40話 出陣
少し時間は遡る。
カナがグールダンジョンへ向かう前。
アカマルにレイのもとへ助けを求めに行かせた、その直後のことだった。
ラミール国の街には、いつもとは違う緊張が漂っていた。
街の外から聞こえてくるのは、人々の叫び声。
遠くから響く地響き。
そして――。
大量の魔物の咆哮。
何かが起こっている。
そんなことは、誰の目にも明らかだった。
その頃。
レイは自室で、フィーアと話をしていた。
「……」
レイが窓の外へ目を向ける。
「なんか……外が騒がしいな」
フィーアも同じ方向を見る。
「そうですね。先ほどから、かなり慌ただしいようです」
その時――。
「ガウ! ガウ!」
扉が勢いよく開いた。
「ん?」
レイが振り返る。
そこにいたのは――アカマルだった。
「アカマル?」
アカマルは息を切らしながら、必死に何かを訴えている。
「ガウ! ガウ!」
「ん? ミリアは?」
「ガウ!」
アカマルがレイの服に噛みつく。
そして、そのまま強く引っ張った。
「お、おい」
ぐいっ。
「……」
レイはアカマルを見る。
「……分かった」
アカマルが一度だけ鳴いた。
「ミリアに何かあったんだな?」
「ガウ!」
フィーアが表情を変える。
「どうかしましたか?」
レイはアカマルを見る。
そして――。
「ミリアに何かあったらしい」
「……!」
フィーアの顔から笑みが消える。
「私もついていきましょう」
「心強いな」
レイはすぐに立ち上がった。
「行くぞ」
「はい」
三人は部屋を出る。
すると――。
街の様子が一変していた。
「スタンピードだーー!」
「魔物が大量発生しているぞ!」
「冒険者の方は今すぐ冒険者ギルドに来てください!」
「国の外壁へ急げ!」
街中を、人々が慌ただしく走り回っている。
兵士たちは武器を手に取り、冒険者たちは装備を整えながら走っていた。
レイは足を止める。
「……スタンピードか」
その言葉とは裏腹に、レイの表情は落ち着いていた。
フィーアが横を見る。
「冷静ですね、レイ様」
「慌てても何もできないからな」
レイはアカマルを見る。
「まずはミリアだ」
「ミリア様を探しましょうか」
「ああ」
フィーアが少し考える。
「ですが、冒険者ギルドへ向かわなくてもよろしいのですか?」
レイは外を見る。
遠くから、魔物の咆哮が聞こえる。
「……」
一瞬考えた後。
「ミリアが心配だ」
「……ですね」
フィーアも頷いた。
「私も同じです」
「だな」
アカマルが先頭を走り始める。
「ガウ!」
「待て、アカマル!」
レイたちも後を追う。
アカマルは迷うことなく、街の外へ続く道を進んでいく
この国の門前でアカマルがそこで足を止める。
門の奥のさらに向こうにはグールダンジョンが見える
「ガウ……!」
そして、ダンジョンへ向かって大きく吠えた。
「ガウ!」
レイが目を細める。
「……もしかして」
グールダンジョンを見る。
「ミリアはグールダンジョンに行ったのか?」
「ガウ!」
アカマルが強く鳴く。
「……マジかよ」
フィーアが険しい表情になる。
「正直、危ないですね」
「……」
「もうスタンピードは始まっています」
グールダンジョンの周囲には、すでに大量の魔物が溢れ出していた。
ラミール国へ向かって、魔物の大群が移動している。
レイはその光景を見つめる。
グールダンジョン。
そして――。
もう一つ。
「ラミールダンジョンも……」
「はい」
フィーアが頷く。
「どちらからも魔物が溢れています」
二つのダンジョン。
二つの大群。
レイはしばらく黙っていた。
「……フィーア」
「はい」
「ついてきてくれるか」
フィーアは迷わず答えた。
「もちろんですよ」
「今すぐにでも行きたいが……少し準備する」
「はい」
レイは刀を確認する。
「今からグールダンジョンに行く」
「分かりました」
フィーアが周囲を見る。
「ですが、どちらのダンジョンからも魔物が溢れています。中へ入るのは難しいかもしれません」
