26話 冒険者ギルド
ラミール王国の街中を、レイたちは歩いていた。
目的地は、この街にある冒険者ギルド。
旅に出たレイとメルナにとって、今日は初めての冒険者登録の日だった。
建物の前で、レイが足を止める。
「ここか」
「はい。ここが冒険者ギルドです」
フィーアが答える。
レイが目の前の建物を見上げる。
大きな建物だった。
入口からは、武器を持った冒険者たちが次々と出入りしている。
「初めて見た!」
メルナは目を輝かせていた。
「そんなに珍しいか?」
「だって冒険者ギルドだよ? なんかこう……冒険者って感じがする!」
「まぁ、確かにな」
「では、入りましょうか」
フィーアが扉を開ける。
三人と一匹が中へ入った瞬間、レイは思わず周囲を見渡した。
ギルド内には大勢の冒険者がいた。
剣士、魔法使い、弓使い。
酒を飲みながら話している者もいれば、受付で依頼について相談している者もいる。
「すごいな……」
レイが呟く。
その時だった。
「おい」
背後から声が聞こえた。
振り返ると、四人組の冒険者がこちらへ歩いてきていた。
先頭にいる男が、フィーアを見る。
「そこのメイド服のお姉さん」
「はい?」
「俺らと遊ばね?」
フィーアは穏やかな笑顔を浮かべた。
「申し訳ありません。お断りします」
「そんなこと言わずにさ」
「できませんね」
「俺はこのパーティーのリーダー、カイネルだ」
男――カイネルは、自信満々に名乗った。
だが、フィーアは特に反応しない。
その様子を見ていたレイが口を挟む。
「あのー」
「あ?」
「一応、この人は俺たちのメイド……いや」
レイは少し考える。
「家族だから。手を出さないでくれ」
フィーアが僅かに目を見開いた。
しかし、カイネルは不機嫌そうにレイを見る。
「なんだガキ。黙ってろ」
カイネルがレイへ近づく。
すると、フィーアが一歩前に出た。
「それ以上、レイ様やメルナ様に近づくのであれば……」
笑顔のまま、フィーアの声が低くなる。
「手加減はできませんよ」
「はっ。こんなガキのメイドやってるくらいなら、俺たちと来いよ」
「必要ありません」
「なら――」
カイネルたちがレイとメルナへ手を伸ばした。
その瞬間。
ドサッ!
四人全員が床へ倒れた。
「……え?」
メルナが目を丸くする。
レイも目を見開いていた。
「ふ、フィーア……速いな」
「レイ様、見えていましたか?」
「ギリギリ」
「それは良かったです」
フィーアは何事もなかったかのように微笑んだ。
「少し手加減しておきました」
「その速さで手加減って、おかしすぎるだろ……」
「そうでしょうか?」
「そうだよ!」
メルナが叫ぶ。
フィーアは倒れている冒険者たちを一瞥すると、再びレイたちへ向き直った。
「では、行きましょうか」
「ああ」
歩き出そうとしたレイだったが、ふと思い出したようにフィーアを見る。
「そういえばフィーア」
「はい?」
「さっき『家族』って言ったけど……」
「はい」
「俺、フィーアのことを家族って言ったんだな」
「はい。とても嬉しかったですよ」
フィーアが優しく微笑む。
「私にとって、レイ様とメルナ様は大切な家族ですから」
「……そっか」
「まぁ、そういうことで」
「お兄ちゃん、照れてる?」
「照れてない」
「照れてるじゃん」
「うるさい」
メルナが楽しそうに笑う。
「フィーア!」
「はい、メルナ様」
「もちろん私もフィーアのこと家族だと思ってるからね!」
「ありがとうございます」
フィーアの笑顔がさらに柔らかくなる。
「そう言っていただけると、本当に嬉しいです」
三人が歩き出す。
その後ろでは、先ほどの騒ぎを見ていた冒険者たちがざわついていた。
「おい……」
「ああ」
「あのメイド……もしかして」
「嘘だろ?」
一人の冒険者が、フィーアの姿を見ながら呟いた。
「『神速の双剣姫』じゃないか……?」
「やっぱりそうだ!」
「本物なのかよ……」
ギルド内が一気に騒がしくなる。
