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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第二章 夏休み編
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56話 龍神

雲の上。


 メルナたちはフェニックスの背に乗り、どこまでも続く青空を飛んでいた。


 先ほどまでの穏やかな時間。


 しかし――。


 遠く離れた場所で、雲が突然、大きく弾け飛んだ。


 白い雲が空中で散り、巨大な空洞が生まれる。


 メルナは目を細め、遠くを見つめた。


「今、あのめっちゃ奥のところ……雲が爆破した?」


「爆破……ですか?」


 フィーアも目を凝らす。


「そんなこと、私は聞いたことがありません。そもそも、雲の上に生息している魔物など聞いたことがないです」


「だよね……」


 メルナも首を傾げる。


 フェニックスは警戒するように翼を広げたまま、空中で静止していた。


「大丈夫?」


 ミリアが不安そうにメルナを見る。


「大丈夫だよ」


 メルナは笑顔を作る。


「たぶん何かが雲を壊しただけだよ。そろそろ帰ろうか」


「うん!」


「そうですね。そろそろ戻った方がいいでしょう」


 フェニックスがゆっくりと方向を変える。


 その時だった。


 ――ズズズズズズッ!!


「……え?」


 遠くから、地鳴りのような音が響いた。


 空気そのものが震えている。


 メルナが振り返る。


 先ほど雲が弾け飛んだ場所。


 そこから――何かが上昇していた。


「ふ、フィーア……」


 メルナの声が震える。


「あれって……」


 慌てて指を差す。


 次の瞬間。


 雲海を突き破り――巨大な存在が姿を現した。


 最初に見えたのは、その頭部。


 次に首。


 そして、そのさらに後ろから、いつまでも終わることなく続いていく巨大な胴体。


 まるで一本の巨大な山脈が、空を這うようにして現れている。


 雲を突き抜けてもなお、その身体は上昇を続けていた。


「……なに、あれ……」


 ミリアが呆然と呟く。


 その姿を見たフィーアの顔から、血の気が引いていく。


「で……でかい……龍……」


 そして、震える声で続けた。


「龍神……!」


「龍神!?」


 メルナの目が大きく開く。


 漆黒。


 龍神の全身を覆う鱗は、太陽の光を浴びてもなお黒く輝いていた。


 その黄金の瞳は、遠く離れているメルナたちからでもはっきりと分かるほど巨大だった。


 その存在だけで、空気が重くなる。


 メルナたちがいる場所からはかなり離れている。


 それでも――。


 巨大すぎる。


 あまりにも巨大だった。


「で、でも……龍神だったとして、なんでこんなところにいるの!?」


「分かりません……!」


 フィーアにも答えは分からない。


 やがて、龍神の長大な身体がすべて雲の上へと姿を現した。


 その巨体がゆっくりと横へ倒れていく。


 まるで空そのものを横切るかのように。


 そして――。


 黄金の瞳が、メルナたちのいる方向へ向いた。


「……」


 メルナの身体が固まる。


「こっち……見た……?」


 龍神の視線が、確かにこちらへ向けられている。


「怖いよ……!」


 ミリアがメルナへ抱きつく。


「大丈夫、大丈夫だから!」


 メルナがミリアを抱き寄せる。


 しかし、フィーアは龍神から目を離せなかった。


「……間違いありません」


「フィーア?」


「あれは龍神です」


 フィーアの声が震えている。


「私が見た時の特徴……そして、ルーシー様が話していた外見とも一致しています」


 フィーアは龍神の身体を見上げる。


「漆黒の鱗……黄金の瞳……あの長大な身体……」


 そして、はっきりと言った。


「あれは……間違いなく龍神です」


「……逃げよう!」


「はい!」


 フェニックスが翼を大きく広げる。


「ミリア様、目を瞑っていてください!」


「うん!」


 フェニックスが一気に加速する。


 青空を切り裂き、メルナたちは屋敷のある方向へ飛んでいく。


 しかし――。


「……え?」


 メルナが後ろを見る。


 遠くにいたはずの龍神が、こちらへ向かって移動していた。


 その巨体からは想像できないほど速い。


「ちょ、ちょっと待って!」


 龍神が空を進むたび、周囲の雲が押し流されていく。


「速すぎでしょ、あいつ!」


 フェニックスがさらに速度を上げる。


 しかし、距離は縮まっていく。


「フェニちゃん、もっと速く!」


 フェニックスが力強く翼を羽ばたかせる。