レイは刀に手を添えた。
「それは大丈夫だ」
「……?」
「強引に侵入する」
フィーアは一瞬だけ目を丸くする。
そして――。
「分かりました」
いつものように微笑んだ。
「レイ様らしいですね」
「褒めてるのか?」
「もちろんです」
「ならいいか」
その時。
レイが大群を見つめながら、ふと口を開いた。
「フィーア」
「はい」
「ボスの魔物、見えるか?」
フィーアは目を凝らす。
「……」
魔物。
魔物。
魔物。
数え切れないほどの大群。
しかし――。
「……あの大群にはいませんね」
「やっぱりか」
「スタンピードのボスは、魔物たちと一緒に侵攻しているはずです」
「そうだよな」
レイは腕を組む。
「なのに、いない」
「なぜでしょうか」
「まぁ……」
レイはグールダンジョンを見る。
「考えるのは後からにしよう」
「はい」
レイは踵を返した。
「まずはミリアを助ける」
「ええ」
その頃――。
ラミール国の外壁。
そこでは、国中の兵士と冒険者たちが、必死に魔物の侵攻を食い止めていた。
「ここを絶対に通すなーー!」
ギルド長の怒号が響く。
「おう!」
冒険者たちが一斉に魔法を放つ。
「ファイア!」
「アイスランス!」
「雷撃!」
魔物が倒れる。
だが――。
その後ろから、さらに大量の魔物が押し寄せてくる。
「……っ!」
兵士が息を呑む。
「倒しても……」
また一体。
さらに一体。
「倒しても倒しても、次から次へと来ます!」
「怯むなぁ!」
騎士長が叫ぶ。
「ここを突破されたら国民が危険だ!」
「しかし!」
兵士が叫ぶ。
「このままじゃ押し切られます!」
外壁の向こうには、数え切れないほどの魔物。
その数――。
六千を超えていた。
そして、それでもなお増え続けている。
騎士長が歯を食いしばる。
「……やはり」
その顔に焦りが浮かぶ。
「ボスを倒さないといけないのか……」
だが、ボスの姿はどこにもない。
レイたちは準備を終えていた。
「フィーア」
「はい」
「必要なものは?」
「特にありませんよ」
フィーアは腰にある二本の小刀を確認する。
「双剣もありますし」
「ならいいか」
「はい」
レイはアカマルを見る。
「お前も行くぞ」
「ガウ!」
アカマルが元気よく鳴く。
「じゃあ――」
レイはグールダンジョンを見る。
「今から侵入する」
「はい」
そして、レイは歩きながら言った。
「俺の考えを言う」
「どのような考えを?」
「まずは、このスタンピードのボスだ」
「ボスですか」
「ああ」
レイは少し間を置く。
「今から話すことは、あくまで俺の憶測だ」
「分かりました」
「まず、このスタンピードのボスだが――」
レイは遠くの魔物の大群を見る。
「おそらくそいつは……」
一拍。
「黒い騎士だ」
フィーアの表情が変わる。
「黒い騎士……」
「俺たちが前に会った魔物だ」
「はい」
あまりにも不自然な存在。
「なぜ、そう思うのですか?」
「理由は単純だ」
レイが答える。
「圧倒的な力を持っている」
「……」
「それに、普通の魔物とは何かが違う」
フィーアは黙って聞いている。
レイは続けた。
「俺の考えは浅い」
「……?」
「もう一つ、憶測がある」
「はい」
「このスタンピードのボスは――」
レイは二つのダンジョンを見る。
「黒い騎士、一体だけだと思う」
「……一体だけですか?」
「ああ」
フィーアは首を傾げる。
「ですが、今回のスタンピードは二つのダンジョンから発生しています」
「普通ならそうだ」
レイは頷く。
「一つのダンジョンからスタンピードが起こるなら、その大群の中に一体のボスがいる」
「はい」
「だったら、二つのダンジョンから同時に起きた今回なら――」
フィーアが気づく。
「二体のボスがいる……」
「普通ならそう考える」
レイは言った。
「でも、二つのダンジョンで同時にスタンピードが起こるなんて、聞いたことがない」
「……」
「だから俺は考えた」
レイの目が鋭くなる。
