31話 変異種ゴーレム
十層のボスであるオークゴブリンを倒したレイたちは、さらにダンジョンの奥へと進んでいた。
階段を下りるたびに、空気が少しずつ変わっていく。
魔物の気配も先ほどまでとは明らかに違っていた。
レイは周囲を見渡しながら歩く。
「……結構深くなってきたな」
「そうですね」
先頭を歩くフィーアが答える。
しばらく進んだところで、フィーアが足を止めた。
「ここが十五層です」
「ここか」
レイも周囲を見渡す。
カナが後ろから階段を下りてくる。
「着きましたね」
「ここかぁー」
ユージも大きく伸びをする。
「どうする?」
レイはフィーアを見る。
「ここは何の魔物が出るんだ?」
「そうですね。ライトサーベルや蜘蛛型の魔物が多いですね」
「ライトサーベルか」
レイが呟く。
フィーアは説明を続けた。
「ライトサーベルは、特別な魔法を使う魔物ではありません。単純に――」
「足が速い」
レイが先に答える。
「はい。その通りです」
「面倒なタイプだな」
「ですが、皆さんなら問題ないでしょう」
その直後だった。
――ガサッ。
壁の陰から何かが動いた。
さらに天井からも、何かが垂れ下がってくる。
「……来たな」
レイが構える。
次の瞬間。
複数のライトサーベルと蜘蛛型の魔物が、一斉に姿を現した。
「ライトサーベル五匹と……蜘蛛が七体か」
ユージが拳を握る。
「俺もいいとこ見せないとな!」
アルスも刀を抜いた。
「だな」
ルナが楽しそうに笑う。
「私も〜」
セニアも剣を構える。
「私もよ」
レイは周囲を見る。
「じゃあ、手分けするか」
「おう!」
ユージが先に飛び出した。
「雷豪!」
雷がユージの身体を包み込む。
一瞬で加速すると、迫ってきた蜘蛛型の魔物へ拳を叩き込んだ。
「うおおお!」
レイも同時に動く。
「焔纏い」
炎を纏ったレイが地面を蹴る。
一体、二体、三体。
迫ってくる蜘蛛型の魔物を次々と倒していく。
「まだまだ!」
ユージも負けじと魔物を蹴散らしていく。
その横をアルスが通り抜けた。
「一刀両断」
一閃。
ライトサーベルの一体が倒れる。
「次!」
アルスはそのまま別の個体へ向かっていく。
ライトサーベルは異常な速度でアルスの背後へ回り込む。
「――そこか」
アルスが振り返る。
だが、そのライトサーベルよりも早く、ルナが動いた。
「能力発動――吸収と反発!」
ライトサーベルがルナへ向かって爪を振る。
しかし、その攻撃はルナの能力によって吸収された。
「もらったよ〜」
ルナが笑う。
「反発!」
吸収した力が、そのままライトサーベルへと返される。
「ギャウッ!」
ライトサーベルが吹き飛び、そのまま倒れた。
「よしっ!」
ルナが嬉しそうに拳を握る。
「相変わらず便利な能力だな」
レイが感心する。
「すごいでしょ〜?」
その隣では、セニアが静かに目を閉じていた。
「想像力」
セニアの手元に、一本の剣が現れる。
そのまま駆け出し――。
「……はっ!」
一閃。
ライトサーベルを斬り伏せる。
「……」
セニアは少し息を吐いた。
レイがその様子を見る。
「ルナの能力が吸収と反発、セニアの能力が想像力とはな」
「すごいでしょ〜?」
ルナが胸を張る。
一方、セニアは少し苦しそうだった。
「……」
「疲れてるのか?」
レイが尋ねる。
セニアは額に手を当てる。
「この能力……脳に負担をかけるのよ」
「そうか」
レイは少し心配そうに見る。
「だが、強力だな」
「ま、まぁね」
セニアは少し照れながら答えた。
