚いたような顔をする。


「フィーア、教えたのね。レイに」


「おう」


レイは小さく微笑んだ


「……ありがと、母さん。俺のために」


ミレーヌは優しく微笑む。


「私だけじゃないわよ」


「え?」


「父さんも、フィーアも……それに、酒呑童子がいなかったら無理だったもの」


ミレーヌは、レイが生まれた日のことを思い出す。


あの時は、どうなるか分からなかった。


それでも家族は諦めなかった。


そして今その子は目の前で元気に笑っている。


「……そうだな」


レイは静かに頷いた。


「みんなにも感謝しなきゃな」


「ふふっ」


ミレーヌはレイの顔をじっと見つめる。


「それにしても……」


「ん?」


「かっこよくなったね、レイ!」


「そうか?」


「うん。昔はあんなに小さかったのに、今じゃすっかり大きくなって……」


ミレーヌは嬉しそうに笑う。


そして、ふと思い出したように尋ねた。


「そういえば最近、酒呑童子を見てないけど元気にしてる?」


「今はたぶん寝てる」


「寝てるの?」


「寝てるな」


レイは苦笑した。


「最近は酒呑童子の力を少しずつだけど使えるようになってきたんだ。だから前より力を感じることは増えたけど、本人は基本的に寝てる」


「まあ……相変わらずね」


「俺の中にいるのに、自由すぎる」


二人は顔を見合わせて笑った。


しばらくして、ミレーヌが少し真剣な表情になる。


「ねえ、レイ」


「どうしたの?」


「レイももう十六歳になったでしょ?」


「だな」


「魔法も、酒呑童子の力も、少しずつ使えるようになってきたわよね?」


「そうだな」


レイが頷く。


ミレーヌは少しだけ迷ったあと、口を開いた。


「……魔法学園に興味はある?」


「学園か……」


レイは考え込む。


「最近、魔法の勉強に熱心でしょ。あなた」


「熱心……かも」


「でしょう?」


ミレーヌは笑う。


「グリムとも話してたんだけどね。レイは、もっと外の世界を見てもいいんじゃないかって」


「外の世界……」


レイは窓の外を見る。


今まで暮らしてきた街。


屋敷。


家族。


その外には、まだ自分の知らない世界が広がっている。


「行きたいか、行きたくないかはレイが決めなさい」


ミレーヌは優しく言った。


「私たちは、レイがどちらを選んでも応援するから」


「……はい」


レイは小さく頷いた。


「少し考えてみ」


◇◇◇


自室へ戻ったレイは、椅子に座りながら窓の外を眺めていた。


「魔法学園か……」


学園に行けば、今まで会ったことのない人たちと出会える。


知らない魔法を学ぶこともできる。


そして、自分がどれほどの力を持っているのかを知ることもできるだろう。


興味はあった。


むしろ、行ってみたいと思っている。


それでも――


「……俺が行っていいのか」


そんな迷いが残っていた。


その時。


「レイ様、考え事ですか?」


「うわっ!」


突然背後から声が聞こえ、レイは飛び上がった。


振り返ると、そこにはフィーアが立っていた。


「びっくりしたぞ……。急に入ってこられるとビビる」


「申し訳ございません」


フィーアは苦笑する。


「ノックはしたのですが」


「聞こえなかった。ごめん」


「いえいえ」


フィーアはいつもの穏やかな笑顔を浮かべる。


「それで、何をお悩みなのですか?」


「魔法学園に行こうか迷っててさ」


「ああ、そのことですか」


「知ってたの?」


「先ほど奥様方が話していたところを、少々盗み聞きしましたので」


「フィーア怖っ」


「失礼ですね、レイ様」


フィーアはくすりと笑う。


「偶然聞こえただけですよ」


「絶対嘘だ……」


レイは苦笑した。


そして、少し間を置いて尋ねる。


「フィーアって、元冒険者だったよね?」


「そうですよ。元、ですけどね」


「冒険者って……楽しかった?」


フィーアは少しだけ遠くを見るような目をした。


「ええ。もちろん大変なこともありましたけど……楽しかったですよ」


