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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第二章 夏休み編
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48/72

48話 盗賊の頑張り

次の日の朝。


レイは荷物をまとめ、最後に部屋の中を見渡す。


ここに来てから、色々なことがあった。


二つのダンジョンからのスタンピード。


黒い騎士との戦い。


そして、メルナとの仲直り。


思い返せば、ほんの数週間とは思えないほど濃い時間だった。


そんなことを考えていると、部屋の外からフィーアの声が聞こえてきた。


「馬車の準備ができました」


「ありがと、フィーア」


レイが扉を開けると、そこにはいつも通り落ち着いた様子のフィーアが立っていた。


「レイ様は支度できましたか?」


「できてる」


「それでは、参りましょう」


その後ろから、メルナとミリア、そして小さくなったアカマルもやってくる。


「よし! 行こう~!」


「ごー!」


「ガウ~!」


三人とも朝から元気いっぱいだった。


レイは思わず呆れたように息を吐く。


「朝から元気な奴らだな……」


「いいことです」


フィーアは微笑む。


「そりゃ~ね! 魔力も大分戻ったし!」


「俺にも少し分けてくれ」


「え、やだ」


「え、無理」


「まだ魔力戻らないの?」


「おう。ほとんど空っぽ」


「じゃあ、がんば!」


「見捨てんな」


メルナはレイの抗議を完全に無視して、フィーアへ向き直った。


「よ~し、フィーア! レッツゴー!」


「はい」


「おい! 無視すんなー!」


そんなやり取りをしながら、四人と一匹は馬車へ乗り込んだ。


フィーアが御者席に座り、手綱を握る。


そして馬車はゆっくりとラミール王国を出発した。


――しばらくして。


街道を進む馬車の中。


フィーアが振り返る。


「皆様、大丈夫ですか?」


「俺は大丈夫だ」


「私も全然大丈夫!」


「ん」


ミリアも小さく頷いた。


レイは周囲を見渡す。


そして、メルナの膝の上を見る。


そこには、丸くなったアカマルが気持ちよさそうに眠っていた。


「……アカマル、寝すぎだろ」


「そこも可愛いんだよ!」


「まぁ、そうだな」


アカマルが小さく寝息を立てる。


その姿を見たレイは、少しだけ笑った。


「そういやメルナ。不死鳥を召喚して、その上に乗って帰ればもっと早かったんじゃね?」


「フェニちゃんをそんな雑に扱うわけないでしょ!」


「うい」


「それに、ゆっくり帰るのもいいじゃん」


「まぁ、それもそうか」


そんな穏やかな時間が流れていた――その時。


フィーアが前方を見ながら、何でもないことのように呟いた。


「盗賊が来ました」


「え?」


レイが前を見る。


街道の先には、六人ほどの男たちが立っていた。


「……めっちゃ冷静に言うな」


「そうですかね?」


盗賊たちはこちらへ向かって手を振っている。


「おい! 止まれよ!」


「その馬車! 止まれ!」


「金目の物を置いていけ!」


レイは少し身構えた。


だが――。


フィーアは何事もなかったかのように馬車を走らせ続ける。


「おい! 待て!」


「止まれって言ってんだろ!」


馬車は盗賊たちの横をそのまま通り過ぎていく。


「おい! 待てー!」


「止まれーーー!」


盗賊たちの叫び声が、どんどん遠ざかっていく。


レイは後ろを振り返った。


六人の盗賊が、街道の真ん中で呆然と立ち尽くしている。


「……」


「……」


「……何がしたかったんだ、あいつら」


メルナも首を傾げる。


「本当に何がしたかったんだろうね」


フィーアは前を向いたまま答える。


「危なかったですね」


「よく通ったな」


「戦いごとは面倒なので」


