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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第二章 夏休み編
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49話 メルナの新たな力

屋敷に帰ってきたレイたちは、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。


久しぶりの我が家。


ラミール王国での騒動があまりにも大きかったせいか、屋敷の静けさが妙に心地よく感じられる。


レイはリビングの椅子に座り、向かいにいるルーシーへ視線を向けた。


「そういえば師匠」


「ん?」


「師匠は最近、何してたんだ?」


ルーシーは少し考えるように顎へ手を当てる。


「私はある組織との戦争かなぁ」


「……戦争?」


「そう」


「何の組織?」


「白煙宮っていう名前でねぇ」


「白煙宮……?」


「忘却の楽園とも関係があった奴らなんだよ」


レイの表情が変わる


「忘却の楽園と?」


「ああ」


ルーシーは少し真剣な表情になる。


「白煙宮の首謀者は、元々は忘却の楽園の幹部だったらしいんだ。それが色々あって、白煙宮を作ったらしい」


「……なるほど」


レイは腕を組む。


「で、倒したのか?」


「それが、めっちゃ厄介でねぇ」


「そうなのか?」


「そうなの!」


ルーシーは珍しく面倒そうな顔をした。


「逃げ足が速いんだよ。手下は何人か捕まえたんだけど、首謀者や幹部は全然捕まらない」


「師匠でも厄介なのか……」


「特に首謀者は厄介だねぇ」


「能力は?」


「白煙」


「白煙?」


「そう。自分の身体を白い煙へ変える能力さ」


ルーシーは指先を軽く振る。


「物理攻撃も魔法も、その煙をすり抜ける。普通の攻撃じゃ、ほとんど意味がない」


「ま、まじか……」


「無敵に近いんだよなぁ」


「じゃあ、どうやって戦うんだ?」


「それが問題なんだよ」


ルーシーはため息をつく。


「完全に効かないってわけじゃない。一つだけ方法がある」


「何だ?」


「高密度な魔力で攻撃すること」


「高密度……」


「そう」


ルーシーは説明を続ける。


「ただ魔力を放つだけじゃ駄目なんだ。魔力を極限まで圧縮して、身体に纏わせる。あるいは、高密度に凝縮した技を直接ぶつける」


「そうすれば?」


「奴の煙化を貫通できる」


レイは納得したように頷いた。


「へぇ……」


「それこそ、クラウスだったり、酒呑童子だったら余裕だろうねぇ」


「爺ちゃんや酒呑童子なら……か」


レイは少し考える。


「師匠は?」


ルーシーは即答した。


「めんどい」


「……」


「……」


「理由が雑すぎる」


「いやぁ、勝てるかどうかじゃなくて、単純に面倒なんだよ」


「師匠らしいな……」


ルーシーは剣の腕も実力も本物。


ただし、本人はとにかく面倒くさがりだった。

その、面倒くさがりは弟子のレイにも受け継がれた


「アジトは分かるのか?」


「なんとなくはね」


「じゃあ、そこに突入すればいいんじゃ?」


「それが、また逃げられるだけなんだよ」


ルーシーは肩をすくめる。


「何度か追い詰めてるんだけどねぇ。あと一歩ってところで煙になって逃げるんだ」


「なるほど……」


「だから、今はまだ突入できない」


「まぁ、最悪全てを斬ればいいんだけど」


レイは少し考えてから尋ねた。


「白煙宮の目的は分かるか?」


「さぁ?」


ルーシーは首を横に振る。


「そこまでは分からないなぁ」


「そうか」


「ただ――」


ルーシーは少しだけ声を落とした。


「忘却の楽園の片割れみたいな奴が首謀者だからねぇ」


「……」


「奈落の悪魔の復活とか、そういう目的だったりするかもねぇ」


レイの表情が険しくなる。


「その場合は、すぐにでも対処しないとダメだな」


「そういうこと」


「……かもしれないな」


しばらく二人の間に沈黙が流れる。


忘却の楽園。


奈落の悪魔。


白煙宮。


それぞれ別の事件に見えて、どこかで繋がっているような気がしてならなかった。


するとレイが、ふと思い出したように口を開く。


「師匠」


