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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第二章 夏休み編
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51/76

51話 姉

夕食を終えたレイたちは、食後の時間をそれぞれゆっくりと過ごしていた。


「美味しかった」


 レイが満足そうに息を吐く。


「うまい!」


 メルナも満面の笑みで頷いた。


「お粗末さまでした」


 ミレーヌは嬉しそうに二人を見つめる。


「そういえば、レイたちはいつまでここにいるの?」


「夏休みは長いからな。まだまだここにいるつもりだよ」


「よし!」


 ミレーヌが嬉しそうに両手を握る。


「いっぱい甘えられるわね!」


「……程々に頼む」


「一緒に寝るだけよ?」


「それが十分すごいんだよ」


「私はいいよ!」


 メルナが即答する。


「大好き〜! メルナ!」


 ミレーヌが嬉しそうにメルナへ抱きつく。


「私も母さん好き!」


 その様子を見ながら、レイはふと部屋の隅へ目を向けた。


 棚の上に、一枚の家族写真が飾られている。


 そこには、幼い頃のレイと生まれたばかりでミレーヌに抱かれてるメルナ。


 そして、ミレーヌとグリム。


 四人……ではなかった。


 レイは写真をじっと見つめる。


「……母さん」


「どうしたの、レイ?」


「ずっと思ってたんだけどさ」


 レイは写真を指差した。


「この女の子、誰なんだ?」


「……」


「母さんと父さんの間にいる子」


 ミレーヌの表情が少しだけ変わった。


「レイは覚えてない?」


「ごめん。記憶にない」


「無理もないわよ」


 ミレーヌは写真を見つめる。


「まだ二歳の頃だったもの。覚えてなくても仕方ないわ」


「私も知らないよ、この子」


 メルナも写真を覗き込む。


「メルナは生まれたばかりだったからね」


 ミレーヌは静かに微笑んだ。


「じゃあ……話しましょうか」


「何を?」


「この子が誰なのか」


 ミレーヌはグリムを見る。


「ねぇ、あなた」


「ああ」


 グリムも頷いた。


 その時、フィーアが人数分のコーヒーを持ってきた。


「皆様、コーヒーです」


「ありがと、フィーア!」


「いえいえ」


 フィーアはカップを置いていく。


「フィーアも来て」


「私もですか?」


「もちろん」


「分かりました」


 フィーアもソファーへ腰を下ろす。


 ミレーヌは写真を手に取った。


「じゃあ、この子について話すわね」


 一度だけ写真を見つめる。


「この子は、ヴァルト家の長女」


「……」


「つまり――」


 ミレーヌはレイとメルナを見る。


「あなたたちのお姉ちゃんよ」


「……え?」


 レイが固まった。


「姉がいたのか?」


「まじ!?」


 メルナも驚いて目を丸くする。


「そうよ」


 ミレーヌは優しく写真を撫でた。


「彼女の名前は、アイナ」


「アイナ……」


「アイナ・ヴァルト」


 その名前を聞いた瞬間、レイは写真を見つめ直した。


「レイは小さい頃、よくアイナと一緒に遊んでたのよ」


「……全く覚えてない」


「でしょうね」


 ミレーヌは苦笑する。


「でも、アイナはレイのことをとても可愛がっていたわ」


「そうなのか……」


「ええ」


 ミレーヌの声が少し寂しくなる。


「だけど――」


 部屋の空気が静かになる。


「アイナは、レイが二歳になった頃に家を出たの。メルナは生まれたばかりだったかしら」


「家出?」


 メルナが聞き返す。


「そう」


「理由は?」


「……分からないの」


 ミレーヌは首を横に振った。


「突然いなくなって、それから一度も家に帰ってきてないわ」


 グリムが口を開く。


「俺たちは、そこら中を探した」


「……」


「街も、森も、遠くの国までな」


 拳を握る。


「だが、どこにもいなかった」


 レイは写真を見る。


「一度も帰ってきてないのか……」


「うん」


 メルナも少し俯いた。


「じゃあ……生きてるかどうかも分からないってこと?」


「……」


 ミレーヌは静かに首を横に振った。


「いいえ」


 その声には確信があった。


「アイナは生きてるわ」


「なぜそう思うんだ?」


