51話 姉
夕食を終えたレイたちは、食後の時間をそれぞれゆっくりと過ごしていた。
「美味しかった」
レイが満足そうに息を吐く。
「うまい!」
メルナも満面の笑みで頷いた。
「お粗末さまでした」
ミレーヌは嬉しそうに二人を見つめる。
「そういえば、レイたちはいつまでここにいるの?」
「夏休みは長いからな。まだまだここにいるつもりだよ」
「よし!」
ミレーヌが嬉しそうに両手を握る。
「いっぱい甘えられるわね!」
「……程々に頼む」
「一緒に寝るだけよ?」
「それが十分すごいんだよ」
「私はいいよ!」
メルナが即答する。
「大好き〜! メルナ!」
ミレーヌが嬉しそうにメルナへ抱きつく。
「私も母さん好き!」
その様子を見ながら、レイはふと部屋の隅へ目を向けた。
棚の上に、一枚の家族写真が飾られている。
そこには、幼い頃のレイと生まれたばかりでミレーヌに抱かれてるメルナ。
そして、ミレーヌとグリム。
四人……ではなかった。
レイは写真をじっと見つめる。
「……母さん」
「どうしたの、レイ?」
「ずっと思ってたんだけどさ」
レイは写真を指差した。
「この女の子、誰なんだ?」
「……」
「母さんと父さんの間にいる子」
ミレーヌの表情が少しだけ変わった。
「レイは覚えてない?」
「ごめん。記憶にない」
「無理もないわよ」
ミレーヌは写真を見つめる。
「まだ二歳の頃だったもの。覚えてなくても仕方ないわ」
「私も知らないよ、この子」
メルナも写真を覗き込む。
「メルナは生まれたばかりだったからね」
ミレーヌは静かに微笑んだ。
「じゃあ……話しましょうか」
「何を?」
「この子が誰なのか」
ミレーヌはグリムを見る。
「ねぇ、あなた」
「ああ」
グリムも頷いた。
その時、フィーアが人数分のコーヒーを持ってきた。
「皆様、コーヒーです」
「ありがと、フィーア!」
「いえいえ」
フィーアはカップを置いていく。
「フィーアも来て」
「私もですか?」
「もちろん」
「分かりました」
フィーアもソファーへ腰を下ろす。
ミレーヌは写真を手に取った。
「じゃあ、この子について話すわね」
一度だけ写真を見つめる。
「この子は、ヴァルト家の長女」
「……」
「つまり――」
ミレーヌはレイとメルナを見る。
「あなたたちのお姉ちゃんよ」
「……え?」
レイが固まった。
「姉がいたのか?」
「まじ!?」
メルナも驚いて目を丸くする。
「そうよ」
ミレーヌは優しく写真を撫でた。
「彼女の名前は、アイナ」
「アイナ……」
「アイナ・ヴァルト」
その名前を聞いた瞬間、レイは写真を見つめ直した。
「レイは小さい頃、よくアイナと一緒に遊んでたのよ」
「……全く覚えてない」
「でしょうね」
ミレーヌは苦笑する。
「でも、アイナはレイのことをとても可愛がっていたわ」
「そうなのか……」
「ええ」
ミレーヌの声が少し寂しくなる。
「だけど――」
部屋の空気が静かになる。
「アイナは、レイが二歳になった頃に家を出たの。メルナは生まれたばかりだったかしら」
「家出?」
メルナが聞き返す。
「そう」
「理由は?」
「……分からないの」
ミレーヌは首を横に振った。
「突然いなくなって、それから一度も家に帰ってきてないわ」
グリムが口を開く。
「俺たちは、そこら中を探した」
「……」
「街も、森も、遠くの国までな」
拳を握る。
「だが、どこにもいなかった」
レイは写真を見る。
「一度も帰ってきてないのか……」
「うん」
メルナも少し俯いた。
「じゃあ……生きてるかどうかも分からないってこと?」
「……」
ミレーヌは静かに首を横に振った。
「いいえ」
その声には確信があった。
「アイナは生きてるわ」
「なぜそう思うんだ?」
レイが尋ねる。
するとグリムが答えた。
「一週間前、俺たちの家に一通の手紙が届いた」
「手紙?」
「ああ」
「差出人は――」
グリムが言葉を止める。
「アイナだった」
「……!」