その間にも、残った魔物たちはユージたちによって倒されていく。
やがて――。
最後の魔物が地面に倒れた。
ユージが拳を握る。
「よし!」
「さぁ、行こう!」
アルスも刀を収める。
「僕もまだまだ活躍しないとな」
ラウスも笑う。
「僕も活躍しなきゃな」
「私も!」
メルナもやる気満々だ。
フィーアは皆を見渡す。
「では、もう少し奥へ行きましょうか」
「おう」
レイたちは再び歩き始めた。
⸻
それからしばらく。
十五層の奥へ進んでいくにつれ、魔物の数も増えていった。
ライトサーベルが現れては倒し、蜘蛛型の魔物が現れては倒す。
そのたびに、レイたちはそれぞれの力を使って進んでいく。
やがて――。
「……広いな」
レイが足を止めた。
目の前には、巨大な空間が広がっていた。
天井は高く、ところどころに青白い鉱石が埋め込まれている。
その中央に――。
巨大な何かがいた。
「……あいつは?」
レイが目を細める。
そこにいたのは、巨大なゴーレムだった。
通常のゴーレムよりも明らかに身体が大きい。
そして何より異様だったのは――。
ゴーレムが地面に落ちていた鉱石を、まるで食事のように口へ運んでいることだった。
ガリッ。
ゴリッ。
魔鉱石を噛み砕く音が、広い空間に響く。
「……魔鉱石を食ってるな、あいつ」
フィーアも警戒する。
「ゴーレム……? ですが、この階層に出るモンスターではありませんね」
「じゃあ何でここにいるんだ?」
メルナが不思議そうに尋ねる。
レイはゴーレムを観察する。
「分からないな」
ゴーレムはさらに魔鉱石を食べ続ける。
ガリッ。
その身体から、徐々に魔力が溢れ始めた。
「変異種ですか……?」
フィーアが呟く。
ユージが拳を握る。
「あいつ、どうする?」
レイは少し考える。
そしてフィーアを見る。
「フィーアは俺たちが危なくなったら助けてくれ」
「はい」
ルナが笑う。
「じゃあ、皆んなで頑張ろ〜!」
「おう」
レイたちは一斉に構えた。
フィーアだけが少し後ろへ下がる。
「気をつけてくださいね」
「ああ」
その瞬間――。
ゴーレムがこちらを向いた。
ギロッ。
赤い瞳が、レイたちを捉える。
「……気づいたか」
ゴーレムがゆっくりと立ち上がる。
ズンッ!
地面が揺れた。
「相当な量の魔鉱石を食べたのか?」
次の瞬間。
ゴーレムが巨大な拳を振り下ろした。
「来るぞ!」
レイが手を前に出す。
「シールド!」
魔力の障壁が展開される。
ドォンッ!
巨大な拳がシールドへ叩きつけられる。
「くっ……!」
レイの足が少し後ろへ滑る。
「力もかなりあるな」
そして――。
ゴーレムの身体に異変が起きた。
「……ん?」
レイが目を疑う。
「腕……増えたか?」
ゴーレムの身体から、新たな二本の腕が生えていた。
四本腕。
「まじかぁ……」
ユージが呆れる。
アルスも苦笑する。
「めんどくさいな」
「すぐにやろう」
ラウスが構える。
「私も行きます!」
カナも魔力を高める。
「行こう」
セニアも剣を構える。
メルナも気合を入れる。
「やるよ!」
レイは全員を見る。
「前衛はユージとアルス」
「ラウスは支援してやってくれ」
「分かった!」
「俺か?」
「おう」
「分かった!」
「僕も了解」
「俺は中間くらいにいる」
「レイは?」
「全体を見る」
レイがゴーレムを見据える。
「こいつ、何かおかしい」
「まずは攻撃してみましょう!」
カナが魔法を放つ。
「ファイアーローズ!」
ゴーレムの周囲に無数の炎の薔薇が咲く。
「爆ぜて!」
ドォン!