 レイが尋ねる。


 するとグリムが答えた。


「一週間前、俺たちの家に一通の手紙が届いた」


「手紙?」


「ああ」


「差出人は――」


 グリムが言葉を止める。


「アイナだった」


「……!」


 メルナが目を見開いた。


「手紙が来たんだね!」


「ええ」


 ミレーヌは立ち上がる。


 棚から一通の綺麗な手紙を取り出した。


「これが、その手紙よ」


 ミレーヌはゆっくりと封筒を開く。


 そして、家族の前で読み始めた。


「ママ、パパ」


 一度、言葉を止める。


「……いや、呼び方変えようかな。母さん、父さん。お元気ですか?」


 少し照れたような文章。


「アイナはめっちゃ元気です!」


 メルナが少しだけ笑った。


 ミレーヌも笑う。


 だが、その後の文章を読み進めるにつれ、その表情は少しずつ変わっていった。


 突然家を飛び出したことへの謝罪。


 そうするしかなかったという言葉。


 寂しかったこと。


 家族に会いたかったこと。


 そして――。


「そろそろ帰れると思います」


 ミレーヌの声が震えた。


「帰ったら……家族として、もう一度接してくれるかな?」


 その一文を読み終える。


「難しいよね」


 最後に。


「アイナより」


 静寂が訪れた。


 ミレーヌの頬を、一粒の涙が落ちる。


 ぽとり。


「……」


 ミレーヌは手紙を胸元へ抱きしめた。


「これを見て……本当に安心したの」


 声が震える。


「生きてて良かったって……」


 レイは静かに微笑んだ。


「……本当に良かったな」


「うん」


 メルナも頷く。


「本当に良かったよ」


 ミレーヌは涙を拭った。


「私は……ダメな親だと思う」


「違う」


 レイは即座に言った。


「その逆だ」


 ミレーヌを見る。


「最高な親だよ」


「レイ……」


「俺たちにこんなに愛情を注いでくれてる」


 メルナも頷く。


「そうだよ! めっちゃ愛情注いでくれるし!」


「そうですよ、奥様」


 フィーアも優しく微笑む。


「奥様は本当に素晴らしい方です」


「フィーア……」


 グリムも頷く。


「まあ、子供に対して少し甘えすぎなところはあるが」


「あなた?」


「……」


「それ以外は最高だ」


「……」


 ミレーヌがグリムの足を踏んだ。


「んっ」


「す、すまん!」


 レイが呆れたように二人を見る。


「夫婦喧嘩か」


「レイ」


「……はい」


「今夜、一緒に寝るわよ」


「まじ?」


「もちろん!」


 ミレーヌは笑顔になる。


「メルナもね!」


「私は母さんと寝るつもり満々!」


「やったー!」


 ミレーヌが嬉しそうに喜ぶ。


「み、ミリアは?」


「もちろん一緒よ!」


「アカマルは?」


「さっき寝かせてきたわ。ミリアと一緒に寝てるわよ」


「……流石にベッド潰れるぞ」


「大丈夫よ! ベッド大きいから!」


 レイは助けを求めるようにグリムを見る。


「父さん……」


「すまん」


 グリムは申し訳なさそうに首を振った。


「俺には何もしてあげられない」


「父さん……」


「頑張れ、レイ」


「……一緒に寝るよ」


「やったー!」


 ミレーヌがレイの頭を撫でる。


「よしよし」


「おう」


「はい! なら皆、さっさとお風呂入って〜!」


「一緒に入る?」


「流石に俺はやめとく」


「えぇ〜」


「私が一緒に入るよ!」


「大好き〜!」


「フィーアも一緒に入ろ!」


「もちろんです」


「流石にこんな人数を風呂に入れられるわけないって」


 グリムが苦笑する。


「仲良すぎだよな」


「そうだね」


 レイも苦笑した。


「そういえば、師匠は?」


「客室で寝ている」


「おう……」


 レイは呆れた。


「流石師匠」


「何となく想像できるな」


 その後、レイたちはそれぞれ風呂へ入り、夜も更けていった。


 ――そして翌朝。


「……密集しすぎだ」


 目を覚ましたレイは、ベッドの中を見回して呟いた。


「流石に暑かったね」


 メルナも少し疲れたように言う。


 レイはベッドから抜け出した。


「それじゃ、ちょっと出かけてくる」


「え?」


 メルナが振り返る。


「朝からどこに行くの?」


「迷いの森に」


「迷いの森?」


「まあ、ちょっとな」


 レイはアカマルを抱き上げる。


「行ってくる」