「二つのダンジョンが同時に動いているんじゃない」
「……一体の存在が、二つのダンジョンを動かしている?」
「そういうことだ」
レイは前を見る。
「だったら、その一体がボスだ」
フィーアが頷く。
「そして、その候補が黒い騎士……」
「ああ」
レイは静かに答えた。
「ただの憶測だ」
「ですが――」
フィーアは小さく笑う。
「レイ様の憶測は、よく当たりますからね」
「そうか?」
「はい」
「……まぁ、考えるのは後だ」
レイが歩く速度を上げる。
「ミリアを助ける」
「はい」
その時――。
「レイ!」
後ろから声が響いた。
振り返る。
そこにはユージ、アルス、ラウスがいた。
「ユージ」
「スタンピードだ!」
アルスが叫ぶ。
「これはやばいよ!」
ラウスも焦った表情を浮かべている。
レイは三人を見る。
「今からスタンピードを止めてくる」
「は?」
ユージが固まる。
「何言ってるんだ!」
「流石にレイでも危なすぎる!」
アルスも止める。
「こんな量の魔物をどうするって言うんだよ!」
ラウスも続く。
レイは淡々と答えた。
「大丈夫だ」
「いや、大丈夫じゃねぇだろ!」
ユージが叫ぶ。
レイは振り返る。
「俺はミリアを助けに行く」
「……」
三人が黙る。
「ミリアが一人でダンジョンに行くわけがない」
レイの声が低くなる。
「誰かに連れていかれたんだ」
フィーアも頷いた。
「私も同じ考えです」
レイの目には、明らかな怒りがあった。
フィーアがそれに気づく。
「レイ様」
「ん?」
「……怒っていますよね」
レイは少しだけ目を細めた。
「ユージたちにはキレてない」
そして――。
「ただ、ミリアを攫った奴にムカついてる」
「……」
「ミリアは一人で行かない」
レイはグールダンジョンを見る。
「だったら、誰かが連れていったはずだ」
「私も許せませんね」
フィーアの声にも、珍しく怒気が混じる。
「……だな」
アルスが口を開く。
「俺らもいいか?」
レイは頷いた。
「おう」
ラウスも続く。
「ぼ、僕たちも!」
レイは少し考える。
「ラウス達は後からだ」
「え?」
「この大量の魔物は、俺とフィーアで倒す」
ユージが苦笑する。
「……本気かよ」
「本気だ」
「分かった」
ユージが雷を纏う。
「なら、俺たちは後ろから追う」
アルスも剣を構える。
「了解」
ラウスも頷く。
「僕も行く」
レイは前を見る。
「じゃあ――行くぞ」
レイたちは国の外壁へ向かった。
最前線。
そこでは、兵士と冒険者たちが必死に魔物と戦っていた。
「し、神速の双剣姫……!」
ギルド長が目を見開く。
そしてレイを見る。
「そ、その領主!」
レイが即座に訂正する。
「領主ではない」
「あ、すいません!」
フィーアが前に出る。
「状況を確認します」
「はい!」
「このままでは被害が広がります」
フィーアは魔物の大群を見る。
「ですので――」
小刀に手を添える。
「冒険者と兵士の皆さんを、一度下がらせてください」
ギルド長が驚く。
「しかし……!」
「大丈夫です」
フィーアは微笑んだ。
「ここからは私たちが戦います」
「……!」
ギルド長はレイを見る。
レイも頷いた。
「頼む」
ギルド長は覚悟を決める。
「……分かりました!」
「全員、一度下がれ!」
「な、何で!」
「まだ戦えます!」
「ここで引いたら――!」
冒険者たちが戸惑う。
ギルド長が叫ぶ。
「一度、信じてほしい!」
「……!」
騎士長が尋ねる。
「何をするつもりだ!」
ギルド長はレイとフィーアを見る。
「……かけてみる」
やがて、最前線から人が引いていく。
レイとフィーアだけが、魔物の大群の前に立った。
「……」
レイは大群を見る。
「こう見たら――」
一瞬、言葉を失うほどの数だった。
「多いな」
フィーアも頷く。
「ですね」
レイは刀に手を添える。
「じゃあ――」
フィーアも小刀を抜く。
「始めるか」
「はい」
フィーアが魔力を解放する。
「――エンチャント・風神」
瞬間。
轟ッ!!