炎が一斉に爆発する。
しかし――。
ゴーレムは微動だにしなかった。
「……え?」
カナが目を丸くする。
炎が消える。
そこには傷一つないゴーレムが立っていた。
「な、なんで!?」
レイはゴーレムの身体を観察する。
「……やっぱりか」
「レイさん?」
「炎の魔鉱石を食べたんだろうな」
レイが説明する。
「魔鉱石には、それぞれ属性がある。そして、その属性の魔力を吸収する性質がある」
「つまり……」
「こいつが食べた魔鉱石が炎属性なら、炎魔法は効かない」
ルナが首を傾げる。
「じゃあ魔法はダメー?」
「普通に撃ったらな」
レイはゴーレムを見る。
「魔法を撃つたびに、こいつに魔力を吸収される。そして吸収した属性まで纏う」
「じゃあ、魔法を使うほど強くなるってこと?」
カナが尋ねる。
「そういうことだ」
セニアが眉をひそめる。
「なら、私たちは魔法を使えないわよ」
レイは少し考える。
「……いや」
「?」
「まぁ、魔法を撃ちまくれ」
「え?」
全員がレイを見る。
カナが困惑する。
「でも、全部吸収されるんですよね?」
「ああ」
「それなら敵の思う壺じゃ……」
「同じ属性の魔法を撃ちまくれ」
「……?」
レイはそれ以上説明しなかった。
「とにかくやってみろ」
ラウスが頷く。
「分かったよ。皆んな、やってみようか」
「はい!」
「やるしかないね〜」
「分かったわ」
「私も!」
後衛が一斉に魔法を放つ。
炎。
炎。
炎。
無数の炎がゴーレムへ集中する。
しかし――。
ゴーレムは倒れない。
むしろ身体が赤く染まり、どんどん熱を帯びていく。
前衛で戦っていたユージが顔をしかめる。
「こいつ……身体がどんどん熱くなってやがる!」
アルスも距離を取る。
「これじゃ近づくのも難しいな」
レイは少し離れたところから眺める。
「おーい、お前ら」
「なんだよ!」
「それ、炎魔法を吸収してるから熱くなってるんだ」
「分かってるよ!」
「まぁ頑張れ」
「他人事かよ!」
アルスも苦笑する。
「だが、やるしかないな」
ユージが雷を纏う。
「だったら俺も!」
「雷衝!」
雷撃がゴーレムへ直撃する。
「どうだ!」
しかし――。
ゴーレムの身体から雷が走り始める。
「……」
ユージが固まる。
「も、もしかして俺の電気も吸収された!?」
「そうっぽいな」
アルスが答える。
「マジかよ!」
ゴーレムが雷と炎を纏いながら、四本の腕を振り回す。
「うおっ!」
ユージが拳を避ける。
アルスも斧のような拳を刀で受け流す。
「重い……!」
その間にも、カナたちは炎魔法を撃ち続ける。
「ファイアーローズ!」
「炎魔法!」
「いきます!」
炎が次々とゴーレムへ吸収されていく。
カナが叫ぶ。
「レイさん! これじゃ敵の思う壺です!」
「このまま炎魔法を撃ち込み続けて」
セニアが声を上げる。
「これ以上撃っても、ユージたちが厳しくなるだけだわ!」
「そんなことはない」
レイはゴーレムを見つめる。
「もう少しだ」
「……?」
メルナが首を傾げる。
「わ、分かった!」
メルナも炎魔法を放つ。
ドォン!
ドォン!
何度も何度も炎がゴーレムを包む。
「お兄ちゃん!」
「ん?」
「失敗したら責任とってね!」
レイは笑った。
「あいよ」
後衛の全員が、ひたすら炎魔法を撃ち続ける。
しかし、前衛は限界に近づいていた。
「熱すぎる!」
ユージが叫ぶ。
ゴーレムは四本の腕を自在に振り回している。
一撃一撃が重い。
「こいつ、どんどん魔力も上がってるぞ!」
アルスが歯を食いしばる。
「このままだと押し切られる!」
ゴーレムの拳がユージへ迫る。
「くっ!」
ドゴォン!
