28話 女子会
夏休み。
レイの家では、いつもとは少し違った時間が流れていた。アルス、ユージ、ラウスが話していた
「……暇だな」
ベッドに寝転がりながら、レイは天井を見つめていた。ユージ達も寝転がっていた
その頃。
レイの部屋から少し離れた場所にある、ルナの部屋では――。
「女子会~~!」
ルナが両手を上げて宣言していた。
部屋の中央にはテーブルが置かれ、その上には色とりどりのケーキや紅茶が並んでいる。
集まっているのは、ルナ、カナ、セニア、メルナ、そしてフィーア。
さらに――。
「クゥン」
アカマルもいた。
「はいはい、アカマルちゃんもこっちね~」
ルナがアカマルを自分の隣へ呼ぶ。
しかしアカマルは少し考えた後、メルナの方へ歩いていく。
「えっ、そっち!?」
「ふふ」
メルナが笑いながらアカマルを抱き上げる。
「アカマルちゃんは私がもらった」
「ガウ」
「裏切られた~!」
ルナが大げさに嘆く。
その様子を見ていたカナはクスクスと笑った。
「アカマルさん、人気ですね」
「本当にそうね」
セニアも微笑む。
「こんなに可愛ければ当然ですわ」
フィーアは紅茶を注ぎながら、静かに頷いた。
「レイ様の自慢の相棒ですからね」
「レイが自慢してるところ、あんまり見たことないけど」
メルナが言う。
「兄さん、そういうの表に出さないから」
「確かに~」
ルナがケーキを一口食べる。
「……うん! 美味しい!」
「美味しいですね」
カナもケーキを食べながら頷く。
「このケーキ、どこのものなんですか?」
「街で買ってきたのよ」
セニアが答える。
「せっかくの女子会ですもの。少しくらい豪華にしてもいいでしょう?」
「さすがセニアちゃん~」
ルナが笑う。
「それじゃあ――」
ルナはケーキを置き、皆を見渡した。
そして――。
「今回の議題は!」
大きく息を吸う。
「カナちゃんとレイのくっつけ作戦~~!」
「……え?」
カナの動きが止まった。
「素晴らしい議題よ」
セニアが即座に賛成する。
「か、カナちゃんがお兄ちゃんのこと!?」
メルナが驚いたように目を見開く。
フィーアも少し考えた後、納得したように頷いた。
「そういうことですか。全面的に協力しますよ」
「ルナちゃん何言ってるんですか!」
カナの顔が一気に赤くなる。
「まぁまぁ~」
ルナは楽しそうに笑う。
「せっかく女子だけで集まったんだから、こういう話しようよ~」
「作戦よね」
セニアが真剣な顔をする。
「どうすればレイがカナちゃんの気持ちに気づくか。これはかなり重要な問題ですわ」
「お兄ちゃん、鈍感だからなぁ……」
メルナが腕を組む。
「本当にそうよね」
セニアも頷く。
「かなり鈍感ですわ」
「そうですね」
フィーアまで同意する。
「皆さん……」
カナは困ったような顔をする。
「レイ様は、人の気持ちに鈍感というより……自分に向けられているものに気づきにくいところがあります」
「それを鈍感って言うんじゃない?」
メルナが言う。
「確かに」
フィーアが頷く。
「じゃあ、まずは兄さんの好みを調べよう」
メルナが言った。
「好み?」
カナが首を傾げる。
「どんな女の子が好きなのか知れば、作戦を立てやすいでしょ」
「なるほど~」
ルナが身を乗り出す。
「フィーアはずっとお兄ちゃんと一緒だったんでしょ?」
「はい」
「何か分かることない?」
フィーアは少し考える。
「レイ様の好みですか……」
「うん!」
「そうですね……」
フィーアは思い返すように目を閉じる。
「髪が長い人が好きかと」
「へぇ~」
メルナの目が輝く。
「お兄ちゃん、ロングがタイプなんだ」
「恐らくです」
「何でそう思ったの?」
「奥様からの質問攻めに、一度だけ答えていました」
「ナイスお母さん!」
メルナが拳を握る。
「お母さん、そこだけは仕事してる!」
「そこだけって……」
カナが苦笑する。
セニアはカナを見る。
