47話 これからの予定
「何でいる」
「友達として!」
「はいはい」
再び扉を開ける。
「レイ〜! 久しぶり〜!」
「レイさん!」
ルナとカナが嬉しそうに声をかける。
「今日はセニアはいないのか?」
「実家に帰るって言ってたよ〜」
「そうか」
アルスがレイを見る。
「レイ、大丈夫か?」
「まぁな」
ラウスも安心したように笑う。
「本当に助かったよ。あの時は」
「うい」
そして、レイはカナを見る。
「カナ」
「はい?」
「……その、すまん」
「何のことですか?」
「俺、カナのこと攻撃しようとしただろ」
「……」
カナは笑う。
「全く気にしてませんよ」
「そ、そうか」
「はい」
ユージが突然口を挟む。
「なぁレイ」
「なんだ」
「あの姿、何だったんだ?」
「……」
「……」
「……あれは」
レイは目を泳がせる。
「その……あれだ」
「どれだよ」
「あれだよ」
「だからどれだよ!」
「……俺の薬的な」
「薬?」
「お、おう」
「鬼みたいな姿になってたのが薬?」
「ま、まぁな」
アルスが首を傾げる。
「そんな薬、聞いたことがない」
「俺も知らないな」
ラウスも困惑する。
「鬼の姿に近づく薬〜?」
ルナが不思議そうに首を傾げる。
「レイさん……」
カナが慌てて話を合わせる。
「そ、そうですよ! どこかの国で有名だったような……!」
「どこだっけなぁ」
レイも必死に合わせる。
「そうなのかぁ」
ユージは納得してしまった。
「……」
「……」
メルナとフィーア以外、誰も酒呑童子の存在を知らない。
「そ、そんなことより!」
カナが慌てて話題を変える。
「思い出すのも辛いですし、違う話をしましょう!」
「まぁ、確かに」
アルスが頷く。
「結構辛い戦いだったからな」
「だね〜」
その時――。
扉が開く。
「お兄ちゃん、鬼化の話なんだけど――」
メルナが入ってくる。
しかし、部屋にいる全員を見た瞬間、言葉を止めた。
「……」
「……」
「お、鬼から生まれた伝説って知ってる?」
「鬼化?」
ユージが反応する。
「薬のことか?」
アルスも首を傾げる。
「鬼の姿に近づく薬〜?」
ルナまで乗ってくる。
「レイ……」
メルナが困ったように見る。
「……」
レイは苦笑する。
「メルナ」
「うぅ……」
「何か知りたいんだろ?」
「……うん」
メルナは諦めたように部屋へ入る。
そして、レイの横に座った。
「私自身の悩みというか……なんというか」
「能力のことか?」
「ま、まぁそういう感じ」
メルナは少し考えてから話す。
「その……召喚できる式神が増えた」
「良かったな」
「すごいじゃんかよ!」
ユージも驚く。
「うん」
メルナは頷く。
「だから、共鳴するのを手伝ってほしくて」
「俺は無理だぞ」
レイは自分の身体を見る。
「魔力はすっからかんだし、身体もまだ万全じゃない」
「それに、メルナが共鳴を使ったら、また一週間くらい動けなくなるんだろ?」
「使う時間にもよるよ」
メルナは説明する。
「限界まで使ったら前みたいになるけど、早めに終えれば反動はもっと軽くなる」
「なるほどな」
「それに――」
レイは尋ねる。
「その新しい式神って、どんな奴なんだ?」
メルナは少しだけ顔をしかめる。
「疫病」
「……なんか、えぐいな」
「そう。えぐいの」
メルナは苦笑する。
「毒を使ったり、相手の動きを遅くしたり、腐食させたりできるらしい」
ラウスが固まる。
「僕の上位互換じゃん……」
「確かにそうなるなぁ」
ユージが頷く。
「どんまい、ラウス」
「レイの家系、すごい強いんだね……」
「かもな」
メルナは自分の手を見る。
「疫病かぁ……」
「どうした?」
「なんか物騒じゃない?」
ルナが笑う。
「そんなことないよ〜」
カナも頷く。
「そうですよ!」
レイはメルナを見る。
「黒い騎士と互角以上に戦えてたんだろ?」
「た、多分……」
「なら、その疫病の力も使いこなせるようになる」
「でも、他の人にも影響が出るかもしれない」
「メルナなら大丈夫だろ」
「……」
メルナは少し笑った。
「そうだね!」
「不死鳥の力は使いこなせるのか?」
「うん!」
メルナは手を前に出す。
すると、小さな光が集まり――。
手のひらほどの不死鳥が現れた。
「可愛いでしょ?」
「可愛い〜!」
ルナが嬉しそうに声を上げる。
「可愛いです!」
カナも微笑む。
「……何でこんなに小さいんだ?」
レイが不思議そうに尋ねる。
「魔力の調整かな」
「もう魔力戻ってるのか?」
「ほぼ戻ったよ」
「そうか」
レイは少し考える。
「なら、今の状態で守られなきゃいけないのは俺だけか」
「何の話?」
「こっちの話」
メルナは小さな不死鳥を見る。
「疫病を司る式神かぁ……」
「どうした?」
「使いこなせるようになって……」
メルナはレイを見る。
「お兄ちゃんに追いつけるようにならないと」
「だから、メルナは俺より強いって」
「そんなことないって」
カナが即座に口を挟む。
「そんなことありますよ!」
「だよな」
「むぅ……」
メルナは頬を膨らませる。
「お世辞は嫌」
ユージが笑う。
「兄妹、仲良いよなぁ」
「否定はしない」
メルナが答える。
「俺も、仲はいいと思う」
レイも笑った。
しばらく話した後、アルスが尋ねる。
「レイは夏休み、どう過ごすんだ?」
「家に帰る」
