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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第二章 夏休み編
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ミレーヌとグリム過去  1話 出会い

ミレーヌとグリムの過去についてこれから少しだけ書きます!

これは、まだアイナもレイもメルナも生まれていない頃の話。


 ある一人の男が、家を出て世界を旅していた。


 男の名は、グリム。


 生まれ育った場所を離れ、自分の知らない世界を見て回る。それが、彼の旅の目的だった。


 ある日のこと。


 グリムは、どこまでも続く広大な草原を歩いていた。


 青い空。


 遠くまで広がる緑の大地。


 心地よい風が草花を揺らし、鳥たちが空を自由に飛び回っている。


「すごいな……この景色」


 グリムは足を止め、目の前に広がる光景を眺めた。


 世界には、まだ自分の知らない景色がいくらでもある。


 そう考えるだけで、旅を続けるのが楽しみになった。


 その時だった。


 ――グルルルル……。


「ん?」


 茂みの奥から、低い唸り声が聞こえてきた。


 直後、巨大な熊の姿をした魔物が飛び出してくる。


 鋭い爪を振り上げ、グリムへと襲いかかった。


「一体か」


 グリムは落ち着いた様子で剣を抜く。


 次の瞬間。


 魔物の身体が、真っ二つに斬り裂かれた。


 あまりにも一瞬の出来事だった。


 グリムは剣を右手に持ったまま、倒れた魔物を一瞥する。


「……りんごか。いいな」


 ふと、近くの木に実っているりんごが目に入った。


 グリムは一つ手に取ると、何事もなかったかのように剣を収めた。


 そして、りんごを齧りながら再び歩き始める。


 先ほどまで巨大な魔物に襲われていたとは思えないほど、呑気な姿だった。


 こうしてグリムは、世界中を旅して回った。


 そして、ある街へと辿り着いた。


* * *


 街の中は活気に満ちていた。


 露店にはさまざまな商品が並び、人々の楽しそうな声が通りに響いている。


 グリムは街を見て回りながら、これからどこへ向かおうかと考えていた。


 その時――。


 一人の女性とすれ違った。


 白いローブを身に纏い、右手には一本の杖を持っている。


 女性は周囲の喧騒を気にすることなく、静かに歩いていた。


「……」


 グリムは思わず足を止めた。


 美しい女性だった。


 ただ、それだけではなかった。


 なぜか目を離せない。


 気がつけば、グリムは女性の後ろ姿をじっと見つめていた。


「……声、かけてみるか?」


 小さく呟き、数歩だけ後を追う。


 しかし、いざ声をかけようとすると、どうにも踏み出せなかった。


「……いや、でもな」


 何を話せばいいのか分からない。


 突然話しかけて、警戒されたらどうする。


 そもそも、相手は自分のことなど知らないのだ。


「……やめとくか」


 結局、グリムは声をかけることができなかった。


 女性の姿が人混みに消えていく。


 グリムはその後ろ姿を見送り、頭を掻いた。


「……何やってんだ、俺は」


 それから街を見て回り、一晩を過ごした。


 そして翌朝。


 グリムは冒険者ギルドへ向かった。


 旅の資金を稼ぐため、何か依頼を受けようと思ったのだ。


 掲示板に並ぶ依頼書を眺めていると、一枚の依頼が目に留まった。


 ――南の洞窟に連れ去られた子供の救出。


 魔物に連れ去られた子供が、洞窟の奥にいるらしい。


「……行くか」


 グリムは依頼を受け、街を出た。


 腰には一本の刀があった。


 後にレイが使用し、グリム自身が息子へと託すことになる刀――演舞である。


* * *


 南の洞窟。


 グリムが奥へ進んでいくと、子供の泣き声が聞こえてきた。


「助けて……!」


「いたか」


 グリムは声のする方へ走る。


 そして、洞窟の奥に辿り着いた。


 そこには、数え切れないほどの魔物が集まっていた。


 その中心では、一人の子供が怯えながら身を縮めている。