「フィーア、めっちゃ強いしな」


「そんなことありませんよ」


「いやいや」


レイは笑う。


「剣術を教えてもらった時、全然勝てなかったし」


「それはレイ様がまだ幼かったからですよ」


「今でも勝てないと思うけど」


「……そうですね」


「そこは否定してくれ!」


二人の間に笑い声が広がる。


しかし、フィーアはすぐに優しい表情へ戻った。


「レイ様」


「ん?」


「なぜ、魔法学園へ行くことを迷っているのですか?」


「……俺?」


「はい」


レイはしばらく考えた。


「魔法を勉強するのは楽しいし、もっと学びたい」


「はい」


「だが……」


レイは少し俯く。


「母さんや父さん、フィーアにもいろいろしてもらっただろ?」


「…………」


「だから、何かお礼をしてからでもいいんじゃないかって」


フィーアは黙って聞いている。


「それに、魔法学園って強いやつばっかり集まるだろ?」


「そうでしょうね」


「俺なんかが行っていいのか……」


フィーアは静かに尋ねた。


「レイ様は、どうしたいのですか?」


「俺は……」


「奥様たちにお礼をしたいと言っていましたね」


「おう」


「それなら、大丈夫ですよ」


「え?」


フィーアは優しく微笑む。


「奥様も旦那様も、私も――レイ様の成長が一番の幸せなのです」


「俺の……成長?」


「はい」


フィーアは頷く。


「レイ様は今では、とても立派な男性になりました」


「俺が?」


「ええ」


「……俺のこと、嫌いとかないのか?」


フィーアは目を丸くした。


「なぜ、レイ様を嫌いになるのですか?」


「だって……」


レイは自分の胸元に手を当てる。


「俺の中には酒呑童子がいるんだぞ?」


フィーアは少しも迷わず答えた。


「レイ様は、レイ様ですので」


「…………」


レイは少し驚いた。


そして、ゆっくりと笑った。


「……それは嬉しいな」


フィーアも微笑む。


「悩みは解けましたか?」


レイは少し考えた。


そして――


「おう」


顔を上げる。


「俺、魔法学園に行こうと思う」


「はい」


フィーアは嬉しそうに頷いた。


「レイ様なら行けますよ。試験だって、きっと大丈夫です」


「フィーアが剣術を教えてくれたから、剣も使えるからな」


「はい」


フィーアは嬉しそうに笑った。


「レイ様は飲み込みがとても早かったので、教え甲斐がありました」


「ありがと」


レイは立ち上がる。


「そう言われると元気出る」


そして扉へ向かった。


「じゃあ、母さんに言ってくる」


「はい。いってらっしゃいませ」


◇◇◇


ミレーヌの部屋へ向かうと、そこには14歳になった妹のメルナがいた。


メルナはミレーヌと話してる


「お兄ちゃん」


メルナがレイに気づく。


「レイ、決まった?」


ミレーヌも振り返った。


レイは頷く。


「魔法学園に行きたい」


「そう」


ミレーヌは嬉しそうに笑った。


「もちろんいいわよ!」


「ありがとう、母さん」


「グリムにも言わないとね」


「だな」


ミレーヌは少し心配そうに尋ねる。


「魔法学園に入るための試験もあるけど、大丈夫?」


「大丈夫だよ」


レイは自信を持って答える。


「フィーアが勉強も魔法も剣術も教えてくれたから」


「そうね。フィーアに感謝しないと」


メルナがレイを見る。


「お兄ちゃん、魔法学園に行くの?」


「そうするよ」


「お兄ちゃん強いもんね」


「メルナもおかしいくらい強いだろ」


「そんなことないよ」


メルナは首を振る。


ミレーヌが笑いながら言った。


「レイには酒呑童子がいるから強いわよ。メルナにも強い味方がいるでしょう?」


「そうだな」


レイも頷く。


「メルナの能力、強いからな」


「……そういえば」


メルナが何かを思い出したようにレイを見る。


「私、お兄ちゃんの能力知らない」


「……あ」


レイが固まる。