しかしフィーアは気にする様子もない。
「お気になさらず、行きましょう」
「お、おう」
「行こう!」
三人はそのまま受付へ向かった。
「先ほどは、うちの冒険者たちが申し訳ありませんでした」
受付嬢が頭を下げる。
「大丈夫ですよ」
フィーアが答える。
「ありがとうございます。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
フィーアがレイとメルナを見る。
「レイ様、メルナ様。どうぞ」
「俺たち、冒険者になりたい」
「私も!」
「冒険者登録ですね。承知しました」
受付嬢が手続きを始める。
「少々準備に時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろん」
その時だった。
「すまんな」
奥から、一人の男が現れた。
「うちの馬鹿どもが迷惑をかけた」
「俺は別に大丈夫だけど」
レイが答える。
男――ギルド長は、フィーアへ視線を向けた。
そして、その顔が固まる。
「……まさか」
ギルド長が目を見開いた。
「その姿……」
フィーアは何かを察したように、僅かに目を逸らした。
それを見たレイが驚く。
「フィーアが目を逸らした……?」
「お兄ちゃん、そこ?」
「いや、だって初めて見た」
メルナも心配そうにフィーアを見る。
「大丈夫?」
「はい。大丈夫ですよ」
フィーアは小さく息を吐く。
「……はぁ」
そしてギルド長へ向き直った。
「はい。私が『神速の双剣姫』です」
「やはり……!」
ギルド長が驚く。
「これは失礼しました」
そしてレイとメルナを見る。
「では、そちらの子供たちは……?」
「私の主人様……」
フィーアは一瞬言葉を止める。
「……いえ」
微笑んだ。
「私の大切な家族です」
レイとメルナが顔を見合わせる。
「フィーア……」
「いいじゃん!」
メルナが嬉しそうに笑った。
その時、受付嬢が戻ってくる。
「お待たせしました。準備ができました」
「それでは、ランク判定を行いますね」
受付嬢が魔水晶を台の上へ置いた。
「ランク判定は簡単です。この魔水晶に手をかざしてください」
「魔力量を測るのか?」
「はい。魔力量に加えて、能力などを総合的に判断し、初期ランクを決定します」
「なるほど」
「ただし、一度決まったランクがずっと続くわけではありません。依頼をこなしたり、昇格試験に合格したりすることで、ランクを上げることができます」
「分かった」
「それでは、メルナさんからお願いします」
「はい!」
メルナが魔水晶へ手をかざす。
その瞬間。
魔水晶が金色に輝いた。
そして――
黒へと変わる。
「……!」
受付嬢が驚く。
「すごいですね……!」
「何が?」
「魔力量がかなり多いです。魔力量だけで見れば、Bランク相当ですよ」
「Bランク……?」
メルナが目を丸くする。
「すごいのかな?」
「もちろんです」
フィーアが即答した。
「この年齢でBランク相当の魔力量というのは、十分に驚異的ですよ」
「そ、そうなんだ……」
メルナが少し照れる。
「能力を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい!」
メルナが胸を張る。
「召喚能力です!」
「召喚能力ですか。とても優秀な能力ですね」
受付嬢が記録していく。
「では……メルナさんの初期ランクはBランクです」
「Bランク……!」
ギルド長も驚く。
「本当にすごいな。この年齢でBランクとは」
「ありがとう……!」
メルナは嬉しそうに笑った。
「では次に……」
受付嬢がレイを見る。
「レイさん、お願いします」
「うい」
レイが魔水晶へ手をかざす。
その瞬間。
魔水晶が激しく輝き始めた。
赤。
青。
緑。
黄色。
白。
次々と色が変化していく。
「……え?」
受付嬢が固まる。
そして――
ピシッ。
魔水晶に亀裂が入った。
「……」
「……」
「……」