 魔物たちは子供を取り囲み、今にも襲いかかろうとしていた。


「多いな……」


 グリムは魔物の数を確認し、剣の柄に手をかけた。


 助けること自体は難しくない。


 そう判断して一歩踏み出そうとした、その瞬間だった。


「――そこをどいて!」


 背後から声が響く。


 直後、グリムの横を幾筋もの魔法が駆け抜けた。


 炎が魔物を包み込み、風がその身体を吹き飛ばす。


 魔法は子供に当たることなく、魔物だけを正確に打ち倒していった。


「……え?」


 グリムは驚いて振り返った。


 そこにいたのは――。


 昨日、街ですれ違った女性だった。


 白いローブに、右手の杖。


 間違いない。


 あの女性だ。


「今はその子を助けなきゃ!」


「お、おう!」


 グリムは我に返り、魔物の群れへと飛び込んだ。


 圧倒的な身体能力を生かし、次々と魔物を倒していく。


 一方、女性も杖を構え、魔法を放ち続けていた。


 魔法の威力だけではない。


 その正確さも、魔力の扱い方も、並の魔法使いとは明らかに違っていた。


 互いに細かな打ち合わせなどしていない。


 それでも、二人の動きは不思議なほど噛み合っていた。


 やがて――。


 洞窟の中から、魔物の唸り声が消えた。


「……終わったか」


 グリムは剣を収める。


 女性はすぐに子供のもとへ駆け寄り、膝をついた。


「大丈夫? もう安心していいわよ」


 優しい声をかけながら、回復魔法を施す。


 子供の傷が癒えていくのを確認すると、女性はそっと抱き上げた。


 そして、ようやくグリムへ振り返った。


「……君は?」


 グリムが尋ねる。


 女性は少しだけ姿勢を正して答えた。


「私はミレーヌ。聖女をやってるわ」


「聖女……」


 グリムが驚いている間に、ミレーヌは出口へ向かおうとした。


「じゃあ、帰るわね」


「お、おい!」


「何?」


「あ……いや、その……」


 グリムは一瞬、言葉に詰まった。


 昨日、街で声をかけられなかった女性が、今は目の前にいる。


 せっかく話す機会ができたというのに、何を言えばいいのか分からない。


「……俺はグリム」


「グリム?」


 ミレーヌは足を止めた。


「ええ。いい動きだったわね。魔法を使わずにあれだけ動けるなんて、すごいじゃない」


「……ありがと」


 グリムは照れくさそうに頬を掻いた。


 ミレーヌは再び歩き始める。


「それじゃあね」


「え、ああ……」


 このまま別れるのか。


 そう思ったグリムは、慌てて彼女の隣に並んだ。


「……貴族?」


 ミレーヌが尋ねる。


「ま、まあ、貴族ではあるが」


「そうなのね」


 それ以上、ミレーヌは気にしていない様子だった。


 グリムは少し迷ってから、先ほどの戦いについて口を開く。


「さっきの魔法、すごかったな」


「そう?」


「ああ。狙いが正確だったし、魔力の密度もすごかった。あれだけの魔法を、あんなに簡単に扱えるものなのか?」


 ミレーヌは得意げに胸を張った。


「まあ、聖女だからよ!」


「……聖女って、そんなにすごいのか」


「すごいわよ!」


「俺は魔法なんて使えないからな。できるのは、魔力を身体に纏わせて身体能力を強化するくらいだ」


「へえ……」


 今度はミレーヌが興味深そうにグリムを見る。


「それって、お父さんに似てるわね」


「そうなのか?」


「ええ。お父さんも身体能力がすごかったの」


「なるほどな」


 グリムは納得したように頷いた。


 ミレーヌは杖を持ち直し、少し得意げに続ける。


「ちなみに、私の魔法だって最初から上手に使えたわけじゃないのよ。めちゃくちゃ練習したんだから」


「聖女も特訓するんだな」


「するわよ!」


 ミレーヌが勢いよく振り返った。


「てっきり、神様から力をもらったら、それで終わりなのかと思ってた」


「そんなわけないでしょ!」


「悪い悪い」


「確かに、聖女には神様から与えられた恩恵があるわ。でも、ちゃんと練習しなければ、魔法を正確に扱うことなんてできないのよ」


「そんなに難しいのか?」


「難しいわよ!」


 ミレーヌは少し頬を膨らませた。