「確かにな」


「いや、盗賊側からしたら頑張って止めようとしてたんだけどね!?」


レイがそう言ったところで、もう盗賊たちの姿は見えなくなっていた。


――盗賊たちの頑張りは、僅か数秒で終わった。


そして馬車は何事もなかったように進んでいく。


* * *


それから、およそ四時間。


長い街道を進んだ先。


フィーアが前方を指差した。


「もうすぐ着きますよ」


「おう」


レイも馬車の外を見る。


遠くに見えてきたのは、大きな屋敷だった。


周囲には広い庭と森が広がり、見慣れた景色が少しずつ近づいてくる。


「久しぶりの家だ……」


メルナが嬉しそうに呟いた。


「お家?」


ミリアが窓から顔を出す。


「あれがレイとメルナのお家?」


「おう」


レイが頷く。


ミリアは大きな屋敷を見上げながら、少し目を輝かせていた。


「大きい……」


「まぁ、俺たちの家だからな」


「レイ、こういう時だけ偉そう」


「なんでだよ」


やがて馬車は屋敷の前へ到着した。


フィーアが馬車を止める。


「皆様、着きました」


「ありがとな、フィーア」


レイが降りる。


そしてふと、フィーアへ尋ねた。


「フィーア、母さんたちは俺たちが帰ってくるの知ってるのか?」


「はい。手紙は送ってありますので」


「そっか」


「よし! 行こ!」


メルナが先に走り出す。


「うん!」


ミリアもその後を追う。


レイも歩き出そうとした――その時。


「……ん?」


頭の上に何か重みを感じる。


「おい、アカマル」


レイが頭へ手を伸ばす。


すると、そこには小さくなったアカマルが乗っていた。


「いつから俺の頭の上で寝てたんだよ。全然気づかなかったぞ」


「ガウ……」


アカマルは眠そうに鳴くだけだった。


「まぁいいか」


「行きましょう」


フィーアに促され、レイも屋敷へ入っていく。


そして――。


玄関の扉を開けた瞬間。


「レイ~~! メルナ~~!」


待っていたかのように、ミレーヌが飛び出してきた。


「うわっ!」


ミレーヌはそのままレイとメルナをまとめて抱きしめる。


「二人がいなくて寂しかったよぉ!」


「母さん、久しぶり」


「久しぶり、お母さん!」


「本当に心配したんだからね!」


「ごめん」


メルナが少し申し訳なさそうに答える。


するとミレーヌは、今度はメルナをぎゅっと抱きしめた。


「メルナ~!」


「お、お母さん……」


「無事でよかったぁ!」


「分かったから、ちょっと苦しい……」


その様子を見ていたレイが苦笑する。


「相変わらず子供には弱いな」


「いいの! 母親なんだから!」


「はいはい」


ミレーヌは満足そうに笑った後、フィーアへ振り向く。


「フィーアもありがとね」


「お気になさらず」


「ところで……」


ミレーヌが首を傾げる。


「そこにいるエルフの子と、レイの頭の上で寝てる赤い狼は?」


「説明するよ。父さんはいる?」


「きっと自室にいるわ」


「じゃあ、皆でリビング行こう」


「あ、えっと……」


ミリアが緊張した様子でミレーヌを見る。


「ん……」


「どうしたの?」


ミレーヌがしゃがみ込み、優しく尋ねる。


「名前は?」


「ミリア!」


「ミリアちゃんね!」


ミレーヌの顔が一気に明るくなる。


「可愛いわね~! エルフなんて初めて見たわ!」


「俺もエルフを見たのはミリアが初めてだ」


「レイ! 良い人!」


ミリアがレイを指差す。


「そうよねぇ!」


ミレーヌは嬉しそうに頷いた。


「でも、どうしてそうなったのかは……リビングでゆっくり聞きましょうか」


「おう」


* * *


皆でリビングへ移動すると、そこにはすでにグリムもいた。


「レイ、メルナ、フィーア。お帰り」


「ただいま、お父さん!」


「ただいま、父さん」


「ただいまです」


「よし!」


ミレーヌが手を叩く。


「じゃあ、色々話しましょ!」