「ぐあっ!」
ユージが吹き飛ばされる。
「ユージ!」
アルスが叫ぶ。
ユージは地面を転がりながら立ち上がる。
「……大丈夫!」
しかし、殴られた腕には赤くなった跡が残っていた。
「アッツ……!」
アルスが心配そうに見る。
「大丈夫か?」
「なんとか……」
レイはその様子を見ながら、静かに呟いた。
「……もうそろそろだな」
「何が!」
アルスが叫ぶ。
その瞬間――。
ピシッ。
ゴーレムの身体から、小さな音が響いた。
「……?」
ピシッ。
ピシピシッ。
ゴーレムの身体に、亀裂が走る。
アルスが目を見開いた。
「な、何が起こってる!?」
レイは冷静に答える。
「魔鉱石は魔法や魔力を吸収する」
「……」
「だが、その吸収量にも限界がある」
レイがゴーレムを指差す。
「限界を超えれば――壊れる」
「ま、まさか……」
アルスが目を見開く。
「炎魔法を撃ち込みまくってたのは……」
「おう」
レイは頷いた。
「限界が来るのを待っていた」
ゴーレムの身体に、さらに大きな亀裂が走る。
ピシィッ!
そして――。
ゴーレムの身体が少しずつ崩れ始めた。
「……!」
カナが驚く。
「レイさんの作戦がこれだったんですか?」
「そういうこと」
「文句を言ってごめんなさい……」
セニアが素直に頭を下げる。
レイは苦笑する。
「別にいい」
そしてゴーレムを見ながら呟いた。
「俺はただ、あの硬い身体を持つやつとまともに戦いたくなかっただけだ」
「お兄ちゃんらしいね」
メルナが笑う。
「そこまで考えられなかったよ〜」
ルナも感心する。
ラウスも頷いた。
「ほんと頭いいね」
フィーアも少し驚いた様子だった。
「まさか、限界まで魔法を撃ち続けるとは……」
レイがフィーアを見る。
「フィーアでさえ気づいてなかったか」
「はい。完全に意表を突かれました」
やがてゴーレムの身体が完全に崩れ落ちる。
大きな音と共に、地面へ倒れた。
「……終わったな」
レイが息を吐く。
ユージもその場に座り込む。
「疲れた……」
「俺もだ」
アルスも剣を収める。
フィーアが皆を見る。
「どうしますか? もう少し奥へ進みますか?」
ユージが即答する。
「いや、帰りたい」
「私も賛成」
セニアが頷く。
カナたちも頷いた。
「私も帰りたいです」
「僕も」
「私も〜」
「私も……」
「帰ろう!」
全員一致だった。
フィーアが微笑む。
「では、帰りましょうか」
レイも頷く。
「おう」
そして一行は、来た道を戻っていった。
⸻
しばらくして――。
レイたちは無事にラミールダンジョンを出た。
外の空気を吸ったユージが、大きく息を吐く。
「……疲れたぁ」
フィーアが皆に尋ねる。
「どうでしたか、皆さん?」
ユージは即答した。
「疲れた」
アルスは少し笑う。
「良い経験だった」
ルナは楽しそうだ。
「楽しかったよ〜」
カナも嬉しそうに答える。
「自分の実力を知ることができたので、嬉しいです!」
セニアは拳を握る。
「もっと強くなりたいわ」
ラウスは少し落ち込んでいた。
「僕はあまり役に立てなかったな……」
メルナも同じように呟く。
「私こそ何もできなかった……」
レイは二人を見る。
「そんな気にするな」
「……」
「今日は相手が特殊だっただけだ」
レイはそう言って、歩き出す。
「また強くなればいいだろ」
ラウスとメルナは顔を見合わせる。
そして――。
「うん!」
二人も笑顔になった。
レイたちはその場で解散することにした。
「じゃあ、今日は解散するか」
「だな!」
ユージが手を上げる。
カナも笑顔で言う。
「また遊びましょう!」
「だね〜」
ルナも手を振る。
こうして、ラミールダンジョンでの一日は終わった。