「確かに!」


ミレーヌまで声を上げる。


「私もレイ自身の能力、知らないわ!」


「そういえば教えてなかった」


「どんな能力なの?」


メルナが興味津々に尋ねる。


レイは少しだけ考え――


「秘密」


「えぇー! お兄ちゃんずるい!」


メルナが頬を膨らませる。


「私の能力は知ってるのに!」


「そうよ!」


ミレーヌも加わる。


「親である私にも隠すなんて!」


「それは……すまん」


レイは困ったように笑う。


ミレーヌは膨れっ面になる。


「まあ、言いたくないなら言わなくてもいいけど」


「いつか話すよ」


「いつなのかなぁー?」


「そ、そのうち」


「楽しみに待ってま〜す」


メルナも不満そうにレイを見る。


「お兄ちゃんの卑怯者」


「そんな言い方はやめてくれ」


「なら教えてよ」


「分かったよ。後でな」


レイは少しだけ声を落とす。


「母さんがいるから、後で」


「うい」


メルナは納得したように頷いた。


◇◇◇


しばらくして、グリムが屋敷へ帰ってきた。


レイは父のもとへ向かう。


「父さん」


「どうした、レイ?」


「俺、魔法学園に行きたい」


グリムは少しだけ目を丸くした。


そして、すぐに優しく微笑む。


「そうか、レイ」


「はい」


「……もちろんだ」


「ありがとう、父さん」


グリムはレイの肩に手を置く。


「自分の子供が行きたいと言っているんだ」


そして笑う。


「それを応援するのが親だろ?」


「父さん……」


「魔法学園の入学試験は来週だ」


「来週?」


「ああ」


グリムは頷いた。


「準備しておくように」


「おう!」


レイが元気よく返事をした、その時だった。


「レイ〜!」


ミレーヌがレイへ抱きつく。


「うわっ!」


グリムは呆れたように笑った。


「ミレーヌはまだ子離れできていないな」


「当たり前でしょ!」


ミレーヌはレイを抱きしめながら言う。


「可愛い我が子なんだから!」


「奥様、気持ちは分かりますが……」


フィーアが苦笑する。


「レイ様はもう十六歳ですよ」


「そうだよ、母さん」


メルナも頷く。


「お兄ちゃんはもう大きいんだから」


「フィーアとメルナまでぇ〜!」


ミレーヌが不満そうな声を上げる。


その時――


「さっさと子離れせんか、小娘が」


聞き慣れない声が響いた。


レイの隣に、一人の男が立っていた。


額には二本の黒い角。


鋭い目。


そして、その手には酒の入った瓶。


「酒呑童子!?」


ミレーヌが驚く。


グリムも笑った。


「久しぶりだな」


「酒をもらいに来た」


酒呑童子はグリムを見もせずに答える。


「相変わらずだな……」


フィーアは慣れた様子で酒を用意し、酒呑童子へ渡した。


「どうぞ」


「ほう」


酒呑童子は瓶を眺める。


「中々良さそうな酒だ」


栓を開け、一口飲む。


「……うむ」


満足そうに頷いた。


レイが声をかける。


「酒呑童子」


「なんだ?」


「…………」


「なんだと聞いている」


「なにも」


酒呑童子の眉がピクリと動く。


「……殺すぞ」


「なんでだよ!」


レイが即座にツッコむ。


「用もないのに呼ぶな」


「昔からこんな感じだろ」


「貴様……」


酒呑童子がレイを睨む。


「少し口が達者になったな、小僧」


「十六年も一緒にいるんだからな」


「ふん」


酒呑童子は酒を飲んだ。


「酒呑童子」


ミレーヌが声をかける。


「なんだ、小娘」


「レイにもし何かあったら、守ってよね」


酒呑童子の目が細くなる。


「小娘、命令か?」


「お願い」


「…………」


酒呑童子はレイを見る。


そして鼻で笑った。


「まあ、小僧に死なれては困るからな」


「それって、守ってくれるってこと?」


「何度も言わせるな」


酒呑童子は不機嫌そうに答える。


「俺がこの小僧の中にいる以上、そう簡単に死なせるつもりはない」


「……ありがとう」


