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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第二章 夏休み編
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45話 ミリアの過去

「レイ、起きた!」


部屋の扉が勢いよく開く。


そこから飛び込んできたのは、ミリアだった。


「レイ!」


「おう」


レイが笑って答えると、ミリアは嬉しそうに駆け寄ってくる。


「起きた!」


「起きたぞ」


「メルナとレイ、仲直りした?」


「ああ、したよ!」


メルナが胸を張って答える。


「ん!」


ミリアも嬉しそうに頷いた。


レイはそんなミリアを見て、ふっと笑う。


「ミリア、ありがとな」


「ふふ〜ん!」


ミリアは嬉しそうに胸を張る。


「もっと褒めて!」


「調子に乗るなよ」


「えへへ」


部屋に穏やかな空気が流れる。


しかし、ミリアはふと思い出したようにレイを見る。


「そうだ!」


「ん?」


「レイのあの姿、なんだったの?」


「……あ」


レイは言葉に詰まる。


「それは、その……」


どう説明したものかと考えていると、メルナが助け舟を出した。


「ミリアちゃんがもっと大きくなったら分かるよ!」


「分かった!」


ミリアはあっさり納得した。


「お、おう……」


レイは少し安心する。


そして、レイはふと思い出したように尋ねた。


「そうだ、ミリアも行くか?」


「どこに?」


「俺たちの家に」


「……!」


ミリアの顔が一気に明るくなる。


「行く! 行きたい!」


「おう。一緒に帰ろう」


「やった!」


メルナがミリアの頬を両手で優しくつまむ。


「可愛いね」


「む〜!」


「もちもちしてる」


「メルナ〜!」


二人のやり取りを見ながら、レイはベッドの上で腹を押さえる。


「……やばい。腹減りすぎて死にそう」


「一週間寝てたもんね」


メルナが思い出したように言う。


「フィーアが作った朝ご飯、持ってきてあげる!」


「頼むわ」


「じゃあ、ちょっと待っててね」


メルナは部屋を出ていった。


ミリアもそれを見送る。


すると、ミリアがレイをじっと見つめた。


「レイ?」


「どうした?」


「なんか、不安そうな顔してる」


「……まぁな」


ミリアは少し考える。


「怖い夢、見た?」


「……あながち間違ってないな」


レイが苦笑する。


すると、ミリアは突然レイに抱きついた。


「……?」


「ぎゅーってすれば、怖いのいなくなるってママが教えてくれたの!」


レイは驚いたように目を丸くする。


それから、優しく微笑んだ。


「いいお母さんだな」


「うん!」


ミリアは嬉しそうに頷く。


「でも……どこにいるか分からない」


「……」


レイの表情が変わる。


少し迷った後、レイはミリアに尋ねた。


「ミリア。少し聞いていいか?」


「うん!」


「ミリアは、どこで奴隷商人に捕まった?」


「……」


ミリアの表情が曇った。


「……ご、ごめん!」


レイはすぐに慌てる。


「思い出したくないことを思い出させるようなことを聞いて……」


「ううん」


ミリアは首を横に振った。


そして、ゆっくりと話し始める。


「私の村は……迷いの森の、ずっと奥にあったの」


レイは何も言わず、ミリアの言葉を待った。


「パパとママとね……毎日一緒に過ごしてて、楽しかったの」


ミリアの声は少し震えていた。


「パパは毎日遊んでくれるし、ママは寝る前に物語を読んでくれたの」


「……うん」


「仲も良かったんだよ。たまにパパがママに怒られてたけど……それも楽しかった」


ミリアは少しだけ笑った。


しかし、その笑顔はすぐに消える。


「村のエルフたちも、みんな仲良しだった」


「おじいちゃんはいっぱいご飯をくれたし、友達もいたの」


「村には……だいたい三十人くらいのエルフがいたよ」


「三十人……」


レイは静かに頷く。