「どうした、脳筋馬鹿野郎」


「ひどいあだ名だな……まぁいいか」


レイは苦笑する。


「メルナの共鳴に付き合ってあげてくれ」


「ほぉう」


ルーシーの目が少し輝いた。


「メルナが共鳴?」


「そうらしい」


「新たな式神かい?」


「疫病を司る式神だとよ」


「そりゃ面白いねぇ」


「なんか嬉しそうだな」


「まぁね」


ルーシーは立ち上がる。


「じゃあ、ちょっと見てこようかな」


「頼んだ」


ルーシーがリビングから出ていこうとする。


その背中へ、レイがもう一つ質問を投げかけた。


「そういえば師匠」


「ん?」


「メルナって、なんであんなに強いんだ?」


ルーシーは振り返る。


「レイも知ってたかぁ」


「まぁな」


「簡単に言ったら、才能だ」


「才能かぁ……」


レイが少し遠い目をする。


「才能だけじゃないよ」


ルーシーは続けた。


「努力もしてる。それに能力そのものが強い」


「……」


「メルナの一番の強みは、敵に応じて戦い方を変えられることだねぇ」


「戦い方を?」


「そう」


ルーシーは指を一本立てる。


「不死鳥を使うこともできる。疫病を使うこともできる。さらに他の式神もいる」


「確かに」


「しかも、一体一体の式神が最強クラスだ」


ルーシーは笑う。


「正直、相手からしたらたまったもんじゃない」


「そんなにか?」


「そんなにだよ」


「……」


「メルナはこれからもっと強くなる」


ルーシーはそう言い残して、庭へ向かった。


「じゃあ、修行手伝ってくるよ」


「頼んだ」


* * *


庭。


メルナはすでに準備を終えていた。


ルーシーが庭へ出てくると、メルナが振り返る。


「ルーシーさん!」


「よ~し、メルナ!」


ルーシーが刀を腰に差す。


「修行を始めようか」


「うん!」


「じゃあ早速見せてもらおうかぁ」


ルーシーが構える。


「新しい式神との共鳴をね」


メルナも頷いた。


「分かった!」


メルナの周囲に魔力が集まっていく。


「――共鳴」


一瞬、庭の空気が変わった。


「黒蝕姫」


メルナの背後に、ゆっくりと一人の女性が現れる。


透き通るように白い肌。


薄い紫色の長い髪。


そして、美しい顔立ち。


その女性はメルナの背後からゆっくりと近づき――その身体へ溶け込むように消えていった。


瞬間。


メルナの髪が薄い紫色へ変わる。


瞳も深い緑色へと変化する。


服装も、明るい紫色のロングコートへと変わった。


「……ふぅ」


メルナが静かに息を吐く。


ルーシーは感心したように目を細めた。


「すごい魔力だねぇ」


「行くよ!」


「もちろんだ」


ルーシーが刀を抜く。


そして――。


メルナが技を繰り出すより先に、一気に間合いへ入った。


「速い!」


ルーシーの刀が迫る。


しかし――。


「腐食!」


メルナが刀へ触れる。


瞬間。


刀の表面が変質していく。


ルーシーはすぐに距離を取った。


「え!?」


自分の刀を見て、思わず声を上げる。


「触れたものを腐敗させるなんて……えげつない能力だねぇ」


メルナは構えを崩さない。


「気を抜いたら負けるよ」


「なるほど」


メルナが手を前へ出す。


「――毒霧」


周囲に濃い霧が広がっていく。


ルーシーは後ろへ跳びながら、腐食した刀を振るった。


風圧が生まれ、毒霧が大きく散っていく。


「これなら――」


ルーシーが目を閉じた。


刀を鞘へ戻す。


そして、居合斬りの構えに入った。


「……」


メルナが一瞬、動きを止める。


だがすぐに踏み込んだ。


「腐食!」


ルーシーへ近づく。


その瞬間。


「――解撃」


ルーシーの刀が閃いた。


メルナは咄嗟に身を引き、攻撃をかわす。


しかし、勢いを殺しきれず後方へ吹き飛ばされた。


「わっ!」


地面を蹴って体勢を立て直す。


「その刀で戦えるの!?」


「一応、剣豪だからねぇ」


ルーシーは笑う。


「多少刀が傷んだくらいじゃ、私の腕までは腐らないさ」


「それ、ずるい!」


「修行だからねぇ」


二人は再び構える。


だが――。


メルナの呼吸が少しずつ荒くなっていく。


「……っ」


ルーシーが気づく。


「そろそろ限界かな?」