ミレーヌは嬉しそうに微笑んだ。


「礼などいらん」


酒呑童子はそっぽを向く。


「ただの気まぐれだ」


その様子を、メルナがじっと見つめていた。


「ほ、本物の酒呑童子だ……」


「そういえば、メルナは酒呑童子を見るの初めてだったわね」


ミレーヌが言う。


「うん……」


メルナは少し緊張した様子で頷く。


酒呑童子がメルナへ視線を向ける。


「……小娘が一人増えたか」


メルナが少し身構える。


しかし、酒呑童子は突然――


「……ハハハッ」


笑い始めた。


「どうしたの?」


ミレーヌが尋ねる。


酒呑童子はメルナを見ながら、不敵な笑みを浮かべた。


「ただの小娘かと思ったが……訂正だ」


「え?」


「夜王に気に入られているとはな」


「……夜王?」


メルナの表情が変わる。


「夜王を知らないとはな」


「知らない……」


「まぁいい」


酒呑童子は再び酒を飲む。


「お前らの家系は、ぶっ飛んだ奴が多い」


「何よ、その言い方!」


ミレーヌが不満そうに言う。


酒呑童子はそんなミレーヌを無視した。


「……眠い」


「え?」


酒呑童子の姿が徐々に薄れていく。


「ちょっと! もう寝るの!?」


「俺は眠いんだ」


「自由すぎるでしょ……」


酒呑童子はそのままレイの身体へ戻っていった。


ミレーヌは呆れたようにため息をつく。


「本当、自分勝手よねぇ……酒呑童子って」


メルナは、まだ酒呑童子が消えた場所を見ている。


「あれが……酒呑童子」


そして小さく呟く。


「あと……夜王って何なんだろう」


「大丈夫、メルナ?」


ミレーヌが心配そうに尋ねる。


「うん。大丈夫」


グリムが話を切り替えた。


「さっきも言ったが、入学試験は一週間後だ」


「うん、父さん」


「今日はもうゆっくり休みなさい」


「分かった」


◇◇◇


その夜。


レイはメルナと二人で屋敷の外へ出ていた。


夜空には月が浮かび、二人の姿を淡い月明かりが照らしている。


「お兄ちゃん?」


「さっき言っただろ」


「何を?」


「能力を教えるって」


「あっ!」


メルナが目を輝かせる。


「そうだった! 教えて!」


「分かったよ」


レイは少し周囲を確認する。


そしてメルナへ、自分の能力について話した。


「俺の能力は――〇〇」


「…………」


メルナはしばらく固まっていた。


「へ?」


「ん?」


「何、その能力……」


レイは苦笑する。


「変か?」


「いや……」


メルナは考え込む。


「使い方次第では……最強じゃない?」


「さぁな」


レイは肩をすくめる。


「俺自身はそこまで強いとは思ってないけど」


「お兄ちゃんがそれ言う?」


「なんでだよ」


「だってお兄ちゃん、酒呑童子の力も使えるし、魔法も使えるし、刀も使えるじゃん」


「そうか?」


「そうだよ」


メルナは呆れたように笑う。


「お兄ちゃんって、自分のことになると鈍いよね」


「そうかな?」


レイは首を傾げる。


「それより、メルナも充分強いだろ」


「私が?」


「その召喚能力」


レイはメルナを見る。


「かなり強いと思うぞ」


「まあね」


メルナは少し得意げになる。


「召喚能力は強いけど、私自身はあんまり強くないよ」


「だが、メルナの能力は自分にも憑依して共鳴できるだろ?」


「召喚した奴とは共鳴できるけど……まだ私には完全には使えないよ」


「まあ、その内できるだろ」


「軽いなぁ〜」


メルナが呆れたように言う。


レイは笑った。


「お兄ちゃんは何で家族に能力を教えないの?何で私だけに教えてくれたの?」


「まぁ信頼してるから」


「え!?ほんとに!?」


「本当だ」


メルナは嬉しそう


「でも、お母さんやお父さんの事は信頼してないの?」


「そういうことではないが...口軽いだろ母さん」


「確かに...」


体が冷えてくる


「外も冷えてきたから戻るぞ」


「うん!」