ミリアは俯いた。


「でも……ある日」


「十人くらいの武装した人たちが、村に来たの」


レイの表情が険しくなる。


「その人たちは……村のエルフたちを襲った」


ミリアは泣くのを必死に堪えながら続ける。


「男のエルフたちは……みんな殺されて……女のエルフたちは捕まって……」


「……」


「私のところにも、怖い人たちが来たの」


「でも……パパとママが助けてくれた」


ミリアは胸元で手を握る。


「私を逃がすために……二人が必死に守ってくれたの」


「私は森の中を必死に走った」


「でも……追いつかれて……捕まった」


レイは拳を握りしめる。


「……ごめんな」


「え?」


「思い出したくない記憶を……思い出させた」


ミリアは少しだけレイを見る。


そして、笑った。


「でも、その後レイが助けてくれた!」


「……だな」


レイも笑う。


「ミリア」


「なに?」


「ママとパパに会いたいか?」


ミリアは迷うことなく答えた。


「うん! 会いたい!」


「……なら、探そう」


「……!」


ミリアの顔が明るくなる。


「やったー!」


「見つかるかどうかは分からないけどな」


「それでも探したい!」


「分かった」


ミリアは嬉しそうに笑う。


「ありがと、レイ!」


「気にすんな」


「じゃあ、アカマルと遊んでくる!」


「おう。遊んでこい」


「うん!」


ミリアは元気よく部屋を出ていった。


扉が閉まる。


部屋に残ったのは、レイ一人。


「……エルフ狩り、か」


レイは天井を見つめながら呟いた。


エルフ。


美しい容姿を持ち、人間より遥かに長い時を生きると言われる種族。


かつては数多く存在し、人間とも協力関係を築いていた。


特にエルフは魔法の技術に優れており、人間へ多くの知識を伝えたとされている。


しかし――。


その美貌と長い寿命に目をつけた、とある帝国の王がエルフ狩りを始めた。


エルフたちも当然抵抗した。


だが、帝国はエルフから学んだ魔法技術を利用し、魔法を無力化する魔道具を作り上げていた。


抵抗するエルフたちは次々と追い詰められた。


そして帝国は、男のエルフを殺し、女のエルフを捕らえて奴隷にした。


その結果、多くのエルフが姿を消した。


現在では、エルフという種族そのものが非常に少なくなっている。


「……あまりにも非人道的な話だ」


レイは目を閉じる。


「ミリアの両親は、ミリアを逃がすために身を挺して守った」


「その後、ミリアは捕まった……」


レイはしばらく黙り込む。


「……考えたくない話だけど」


「ミリアの両親は、もう……」


その先の言葉を、レイは口にできなかった。


「お兄ちゃん」


扉が開く。


メルナが戻ってきた。


「朝ご飯だよ」


「ありがと」


メルナはレイの様子を見て首を傾げる。


「……そんな暗い顔して、どうしたの?」


「さっきもそんなこと聞かれたわ」


「え?」


「何でもない。少し考え事してただけだ」


「考えすぎたら心もたないよ」


「……そうだな」


メルナはベッドの前に朝食を置く。


レイは食べようとする。


しかし――。


「……」


腕が動かない。


「……」


メルナが見る。


「そういえば、お兄ちゃん体動かないんだっけ?」


「……忘れてた」


「忘れるなよ!」


「いや、一週間寝てたから……」


「仕方ないなぁ」


メルナは料理を一口分すくう。


「ほら、口開けて」


「え?」


「あーん」


「……」


「早く」


「はいはい」


レイは口を開ける。


「あむ」


「どう?」


「……うま」


「でしょ?」


「フィーアが作ったんだろ?」


「うん」


「ほんと美味しい」


メルナは嬉しそうに笑いながら、レイに食事を食べさせていく。


やがて、レイは全部食べ終えた。


「ごちそうさま」


「全部食べたね」


「おう」


メルナは食器を片付けながら、ふと思い出した。


「そういえば、さっきミリアちゃんが嬉しそうにアカマルちゃんと遊んでたけど……何かいいことでもあったのかな?」


「かもな」