「うい」


 こうしてレイは、アカマルを連れて屋敷を出た。


 しばらく歩いた先。


 木々が密集し、深い霧に包まれた森が姿を現す。


「ここか……迷いの森」


 レイは森を見上げる。


「まじで迷いそうだな」


 アカマルはレイの頭の上で丸くなっている。


「よし、行くぞ」


 森へ入った瞬間、視界が白く染まった。


「霧が深いな」


 レイは周囲を見回す。


「アカマル、手伝ってくれないか?」


「クゥゥン……」


「……朝弱いんだな、お前」


「クゥン」


「ならしょうがないか」


 レイは苦笑する。


「魔力もそれなりに戻ったし……探知魔法を使うか」


 レイが魔力を広げる。


 周囲の地形や魔物の気配が頭の中へ入ってくる。


「よし」


 レイは歩き始めた。


 ――一時間後。


「……」


 レイは立ち止まった。


「……うん」


 辺りを見回す。


「迷子だな、俺」


「クゥン……」


 アカマルも困ったように鳴いた。


「探知魔法使ったのに何でだよ……」


 その時だった。


 アカマルが突然顔を上げる。


 そして右前足を、森の奥へ向けた。


「……あっちなのか?」


「ガゥ」


「分かった」


 レイはアカマルの示した方向へ進む。


 しばらくすると――。


 霧の向こうに何かが見えた。


「……村?」


 木々の間から現れたのは、崩れかけた建物の数々だった。


「……」


 レイはゆっくりと歩いていく。


「分かっていたが……ボロボロになってるな」


 人の気配はない。


 風が廃墟の間を吹き抜けるだけだった。


「ここが……ミリアの故郷か」


 レイは静かに村を見回す。


「……」


 しばらく考えた後、ぽつりと呟く。


「この村、復興させようか」


 壊れた家々。


 崩れた道。


 荒れ果てた広場。


 確かに酷い状態ではある。


 だが――。


「まだ作り直せるな」


 その時だった。


 レイの表情が変わる。


「……」


 魔物の気配。


 それも、一つではない。


「誰だ」


 霧の向こうから姿を現したのは――。


 エルフ。


 だが、普通のエルフではない。


 その姿はどこか透けており、生者のものとは思えなかった。


「……そういうことか」


 レイは理解した。


 ここに残っているのは――亡くなったエルフたちの怨念だった。


「……ごめんな」


 レイは静かに刀を抜く。


「俺にできることは、怨念から解放してあげることしかできない」


 刀を構える。


「すまんな」


「焔纏い」


 刀身に静かな炎が灯る。


「静炎共演」


 炎は激しく燃え上がることなく、ただ静かに刀を包んだ。


 レイは一歩踏み込む。


 そして――。


 怨念を、苦しませることなく静かに斬っていった。


 一人。


 また一人。


 レイは迷いなく刀を振る。


 最後の一体を斬り終えると、怨念は淡い光となり、霧の中へ溶けていった。


「……これで最後か」


 レイは刀を収める。


「父さんに話さないとな」


「ガウ!」


「ん?」


 アカマルが何かを訴えるように鳴いている。


「どうした?」


 アカマルが崩れた家の下を指す。


「その下?」


「ガウ! ガウ!」


「待てって」


 アカマルは瓦礫の隙間へ潜り込んだ。


 そしてしばらくすると――。


「……何か咥えてる?」


 アカマルが戻ってくる。


「ペンダント?」


 レイはペンダントを受け取る。


 ゆっくりと開く。


 中には、小さな写真が入っていた。


 そこに写っていたのは――。


 幼いミリア。


 そして、その隣にいる二人のエルフ。


「……」


 レイは写真を見つめる。


「ミリアの両親か」


「ウグ……」


「ウグ?」


「ガゥ」


「おう」


 アカマルが何かを伝えようとしている。


「……つまり、ミリアの匂いが残ってたから、ここに潜り込んだのか?」


「キャン!」


「大正解」


 レイはアカマルの頭を撫でる。


「一旦帰るか」


 レイが立ち上がる。


「アカマル、先導頼んだ」


「ガゥ!」


 アカマルは迷いなく森の中へ進んでいく。


 その後をレイが追った。


 行きとは違い、今度は迷うことなく森を抜けていく。


「アカマルいないと、本当に迷うな」


 森を出たレイは苦笑する。


「ありがとな、アカマル」


「クゥン?」


 するとアカマルは突然、大きくなった。