三人が無言になる。
「やべ」
レイが小さく呟いた。
「こ、これは……」
受付嬢が魔水晶を見る。
ギルド長も絶句していた。
「お兄ちゃん……」
「なんだ?」
「魔水晶、壊しかけてるよ」
「一応、壊してはない」
「ヒビ入ってるじゃん!」
メルナが叫ぶ。
フィーアは魔水晶を見つめながら、少しだけ感心したように呟いた。
「これは……凄いですね」
「フィーアも冷静すぎるだろ」
「レイ様ですから」
「それで納得するなよ」
受付嬢が恐る恐る口を開く。
「……能力を教えていただけますか?」
「身体強化だ」
「分かりました……少々お待ちください」
受付嬢とギルド長が小声で話し始める。
その間、レイは魔水晶を見つめた。
「これ……弁償しないとダメかな」
「そうですね」
「そこは即答なんだな」
「冗談ですよ」
フィーアが微笑む。
「しかし、レイ様が魔水晶に異常を起こすのは、これが初めてではありませんから」
「二回目だな」
「二回目なの!?」
メルナが驚く。
「一度目じゃなかったの!?」
「二度目」
レイは目を逸らす。
「……お兄ちゃんって本当におかしいよ」
「言い過ぎだろ」
やがて、受付嬢が戻ってきた。
「レ、レイさん……」
「はい」
「あなたの初期ランクは……Bランクです」
「Bランクか」
「え!?」
メルナが驚く。
「お兄ちゃんもBランク!?」
「はい……」
受付嬢は申し訳なさそうな顔をする。
「何か問題でもあるんですか?」
「い、いえ……」
ギルド長が代わりに口を開いた。
「事情があるんだ。すまんな」
「別にいいけど」
「怒らないのか?」
「何で?」
「お前は本来なら、Sランク相当と判断されてもおかしくない」
レイが首を傾げる。
「でも、Bランクなんだろ?」
「ああ」
「なら別にいいじゃん。依頼をこなせば上げられるんだろ?」
「それはそうだが……」
「だったら問題ない」
ギルド長は少し驚いた顔をした。
「……変わった奴だな」
「よく言われる」
レイが笑う。
ギルド長が説明を続ける。
「まず一つ目の理由は、お前たちは冒険者としての経験がないことだ」
「なるほど」
「最初からSランクとして扱うより、簡単な依頼から経験を積んでもらいたい」
ギルド長が続ける。
「二つ目は……他の冒険者から目をつけられる可能性があるからだ」
レイが周囲を見る。
先ほどの騒ぎで、何人かの冒険者がこちらを見ている。
「確かに」
「Bランクでも十分に高い。Sランクなんて公表したら、余計な面倒に巻き込まれるかもしれん」
フィーアが静かに口を挟む。
「私がいるので、何かあれば対処しますが」
「……それは分かっている」
ギルド長が苦笑する。
「だが、できるだけ問題は起こしたくないんだ」
「フィーア、落ち着け」
「はい。レイ様がおっしゃるなら」
「ありがとな」
受付嬢も頭を下げる。
「本当に申し訳ありません」
「気にしなくていいよ」
「ありがとうございます」
受付嬢は少し安心したように笑った。
「では、冒険者について簡単に説明しますね」
「冒険者にはFからSまで、七つのランクがあります。Sランクが最上位です」
「依頼の内容もランクによって変わります。魔物討伐、護衛、採取、調査など、様々な依頼があります」
「分かった」
受付嬢が二枚のカードを取り出す。
「こちらが、お二人の冒険者証です」
レイがカードを受け取る。
「これ、他の街でも使えるのか?」
「はい。基本的には他国や他の街にある冒険者ギルドでも使用できます」
「便利だな」
「紛失した場合も、再発行できます。ただし、手数料が必要になりますのでご注意ください」
「了解」
レイがカードを眺める。
自分が正式に冒険者になった。
そう考えると、少しだけ胸が躍った。
「フィーアは元冒険者なんだよな?」
「はい」
「じゃあ今も依頼を受けられるのか?」
「もちろんです。私も冒険者証を持っていますから」
「なら、なんで受けないんだ?」
フィーアは少しだけ微笑んだ。
