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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第二章 夏休み編
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過去編 2話 青竜討伐

この街に来てから、四ヶ月の月日が経った。


 グリムは相変わらず冒険者ギルドで依頼を受け、魔物を倒す日々を送っていた。


 一方、ミレーヌも聖女としての仕事に追われていた。


 人々の治療に、教会での務め、さらには各地で発生する問題への対応。聖女という立場は、彼女が思っていた以上に忙しいものだったらしい。


 そんなある日のこと。


 街の一角にあるカフェで、二人はコーヒーという飲み物を片手に話をしていた。


「もう、最近は厄介なことが多すぎよ!」


 ミレーヌはテーブルに頬杖をつき、深いため息をついた。


「確かにな。魔物も増えてるしな」


「本当そうよ! あいつらのせいで、私は全然休めないの!」


「聖女も大変なんだな」


「他人事みたいに言わないでよ!」


「いや、実際に大変そうだと思ってるぞ?」


「なら、もう少し同情して!」


 ミレーヌは頬を膨らませた。


 ちなみに、彼女は今日も教会を抜け出してきている。


 聖女の仕事が忙しいと言いながら、休憩時間を確保するために教会を抜け出し、グリムとカフェで過ごす。


 もはや、いつものことだった。


 ……教会のシスターたちが聞いたら、また頭を抱えることだろう。


「正直、もうこの街から逃げたいわ……」


「なあ、ミレーヌ」


「何?」


「何で聖女になったんだ?」


「それは、自分からなりたくてなったわけじゃないわよ。小さい頃に選ばれたの」


「……そうか」


 グリムは少し考えたあと、あっさりと頷いた。


「なんか長くなりそうだから、聞かないでおくわ」


「…………」


 ミレーヌは目を丸くして、グリムを見つめた。


 自分から質問してきたくせに、話が長くなりそうだと分かった途端に聞くのをやめたのだ。


 なかなか高度な技術である。


「……何だ、その顔」


「グリムのせいでしょ……」


「そうか?」


「そうよ!」


 ミレーヌは呆れたように息を吐いた。


 グリムはそんな彼女を見て、楽しそうに笑った。


「まあ、気晴らしでもするか。魔物討伐にでも行くか?」


「気晴らしにすることじゃないでしょ!」


「そうか?」


「そうよ! ……ま、まあ、いいけど」


 そう言いながらも、ミレーヌの表情は少し明るくなった。


 冒険者登録をしてからというもの、二人は頻繁に一緒に依頼を受けるようになっていた。


 時には強力な魔物を討伐し、時には大群となって押し寄せた魔物を二人だけで食い止めたこともある。


 グリムの圧倒的な身体能力と、ミレーヌの卓越した魔法。


 二人の相性は驚くほどよかった。


 ただし、ミレーヌが教会を抜け出して依頼に来ることも珍しくないため、シスターたちの苦労は増える一方だった。


「そういえば、最近ダンジョンの様子がおかしいらしいわ」


 ミレーヌがコーヒーを飲みながら話を切り出した。


「ダンジョンの様子が?」


「ええ。魔物の動きが普段と違うみたいなの」


「……スタンピードか?」


「その可能性もあるわね」


 ダンジョンの魔物が異常に増殖し、外へと溢れ出す現象。


 もし本当にスタンピードが起きれば、街にも大きな被害が出るかもしれない。


「まあ、聖女がいるしな。何とかなるだろ」


「……むっ!」


 ミレーヌは頬を膨らませた。


「何だよ?」


「またそうやって、私に頼ろうとする!」


「いや、頼りにしてるって意味だぞ?」


「本当かしら……」


 ミレーヌは疑わしそうにグリムを見つめた。


 グリムは笑いながら、軽く手を振った。


「悪い悪い」


 それから二人はコーヒーを飲み終え、冒険者ギルドへ向かった。


 ミレーヌは、グリムにも聞こえないほど小さな声で呟く。


「……グリム一人だけでも、何とかできるくせに」


「何か言ったか?」


「何も!」


「なら、行くか」


「行きましょ!」


 こうして二人は、魔物討伐の依頼を受けることになった。


 依頼の対象は、青い鱗を持つ巨大な竜――青竜だった。


* * *


 街を出てしばらく進み、二人は深い森へと辿り着いた。


 木々の隙間から差し込む光。


 風に揺れる葉の音。


 しかし、その森には、どこか異様な気配が漂っていた。


「……いたわね」


 ミレーヌが前方を指さす。


 その先には、巨大な青竜が鎮座していた。


 青い鱗は太陽の光を受けて輝き、鋭い爪と牙は見る者を圧倒する。大きく広がる翼は木々の上に影を落とし、その巨体だけで周囲の景色を支配していた。


「でか……」


「でかいわね……」


 二人は揃って、その巨体を見上げた。


 やがて、青竜がこちらに気づく。


『グオオオオオオオオッ!!』


 大気を震わせる咆哮が森全体に響き渡った。


 周囲の木々が激しく揺れ、地面から小石が跳ね上がる。


 普通の冒険者なら、それだけで足がすくんでしまうほどの迫力だった。


 しかし、二人は平然と立っていた。


「なかなかの迫力だな」


「そうね」


「……じゃあ、さっさと片付けるか」


「そうしましょ!」


 ミレーヌは杖を握り直した。


 その直後、青竜が巨体を動かし、長い尻尾を大きく振り上げた。


 次の瞬間、二人を押し潰すように尻尾が振り下ろされる。


「でかい尻尾だな」