「ロングが好きなら、カナちゃんは大丈夫ね」
「え?」
「もうロングでしょう?」
「そ、それは……」
カナが自分の髪に触れる。
「そうですけど……」
「だね~」
ルナも頷く。
「第一条件クリア!」
「第一条件って何ですか!」
カナが慌てる。
「じゃあ次は性格かな」
メルナが続ける。
「お兄ちゃんはどういう性格の人が好きなんだろう」
「優しい人では?」
フィーアが答える。
「レイ様は昔から、困っている人を放っておけない方でしたから」
「それならカナちゃんも大丈夫ね」
セニアが即答する。
「カナちゃん、優しいもの」
「そ、そうですか……?」
カナはさらに顔を赤くする。
「それに――」
フィーアが続ける。
「レイ様は、自分のことより他人を優先する方ですから。自分の弱いところを受け止めてくれるような人とは、相性がいいかもしれません」
「……」
カナが黙る。
ルナがニヤッと笑う。
「カナちゃん、今ちょっと嬉しかったでしょ~?」
「嬉しくないです!」
「顔赤いよ?」
「暑いだけです!」
「部屋、涼しいけど」
「……」
カナは何も言えなくなった。
メルナが笑う。
「これは分かりやすいなぁ」
「メルナちゃんまで……」
「ごめんごめん」
メルナは笑いながら謝る。
しかし、すぐに真剣な表情へ戻った。
「でも問題は、お兄ちゃんがアプローチしても気づかないことだよなぁ」
「そうね」
セニアが腕を組む。
「普通なら気づくようなことでも、レイは気づかないでしょうね」
「そうですね」
フィーアも頷く。
「ですから、少し分かりやすくする必要があるかもしれません」
「分かりやすく……」
カナが呟く。
「たとえば?」
ルナが考える。
「隣に座る!」
「いつも座ってますよ」
「じゃあ、いっぱい話す!」
「それも……結構しています」
「じゃあ――」
ルナは少し考え込む。
「……もっとガンガン行こ~!」
「む、無理です!」
カナが即座に答える。
「どうして?」
「恥ずかしいです……」
「カナちゃん、かわいい~」
ルナが笑う。
「でも、本当にガンガン行かないとレイには伝わらないと思うよ」
メルナも頷く。
「あの鈍感なお兄ちゃんでも、ガンガン行けば流石に気づくよ」
少し間を置いて。
「……気づくよね?」
メルナが不安そうに尋ねる。
フィーアは少し考えた。
「どうでしょうかね」
「えぇ……」
「レイ様ですから」
「それはそうだけど……」
セニアも腕を組む。
「難しく思えてきたわ」
「むぅ……」
カナは頬を膨らませる。
その姿を見て、メルナが笑う。
「カナちゃん、どうぞ」
メルナは膝の上にいたアカマルをカナへ渡した。
「え?」
「ほら」
「ありがとうございます」
カナはアカマルを受け取る。
「アカマルさん」
「クゥン」
カナはアカマルを優しく抱きしめる。
「ふわふわですね」
「ガウ……」
アカマルは気持ちよさそうに目を細めた。
「可愛い~」
ルナも頭を撫でる。
「アカマルちゃんって、本当に皆に懐いてるよね」
「兄さんのところから離れても平気なんだ」
メルナが言う。
「レイが寂しがるかもね」
「……それはないと思います」
カナが笑う。
「レイさん、アカマルさんが戻ってくるまで普通に待ってそうです」
「確かに」
セニアが笑う。
「レイらしいわ」
しばらく皆でアカマルを撫でていると、ふとメルナが思い出したように尋ねた。
「そういえば――」
メルナがカナを見る。
「ユージさん達は、カナさんの気持ち知ってるんですか?」
「ユージは知らないよ~」
ルナが答える。
「アルスさんは?」
「知ってるわ」
セニアが答えた。
「ユージに伝えたら暴れそうだったから、教えなかったけど」
「暴れる?」
メルナが首を傾げる。
「きっと大声で騒ぐでしょうね」
フィーアが苦笑する。
「『マジかよ!』とか言いそうです」
「めっちゃ想像できる」
メルナが笑う。
「アルスは堅実だからね~」