メルナが目を見開いた。
「手紙が来たんだね!」
「ええ」
ミレーヌは立ち上がる。
棚から一通の綺麗な手紙を取り出した。
「これが、その手紙よ」
ミレーヌはゆっくりと封筒を開く。
そして、家族の前で読み始めた。
「ママ、パパ」
一度、言葉を止める。
「……いや、呼び方変えようかな。母さん、父さん。お元気ですか?」
少し照れたような文章。
「アイナはめっちゃ元気です!」
メルナが少しだけ笑った。
ミレーヌも笑う。
だが、その後の文章を読み進めるにつれ、その表情は少しずつ変わっていった。
突然家を飛び出したことへの謝罪。
そうするしかなかったという言葉。
寂しかったこと。
家族に会いたかったこと。
そして――。
「そろそろ帰れると思います」
ミレーヌの声が震えた。
「帰ったら……家族として、もう一度接してくれるかな?」
その一文を読み終える。
「難しいよね」
最後に。
「アイナより」
静寂が訪れた。
ミレーヌの頬を、一粒の涙が落ちる。
ぽとり。
「……」
ミレーヌは手紙を胸元へ抱きしめた。
「これを見て……本当に安心したの」
声が震える。
「生きてて良かったって……」
レイは静かに微笑んだ。
「……本当に良かったな」
「うん」
メルナも頷く。
「本当に良かったよ」
ミレーヌは涙を拭った。
「私は……ダメな親だと思う」
「違う」
レイは即座に言った。
「その逆だ」
ミレーヌを見る。
「最高な親だよ」
「レイ……」
「俺たちにこんなに愛情を注いでくれてる」
メルナも頷く。
「そうだよ! めっちゃ愛情注いでくれるし!」
「そうですよ、奥様」
フィーアも優しく微笑む。
「奥様は本当に素晴らしい方です」
「フィーア……」
グリムも頷く。
「まあ、子供に対して少し甘えすぎなところはあるが」
「あなた?」
「……」
「それ以外は最高だ」
「……」
ミレーヌがグリムの足を踏んだ。
「んっ」
「す、すまん!」
レイが呆れたように二人を見る。
「夫婦喧嘩か」
「レイ」
「……はい」
「今夜、一緒に寝るわよ」
「まじ?」
「もちろん!」
ミレーヌは笑顔になる。
「メルナもね!」
「私は母さんと寝るつもり満々!」
「やったー!」
ミレーヌが嬉しそうに喜ぶ。
「み、ミリアは?」
「もちろん一緒よ!」
「アカマルは?」
「さっき寝かせてきたわ。ミリアと一緒に寝てるわよ」
「……流石にベッド潰れるぞ」
「大丈夫よ! ベッド大きいから!」
レイは助けを求めるようにグリムを見る。
「父さん……」
「すまん」
グリムは申し訳なさそうに首を振った。
「俺には何もしてあげられない」
「父さん……」
「頑張れ、レイ」
「……一緒に寝るよ」
「やったー!」
ミレーヌがレイの頭を撫でる。
「よしよし」
「おう」
「はい! なら皆、さっさとお風呂入って〜!」
「一緒に入る?」
「流石に俺はやめとく」
「えぇ〜」
「私が一緒に入るよ!」
「大好き〜!」
「フィーアも一緒に入ろ!」
「もちろんです」
「流石にこんな人数を風呂に入れられるわけないって」
グリムが苦笑する。
「仲良すぎだよな」
「そうだね」
レイも苦笑した。
「そういえば、師匠は?」
「客室で寝ている」
「おう……」
レイは呆れた。
「流石師匠」
「何となく想像できるな」
その後、レイたちはそれぞれ風呂へ入り、夜も更けていった。
――そして翌朝。
「……密集しすぎだ」
目を覚ましたレイは、ベッドの中を見回して呟いた。
「流石に暑かったね」
メルナも少し疲れたように言う。
レイはベッドから抜け出した。
「それじゃ、ちょっと出かけてくる」
「え?」
メルナが振り返る。
「朝からどこに行くの?」
「迷いの森に」
「迷いの森?」
「まあ、ちょっとな」
レイはアカマルを抱き上げる。
「行ってくる」
「うい」
こうしてレイは、アカマルを連れて屋敷を出た。
しばらく歩いた先。
木々が密集し、深い霧に包まれた森が姿を現す。
「ここか……迷いの森」