二人は並んで屋敷へ戻っていった。


◇◇◇


屋敷へ戻ると、ミレーヌが二人を待っていた。


「レイ〜」


「母さん?」


ミレーヌは嬉しそうにレイへ近づく。


「久しぶりに一緒に寝る?」


「……え?」


フィーアが横から呆れたように言う。


「流石に執着しすぎですよ、奥様」


「むぅ」


ミレーヌは頬を膨らませる。


「愛する息子と一緒にいたいのはダメなことなの、フィーア?」


フィーアは少し考えた。


そして、にっこり笑う。


「そうですね」


「うん!」


「私が間違っていました」


「フィーア?」


「レイ様、奥様。おやすみなさいませ」


フィーアはそのまま部屋を出ていった。


「……え?」


レイが呆然としていると、ミレーヌが笑顔で近づいてくる。


「レイ〜。久しぶりに一緒に寝よ」


「母さん、流石にそれは……」


「えぇ〜」


ミレーヌは不満そうな声を出す。


「魔法学園に通ったら会う機会が少なくなるから」


「まだ通うか分からない。試験もまだだし」


「レイなら受かるよ」


「そう言われると嬉しいが……」


「魔法学園には寮があるんでしょ?」


「うん」


「王国にあるから遠いし、会う機会もめっちゃ減るじゃない!」


「…………」


レイはメルナを見る。


「メルナ、助けてくれ」


メルナは腕を組んで考えた。


そして――


「お兄ちゃん」


「何?」


「お母さんからの愛は受け止めないと」


「…………」


「妹として、それが正しいと思う」


「お前、味方じゃないのか?」


「私は中立」


「絶対母さん側だろ……」


結局、レイは諦めた。


「……分かったよ」


「本当!?」


ミレーヌの顔が明るくなる。


「母さん、今日は一緒に寝るから」


「よし!」


「メルナも一緒に寝る?」


「流石に私はいいよ」


メルナは苦笑する。


その夜――


ミレーヌは嬉しそうにレイへ抱きついたまま眠った。


レイは苦笑しながら天井を見つめる。


「……母さん、ほんとに子離れできてないな」


眠っているミレーヌは何も答えなかった。


◇◇◇


――一週間後。


魔法学園の入学試験の前日。


この一週間、レイは試験に向けて準備を続けていた。


フィーアと剣を交え、魔法を学び、勉強も教えてもらった。


そして、ついに出発を迎えた。


試験を受けた後は、結果が出るまで王国で暮らすことになっている。


もし合格すれば、そのまま寮で生活する予定だった。


屋敷の前には、出発のための馬車が用意されている。


「レイ、準備はできた?」


ミレーヌが何度目か分からない確認をする。


「できてるよ」


「えーと……あっちではちゃんとご飯を食べるのよ」


「うん」


「ちゃんと掃除して、洗濯して、お金の無駄遣いもダメよ」


「分かってるって」


「それから――」


フィーアが苦笑する。


「奥様、レイ様を心配しすぎです」


「だって……」


「レイ様は家事もできますよ」


「そうだけどぉ〜」


グリムも笑いながら言った。


「ミレーヌ、レイなら大丈夫だ」


そしてレイを見る。


「だろ?」


「おう!」


「それならいい」


グリムは微笑んだ。


「……寂しくなるな」


「定期的に帰ってくる」


レイが答える。


「そうしてくれるとありがたいな」


グリムは笑った。


「俺もメルナも安心するし……ミレーヌのレイへの発作も収まるだろうから」


レイが苦笑する。


二人は顔を見合わせて笑った。


「二人で何話してるの?」


ミレーヌが不思議そうに尋ねる。


「何も」


グリムは即答した。


「怪しい……」


メルナが呟く。


そして、レイを見る。


「お兄ちゃん、頑張って」


「そんなこと言うの珍しいな」


「お兄ちゃんの妹として当たり前のことをしただけ」


「そうか」


レイは笑う。


「メルナこそ頑張れよ」


「うん!」


メルナは元気よく頷いた。


そして、レイへ小声で話しかける。


「あと、お母さんの兄さんへの発作は、なんとか私が止めとくから」