フィーアの周囲に、凄まじい風が巻き起こった。
髪が大きくなびく。
足元の砂埃が舞い上がる。
以前の風属性エンチャントとは、明らかに違う。
進化した力。
――風神。
フィーアの身体に、風がまとわりつく。
「……」
レイも刀を抜いた。
「焔纏い」
刀身が炎に包まれる。
赤い炎が揺らめいた。
レイは魔物の大群を睨む。
「そこをどけ」
一歩。
「魔物達」
次の瞬間――。
レイとフィーアが同時に駆け出した。
「――!」
二人の姿が、一瞬で消える。
そして――。
魔物の群れの中で、炎と風が弾けた。
「うおおおおおっ!」
ユージが思わず叫ぶ。
レイは刀を振るう。
一閃。
また一閃。
魔物を次々と薙ぎ払っていく。
「流石に多いな!」
レイが踏み込む。
「――鬼炎乱舞!」
炎を纏った刀が大きく弧を描く。
「――一閃!」
広範囲を薙ぎ払う斬撃が走った。
魔物の群れが一気に吹き飛ぶ。
その隣では――。
フィーアの姿が見えない。
「……?」
次の瞬間。
別の場所で風が爆発した。
「――ッ!」
フィーアだった。
風神の力を纏った身体で、凄まじい速度で魔物の間を駆け抜けている。
「速すぎる……!」
冒険者が呟く。
フィーアは二本の小刀を自在に操る。
そして――。
「風刃エンチャント」
小刀に鋭い風がまとわりつく。
一振り。
魔物が吹き飛ぶ。
二振り。
さらに別の魔物が倒れる。
フィーアが通り過ぎた後には、魔物の群れだけが大きく崩れていた。
「……」
レイがその光景を見る。
「フィーア、まじで速いな」
フィーアが振り返る。
「風神のおかげですね」
「攻撃魔法をエンチャントに使うって聞いたことないんだが」
「風刃ですか?」
「ああ」
レイは苦笑する。
「もしかしてフィーアって――」
刀を振るう。
「酒呑童子と互角に戦えるんじゃね?」
フィーアは少し考える。
「流石に、それは難しいですが」
小刀を構える。
「勝てるものはありますよ」
「まじか」
「スピードだけなら――」
フィーアの姿が消える。
次の瞬間、レイの横に立っていた。
「酒呑童子様にも互角」
そして微笑む。
「いえ、それ以上に戦えると思います」
「……」
レイが固まる。
「流石にやばいな」
「ありがとうございます」
「褒めてないぞ」
「ふふっ」
しかし――。
まだ魔物は減りきっていない。
むしろ、ダンジョンから次々と溢れ出している。
フィーアが魔物を見る。
「レイ様」
「ん?」
「まだ、こんなに湧いてきています」
「……そうだな」
レイは刀を構え直す。
「じゃあ――」
大きく息を吸う。
「俺の攻撃に合わせられるか?」
フィーアが微笑む。
「任せてください」
「じゃあ――」
レイが地面を踏みしめる。
「一気に行くぞ」
「はい!」
レイが大きく息を吐いた。
「ふぅ……」
魔力が膨れ上がる。
そして――。
「――酒呑豪嵐!」
ドンッ!!
レイが刀を地面に突き刺した。
次の瞬間。
地面から炎の嵐が巻き起こる。
「――!」
目の前にいた大量の魔物が、一斉に空中へ巻き上げられていく。
「フィーア!」
「はい」
フィーアが跳ぶ。
「狙いやすいですね」
両手の小刀を構える。
「――絶風ノ太刀!」
二本の小刀が風を纏いながら伸びていく。
まるで巨大な風の刃。
空中へ浮かされた魔物たちへ向かって――。
一気に振り抜く。
――ザンッ!!
風の刃が大群を薙ぎ払った。
レイが目を丸くする。
「……俺いらなくね?」
フィーアが着地する。
「レイ様のおかげですよ」
「そ、そうか」
ユージが遠くから叫ぶ。
「いや、二人とも強すぎだろ!」
アルスも呆然としている。
「さっきまで六千体以上いたんだぞ……」
ラウスも言葉を失っていた。
「一体も……いない……」
目の前にいたはずの大量の魔物が――。
完全に消えていた。
レイは周囲を見る。
「……今だ」
フィーアを見る。
「魔物が全員いなくなった」
静寂が訪れる。
「……終わった?」
一人の冒険者が呟く。
誰も答えない。
「六千体以上……いたよな?」
「……いた」
「それを……二人で?」
騎士たちも言葉を失っていた。
「俺たち、さっきまで必死に戦ってたんだぞ……」
「なのに、あの二人は……」
騎士団長がゆっくりと息を吐く。
「……神速の双剣姫」
そしてレイを見る。
「それに、レイと名乗る男……」
ギルドマスターは呆然としたまま呟いた。
「六千体以上の魔物を……あっという間に……」
一人の騎士が苦笑する。
「俺たち……今まで、何と戦っていたんでしょうか……」
その言葉に、周囲から小さな笑いが漏れる。
やがて誰かが言った。
「……助かった」
「……ああ」
「本当に、助かった」
そして最後に、一人の冒険者が呟く。
「あの二人が味方で、本当によかったな」