レイは森を見上げる。
「まじで迷いそうだな」
アカマルはレイの頭の上で丸くなっている。
「よし、行くぞ」
森へ入った瞬間、視界が白く染まった。
「霧が深いな」
レイは周囲を見回す。
「アカマル、手伝ってくれないか?」
「クゥゥン……」
「……朝弱いんだな、お前」
「クゥン」
「ならしょうがないか」
レイは苦笑する。
「魔力もそれなりに戻ったし……探知魔法を使うか」
レイが魔力を広げる。
周囲の地形や魔物の気配が頭の中へ入ってくる。
「よし」
レイは歩き始めた。
――一時間後。
「……」
レイは立ち止まった。
「……うん」
辺りを見回す。
「迷子だな、俺」
「クゥン……」
アカマルも困ったように鳴いた。
「探知魔法使ったのに何でだよ……」
その時だった。
アカマルが突然顔を上げる。
そして右前足を、森の奥へ向けた。
「……あっちなのか?」
「ガゥ」
「分かった」
レイはアカマルの示した方向へ進む。
しばらくすると――。
霧の向こうに何かが見えた。
「……村?」
木々の間から現れたのは、崩れかけた建物の数々だった。
「……」
レイはゆっくりと歩いていく。
「分かっていたが……ボロボロになってるな」
人の気配はない。
風が廃墟の間を吹き抜けるだけだった。
「ここが……ミリアの故郷か」
レイは静かに村を見回す。
「……」
しばらく考えた後、ぽつりと呟く。
「この村、復興させようか」
壊れた家々。
崩れた道。
荒れ果てた広場。
確かに酷い状態ではある。
だが――。
「まだ作り直せるな」
その時だった。
レイの表情が変わる。
「……」
魔物の気配。
それも、一つではない。
「誰だ」
霧の向こうから姿を現したのは――。
エルフ。
だが、普通のエルフではない。
その姿はどこか透けており、生者のものとは思えなかった。
「……そういうことか」
レイは理解した。
ここに残っているのは――亡くなったエルフたちの怨念だった。
「……ごめんな」
レイは静かに刀を抜く。
「俺にできることは、怨念から解放してあげることしかできない」
刀を構える。
「すまんな」
「焔纏い」
刀身に静かな炎が灯る。
「静炎共演」
炎は激しく燃え上がることなく、ただ静かに刀を包んだ。
レイは一歩踏み込む。
そして――。
怨念を、苦しませることなく静かに斬っていった。
一人。
また一人。
レイは迷いなく刀を振る。
最後の一体を斬り終えると、怨念は淡い光となり、霧の中へ溶けていった。
「……これで最後か」
レイは刀を収める。
「父さんに話さないとな」
「ガウ!」
「ん?」
アカマルが何かを訴えるように鳴いている。
「どうした?」
アカマルが崩れた家の下を指す。
「その下?」
「ガウ! ガウ!」
「待てって」
アカマルは瓦礫の隙間へ潜り込んだ。
そしてしばらくすると――。
「……何か咥えてる?」
アカマルが戻ってくる。
「ペンダント?」
レイはペンダントを受け取る。
ゆっくりと開く。
中には、小さな写真が入っていた。
そこに写っていたのは――。
幼いミリア。
そして、その隣にいる二人のエルフ。
「……」
レイは写真を見つめる。
「ミリアの両親か」
「ウグ……」
「ウグ?」
「ガゥ」
「おう」
アカマルが何かを伝えようとしている。
「……つまり、ミリアの匂いが残ってたから、ここに潜り込んだのか?」
「キャン!」
「大正解」
レイはアカマルの頭を撫でる。
「一旦帰るか」
レイが立ち上がる。
「アカマル、先導頼んだ」
「ガゥ!」
アカマルは迷いなく森の中へ進んでいく。
その後をレイが追った。
行きとは違い、今度は迷うことなく森を抜けていく。
「アカマルいないと、本当に迷うな」
森を出たレイは苦笑する。
「ありがとな、アカマル」
「クゥン?」
するとアカマルは突然、大きくなった。
「お?」
そして背中をレイへ向ける。
「……乗れって?」
「ガウ!」
「うい」
レイはアカマルの背中に跨った。
「じゃあ頼む」