「お?」


 そして背中をレイへ向ける。


「……乗れって?」


「ガウ!」


「うい」


 レイはアカマルの背中に跨った。


「じゃあ頼む」


「ガウ!」


 次の瞬間――。


「速っ!?」


 アカマルが猛烈な勢いで走り出した。


「待てアカマル! 速すぎ――!」


 景色が次々と後ろへ流れていく。


「お前、行きより速くなってないか!?」


「ガウ!」


「ちょ、振り落とされ――!」


 アカマルは止まらない。


 そして――。


 屋敷へ到着した頃には、すでに昼になっていた。


「し……死ぬ……」


 レイはふらふらとアカマルから降りた。


「お兄ちゃん、行ってきたの?」


 メルナが屋敷から出てくる。


「おう……」


「どうだった?」


「正直……ほぼ崩壊してた」


「そうなんだ……」


 レイはペンダントを取り出した。


「これ、メルナに渡しとく」


「ペンダント?」


 メルナが受け取る。


「これ……ミリアちゃんの?」


「そう」


「何で私に?」


「俺よりメルナの方がミリアと仲良いだろ」


「ん……確かに」


「だから渡しとく」


「分かった」


 メルナはペンダントを大切そうに握った。


「でも、ミリアちゃんに渡した方がいいよね」


「だろうな」


「じゃあ、私から渡すね」


「頼んだ」


 その頃、アカマルは庭で水浴びをしていた。


 レイは濡れたアカマルをタオルで拭く。


「ほら、じっとしてろ」


「ガウ〜」


「全身びしょびしょじゃねぇか」


 レイはアカマルを抱えて屋敷へ戻る。


「レイ!」


 ミレーヌが驚いたように声を上げる。


「どこに行ってたの?」


「冒険」


「むっ!」


 ミレーヌが頬を膨らませる。


「朝ごはんも食べないで、ほっつき歩いて!」


「ご、ごめん」


「お腹空いたでしょ?」


「おう」


「アカマルちゃんも食べる?」


「ガウ!」


「よしよし。準備するわね」


 レイが小声で呟く。


「母さん怒らせたら怖いしな」


「それは間違いないな」


 グリムが頷く。


「酒呑童子より怖い」


「……」


 ミレーヌが振り返る。


「何か言った、レイ?」


「と、父さんが何か言ってた」


「れ、レイ!?」


 グリムが慌てる。


「何を言って!」


「どうしたの、あなた?」


「お、俺は何も……」


「よく分からないけど」


 ミレーヌは笑顔になる。


「後でお説教ね」


「どうしてくれるんだ、レイ……」


「子供の罪を親が肩代わりしてくれるなんて、尊敬するよ」


「レイ、お前……そういうところ頭いいよな」


「そんなに褒められると困る」


「褒めてない」


 その後、グリムはミレーヌに連行されていった。


 その後ろ姿を見ながら、レイが呟く。


「父さんの後ろ姿、カッコいいな」


「変なところ見てるじゃん、お兄ちゃん」


「俺の代わりに、全てを受け止めてくれたからな」


「何を言ってんの」


「……父さん、頑張れ」


 そこへ。


「レイ〜!」


「ん?」


 ミリアが駆け寄ってきた。


「どうした?」


「これ!」


 ミリアが両手で丸い石を見せる。


「綺麗だな」


「えへへ〜! でしょ!」


「流石ミリア」


「ミリア様が庭で見つけた綺麗な石です」


 フィーアが微笑む。


「なるほど」


 メルナもミリアに抱きつく。


「ほんと愛おしい!」


「えへへ〜」


 ミリアも嬉しそうに笑う。


 そんな二人を見ながら、レイはフィーアへ尋ねた。


「フィーア、師匠はどこにいる?」


「まだ寝ています」


「だらしない人だ」


「ですね」


 フィーアは苦笑する。


「先程起こしたのですが……ベッドが心地良すぎると言っていました」


「それで?」


「自ら布団に包まり、出られないようにしていました」


「流石剣豪」


 メルナが振り返る。


「剣豪のどこを褒めてるの?」


「睡眠への執着」


「そこなの?」


「レイ様も似ていますよね」


「いやいや、俺は朝はきっちり起きて……」


 レイは少し考える。


「……る……はず……」


「お兄ちゃんもだらしないよ」


「うっ!」


「まさか、師匠から教わった技って――」


 レイは真剣な顔で呟く。


「どれだけぐっすり眠れるかだったのか……」


「そんな技、教えてもらわなくても頑張れば一人でできるでしょ」


「冷たいな」


「でしょ?」