「私はレイ様たちのメイド長ですから」
「……なんか、ごめん」
「お気になさらず」
「ありがと、フィーア!」
メルナも笑う。
「こちらこそありがとうございます、メルナ様」
「他に質問はありますか?」
「大丈夫」
「私も!」
「それでは……ご武運を」
レイたちは受付を離れた。
「どうしますか?」
フィーアが尋ねる。
「せっかくだし、依頼受けてみるか」
レイがメルナを見る。
「メルナはどうしたい?」
「私は受けてみたい!」
「じゃあ決まりだな」
「はい。お二人ともBランクですので、魔物討伐の依頼も受けられます」
「魔物討伐か……」
レイの目が少し輝く。
一方、メルナは苦笑した。
「うぅ……魔物かぁ」
「メルナ、フィーアの訓練受けてるんだろ?」
「受けてるけど……」
「なら大丈夫だろ」
「でも、共鳴がまだ上手くできないの」
「できなくはないのか?」
「一体だけなら」
「誰だ?」
「不死鳥――フェニックス」
「……マジか」
レイが思わず呟く。
メルナが少し誇らしげに笑う。
「すごいでしょ?」
「かなりすごい」
「でも共鳴はまだ無理」
「なんで?」
「一度使うと、その後しばらく動けなくなるし……共鳴できる時間も短いから」
「どのくらい?」
「長くても三分」
「それは確かにキツいな」
フィーアが優しく微笑む。
「大丈夫ですよ。メルナ様の強さは私が一番よく知っています」
「フィーア……」
「それに、危険になれば私が必ずお守りします」
「……分かった。頑張る」
「じゃあ行こう」
「うん!」
三人は依頼を受け、東の森へ向かった。
* * *
東の森。
木々の間を進んでいたレイたちは、森へ入って間もなく足を止めた。
「……いた」
目の前に、巨大な花が立っていた。
巨大な口を持ち、何本もの長い蔓を伸ばしている。
「これが食中花か?」
「はい」
フィーアが頷く。
「意志を持った巨大な植物型の魔物です。長い蔓と毒を主な攻撃手段としています」
「でか……」
メルナが見上げる。
「まだ森に入ったばっかりだよ!?」
「依頼には東の森としか書いてなかったからな」
食中花がこちらを向く。
次の瞬間。
ビュンッ!
長い蔓が空気を切り裂き、レイたちへ襲いかかる。
「危ない!」
レイが刀を抜く。
ガキンッ!
迫ってきた蔓を斬り落とす。
「セーフ」
「反応できるのおかしいでしょ!」
「メルナも戦え」
「えぇ!?」
「何?」
「か弱い女性に戦わせるの?」
「おう」
「即答!?」
メルナが頬を膨らませる。
「分かったよ!」
「召喚使えばすぐ終わるぞ」
「お兄ちゃんだって!」
メルナが指を差す。
「酒呑童子の力を使えば一瞬で終わるじゃん!」
「それは……」
レイが答えようとした、その瞬間だった。
ブンッ!
「――っ!」
レイの横から別の蔓が飛んできた。
回避が間に合わない。
ドゴォン!!
レイの身体が吹き飛ばされ、木へ叩きつけられる。
「お兄ちゃん!?」
メルナが叫ぶ。
レイの身体が蔓に絡まれ、そのまま地面へ落ちる。
「大丈夫!?」
「全然大丈夫」
レイが蔓を燃やしながら立ち上がる。
「メルナこそ、自分の心配しろ」
「いや、普通に心配するでしょ!」
その時。
メルナが周囲を見渡した。
「……あれ?」
「どうした?」
「一体じゃなかったの?」
森の奥から、さらに二体。
巨大な食中花が姿を現した。
「三体……」
「増えたな」
フィーアが静かに構える。
「危なくなったら、私が助けます」
「頼む」
レイは刀を構え直した。
「でも、その前に」
レイがメルナを見る。
「俺は、メルナがどれくらい成長したのか見てみたい」
「無理〜」
「共鳴を間近で見たかったんだけどな」
「だから共鳴は危ないんだって!」
「なら召喚だけでいいか」
「……」
メルナは少し悩む。
「分かった」
「おう」
メルナが手を前へ伸ばす。
「――召喚」
地面に巨大な赤い魔法陣が浮かび上がる。
「不死鳥――フェニックス!」
轟ッ!!