「実家に帰るのか。いいな」
「おう」
その時、カナがメルナの耳元へ顔を近づける。
「仲直りできたんですね!」
「う、うん!」
「良かったです!」
二人は小さく笑った。
「カナは?」
レイが尋ねる。
「夏休み、何するんだ?」
「へ!?」
カナが慌てる。
「そ、そうですね……特別なことはしませんね」
「特別なことって言われても、俺も何もないけどな」
「レイさん!」
カナが突然、何かを思い出したように立ち上がる。
「これ!」
カナは持っていたものをレイへ渡した。
赤いローブだった。
「前に私に着させてくれたローブです!」
「……これか」
「本当にありがとうございます」
カナは頭を下げる。
「とても助かりました!」
「気にすんな」
「気にしますよ」
カナはローブを大切そうに見つめる。
「レイさんが貸してくれた大切なものですから」
レイがローブを受け取る。
「……ん?」
何か、いい香りがする。
「わざわざ洗濯しなくてもよかったのに」
「洗濯くらいしますよ!」
カナは少し照れながら答えた。
「大切なものですから」
「そ、そうか」
レイは少し気まずそうにローブを畳む。
「そういえば」
「はい?」
「誰にあんな格好にされたんだ?」
「それは……」
カナが言葉に詰まる。
メルナが代わりに答える。
「前、ギルドでフィーアにボコボコにされた奴」
「あいつか」
レイの表情が変わる。
「……」
メルナも真顔になる。
「あいつらは許さない」
「俺もだ」
二人の声が重なった。
「そういえば」
レイが尋ねる。
「結局、黒い騎士は何者だったんだ?」
「……」
カナが首を傾げる。
「何でしょうね?」
「ほんと謎だよね」
ラウスも考える。
「怖かったよ〜」
ルナが震えるような仕草をする。
「魔物なのかなぁ?」
ユージが首を傾げる。
「スタンピードのボスだったことは確かだろう」
アルスが言う。
「どうだろうな」
メルナの表情が固まる。
「ち、違う!」
「え?」
「メルナちゃん?」
「何か知ってるの〜?」
「知りたいな」
ユージが身を乗り出す。
「え、えーと……」
メルナが困り果てる。
レイはそれを見て、すぐに話題を変えた。
「ユージ」
「なんだぁ?」
「セニアも実家に帰ってるんだろ?」
「おう」
「ユージとセニアって、同じ国なのか?」
「……よく分かったな」
「何となく親しいなと思って」
ユージは少し笑う。
「セニアとは幼馴染みたいなものさ」
「へぇ」
「でも、セニアは大貴族だからな」
「大貴族?」
「そう。マナーとかにめちゃくちゃ厳しくてな」
ルナが驚く。
「セニアと幼馴染なら、最初に教えてよ〜!」
カナも目を丸くする。
「私も驚きました!」
「言う必要ないと思ってたんだよ」
レイは少し笑う。
「セニアも大変だな」
「本当に大変だと思うよ」
ルナが尋ねる。
「何かあったの〜?」
「……」
ユージは少し黙る。
そして、ゆっくりと話し始めた。
「俺たちがまだ街に住んでた頃の話だ」
「俺とセニアは、六歳くらいまでここから少し離れたアライド街に住んでた」
レイは黙って聞く。
「だけど、ある日――」
ユージの表情が曇る。
「終始の魔物が、俺たちの街を襲った」
「……」
「俺の家族は亡くなった」
「セニアも……母親を亡くした」
部屋の空気が静かになる。
「その後、俺とセニアは偶然、同じ国へ逃げ延びた」
ユージは苦笑する。
「そこからだな」
「セニアの父親が変わったのは」
「……そうか」
ユージが慌てて笑う。
「ごめんごめん。重たい話しちまったな」
「大丈夫だ」
レイは少し考える。
「一つだけ聞きたい」
「おう! 何でもいいぞ!」
「気を悪くしたらすまない」
レイは慎重に尋ねる。
「終始の魔物を……見たことがあるのか?」
ユージの表情が止まった。
「……見たはずなんだ」
「見たはず?」
「ああ」
ユージは自分の記憶を探るように目を伏せる。
「終始の魔物を、この目で見たのは事実なんだ」
「じゃあ、覚えてるんだな?」
「それが……」
ユージは首を横に振る。
「何か、モヤがかかってるみたいなんだ」
「忘れたわけじゃない」
「でも……思い出そうとすると、何かに邪魔されてるような感じがする」
「……」
レイは黙り込む。
「不思議だな」
「ああ」
「何でだろうな」
「俺にも分からない」
二人はしばらく黙った。
その後――。
数時間にわたって、様々な話をしたり、途中で誰かに邪魔されたりしながら時間を過ごした。
そして、ようやく解散となった。
部屋には、レイとメルナだけが残る。
レイは部屋を見回した。
「……俺の部屋、荒らして帰りやがった」
机の上には本が積まれ、椅子は動かされ、何故かクッションまで床に転がっている。
メルナは楽しそうに笑う。
「楽しかった〜」
「メルナも荒らしてたよな」
「き、気のせいだよ」
「ほぉう?」
「……」
メルナは目を逸らす。
「そ、それより家に帰る支度しなきゃ!」
「おい、逃げるな」
「またね、お兄ちゃん!」
メルナは逃げるように部屋を出ていった。
「……せめて片付けるの手伝えよ〜」
レイの声が、静かな部屋に響いた。
しかし――。
レイの頭の中には、先ほどのユージの言葉が残っていた。
『終始の魔物を見たはずなのに、思い出せない』
「……」
レイは窓の外を見る。
「終始の魔物……」
そして、小さく呟いた。