ルナが言う。
「そうね。アルスなら余計なことをせず、ちゃんと協力してくれそう」
セニアも頷く。
フィーアが紅茶を一口飲む。
「それなら、彼にも手伝ってもらう方がいいかもしれませんね」
「だね!」
メルナが頷く。
「特に――」
フィーアは少し考える。
「私たちでは聞きにくいことを聞いてもらうのがいいでしょう」
「聞きにくいこと?」
カナが恐る恐る尋ねる。
「レイ様の好みなどです」
「……」
カナの顔が再び赤くなる。
「それは……」
「いいですわね!」
セニアが乗ってくる。
「男性同士なら、そういう話もしやすいでしょう」
「確かに~」
ルナも笑う。
「アルスならレイに自然に聞けそう」
「ユージさんは?」
メルナが尋ねる。
「ユージはダメ」
ルナとセニアが同時に答えた。
「なんで!?」
メルナが笑う。
「絶対余計なことまで聞くから」
「そして絶対大声で言うでしょうね」
「……なるほど」
メルナも納得した。
「じゃあアルスさんに決定!」
「勝手に決めて大丈夫なんですか……?」
カナが困ったように言う。
「大丈夫大丈夫~」
ルナが笑う。
「カナちゃんのためだよ~」
「うぅ……」
カナはアカマルを抱きしめる。
「クゥン……」
「アカマルさん……」
「慰めてるのかな?」
メルナが笑う。
「優しいね」
カナはアカマルの頭を撫でる。
「ありがとうございます……」
アカマルは気持ちよさそうに目を閉じた。
「それじゃあ、次は――」
ルナが再びケーキへ手を伸ばす。
「どうやってレイにカナちゃんを意識させるか!」
「まだやるんですか!?」
「もちろん!」
「女子会ですもの」
セニアも楽しそうに笑う。
「とことん話し合いましょう」
「私も協力するよ」
メルナも笑う。
フィーアも頷く。
「私もできる限りお手伝いします」
「皆さん……」
カナは恥ずかしそうにしながらも、少しだけ笑った。
「……ありがとうございます」
その後も女子会は続いた。
レイが好きそうなもの。
レイが苦手そうなもの。
どうすれば自然に二人きりで話せるか。
そして、どうすればレイの鈍感さを突破できるのか。
様々な案が飛び交った。
しかし――。
「……これ、本当にレイさん気づきますかね?」
カナが最後に呟く。
「……」
全員が黙った。
「難しいかもね」
ルナが苦笑する。
「やっぱり?」
「でも、諦める必要はないわ」
セニアが言う。
「作戦はまだ始まったばかりよ」
「そうそう!」
メルナも頷く。
「お兄ちゃんが鈍感なら、私たちが頑張ればいいんだよ」
「……はい」
カナは小さく頷いた。
そして、アカマルを抱きしめる。
「頑張ります……!」
「ガウ!」
アカマルも元気よく鳴いた。
「アカマルちゃんも応援してる~」
ルナが笑う。
そんな賑やかな時間も、やがて終わりを迎える。
フィーアが時計を見る。
「そろそろレイ様の部屋に戻りましょうか」
「だね~」
ルナが立ち上がる。
「楽しかった~!」
「私もよ」
セニアも立ち上がる。
メルナはカナからアカマルを受け取った。
「じゃあ、アカマルちゃん。お兄ちゃんのところに帰ろうか」
「クゥン」
「ほら、行こう」
「ガウ」
五人と一匹は部屋を出る。
廊下を歩いていると――。
「……そういえば」
メルナが呟く。
「お兄ちゃん、今何してるんだろう?」
「寝てるんじゃない?」
ルナが答える。
「ありそう」
セニアが笑う。
フィーアは少しだけ苦笑した。
「おそらく、何も知らずにのんびりしているでしょうね」
「……」
カナが黙る。
そして――。
「……それはそれで、レイさんらしいですね」
小さく笑った。
女子たちは知らない。
このとき部屋の中で呑気に寝転がっているレイが――。
自分についてどんな作戦会議が行われているのか、何一つ知らないことを。
そして
「レイ様の鈍感さをどう攻略するか」
その議題だけは、まだ終わっていなかった。