 それでも――。


 龍神は追いついてくる。


「空の支配者というのは……伊達じゃないですね」


 フィーアが後方を確認する。


「やばい! 追いつかれる!」


 龍神の頭部が、すぐ後ろまで迫ってきた。


 そして――。


 龍神が大きく口を開く。


 その口の奥に、膨大な魔力が集まり始めた。


 空気が震える。


 周囲の雲が魔力に引き寄せられるように消えていく。


「……っ!」


 フィーアの表情が変わった。


「メルナ様! あれは……まずいです!」


「何!?」


「あの魔力砲は――」


 フィーアは龍神の口元を見つめる。


「私の故郷の村を……たった一撃で崩壊させたものです」


「嘘でしょ……!」


 メルナの顔が引きつる。


「じゃあ、あんなの……どうやって避けろっていうの!?」


 龍神の口に集まる魔力は、さらに濃密になっていく。


 もはや攻撃というより、巨大な災害そのものだった。


「メルナ様」


 フィーアが立ち上がる。


「フィーア、何で立ってるの!?」


「メルナ様とミリア様は、なんとか振り切ってください」


 フィーアは双剣へ手を伸ばす。


「メルナ様は、不死鳥様と共鳴するべきです」


「フィーアは?」


「私が時間を稼ぎます」


「……!」


「そして、できることなら――」


 フィーアは龍神を睨む。


「皆の仇を討ちます」


「だ、ダメ!」


 メルナが叫ぶ。


「このままでは、誰も生き残れません」


 フィーアは優しく笑った。


「ですが、メルナ様は共鳴すれば空中を自由に動けるはずです」


「……」


「ミリア様を抱えて逃げてください」


「嫌だ!」


 メルナは首を横に振る。


「みんなで帰るの!」


「メルナ様……」


「フィーアも一緒に帰るの!」


 フィーアは少しだけ目を細めた。


「……安心してください」


 そして、いつもの優しい笑顔を見せる。


「私も後から屋敷へ帰ります」


「……」


「約束します」


「や……約束だよ」


「はい。約束です」


 フィーアはメルナを見る。


「メルナ様、ミリア様を頼みます」


「……うん!」


 フィーアは龍神へ向き直る。


「では――行ってきます」


 フィーアは大きく跳んだ。


「風神!」


 風がフィーアの身体を包む。


 一瞬で龍神との距離を詰め、その巨大な身体へ飛び移った。


「風刃」


 双剣を抜き、刃へ風の力を纏わせる。


「メルナ様達には、魔力砲を当てさせません」


 龍神が口を開いた。


 そこには、未だ巨大な魔力が集まっている。


「――迅風双刃!」


 フィーアの身体が高速で回転する。


 二つの風刃が渦を巻きながら龍神の口元へ飛んでいく。


 しかし――。


 ガキィィン!!


「ッ……!」


 刃が鱗に阻まれる。


 龍神の鱗はあまりにも硬い。


「ま……まだ……!」


 フィーアはさらに斬撃を重ねる。


 それでも、龍神の魔力砲を止めるには至らない。


「……硬すぎる……!」


 その瞬間。


「フィーア!」


 メルナの声が響いた。


「共鳴――不死鳥フェニックス!」


 メルナの身体を炎が包み込む。


 背中から炎の翼が広がった。


 フェニックスとの共鳴。


 その瞬間、メルナの身体能力と魔力が一気に跳ね上がる。


「ミリアちゃん!」


「え?」


「フィーアのところへ行って!」


 メルナはミリアを抱え、炎の力を利用してフィーアの方向へ送り出す。


「メルナ様!」


 フィーアがミリアを受け止める。


「メルナ様、何を――!」


「もうこの距離で、あの魔力量の攻撃を避けられるわけないよ!」


 メルナは龍神の前へ飛び出した。


「だったら――!」


 炎の翼を大きく広げる。


「せめて、抗ってやる!」


 メルナは龍神と並行するように飛ぶ。


 地上へ向かって魔力砲が放たれれば、その被害は計り知れない。


 だからこそ――。


 自分が受け止める。


「これなら……!」


 メルナは地上を見下ろす。


「下にいる人たちは……大丈夫」


 そして龍神へ向き直った。


 龍神の口に集まっていた魔力が、限界まで圧縮される。


 空気が震える。


 音すら消えたような一瞬。


 龍神の黄金の瞳がメルナを捉える。


 次の瞬間――。


 轟音とともに、巨大な魔力砲が放たれた。


「――来る!」


 メルナは両手を前へ突き出す。


「熱核閃!!」


 メルナの両手へ膨大な熱が集中する。


 炎ではない。


 極限まで圧縮された熱そのもの。


 そして――。


 一直線の超高密度の熱線が放たれた。


 龍神の魔力砲と、メルナの熱核閃が真正面から激突する。


 ――ドォォォォォン!!