「そもそも、聖女というのは、神様から恩恵を与えられた証なの。神様を信じる心によって、その力が解き放たれるのよ」


「神の恩恵?」


「……そこからなの?」


「悪いかよ」


「悪くはないけど……」


 ミレーヌは小さく息を吐いた。


「そもそも、魔法という技術は、神様がエルフたちに教えたのが始まりなの。それがエルフから人間へと伝わって、今の魔法になったと言われているわ」


「そ、そうだったのか……」


 グリムは素直に驚いた。


「その中でも聖女は、特に大きな神の恩恵を与えられた存在なのよ」


「つまり?」


「神様に認められているってこと!」


「……すごいな」


「でしょう?」


 ミレーヌは満足そうに笑った。


 だが、今度は彼女がグリムをじっと見つめる番だった。


「ところで、グリムだっけ?」


「おう」


「あなたの身体能力は何なの?」


「何って……身体能力だが」


「そうじゃなくて!」


 ミレーヌは呆れたように声を上げる。


「本当に人間なの? 私の知っている人間の動きじゃないわよ!」


「人間だ」


「絶対におかしいわよ!」


「失礼な……」


 グリムは少し不満そうに呟いた。


 そんなやり取りを続けながら、二人は街へ戻っていった。


* * *


 街へ到着すると、ミレーヌは子供を抱えたまま教会へ向かった。


 どうやら、救出した子供を教会で保護するらしい。


 教会の入り口で、ミレーヌはグリムへ振り返った。


「それじゃあね」


「あ、ああ……」


 グリムは頷いた。


 しかし、ミレーヌが教会へ入ろうとした、その時。


「……あの!」


「ん?」


 ミレーヌが振り返る。


 グリムは一瞬だけ迷った。


 昨日は声をかけられなかった。


 今日も、もう少しで何も言えずに別れるところだった。


 だから――。


「また、会おう」


 それだけを、何とか口にした。


 ミレーヌは目を丸くした。


「……え?」


「あ、いや……その……」


 グリムは慌てて視線を逸らす。


「……嫌なら、別にいいんだが」


「嫌なんて言ってないわよ?」


 ミレーヌは答えた。


「いいけど……」


「……おう!」


 グリムの顔が、ぱっと明るくなった。


「じゃあな!」


「じゃあね!」


 ミレーヌは子供を抱いたまま教会へ入っていった。


 その背中を見送りながら、グリムは小さく笑った。


「……よし」


 誰にも聞こえないような声で呟く。


 内心では、少しどころではなく嬉しかったのかもしれない。


 もっとも――。


 彼が昨日、街で彼女に一目惚れしたことを知る者は、まだ誰もいなかった。


* * *


 それからというもの、グリムとミレーヌは何度も顔を合わせるようになった。


 最初は偶然だった。


 街の市場で出会ったり、教会の近くですれ違ったり。


 そのたびに少しずつ言葉を交わし、やがて二人は一緒に街を歩くようになった。


 ミレーヌは、聖女という立場にありながら、意外にも好奇心旺盛な女性だった。


 知らないものを見つければ立ち止まり、気になる店があれば覗き込み、グリムが旅先で見た景色の話をすれば、目を輝かせて聞いていた。


 そして、グリムもまた、彼女と過ごす時間を楽しみにするようになっていた。


 気がつけば、ミレーヌは聖女としての仕事が休みの日にも、グリムと会うようになっていた。


 ある日のこと。


「ねえ、グリム?」


「どうした、ミレーヌ?」


「グリムって、冒険者だったわよね?」


「おう。そうだぞ」


「なら……私たち二人でパーティーを組まない?」


「……え?」


 グリムは思わず聞き返した。


「いや、ちょっと待て。聖女って冒険者になってもいいのか?」


「……多分、ダメ」


「なら、冒険者になる必要ないだろ」


「世界を旅したいの!」


 ミレーヌは頬を膨らませた。


「グリムは最近、この街にずっといるけど……その前は世界中を旅してたんでしょ?」


「お、おう」


「私だって、世界を旅したいのよ!」


 ミレーヌは不満そうにグリムを見上げた。


「なのに、聖女だからって教会にばかりいなきゃいけないなんて……」


「そ、そうなのか」


「そうなの!」


 グリムは困ったように頭を掻いた。