「ちょっと! これ、受けて大丈夫なの!?」


「さあ?」


「さあって……!」


 ミレーヌが言い終わるよりも早く、巨大な尻尾が二人の頭上へと迫った。


 だが――。


 グリムは右手を伸ばし、落ちてきた尻尾を片手で受け止めた。


 轟音が森に響く。


 地面には衝撃が伝わり、周囲の土埃が舞い上がった。


 それでも、グリムは一歩も動かなかった。


 青竜の尻尾は、彼の手によって完全に止められていた。


「……うん」


 ミレーヌはその光景を眺め、静かに頷いた。


「さすがに、もう驚かないわよ。何度も見たし」


「何がだ?」


「別に」


「?」


「普通は竜の尻尾を片手で受け止められないのよ」


 ミレーヌが言う


 グリムは不思議そうに首を傾げた。


「そうなのか?」


「そうなの!」


 そのやり取りの間にも、青竜は尻尾を押し込もうとしていた。


 しかし、びくともしない。


 やがて青竜は怒り狂ったように唸り、口を大きく開いた。


 喉の奥に、赤々とした炎が集まっていく。


「……おい。今度は炎か」


「みたいね」


「任せる」


「分かったわ」


 ミレーヌは一歩前に出て、杖を構えた。


「水魔法――ウォーターベール」


 詠唱と同時に、二人の前に透き通った水の膜が広がった。


 直後、青竜の口から灼熱の炎が放たれる。


 炎が森を照らし、熱風が周囲の木々を揺らした。


 しかし、ミレーヌの生み出した水のベールは揺らぐことすらなかった。


 炎は水の膜に阻まれ、二人へ届くことなく散っていく。


「よし、問題なし」


 ミレーヌは自信たっぷりに笑った。


 そして、杖を青竜へと向ける。


「次はこっちの番よ!」


 ミレーヌが指を鳴らした。


「雷魔法――プラズマスピリット!」


 バチッ!!


 乾いた音とともに、無数の雷の球が彼女の周囲に現れた。


 青白い光が森を照らす。


 次の瞬間、それらが一斉に青竜へと飛んでいった。


『グオオオオッ!!』


 雷撃が青竜の全身を貫く。


 巨体が大きく揺れ、青い鱗の隙間から煙が立ち上った。


 青竜は必死に翼を動かそうとするが、身体が思うように動かない。


 やがて、その巨体が地面へと崩れ落ちた。


「……すごいな」


 グリムが感心したように呟く。


「ふふん! 聖女を甘く見ないことね!」


 ミレーヌは得意げに胸を張った。


「さて、最後だな」


「お願いね、グリム!」


「ああ」


 グリムは地面を蹴った。


 凄まじい勢いで跳び上がり、青竜の巨体を飛び越える。


 そして、竜の頭上へと到達すると、剣を構えた。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、グリムは剣を振り下ろした。


 鋭い一閃が青竜の首を斬り、戦いに終止符を打つ。


 巨大な身体が地面へと倒れ、森に静寂が戻った。


「……これで討伐完了だな」


「そうね! 依頼完了!」


 ミレーヌは満足そうに頷いた。


 こうして二人は、青竜の討伐を成し遂げた。


* * *


 街へ戻った二人は、冒険者ギルドで依頼の完了を報告した。


 青竜の討伐は、簡単な仕事ではない。


 それを二人だけで成し遂げたのだから、受付が驚くのも無理はなかった。


 報告を済ませたグリムは、ふと周囲の視線に気づいた。


 ほかの冒険者たちが、こちらを見ている。


 羨ましそうな視線。


 悔しそうな視線。


 中には、憎しみすら感じさせるものもあった。


「……」


 グリムは黙って彼らを見返した。


「グリム? どうしたの?」


 ミレーヌが不思議そうに尋ねる。


 グリムは一度視線を外し、何事もなかったかのように答えた。


「……何もない」


「そう?」


「ああ」


 ミレーヌは少し首を傾げたものの、それ以上は追及しなかった。


「さてと、私はそろそろ帰らないと」


「帰っても地獄だろ」


「……地獄よ、あそこは」


「冗談で言ったつもりだったんだが」


「冗談になってないのよ!」


 ミレーヌは真剣な顔で言い返した。


 その時、ふと時計に目を落とした彼女の表情が変わった。


「……あっ! まずい!」


「どうした?」


「これ以上遅くなったら、シスターたちの怒りがもっと強くなる!」


「……そりゃ大変だな」


「他人事みたいに言わないでよ!」


 ミレーヌは慌てて帰り支度を始めた。


 今日も無断で教会を抜け出しているのだ。


 帰ったあとにどんな説教が待っているのか、想像するだけで恐ろしい。


「じゃあ、またな」


「またね! 明日も抜け出してくるから、いつものカフェで!」


「……お前、懲りないな」


「いいの! 約束よ!」


 ミレーヌは笑顔で手を振ると、教会に向かって走っていった。


 その後ろ姿を見送りながら、グリムは呟いた。


「……聖女って、そんなに忙しいのか」


 もちろん、忙しいのは知っている。


 だが、仕事の合間を縫ってまで自分に会いに来てくれることを思うと、どこか嬉しくもあった。


 グリムは小さく笑い、それからギルドの出口へと向かおうとした。


 しかし――。


 ふと、足が止まった。


 先ほどの冒険者たちの視線が、頭から離れなかったのだ。


 羨望だけなら、まだ分かる。


 強力な魔物を討伐すれば、注目されることもあるだろう。


 だが、あの視線には、それだけではない何かがあった。


「……何だ?」


 胸の奥に、小さな違和感が残っている。


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