 巨大な衝撃波が空を駆け抜けた。


 雲が一瞬で吹き飛ぶ。


 空そのものが揺れたように感じられる。


「ぐっ……!」


 メルナの身体が押される。


「まだ……!」


 熱核閃をさらに強くする。


 両腕が震える。


「負け……るもんかぁぁぁ!!」


 しかし――。


 龍神の魔力は、あまりにも巨大だった。


 少しずつ。


 ほんの少しずつ。


 メルナの熱核閃が押し返されていく。


龍神はまるでメルナを遊んでるようだった


「くっ……!」


 メルナは歯を食いしばる。


「まだ……まだ……!」


 それでも止まらない。


 魔力砲は迫ってくる。


 熱核閃が押し負ける。


「……もう……無理……!」


 メルナの身体が限界を迎える。


 それでも最後に、フィーアとミリアの方を見る。


「フィーア……!」


 メルナは叫ぶ。


「ミリアちゃんを……頼んだよ!」


「メルナ様!!」


 次の瞬間――。


 熱核閃が完全に押し切られた。


 巨大な魔力砲がメルナを飲み込む。


「――っ!」


 メルナの身体が遥か彼方へ吹き飛ばされる。


 一直線に伸びる魔力砲が、空を切り裂いていく。


 その進路にあった雲は次々と消し飛び、青空だけが取り残される。


 やがてメルナの姿が小さくなり――。


 そのまま地上へ落下していった。


「メルナ様!」


 フィーアが叫ぶ。


 しかし、龍神は追撃することなく、ゆっくりと身体を動かす。


 メルナの身体には、まだ共鳴の炎が残っていた。


 そして、その炎がメルナを包み込む。


 フェニックスの再生能力が発動し、受けた傷が急速に癒えていく。


 しかし――。


 意識だけは戻らなかった。


「メルナ様の意識が……!」


 フィーアが息を呑む。


「こ、怖いよ……」


 ミリアが震える。


「大丈夫です!」


 フィーアはミリアを抱き寄せる。


「メルナ様も、ミリア様も……私が絶対に屋敷へお返しします」


 その直後。


「……っ!」


 フィーアが異変に気づいた。


 龍神の身体が――熱を帯び始めている。


 漆黒の鱗が赤く光るほどの高熱。


「熱い……!」


 フィーアはミリアを抱き上げる。


「ミリア様! 私に捕まっていてください!」


「うん!」


 フィーアは龍神の身体から飛び降りた。


 風神の力を使い、落下速度を抑えながら地上へ向かう。


「メルナ様のように、空中を自由自在に動けるわけではありませんが……」


 フィーアは下を見る。


「風神でなんとかするしかありませんね」


 しかし――。


 龍神がこちらを見る。


 そして、その巨大な爪をゆっくりと前へ出した。


「……ッ!」


 フィーアの顔が強張る。


「生かしても……くれないですか……」


 龍神の爪が迫る。


 フィーアは一瞬で判断した。


「ミリア様!」


 フィーアはミリアを安全な方向へ放り出す。


「フィーア!?」


「大丈夫ですよ!」


 フィーアは振り返る。


 そして、龍神を睨みつける。


「私は――」


 双剣を握り締める。


「あなたを絶対に……!」


 風がフィーアの周囲で渦巻く。


「絶対に許さない!!」


 龍神の巨大な爪が振り下ろされた。


 フィーアの姿が、その一撃に飲み込まれる。


 そして――。


 龍神はそれ以上ミリアを追うことなく、巨大な身体を翻した。


 再び雲の上へ戻っていく。


 残された空には、静寂だけが広がった。


「……龍神……」


 意識が薄れていく。


 フィーアは、それでも龍神の去っていく方向を見つめていた。


「あなたは……絶対に倒します……」


 声はかすれている。


「村のみんなの……家族の……仇を……」


 しかし、身体は限界に近づいていた。


 それでも――。


 フィーアは最後の力を振り絞る。


「風操……」


 風がミリアの身体を包む。


 落下していたミリアの身体が、わずかに浮き上がった。


「これなら……」


 フィーアは自分自身の落下を止めようとする。


 だが、もう魔力がほとんど残っていない。


 二人の身体が地面へ近づいていく。


「フィーア!」


 ミリアが叫ぶ。


 地面まで、あと僅か。


「……これで……!」


 フィーアは残された魔力をすべて集める。


「風壊!!」


 ――ドンッ!!


 地面へ向かって強烈な風が放たれる。


 地面が大きく揺れ、土煙が舞い上がる。


 その風を利用し、フィーアは落下の勢いを無理やり殺した。


 二人の身体が地面へ着く。


 ミリアは風操によって衝撃を抑えられ、尻餅をつく程度で済んだ。


「……フィーア!」


 ミリアはすぐに立ち上がり、フィーアへ駆け寄る。


「フィーア……」


 フィーアは地面に倒れていた。


 身体には龍神の攻撃による大きな傷が残っている。


 意識も朦朧としている。


「み……ミリア様……」


 かすかな声。


「ここから……東へ……ずっと歩けば……」


 フィーアは必死に言葉を紡ぐ。


「屋敷が……あるはずです……」


「……」


「行ってください……」


 フィーアはミリアを見る。


「メルナ様のことも……伝えて……助けてあげてください……」


「ふ、フィーアも助ける!」


 ミリアは涙を浮かべながら叫ぶ。


「私は……もう……」


「いやだ!」


 ミリアはフィーアの手を握る。


 その手に、フィーアの血が付着する。


「フィーア……」


 ミリアの声が震える。


「フィーア……!」


フィーアは、ゆっくりと目を閉じた。

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