「まだ……」


「無理する必要はないよ」


「……うん」


メルナは共鳴を解除した。


髪も瞳も元へ戻る。


「ハァ……ハァ……」


肩で息をするメルナ。


「今はこのくらいが限界だぁ」


ルーシーは優しく笑った。


「よく頑張ったなぁ」


「本当?」


「ああ」


ルーシーは真剣な表情で頷く。


「すごいよ。その能力」


「うん!」


メルナが嬉しそうに笑う。


「少しずつ使えるようになってきた!」


「そうだねぇ」


ルーシーはメルナを見つめる。


そして、小さな声で呟いた。


「メルナなら……四災害と同等、それ以上に強くなれるなぁ」


「え?」


「なんでもないよ」


「?」


メルナは首を傾げた。


「じゃあ、戻ろうか」


「うん!」


二人は屋敷へ戻っていった。


* * *


リビングでは、レイとミレーヌ、グリム、ミリアが一緒にいた。


テーブルの上には、いくつかの団子が並んでいる。


「これ好き!」


ミリアが嬉しそうに団子を頬張る。


「これはねぇ、団子っていうんだよぉ」


ミレーヌが笑顔で教える。


「団子、美味い!」


「気に入ったなら、俺の分も食うか?」


グリムが自分の皿を差し出す。


「いいの?」


「もちろんだ」


ミリアは嬉しそうに団子を受け取った。


その様子を見て、レイは笑う。


「ミリアもすっかり家族だな」


「当たり前よ!」


ミレーヌが即答する。


「こんな可愛くて愛おしい子、家族に決まってるじゃない!」


「だな」


そこへ――。


「えっへん!」


メルナが胸を張って入ってきた。


レイが振り返る。


「……そんな偉そうにどうした?」


「疫病の力、使えるようになった!」


「お、おう」


「もっと褒めてよ!」


「すごーい」


「棒読みじゃん!」


「さぁ?」


「お兄ちゃん!」


メルナが頬を膨らませる。


するとレイがふと、メルナの肩へ視線を向けた。


「……ん?」


「どうしたの?」


「その肩に乗ってる小さい奴、なんだ?」


「え?」


メルナが肩を見る。


そこには――。


妖精ほどの大きさになった女性がちょこんと座っていた。


「何言ってるの?」


「いや、いるだろ」


「……あ」


メルナが思い出したように声を上げる。


「黒蝕姫だ!」


「おお、新しい式神が」


黒蝕姫が腕を組む。


「もっと敬え」


「めっちゃ小さくて、ゆるゆるじゃん」


「妾を誰と存じておるのか分かっておるのか?」


「そこら辺の石をどかしたら出てくる奴」


「妾は虫ではない!」


「まぁまぁ、そう怒るなって」


「お主……ぶっ殺すぞ」


「メルナ、そのミニマム女ヤベェぞ」


「お兄ちゃん、弄りすぎ」


「舐めるでない!」


そんなやり取りをしていると――。


ミリアが黒蝕姫へ近づいていく。


「……?」


ミリアは黒蝕姫を指でつんつんする。


「ん……」


もう一度。


つん。


「んっ」


さらに。


つんつんつん。


「ちょ、ちょっと待て!」


ミリアの指が黒蝕姫の頬へ伸びる。


ぷに。


そのまま頬をつままれる。


「やめんか!」


ミリアはじっと黒蝕姫を見つめる。


そして一言。


「綺麗」


黒蝕姫が固まった。


「……」


「……」


「ふ、ふん!」


黒蝕姫は顔を逸らす。


「褒められても触らせぬ!」


「流石ミリア」


レイが感心する。


ミレーヌも微笑んだ。


「美人ねぇ」


そして黒蝕姫へ優しく声をかける。


「いつもメルナのことを助けてくれてありがとね。これからも頼むね」


「もちろんじゃ」


黒蝕姫は堂々と答える。


メルナも笑う。


「本当に助かるよぉ、黒蝕姫」


「か、帰るのじゃ!」


「え?」


「褒めても何もないのじゃ!」


黒蝕姫は照れたように叫ぶと、メルナの精神世界へ戻っていった。


レイはその様子を見ながら呟く。


「……面白い奴だな」


「でしょ?」


メルナも楽しそうに笑った。


その時――。


「そういえばレイ」


ミレーヌが突然思い出したように言った。


「言い忘れたことがあったわ」


「何をだ?」


「お見合いが来てたわよ」


「……お見合い?」


レイが固まる。


「…………」


メルナも固まる。


そして――。


「お見合い!?」