「分かったよ」


全員が席に着く。


アカマルはレイの頭から降りると、今度はソファの隅で丸くなった。


ミレーヌは早速、ミリアへ視線を向ける。


「じゃあまずは、新しい家族の二人から!」


「ミリアとアカマルのことだな」


「うん!」


「アカマルは森で会った。ミリアは――」


レイが少し言葉を止める。


「……救った」


「買ったんじゃない」


ミリアがすかさず訂正する。


「救ってくれた!」


「ああ、それそれ」


「もう……」


ミレーヌは笑った。


「ふふっ。なるほどね」


そしてミリアへ優しく声をかける。


「私はミレーヌ。レイとメルナのお母さんよ」


ミレーヌは隣に座るグリムを指差す。


「そして、こっちの筋肉が私の旦那」


「説明が雑だろ」


グリムが呆れたように言う。


「まぁまぁ」


「よ、よろしく……」


ミリアが小さく頭を下げる。


「よろしくね、ミリアちゃん!」


ミレーヌは嬉しそうに笑った。


「それから――」


ミレーヌが部屋の隅を見る。


「そちらの椅子に座ってるのが、レイの師匠ね」


「ん?」


レイが振り返る。


そこには、いつからいたのか分からない女性が座っていた。


紫色の長い髪。


紫色の瞳。


そして袴姿。


「……え?」


レイが固まる。


「師匠?」


女性は何でもないように答えた。


「やぁ」


「師匠、いつからいたんだ?」


「ずっといたよ。ここに」


「……気づかなかった」


「そうかい?」


その女性――ルーシーは、楽しそうに笑った。


「あ! ルーシーさん!」


メルナが立ち上がる。


「やぁ、メルナ」


「フィーアも久しぶり!」


「お久しぶりです、お師匠」


「……え?」


メルナが固まる。


「今、なんて言った?」


フィーアが振り返る。


「ルーシー様は私のお師匠ですよ」


「え!?」


メルナが目を丸くする。


「ルーシーさんってレイの師匠だけじゃなかったの!?」


レイが当然のように言う。


「知らなかったのか? フィーアも師匠の弟子だぞ」


「知らなかった……」


ルーシーが楽しそうに二人を見る。


「私たちの可愛い弟子たちさ」


フィーアは微笑む。


「恐縮です」


ルーシーはレイを見る。


「ところでレイ」


「ん?」


「鬼化、使った?」


「……使った」


「はぁ……」


ルーシーが頭を抱える。


「使いこなせるようになった?」


「全然」


「だろうねぇ」


「なんで分かるんだよ」


「弟子だからさ」


ルーシーは立ち上がる。


「後で訓練の成果を見せてもらおうか」


「う、うい……」


「私も!」


メルナが手を上げる。


「少しは刀か剣を使えるようになった?」


「そ、それは……」


メルナが目を逸らす。


「メルナは違う武器が似合ってるようだねぇ」


「うん……」


「納得するなよ」


レイが突っ込む。


* * *


「レイ、フィーアから色々聞いてるよ」


ミレーヌが心配そうな表情になる。


「危ない戦いをしてきたんでしょ?」


「大分危なかった」


「共鳴を使っても負けたよ」


メルナも正直に答える。


グリムは二人を見つめ、静かに口を開いた。


「……よく頑張ったな」


その一言に、レイとメルナは少しだけ表情を緩める。


「でも、その時に鬼化を使ってしまった」


レイが言う。


するとルーシーが「あっ」と声を漏らした。


「そういえばレイに言ってなかったね」


「何を?」


「私もレイと似たようなものを持ってる」


「……え?」


ルーシーは自分の胸元を軽く指差す。


「私の体の中には、九尾の狐がいるんだ」


レイが目を見開く。


「必要でしょ、それは!」


「そう?」


「そうでしょ!」


「まぁ、言う必要もないと思ってたからねぇ」


「師匠も鬼化みたいなの使えるのか?」


「使えるよ。共鳴みたいなものさ」


「なら、使い方教えてほしい」