「お兄ちゃん、何か知ってる?」


「さぁ?」


「……」


メルナがじっとレイを見る。


「妹には分かるよ?」


「何が?」


「センサー、ビンビンだから」


「何のセンサーだよ」


「隠し事センサー」


「……え」


「隠し事してもバレるからね」


「怖ぇよ……」


メルナがニヤッと笑う。


「さぁ、お兄ちゃん。隠し事を言ってみなよ!」


「メルナに話すことじゃねぇよ」


「じゃあ、誰に話すことなの?」


「そ、それは……」


「一人で抱え込むつもり?」


「……」


レイはため息を吐いた。


「そうだ。俺一人で抱え込む」


「誰かに相談すればいいじゃん」


メルナは少しだけ真剣な顔になる。


「私、妹だよ?」


「……」


「お兄ちゃんのことなら、相談くらい乗れるよ」


「考え込むのは俺だけでいい」


「はぁ……」


メルナは呆れたように息を吐く。


「お兄ちゃんらしいね」


食べ終わった食器を持ち、部屋から出ようとする。


しかし、扉の前で一度立ち止まった。


「お兄ちゃん」


「何だ?」


メルナは振り返る。


その表情は、さっきまでの明るいものではなかった。


「一人で抱え込まないでよ」


「……」


「お兄ちゃんのことだから、何でも一人で解決しようとするんでしょ?」


「……」


「でもさ、一人で抱え込むのって……正直、めちゃくちゃ辛いよ」


メルナはまっすぐレイを見る。


「一人で解決しようとするのも、めちゃくちゃ辛い」


「だから……誰かに頼るのも大切だよ」


レイは少し黙った。


「……なるべく頑張ってみるよ」


「……はぁ」


メルナは苦笑する。


「分かったよ」


そう言って、部屋を出ていった。


扉が閉まる。


レイは一人、静かな部屋で呟いた。


「頼るのもありか」


「……」


レイは自分自身に問いかける。


「……わかんねぇ」


しばらくして――。


「レイ様、お客様です」


フィーアの声が聞こえた。


「客? 誰だ?」


「クラウス様です」


「爺ちゃん?」


レイは驚く。


「帰ってたのか!?」


「はい。レイ様が眠っている間に戻ってきていました」


すると、聞き慣れた声がする。


「久しぶりじゃのぉ、レイ」


「久しぶり」


クラウスが部屋へ入ってくる。


「メルナも大きくなっておったのぉ」


「久しぶりに会ったのか、メルナと?」


「レイの部屋に住むことを許可した時に会ったくらいじゃ」


「そういえば、爺ちゃんが許可してたな」


「そうじゃったのぉ」


クラウスは笑う。


しかし、少しすると表情を真剣なものへ変えた。


「レイ」


「ん?」


「この国を守ってくれて、ありがとうのぉ」


「いや……俺の力じゃない」


レイは首を横に振る。


「酒呑童子の力だ。それに、他のみんなもいたからな」


「フィーアから聞いたぞ」


「何を?」


「レイ、鬼化を使ったそうじゃな」


「ああ」


レイは自分の身体を見る。


「その結果がこれ」


「そうかのぉ……」


「全く制御できなかった」


クラウスは尋ねる。


「自分の意志で使ったのか?」


「いや。酒呑童子が使わせた」


「……そうか」


クラウスは少し考える。


そして、静かに口を開いた。


「レイ。よく聞け」


「ん?」


「レイの鬼化は、未完成の共鳴じゃ」


「未完成の……共鳴?」


「そうじゃ。その分、反動も半端ではない」


クラウスはレイの動かない身体を見る。


「今、お主が身をもって体験しているじゃろう」


「だな」


「だから――鬼化を使うのは禁止じゃ」


「だけど……」


「レイ」


クラウスの声が低くなる。


「このまま暴走した鬼化を使い続ければ……最悪の場合、人間ではいられなくなる」


「……ッ」


レイの表情が固まる。


「お主も、薄々気づいておるじゃろ」


「……」


「共鳴を使いこなせるようになるまで」


クラウスははっきりと言った。


「あるいは、鬼化そのものを制御できるようになるまで――鬼化は禁止じゃ」


レイは少し黙った。


「……分かった」


「それがいい」


クラウスは少し表情を和らげる。