「それは本当に頼んだ」


レイも小声で返す。


「メルナにしか止められない」


「任せて」


メルナは真剣な顔をする。


「これは最重要任務だから」


「何話してるの、二人とも?」


ミレーヌが聞いてくる。


「最重要任務について」


「最重要任務?」


「そ、そう」


メルナが誤魔化す。


ミレーヌは首を傾げた。


レイとメルナは顔を見合わせる。


そして、声を抑えて話した。


「母さん、本当に私たちのこと好きだよね」


「だな」


「いわゆる親バカってやつ?」


レイは微笑む。


「でも、そっちの方が良くないか?」


「え?」


「俺たち、めっちゃ愛されてるだろ」


メルナも少し笑った。


「確かに」


「母さんが俺たちにめっちゃ甘えてくるのも、愛されてる証拠だろ」


「うん」


メルナが頷く。


「これからはメルナだけが甘えられ……じゃなくて、絡まれるな」


「…………」


メルナは少し遠い目をする。


「が、頑張る」


「二人とも〜!」


突然、ミレーヌが二人へ抱きついた。


「うわっ!」


「わっ!」


レイとメルナは顔を見合わせる。


「……安心するな」


「だね」


二人は苦笑しながら笑った。


◇◇◇


その時――


遠くから馬車の音が聞こえてきた。


フィーアが道の先を見る。


「レイ様、馬車が来ました」


「そっか」


レイは荷物を手に取った。


ミレーヌが寂しそうにレイを見る。


「レイ……」


「母さん」


ミレーヌはレイへ抱きついた。


「うぅ……レイ〜」


「母さん、また帰ってくるから」


「約束ね」


「うん」


「お土産話、いっぱい聞かせてね」


「分かった」


メルナもレイの前へ歩み寄る。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「お土産買って帰ってきてね」


「おう」


「絶対だよ?」


「分かったって」


レイが馬車へ向かおうとする。


その時――


「レイ」


グリムが呼び止めた。


「父さん?」


グリムは一本の刀を持っていた。


そして、それをレイへ差し出す。


「これを持っていきなさい」


「……これは?」


レイは刀を受け取る。


鞘から伝わる重みだけでも、それがただの刀ではないことが分かった。


「ヴァルト家が代々受け継いできた名刀だ」


グリムは静かに言う。


「名を――『演舞』という」


「そんな大事なものを……俺に?」


「ああ」


グリムは頷いた。


「もう、お前に受け継ぐ時が来たんだ」


レイは刀を見つめる。


そして、しっかりと握った。


「……分かった」


レイは父親を見る。


「ありがたく使わせてもらいます」


「おう」


グリムは笑った。


「大切にしろよ」


「もちろん」


やがて、馬車の出発する時間が近づいてきた。


レイは家族を一人ずつ見つめる。


父、グリム。


母、ミレーヌ。


妹、メルナ。


そして――自分を育ててくれたフィーア。


「じゃあ……行ってくる」


フィーアが優しく微笑む。


「レイ様」


「ん?」


「あなたは、とても強いです」


フィーアは真っ直ぐにレイを見る。


「どうか自信を持ってください」


レイは笑った。


「ありがと、フィーア」


そして、レイは皆へ向かって手を振る。


「それじゃ、行ってきます!」


一人ずつ名前を呼ぶ。


「父さん!」


「母さん!」


「メルナ!」


「フィーア!」


「いってらっしゃい!」


「頑張ってね、レイ!」


「お兄ちゃん、絶対帰ってきてよ!」


「レイ様、どうかお気をつけて!」


家族の声が重なる。


レイは荷物を持ち、馬車へ乗り込んだ。


馬車がゆっくりと動き始める。


レイは窓から顔を出し、最後まで手を振った。


「またな!」


ミレーヌも大きく手を振る

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