「ガウ!」
次の瞬間――。
「速っ!?」
アカマルが猛烈な勢いで走り出した。
「待てアカマル! 速すぎ――!」
景色が次々と後ろへ流れていく。
「お前、行きより速くなってないか!?」
「ガウ!」
「ちょ、振り落とされ――!」
アカマルは止まらない。
そして――。
屋敷へ到着した頃には、すでに昼になっていた。
「し……死ぬ……」
レイはふらふらとアカマルから降りた。
「お兄ちゃん、行ってきたの?」
メルナが屋敷から出てくる。
「おう……」
「どうだった?」
「正直……ほぼ崩壊してた」
「そうなんだ……」
レイはペンダントを取り出した。
「これ、メルナに渡しとく」
「ペンダント?」
メルナが受け取る。
「これ……ミリアちゃんの?」
「そう」
「何で私に?」
「俺よりメルナの方がミリアと仲良いだろ」
「ん……確かに」
「だから渡しとく」
「分かった」
メルナはペンダントを大切そうに握った。
「でも、ミリアちゃんに渡した方がいいよね」
「だろうな」
「じゃあ、私から渡すね」
「頼んだ」
その頃、アカマルは庭で水浴びをしていた。
レイは濡れたアカマルをタオルで拭く。
「ほら、じっとしてろ」
「ガウ〜」
「全身びしょびしょじゃねぇか」
レイはアカマルを抱えて屋敷へ戻る。
「レイ!」
ミレーヌが驚いたように声を上げる。
「どこに行ってたの?」
「冒険」
「むっ!」
ミレーヌが頬を膨らませる。
「朝ごはんも食べないで、ほっつき歩いて!」
「ご、ごめん」
「お腹空いたでしょ?」
「おう」
「アカマルちゃんも食べる?」
「ガウ!」
「よしよし。準備するわね」
レイが小声で呟く。
「母さん怒らせたら怖いしな」
「それは間違いないな」
グリムが頷く。
「酒呑童子より怖い」
「……」
ミレーヌが振り返る。
「何か言った、レイ?」
「と、父さんが何か言ってた」
「れ、レイ!?」
グリムが慌てる。
「何を言って!」
「どうしたの、あなた?」
「お、俺は何も……」
「よく分からないけど」
ミレーヌは笑顔になる。
「後でお説教ね」
「どうしてくれるんだ、レイ……」
「子供の罪を親が肩代わりしてくれるなんて、尊敬するよ」
「レイ、お前……そういうところ頭いいよな」
「そんなに褒められると困る」
「褒めてない」
その後、グリムはミレーヌに連行されていった。
その後ろ姿を見ながら、レイが呟く。
「父さんの後ろ姿、カッコいいな」
「変なところ見てるじゃん、お兄ちゃん」
「俺の代わりに、全てを受け止めてくれたからな」
「何を言ってんの」
「……父さん、頑張れ」
そこへ。
「レイ〜!」
「ん?」
ミリアが駆け寄ってきた。
「どうした?」
「これ!」
ミリアが両手で丸い石を見せる。
「綺麗だな」
「えへへ〜! でしょ!」
「流石ミリア」
「ミリア様が庭で見つけた綺麗な石です」
フィーアが微笑む。
「なるほど」
メルナもミリアに抱きつく。
「ほんと愛おしい!」
「えへへ〜」
ミリアも嬉しそうに笑う。
そんな二人を見ながら、レイはフィーアへ尋ねた。
「フィーア、師匠はどこにいる?」
「まだ寝ています」
「だらしない人だ」
「ですね」
フィーアは苦笑する。
「先程起こしたのですが……ベッドが心地良すぎると言っていました」
「それで?」
「自ら布団に包まり、出られないようにしていました」
「流石剣豪」
メルナが振り返る。
「剣豪のどこを褒めてるの?」
「睡眠への執着」
「そこなの?」
「レイ様も似ていますよね」
「いやいや、俺は朝はきっちり起きて……」
レイは少し考える。
「……る……はず……」
「お兄ちゃんもだらしないよ」
「うっ!」
「まさか、師匠から教わった技って――」
レイは真剣な顔で呟く。
「どれだけぐっすり眠れるかだったのか……」
「そんな技、教えてもらわなくても頑張れば一人でできるでしょ」
「冷たいな」
「でしょ?」
「認めるのかよ」
レイはため息を吐いた。
「何しよう」