 ミレーヌの気持ちは分かる。


 自分も、知らない世界を見て回りたくて旅に出たのだから。


 しかし、彼女は聖女だ。


 勝手に教会を離れて冒険者になるなど、簡単に許されるはずがない。


「……そもそも、何でグリムはこの街にずっと滞在してるの?」


「……え?」


「前は旅をしていたんでしょ? なのに、最近はずっとこの街にいるじゃない」


「そ、それは……」


 グリムは一瞬、言葉に詰まった。


 ――ミレーヌに会いたいから。


 そんなこと、言えるわけがなかった。


「ま、まあ……この街を、もっと知りたくてな」


「……大分、詳しくなったんじゃない?」


「いや、そんなに」


「……?」


 ミレーヌは不思議そうに首を傾げた。


 実際、グリムはこの街のことをかなり知っていた。


 どの店に何が売っているのか。


 どの時間帯に市場が混むのか。


 教会の近くを通れば、ミレーヌに会える可能性が高いことまで。


 だが、そんなことを本人に言えるはずもない。


「と、とにかくだ!」


 グリムは話を戻した。


「世界中を旅したいだけなら、別に冒険者になる必要はないだろ。普通に旅をすればいい」


「それは……そうだけど」


 ミレーヌはしゅんと肩を落とした。


「冒険者って、かっこいいじゃない……」


「……」


「世界中を旅して、いろんな依頼を受けて、困っている人を助けたり……」


「……まあ、そうだな」


「私もやってみたいの!」


 ミレーヌはじっとグリムを見つめた。


「でも、教会のシスターたちにバレたら怒られるだろ」


「う……」


「聖女なんだから、勝手なことはしない方がいいんじゃないか?」


「……うん」


 ミレーヌは小さく頷いた。


 さすがに、教会に迷惑をかけたいわけではない。


 しかし、諦めきれないのか、すぐに顔を上げた。


「そこをどうにか!」


「そう言われてもなぁ……」


 グリムが困り果てていると、ミレーヌが突然、その手を握った。


「お願いよ!」


「……っ!?」


 グリムの身体が固まった。


 手を握られた。


 ミレーヌに。


 それだけのことなのに、頭の中が真っ白になった。


「ね? お願い!」


「……わ、分かった」


「本当!?」


「あ、ああ……」


「やったぁ〜!」


 ミレーヌは満面の笑みを浮かべた。


 一方のグリムは、顔を逸らしながら深いため息をつく。


「はぁ……」


 ――完全に負けた。


 もちろん、ミレーヌに手を握られたからという理由だけではない。


 彼女が本当に世界を旅したいと思っていることも、グリムには分かっていた。


 だからこそ、放っておけなかったのだ。


 ……たぶん。


* * *


 こうして、グリムはミレーヌと一緒に冒険者ギルドへ向かうことになった。


 ただし、ミレーヌは目立たないように、フードを深く被っていた。


 受付へ向かい、冒険者登録を済ませる。


 やがて、受付嬢が一枚のカードを差し出した。


「こちらが、あなたの冒険者の証です」


「これが……!」


 ミレーヌは目を輝かせた。


「冒険者カードだな」


 隣でグリムが説明する。


「これを持っていれば、依頼を受けられるんだ」


「へえ……!」


 ミレーヌはカードを両手で持ち、まじまじと眺めた。


 初めて手にした冒険者カード。


 それだけで、今にも飛び上がりそうなほど嬉しそうだった。


 しかし、受付嬢が不思議そうに首を傾げた。


「それにしても……珍しいですね」


「え?」


「ランク分けの判定で、最初からSランクが出るなんて。久しぶりですよ」


「……えっ?」


 ミレーヌの動きが止まった。


「あなた、一体何者なんですか?」


「え、えっと……」


 ミレーヌは受付嬢を見て、次にグリムを見る。


 グリムは嫌な予感がしていた。


「……おい」


「わ、分かってるわよ!」


 ミレーヌは小声で返すと、急に背筋を伸ばした。


「わ、私は……英雄の娘です!」


 しかも、いつもの明るい声ではなかった。


 無理やり低くした、妙に渋い声だった。


「……何言ってんだ」


「う、うるさい!」


 グリムが呆れたように呟く。


 しかし、受付嬢は目を輝かせた。