「もちろん」


ルーシーは楽しそうに笑った。


「私の弟子なんだから、ちゃんと教えてあげるよ」


「いつから九尾と一緒にいるんだ?」


「レイを修行してた時には、すでにいたよ」


「マジか……」


レイはしばらく考えた後、自分の中にいる存在へ話しかける。


「酒呑童子」


『なんだ』


「お前、九尾の狐の仲間じゃないのか?」


『……うるさい』


「お前、ツンデレって奴か?」


『違う』


「即答かよ」


ルーシーはそんなレイを見て、クスクスと笑った。


「じゃあ、ちょっと挨拶してみようか」


「え?」


ルーシーは目を閉じる。


「酒呑童子ちゃん」


『……』


「九尾の狐と会えば?」


『お前……なぜ俺の精神に干渉できる』


「なんとなく?」


『はぁ……』


酒呑童子の呆れた声が響いた。


『要件は何だ』


「ただ挨拶しに来ただけさ」


『酒も持ってこない奴が来る場所ではない。帰れ』


「次に来る時は持ってくるよ」


『来るな』


「まぁまぁ、そんなに怒らずに」


『殺すぞ』


瞬間。


精神世界の空気が変わった。


酒呑童子から、強烈な殺気が放たれる。


ルーシーはその気配を感じながら――笑った。


「……へぇ」


そして腰の刀へ手を伸ばす。


「少しだけ、お手合わせ願おうか」


『ほぉう』


酒呑童子もゆっくりと刀を抜いた。


『覚悟だけは認めてやる』


「それはどうも」


『刀を抜け』


ルーシーは刀を構える。


二人の間に、静かな緊張が走った。


「嬉しいなぁ」


ルーシーが笑う。


「こんなに強い相手と戦えるのは」


『ハハハッ! 面白いことを言うな!』


酒呑童子も笑う。


『手加減してやろう』


「手加減できるかな?」


次の瞬間。


二人の姿が同時に消えた。


――ガキィン!


刃と刃がぶつかる。


一度。


二度。


三度。


互いに踏み込み、斬撃を繰り出していく。


「どう?」


『弱いな』


「ひどいなぁ。これでも剣豪なんだけど」


『だが――』


酒呑童子の目が鋭くなる。


『お前も気を抜いているな』


「バレた?」


『当然だ』


二人は一度距離を取る。


酒呑童子が刀を構え直した。


『長引く戦いは嫌いだ』


「奇遇だね」


『これを受け止めてみろ』


酒呑童子が地面を蹴る。


『――鬼爪嵐駆』


瞬間。


凄まじい速度で距離を詰める。


一歩踏み込むたびに地面がひび割れ、鋭い爪撃が連続して繰り出される。


ルーシーは刀で受け流そうとする。


だが――。


「……速い!」


ギリギリで一撃を避ける。


それでも完全には避けきれず、頬を浅くかすめた。


ルーシーは距離を取る。


「速いね」


『お前の剣技も中々のものだ』


「自分より強い奴に言われると嬉しいなぁ」


少し間を置いて、ルーシーが笑う。


「……人じゃないんだっけ?」


『どうでもよい』


酒呑童子は刀を納める。


『良い運動になった。今回の酒の分とでもしておいてやる』


「ありがとさん」


ルーシーも刀を納める。


「じゃあ、また」


『来るなと言っただろう』


「まぁまぁ」


ルーシーは笑いながら手を振る。


「レイと仲良くしてねぇ」


『……』


そのまま精神世界から姿を消した。


――そして。


現実世界。


「…………」


ルーシーは目を開ける。


そして、少しだけ額に汗を浮かべた。


「……あれはやばかったなぁ」


「師匠?」


レイが不思議そうに見る。


「何してるんだ?」


「何も」


「絶対何かしてただろ」


「気のせいさ」


ルーシーは何食わぬ顔で椅子へ戻る。


レイは納得していない様子だったが、これ以上聞いても答えてくれないと判断した。


「まぁ……いいか」


その横で、フィーアだけが何かを察したように小さく笑っていた。


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