「お兄ちゃん暇なの?」
「そこそこ暇」
「なら戦お」
「却下」
「それを却下」
「そのそれを却下」
「そのそれを却下!」
二人の言い合いが続く。
「何でそんなに戦いたくないの?」
「逆に聞くが、何でそんなに好戦的なんだ?」
「そう言われると……」
メルナは少し考える。
「答えはないけどさ」
「俺は平和主義者だからな」
「どこが?」
「意味のない戦いはしない人なんだよ」
「お兄ちゃんは戦闘狂でしょ」
「流石にそこまでではない」
「じゃあ、どのくらい?」
「スズメの涙くらい」
「それ、また馬鹿にしてるでしょ」
「まあな」
「認めた!」
メルナは笑った。
少しして、メルナが真面目な顔になる。
「でもさ」
「ん?」
「お兄ちゃんが戦う理由って、身を守るためだけなの?」
「まあ……」
「私や家族、カナちゃんたちは守らないの?」
「……さぁな」
レイは明後日の方向を見る。
メルナはそんな兄を見つめ、少しだけ笑った。
「お兄ちゃんにも守りたいものがあるって知れて、安心したよ」
「そうか」
「素っ気ないなぁ」
「大分素直だぞ」
「嘘つくの禁止」
「うい」
「じゃあ、いくつか質問するから!」
「嫌な予感しかしない」
「嘘つかないで答えてね!」
「答えにくい問題は出すなよ」
「知らな〜い」
「はぁ……」
「一つ目!」
メルナが指を一本立てる。
「学園生活、楽しい?」
「楽しい」
レイは少し考える。
「……けど、波瀾万丈だぞ」
「私も通うつもり」
「いいと思う」
「二つ目!」
メルナが指を二本立てる。
「家族は好き?」
「大好きだ」
「即答だ!」
「当たり前だろ」
「理由は?」
「親は俺の命を助けてくれたし、育ててもくれた」
レイは屋敷を見回す。
「何より、ここにいると落ち着く」
「……」
「安心するんだよ」
メルナが少し嬉しそうに笑う。
「お兄ちゃんにも心あったんだね」
「俺を何だと思ってる」
「脳筋」
「メルナも大概だぞ」
「極刑!」
「すまん、すまん」
「じゃあ三つ目!」
メルナはニヤニヤしながら指を三本立てる。
「お兄ちゃんは、私のことが大大大好き!」
「家族としてだ」
「……」
「さっきも言っただろ。家族が好きって」
「まあね」
メルナは頷く。
「念のため確認しただけ!」
「そうかよ」
「じゃあ――最後の質問」
「おう」
「最後の質問だから、絶対答えてね」
「お、おう?」
メルナが少しだけ身を乗り出す。
「お兄ちゃんは――」
一瞬の間。
「カナちゃんのことが好き?」
「……」
レイの動きが止まった。
「逃げるの禁止」
「……何でそんなこと聞くんだ」
「だって」
メルナは笑う。
「お兄ちゃん、カナちゃんと話してる時、楽しそうだったから」
「別に……」
「少しはさ」
メルナがレイを見る。
「素直になればいいじゃん」
「無理かもな」
「それって……認めてる?」
「さぁ?」
「むっ!」
メルナが頬を膨らませる。
「そんな顔しても、何も変わらねぇよ」
「お兄ちゃんのバ〜カ」
「はいはい」
「フィーア、どう思う?」
突然話を振られたフィーアは少し困ったように笑った。
「レイ様の心は、私には読めません」
「そうなんだよなぁ〜」
「ですね」
レイが二人を見る。
「おい、何話してるんだ?」
「別に〜」
「フィーア?」
「さぁ?」
二人は顔を見合わせる。
そして、メルナが悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「フィーアも素直じゃないんだねぇ〜」
「そうですよ」
「お前ら……」
レイは呆れたようにため息をついた。
「弄るなよ」
「弄ってませ〜ん」
「弄ってませんよ」
「……はぁ」
そんな三人のやり取りを、屋敷の中から見ている者がいた。
ミレーヌだった。
「……ふふ」
そして、その隣には先ほどの家族写真が置かれている。
そこに写る、幼い少女 アイナ
彼女が再びこの家に帰ってくる日はまだ誰にも分からない。