「うわっ!」


メルナが大声を上げた。


「お、お、お、お兄ちゃんがお見合い!?」


「おい」


「あのだらしないお兄ちゃんが!?」


「おい、流石に言いすぎだぞ」


「あ、事実を述べたら罵倒してしまった」


「うん。素直に述べすぎ」


レイはため息を吐いた。


「母さん、その相手はどんな方なんだ?」


「大貴族なんだよ!」


「大貴族!?」


メルナがまた驚く。


「そんな偉い方がお兄ちゃんを……」


「俺より驚くなよ」


グリムが笑う。


「良かったな、レイ」


「待て待て。まだお見合いをするとは言ってない」


「しないのか?」


「するつもりはない」


「そうか」


グリムはあっさり頷いた。


「レイがそれなら、別にいいんだが」


するとミレーヌが突然、レイの顔をじっと見つめた。


「……もしかしてレイ」


「ん?」


「好きな人がいる!?」


「へ?」


レイの動きが止まる。


「何を言って――」


「その顔、私には分かるわ」


「お母さんセンサービンビンよ」


「いや、何のセンサーだよ」


ミレーヌがニヤニヤする。


その横で、メルナとフィーアがミレーヌへ何かを小声で話している。


「……」


「……」


ミレーヌの目が大きく見開かれた。


「え!?」


そしてレイを見る。


「レイのことを好きな人が!?」


「おいおい!」


レイが慌てる。


「何話してんだよ!」


「なるほどねぇ……」


ミレーヌは満面の笑みを浮かべる。


「今回のお見合いはお断りしましょう」


「その笑顔怖いんだけど」


ミレーヌは小さく呟いた。


「……鈍感すぎね、レイ」


「何か言った?」


「何でもないわ」


レイは気にせず尋ねる。


「その大貴族の名前は?」


グリムが答える。


「グランヴェール家だ」


「グランヴェール家……」


レイはその名前を聞き、少し考える。


「ついでに、お見合い相手の名前って知ってる?」


「セニアと言ってたな」


「……セニア?」


レイが目を見開く。


「セニア・グランヴェール……」


メルナが叫ぶ。


「もしかしてセニアちゃん!?」


「だな」


「えぇ!?」


フィーアも少し驚いた表情を見せる。


「しかし、なぜレイ様とお見合いを?」


「フィーアまで弄るのか、俺を」


「はい」


「素直だな」


ミレーヌが尋ねる。


「セニアって子とお友達なの?」


「おう」


「なるほどねぇ」


グリムが腕を組む。


「どうする?」


「何が?」


「さっきはしないと言ったが、今なら変えられるぞ」


「……話だけ聞くとか無理か?」


「どうだろうな」


レイは父親の様子を見る。


「父さん、何かあったのか?」


「何かあったというより――」


グリムの表情が少しだけ曇った。


「グランヴェール家には色々あったんだ」


「……終始の魔物のことだろ」


「そうだな」


部屋の空気が少し変わる。


グリムはゆっくり話し始めた。


「グランヴェール家の当主、ヴィルナス・グランヴェールはいい奴なんだ」


「へぇ」


「昔、会ったことがある」


「その時は?」


「明るくて、家族を大切にする男だった」


レイは黙って聞いている。


「……今は違うのか?」


「そうだな」


グリムは少し間を置く。


「妻を亡くしてから、色々と変わった」


「……」


「今のヴィルナスは、恐らく失った心を取り戻すために、何でも活用している」


「どういうことだ?」


レイが尋ねる。


だが、グリムは首を横に振った。


「それ以上は知らなくていい」


「お、おう……」


「俺らには、他の家庭事情に口出しする権利はない」


「……?」


レイはよく分からないという顔をする。


ミレーヌが空気を変えるように手を叩いた。


「まぁまぁ!」


「とりあえず、今回は断っておくわね」


「た、頼む」


「は~い」


ミレーヌは笑顔で答えた。


レイは一息ついた。


「そういえば、フィーアと師匠は?」


メルナが答える。


「庭じゃない?」


「そうか」


レイは庭の方へ視線を向ける。


庭では、ルーシーとフィーアが並んでいた。


そして、その少し離れた場所にはメルナの姿もある。

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