魔法陣から、巨大な炎の鳥が姿を現した。
その翼が開いた瞬間、周囲の木々が炎の熱で揺れる。
「これが……フェニックス」
レイが目を見開く。
「すごいでしょ?」
「……ああ」
フェニックスが空へ舞い上がる。
その姿はまさしく、不死鳥。
炎を纏った巨大な翼が森の空を覆う。
「行くか」
レイが刀を構える。
「――焔纏い」
刀身に炎が走る。
三体の食中花が一斉に蔓を伸ばした。
無数の蔓が四方八方から迫る。
レイは一歩踏み込んだ。
「遅い」
刀が閃く。
一本。
二本。
三本。
迫り来る蔓を次々と斬り落とす。
「ちょっと!」
メルナが叫ぶ。
「なんであの量を全部焼き斬れるの!?」
「訓練したから」
「そんな簡単な話じゃないでしょ!」
その間にもフェニックスが空を駆ける。
炎の翼が食中花の周囲を通過した。
ゴォォォッ!!
三体の食中花が一斉に炎に包まれる。
「グオオオオッ!」
食中花が暴れ、無数の蔓を振り回す。
「危ない!」
メルナが叫ぶ。
しかしレイは動じない。
「――炎撃」
刀を振る。
炎を纏った斬撃が一直線に飛び、食中花の身体を切り裂いた。
一体が崩れ落ちる。
残る二体へ、フェニックスが急降下する。
「――!」
フェニックスの嘴が一体の中心を貫いた。
食中花の身体が動きを止める。
「あと一体」
レイが最後の一体を見る。
「終わらせる」
刀を構える。
「――日輪」
炎が大きく膨れ上がる。
次の瞬間。
一閃。
最後の食中花が炎に包まれ、崩れ落ちた。
静寂が戻る。
「……終わった?」
メルナが呟く。
「終わったな」
レイが刀を納める。
「フェニちゃん、ありがとね」
メルナがフェニックスへ近づき、その頭を撫でる。
「熱くないのか?」
「この子の炎は私には効かないみたい」
「便利だな」
フェニックスが嬉しそうに鳴く。
「じゃあ、またね」
メルナが手を振る。
フェニックスは炎となって消え、魔法陣の中へ戻っていった。
「二人とも完璧でした」
フィーアが微笑む。
「だろ?」
「お兄ちゃんがおかしいだけだよ」
「言い過ぎだって」
「でも倒せたし!」
メルナが笑う。
「帰ろ!」
「そうだな」
三人は森を後にした。
* * *
ギルドへ戻ると、討伐報告を済ませた。
「依頼達成、おめでとうございます」
報酬として銀貨三枚を受け取る。
「初めての依頼、お疲れ様でした」
「うい」
「疲れたぁ……」
メルナはぐったりしていた。
「まだ大したことしてないだろ」
「精神的に疲れたの!」
その後、依頼が早く終わったため、三人は街で買い物をした。
メルナとフィーアが使う布団も購入した。
買い物を終え、部屋へ戻る。
「帰るか」
「うん!」
「お昼ご飯は何にしましょうか?」
フィーアが二人を見る。
「レイ様とメルナ様がお好きなものにしましょう」
少し考えたフィーアが微笑む。
「ハンバーグはいかがですか?」
「まじ!?」
レイの目が輝く。
「フィーアのハンバーグ好き!」
メルナも嬉しそうに声を上げる。
「では、決まりですね」
「帰るぞ!」
「うん!」
三人とアカマルは部屋へ戻った。
* * *
部屋に戻ると、フィーアはすぐにキッチンへ向かった。
「作りますね」
「頼む」
「楽しみ!」
フィーアが料理を始める。
レイは椅子に座りながら、今日の依頼について思い返していた。
「どうでしたか?」
料理をしながらフィーアが尋ねる。