「えっ!? 英雄の娘様なのですか!?」


「は、はい!」


「それなら、このランクにも納得できます!」


「そ、そうでしょう!」


 ミレーヌは引きつった笑顔で頷く。


「これからもよろしくお願いします! 新たな英雄様!」


「……はい」


 ミレーヌの声が、どんどん小さくなっていく。


 そして二人は、何とか冒険者ギルドを後にした。


* * *


 ギルドの外。


 グリムはミレーヌを見て、呆れたように言った。


「……さすがに、あの嘘には限界があるぞ」


「分かってるわよ!」


「本当に英雄の娘だと思われてたぞ」


「だ、だって……あれしか思いつかなかったんだもの!」


「受付嬢もよく信じたな……」


「……確かに」


 二人は顔を見合わせた。


 そして、同時に小さく息を吐いた。


「……まあ、いいか」


 グリムがそう言うと、ミレーヌも頷いた。


「うん! これで私も冒険者ね!」


 ミレーヌは冒険者カードを掲げ、満足そうに笑った。


 その時だった。


「――聖女様!」


 背後から、聞き覚えのある声が響いた。


「……え?」


 ミレーヌの笑顔が固まる。


 ゆっくりと振り返ると、そこには数人のシスターが立っていた。


 しかも、全員がこちらを見ている。


「また逃げ出して!」


「本当にそうですよ! こちらもいろいろと忙しいのですから、勝手に出て行かれては困ります!」


「うぅ……」


 ミレーヌは目に見えて縮こまった。


「ご、ごめんなさい……」


「そんな顔をしても許しませんよ!」


「そこをなんとか〜……」


 ミレーヌは泣きつくように両手を合わせた。


 だが、シスターたちはまったく動じない。


「聖女という立場が、どれほど大切なものなのか、もっと自覚してください!」


「……うん」


「聖女様は、多くの人々から必要とされているのですよ!」


「……正直、あんまり分かってない」


 ミレーヌが小さな声で呟いた。


「……今、何と?」


 シスターの一人が、満面の笑顔で聞き返す。


「えっ!?」


 ミレーヌの顔が引きつった。


「い、いや、その……聖女様になれて、本当に偉大だなぁと思っております!」


「そうですか」


「は、はい!」


「では、帰りましょう」


「……はい」


 ミレーヌは完全に観念した。


 シスターの一人がミレーヌのフードを掴む。


「ほら、聖女様。帰りますよ」


「わ、分かったから! 自分で歩けるから!」


「本当ですか?」


「……歩きます」


 ミレーヌは諦めたように肩を落とした。


 そのまま、シスターに連れられていく。


 ほかのシスターたちも周囲を囲み、逃げ出せないようにしっかりと見張っていた。


 グリムは、その様子を呆然と見送る。


「……あれは、確かに逃げ出したくなるな」


 思わず本音が漏れた。


 すると、一人のシスターがグリムのもとへ歩み寄ってきた。


「少し、よろしいでしょうか?」


「……ん?」


「もしかして、最近、聖女様が教会から抜け出しているのは……あなたのところですか?」


「……知らん」


「本当ですか?」


「本当だ」


 グリムは即答した。


 実際、嘘ではない。


 ミレーヌが自分に会いに来ていたことは知っているが、教会を抜け出してまで会いに来ていたのかどうかは、本人から詳しく聞いていない。


 ……ということにしておいた。


「なら、いいのですが……」


 シスターは小さく息を吐いた。


「もし聖女様が教会から抜け出している姿を見かけたら、私たちに知らせてください」


「……分かった」


「ありがとうございます」


 シスターは丁寧に頭を下げると、ミレーヌたちのもとへ戻っていった。


「いやぁ! 待って! もう少しだけ! お願いだから!」


「駄目です!」


「そんなぁ〜!」


 ミレーヌの声が、街の通りに響く。


 グリムは遠ざかっていく一団を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「……シスターたちも大変そうだな」


 そして、少しだけ笑った。


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