「メルナに共鳴について、よく聞いてみるといい」


「メルナに?」


「黒い騎士を倒そうとするところまで、自分の力を引き出したらしいからのぉ」


「……」


レイは少し笑う。


「メルナ、すげぇよな」


「そうじゃな」


クラウスも頷く。


「メルナは潜在能力が遥かに高い」


「俺よりも?」


「それは――」


クラウスは少し考える。


「まだ分からんのぉ」


レイは笑った。


「なぁ、爺ちゃん」


「何じゃ?」


「フィーアから、他に何か聞いたことあるか?」


クラウスの表情が少し変わる。


「儂が聞いたのは……」


「暴走したレイが、カナを攻撃しかけたことじゃ」


「……そうか」


レイは目を伏せる。


「カナに謝らないとな」


「レイ……」


「少しは強くなってたと思ってた」


レイは苦笑する。


「酒呑童子の力を、上手く使えてると思ってたんだけどなぁ」


「……」


「俺はまだまだ未熟だな」


クラウスは優しく言う。


「レイは、よく頑張っておる」


「メルナの方が、俺の十倍頑張ってる」


「そんなこともないじゃろ」


「あると思う」


クラウスは苦笑した。


「そういえば、あのエルフの子は誰かのぉ?」


「ミリア?」


「そうじゃ」


「俺の新しい家族」


レイは迷いなく答える。


クラウスは微笑む。


「中々いいことをしておる」


「だろ?」


「うむ」


二人はその後もしばらく、他愛のない話を続けた。


やがて時間が経ち――。


「もうそろそろ行くかのぉ」


「じゃあな、爺ちゃん」


「そうじゃな。また話そう」


クラウスは部屋を出ていった。


静かになった部屋で、レイは目を閉じる。


「……疲れた」


「少し寝るか」


レイはそのまま眠りについた。



――レイの精神世界。


「……何でお前がここにいる」


酒呑童子が目の前の人物を見る。


そこに立っていたのは――クラウスだった。


「久しぶりじゃの」


「何の用だ」


クラウスは懐から酒を取り出す。


「ほう」


酒呑童子の目が細くなる。


「酒か」


クラウスは酒を差し出す。


「一つ、お願いしに来た」


「酒を持ってきたなら、話くらい聞いてやろう」


酒呑童子は酒を受け取る。


そして、一口飲む。


「それで?」


クラウスは真剣な表情で口を開いた。


「レイに……もっと力を使わせてやってほしい」


「……」


酒呑童子はクラウスを見る。


「小僧自身が強くならなければ、意味がない」


「レイは、お前の力――鬼化を扱えないのか?」


「使えても、精々二十パーセントくらいだ」


「だが、レイが危なくなったから鬼化させて助けたのじゃろ?」


「まぁな」


酒呑童子は酒を飲みながら答える。


「あいつらとの契約だ」


「契約……か」


クラウスは考える。


「いつになったら、レイはお前の力を制御できる?」


酒呑童子はニヤリと笑った。


「酒を持ってきた褒美に教えてやろう」


「……」


「小僧は――」


酒呑童子は静かに言った。


「既に二十パーセントの力を制御できる」


「……何?」


クラウスが目を見開く。


「どういうことじゃ?」


「そのままの意味だ」


「では、なぜ……」


酒呑童子は答えた。


「小僧は身体的には、既に制御できる」


「……」


「だが」


酒呑童子は、酒を置く。


「小僧の心は弱い」


クラウスは黙って酒呑童子を見る。


「……そうか」


「教えてやったぞ」


酒呑童子は背を向ける。


「帰れ」


クラウスは小さく笑った。


「ありがとうのぉ」


「もう来るな」


「それは無理じゃのぉ」


酒呑童子が振り返る。


クラウスはいつもの穏やかな笑顔を浮かべていた。


「……ふん」


酒呑童子は鼻を鳴らす。


そして、静かに酒を口にした。


その頃――。


眠っていたレイが、ゆっくりと目を開ける。


「……ん」


レイはぼんやりと天井を見つめた。


まだ、身体は自由に動かない。

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