「まぁ、楽しかったよ」
「私は……楽しくはなかったけど」
メルナが苦笑する。
「でも、悪くはなかったかな」
「それは良かったです」
フィーアが微笑む。
「次はダンジョンにも挑戦してみましょうか」
「ダンジョンか……」
レイが考える。
ラミール王国には、二つの大きなダンジョンが存在している。
一つは、レイたちが学園へ入学して間もない頃に潜った――グールダンジョン。
比較的新しく発見されたダンジョンであり、未だに多くの謎が残されている。
どれほどの階層が存在するのかすら、判明していない。
そしてもう一つ。
ラミールダンジョン。
こちらは明確な階層構造を持ち、現在までに四十階層までが確認されている。
「……フィーア」
「どうしましたか?」
「いや……」
レイは言いかけて、口を閉じた。
聞きたいことがあった。
グールダンジョンで出会った――黒い騎士。
あれは何者なのか。
レイがこれまで戦ってきた敵の中でも、明らかに異質だった。
強い。
ただ強いだけではない。
あの黒い騎士からは、何か説明できないものを感じていた。
「……やっぱ何でもない」
「そうですか?」
「うん」
フィーアはレイの顔を少し見つめた。
「いつでも言ってください。私はレイ様のお話を聞きますので」
「……おう」
フィーアが料理へ戻る。
レイは黙って窓の外を見る。
「……あいつ、何なんだ」
その時。
「何独り言ゴニョゴニョ言ってるの?」
「……!」
振り返る。
いつの間にか、メルナが立っていた。
シャワーを浴びたばかりなのか、髪が少し濡れている。
そして、その腕の中には――
「アカマル」
「ガウ!」
小さな姿になったアカマルが抱きしめられていた。
「何でもない」
「ふーん?」
「本当に何でもない」
「怪しいなぁ」
メルナがアカマルを抱きしめる。
「アカマルちゃんもシャワー浴びたんだよ」
「ガウ!」
「俺が毎日一緒に入って洗ってるからな」
「私も洗いたかったんだもん」
「はいはい」
「ガウ……」
アカマルが気持ちよさそうに目を細める。
「可愛い……」
メルナが頬を緩ませる。
その様子を見ていたフィーアが声をかけた。
「お昼ご飯の準備ができましたよ」
「おう!」
「やったー!」
アカマルも嬉しそうに鳴く。
「ガウ!」
しかし、フィーアが料理を運んでいると、アカマルが少し寂しそうに俯いた。
それを見たフィーアが微笑む。
「安心してください」
フィーアが別の皿を取り出す。
「アカマルさんのお昼ご飯も、ちゃんと準備してありますよ」
「ガウガウッ!」
アカマルが勢いよくフィーアへ飛びつく。
「ふふっ」
フィーアがアカマルを受け止める。
「喜んでもらえて良かったです」
こうして、四人で昼食を取ることになった。
「いただきます!」
レイがハンバーグを一口食べる。
「……めっちゃ美味しい!」
「うまーい!」
メルナも嬉しそうに頬張る。
「それは良かったです」
フィーアが微笑む。
アカマルも自分の皿に夢中になっている。
「ガウガウ!」
「ふふ。お口に合ったようですね」
しばらくして、全員が食べ終える。
「腹いっぱいだ……」
「私も……」
「ガウ……」
アカマルも満足そうに横になる。
フィーアが食器を片付けながら尋ねる。
「さて、この後はどうしましょうか?」
レイは椅子にもたれながら考える。
「う~ん……そうだなぁ」
冒険者になった。