「認めるのかよ」


 レイはため息を吐いた。


「何しよう」


「お兄ちゃん暇なの?」


「そこそこ暇」


「なら戦お」


「却下」


「それを却下」


「そのそれを却下」


「そのそれを却下!」


 二人の言い合いが続く。


「何でそんなに戦いたくないの?」


「逆に聞くが、何でそんなに好戦的なんだ?」


「そう言われると……」


 メルナは少し考える。


「答えはないけどさ」


「俺は平和主義者だからな」


「どこが?」


「意味のない戦いはしない人なんだよ」


「お兄ちゃんは戦闘狂でしょ」


「流石にそこまでではない」


「じゃあ、どのくらい?」


「スズメの涙くらい」


「それ、また馬鹿にしてるでしょ」


「まあな」


「認めた!」


 メルナは笑った。


 少しして、メルナが真面目な顔になる。


「でもさ」


「ん?」


「お兄ちゃんが戦う理由って、身を守るためだけなの?」


「まあ……」


「私や家族、カナちゃんたちは守らないの?」


「……さぁな」


 レイは明後日の方向を見る。


 メルナはそんな兄を見つめ、少しだけ笑った。


「お兄ちゃんにも守りたいものがあるって知れて、安心したよ」


「そうか」


「素っ気ないなぁ」


「大分素直だぞ」


「嘘つくの禁止」


「うい」


「じゃあ、いくつか質問するから!」


「嫌な予感しかしない」


「嘘つかないで答えてね!」


「答えにくい問題は出すなよ」


「知らな〜い」


「はぁ……」


「一つ目!」


 メルナが指を一本立てる。


「学園生活、楽しい?」


「楽しい」


 レイは少し考える。


「……けど、波瀾万丈だぞ」


「私も通うつもり」


「いいと思う」


「二つ目!」


 メルナが指を二本立てる。


「家族は好き?」


「大好きだ」


「即答だ!」


「当たり前だろ」


「理由は?」


「親は俺の命を助けてくれたし、育ててもくれた」


 レイは屋敷を見回す。


「何より、ここにいると落ち着く」


「……」


「安心するんだよ」


 メルナが少し嬉しそうに笑う。


「お兄ちゃんにも心あったんだね」


「俺を何だと思ってる」


「脳筋」


「メルナも大概だぞ」


「極刑!」


「すまん、すまん」


「じゃあ三つ目!」


 メルナはニヤニヤしながら指を三本立てる。


「お兄ちゃんは、私のことが大大大好き!」


「家族としてだ」


「……」


「さっきも言っただろ。家族が好きって」


「まあね」


 メルナは頷く。


「念のため確認しただけ!」


「そうかよ」


「じゃあ――最後の質問」


「おう」


「最後の質問だから、絶対答えてね」


「お、おう?」


 メルナが少しだけ身を乗り出す。


「お兄ちゃんは――」


 一瞬の間。


「カナちゃんのことが好き?」


「……」


 レイの動きが止まった。


「逃げるの禁止」


「……何でそんなこと聞くんだ」


「だって」


 メルナは笑う。


「お兄ちゃん、カナちゃんと話してる時、楽しそうだったから」


「別に……」


「少しはさ」


 メルナがレイを見る。


「素直になればいいじゃん」


「無理かもな」


「それって……認めてる?」


「さぁ?」


「むっ!」


 メルナが頬を膨らませる。


「そんな顔しても、何も変わらねぇよ」


「お兄ちゃんのバ〜カ」


「はいはい」


「フィーア、どう思う?」


 突然話を振られたフィーアは少し困ったように笑った。


「レイ様の心は、私には読めません」


「そうなんだよなぁ〜」


「ですね」


 レイが二人を見る。


「おい、何話してるんだ?」


「別に〜」


「フィーア?」


「さぁ?」


 二人は顔を見合わせる。


 そして、メルナが悪戯っぽい笑顔を浮かべた。


「フィーアも素直じゃないんだねぇ〜」


「そうですよ」


「お前ら……」


 レイは呆れたようにため息をついた。


「弄るなよ」


「弄ってませ〜ん」


「弄ってませんよ」


「……はぁ」


 そんな三人のやり取りを、屋敷の中から見ている者がいた。


 ミレーヌだった。


「……ふふ」


 そして、その隣には先ほどの家族写真が置かれている。


 そこに写る、幼い少女 アイナ


 彼女が再びこの家に帰ってくる日はまだ誰にも分からない。

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