誰も否定しなかった。
そして――。
「グールダンジョンへ行く」
「はい」
レイはユージたちを見る。
「ユージ、アルス、ラウス」
「おう!」
「後ろは頼む」
「任せろ!」
レイたちは走り出した。
「行くぞ!」
――だが。
グールダンジョンへ近づいた瞬間。
「……!」
地面が震えた。
「ガウッ!」
アカマルが唸る。
ダンジョンの入口から、再び大量の魔物が現れる。
「次から次へと!」
レイが刀を構える。
ユージも雷を纏う。
「まじで無限かよ!」
アルスが剣を抜く。
「ここまで来て……!」
ラウスも構える。
「どうする!?」
その時。
フィーアが前へ出た。
「レイ様」
「?」
「ミリア様は任せました」
フィーアはアカマルを見る。
「アカマル様も頼みますね」
「ガウ!」
「え?」
レイがフィーアを見る。
「フィーア?」
「ここの魔物たちは私に任せてください」
「一人で?」
「はい」
フィーアは小刀を構える。
「全員倒したら、後から追いかけます」
レイは少しだけ考える。
そして――。
「分かった」
フィーアを見る。
「一つ約束だ」
「はい?」
「危なくなったら逃げること」
フィーアが笑う。
「分かりました」
「まぁ……」
レイも少し笑う。
「フィーアなら負けることはないだろうけどな」
「ありがとうございます」
フィーアが魔物の群れを見る。
「道を開きます」
次の瞬間。
「――風刃」
フィーアの身体が消えた。
魔物の群れの中を、風のように駆け抜ける。
「――!」
小刀が閃く。
一体。
二体。
十体。
魔物が次々と倒れていく。
その動きは、もはや人間の目では追いきれない。
「行ってください!」
フィーアが叫ぶ。
「私はここで魔物たちを食い止めます!」
レイは一度だけ振り返った。
「おう!」
そして――。
「行くぞ!」
ユージが走る。
「だな!」
アルスも続く。
「行こう!」
ラウスも走る。
レイたちはグールダンジョンへ飛び込んだ。
「でも――」
ユージが走りながら振り返る。
「フィーアさん、本当に一人で大丈夫なのかよ!」
レイは即答する。
「絶対大丈夫だ」
「……即答かよ」
「フィーアだからな」
アルスが周囲を見る。
「ラミールダンジョンからも魔物が溢れているらしい」
「そっちは国に任せればいい」
レイは前を見る。
「俺たちはこっちだ」
ラウスが尋ねる。
「ダンジョンに入ったのはいいけど……」
「ん?」
「ミリアがどこにいるか分かるの?」
レイは前を走るアカマルを見る。
「アカマルについてく」
「そっか!」
ユージが納得する。
「アカマル、鼻が効くもんな!」
「めちゃくちゃ効くぞ」
「ガウ!」
アカマルが先頭を走る。
迷いはない。
一度も振り返らない。
ただ、ひたすら奥へ。
奥へ。
そして――。
アルスが周囲を見て、眉をひそめた。
「……おいおい」
「どうした?」
「この道って……」
レイも気づいていた。
見覚えがある。
以前――。
あの黒い騎士と出会った場所へ続いている。
「……」
レイの表情が変わる。
アカマルはさらに奥へ進んでいく。
「アカマル!」
「ガウ!」
「ミリアはこの先か?」
「ガウ!」
レイは走る速度を上げた。
やがて――。
遠くに巨大な扉が見えてくる。
その先から――。
異常な熱気が漏れ出していた。
「……熱い」
ユージが汗を拭う。
「なんだよ、この熱気……」
アカマルが扉の前で立ち止まる。
「ガウ……!」
そして――。
扉の向こうへ向かって吠えた。
「……」
レイは扉を見る。
嫌な予感がする。
「開けるぞ」
「おう」
レイたちは扉を越えた。
その瞬間――。
「……!」
全員が息を呑んだ。
そこは、まるで巨大な宮殿だった。
高い天井。
広大な空間。
そして――。
床には、倒れている仲間たち。
「……おいおい」
ユージの顔から血の気が引く。
アルスが駆け出す。
「助けるぞ!」
ラウスも続く。
「これは……やばい……!」
レイは立ち止まった。
視線の先。
そこには――。
倒れているルナ。
セニア。
そしてカナ。
その近くに――。
メルナとミリアがいる。
メルナは動けない様子で倒れている。
そして、その前には――。
「……」
黒い騎士。
レイの目が細くなる。
熱気に満ちた宮殿。
倒れた仲間。
そして――。
あの赤い瞳。
レイの手が、刀へ伸びる。
「……全力で行く」
その声は静かだった。
だが――。
そこには、抑えきれない怒りが滲んでいた。
レイが踏み出す。
そして――。
「――!」
黒い騎士へ向かって、一気に駆け出した。
――そして、時間は戻る。
カナが最後に呟いた言葉。
「……レイさん……」
その声が届いた瞬間。
――ドゴォォォン!!
黒い騎士の身体が吹き飛んだ。




