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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第二章 夏休み編
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25/72

25話 妹の奇襲

夏休み。


学園が休みになり、街にもどこか普段とは違う空気が流れていた。


学生たちはそれぞれ家へ帰ったり、友人と遊びに出かけたりしている。


そんな中。


レイはというと――。


「……ん」


朝。


レイはゆっくりと目を開けた。


窓から差し込む朝日が、部屋の中を照らしている。


「朝か……」


まだ少し眠い。


レイは布団の中で身体を伸ばし、隣を見る。


そこには――。


「……」


丸くなって眠っているアカマルがいた。


小さな身体を丸め、気持ちよさそうに寝息を立てている。


「……よく寝てるな」


レイはアカマルを起こさないように、そっと布団を直した。


そのときだった。


「……ん?」


レイは鼻を動かす。


「なんか……いい匂いがする」


香ばしい匂い。


どこか懐かしい匂い。


どうやら、料理を作っているらしい。


「……気のせいか?」


レイは部屋を見回す。


しかし、当然ながら部屋には自分とアカマルしかいない。


「夏休みだしな……」


レイは再び布団へ潜り込む。


「今日くらい、寝て過ごしてもいいよな」


そう呟いて、目を閉じる。


そして――。


二度寝を開始した。


数分後。


――トン。


廊下から足音が聞こえた。


レイは気にしない。


――トン。


少し近づいてくる。


それでもレイは寝ている。


――トン、トン。


「……」


足音が止まる。


そして――。


「起きろ、バカ兄貴」


「……ん?」


次の瞬間。


パシンッ!


「痛っ!」


レイの顔に衝撃が走った。


「な、なんだ!?」


飛び起きたレイの目の前には――。


「おはよう、お兄ちゃん」


腕を組み、堂々と立っている少女。


レイの妹、メルナだった。


「……え?」


レイは固まる。


「なんで?」


「何が?」


「俺のセリフだ」


あまりにも自然にそこにいる。


それが逆に怖い。


「そもそも、なんでここにいるんだよ……」


「お兄ちゃんが夏休みになったって聞いたから」


「いや、理由になってないだろ」


「そう?」


メルナは首を傾げる。


すると、その後ろから一人の女性が姿を現した。


「レイ様、お久しぶりです」


「……フィーア」


レイはさらに驚いた。


「久しぶり」


「はい。お元気そうで何よりです」


「いや……」


レイは二人を交互に見る。


「言いたいことも聞きたいことも山ほどあるんだけど」


そして鼻を動かす。


「その前に、このいい匂いは何?」


フィーアが微笑む。


「朝食を作りました」


「まじか!?」


レイの眠気が一瞬で吹き飛んだ。


「食べよう」


「はい」


「お兄ちゃん、食べ物のことになると急に元気になるよね」


「気のせいだ」


「絶対気のせいじゃない」


そんな会話をしている間に、メルナはレイの隣にいたアカマルへ視線を向けていた。


「……」


「どうした?」


「この狼……可愛い」


メルナはゆっくりとアカマルを抱き上げる。


「……ん」


アカマルは目を覚ます。


しかし――。


「……クゥン」


メルナに抱きかかえられたまま、再び目を閉じた。


「寝た」


「寝るのかよ」


「可愛すぎる……」


メルナはアカマルを抱きしめる。


アカマルは抵抗する様子もなく、完全に身を委ねていた。


「アカマルだ」


「アカマルちゃん……」


「俺の相棒」


「へぇ……」


メルナはアカマルの頭を撫でる。


「毛がふわふわ……」


「気に入ったな」


「うん」


「でも、あげないぞ」


「えぇー」


メルナが露骨に残念そうな顔をする。


「お兄ちゃん、ちょっとくらい貸してよ」


「物じゃないんだから」


「じゃあ一日だけ」


「ダメ」


「半日」


「ダメ」


「一時間」


「ダメ」


「十分」


「……」


「十分だけ!」


「……まぁ、それくらいなら」


「やった!」


メルナは嬉しそうにアカマルを抱きしめる。


「ガウ……」


アカマルは完全に諦めたような顔をしていた。


「アカマル、頑張れ」


「ガウ……」


レイは心の中で応援する。


そして――。


「レイ様、朝食の準備ができています」


フィーアの声が響く。


「よし、食べよう」


レイはベッドから起き上がった。


◆


テーブルには、温かな料理が並んでいた。


焼きたてのパン。


卵料理。


スープ。


そして香ばしく焼かれた肉料理。


「……」


レイはしばらく料理を眺める。


「どうしました?」


フィーアが尋ねる。


「いや……」


レイは一口食べる。


「……うま」


思わず声が漏れた。


「久しぶりに手料理食べたわ」


「それならよかったです」


フィーアは嬉しそうに微笑んだ。


「フィーアの料理、やっぱりうまいな」


「ありがとうございます、レイ様」


その横では、メルナがアカマルを膝の上に乗せながら食事をしている。


「アカマルちゃん、寝てる」


「まだ寝てるのかよ」


「昨日疲れたんじゃない?」


「まぁ……黄昏の城で結構動いてたからな」


アカマルは小さく寝息を立てている。


レイはそんなアカマルを見て、少し笑った。


そして、ふと本題に戻る。


「それで」


レイはメルナを見る。


「なんでここにいるんだ?」


「お兄ちゃんが夏休みって聞いたから」


「それはさっき聞いた」


「うん」


「そもそもどうやって俺の部屋に入った?」


メルナは何でもないように答える。


「爺ちゃんに頼んだ」


「……せこ」


フィーアも苦笑する。


「はい。学園長様にお願いしました」


「爺ちゃん、孫には弱いからなぁ……」


クラウスの顔が頭に浮かぶ。


あの祖父なら、メルナに頼まれれば普通に許可しそうだ。


「それで?」


レイはメルナを見る。


「目的は?」


「観光……」


「本当か?」


「……」


メルナが目を逸らす。


「観光ではないと」


「うっ……」


レイはため息をつく。


するとフィーアが静かに口を開いた。


「私から説明しましょうか、メルナ様」


「……うん」


「え?」


レイが二人を見る。


「めっちゃ大事なこと?」


「めっちゃ大事」


メルナが真剣な顔で答えた。


「そうか……」


レイは腕を組む。


「でも、世界が終わるくらいのことじゃないと、俺の部屋に泊めないぞ」


「大丈夫」


メルナは真顔で答える。


「それくらい大事だから」


「……」


レイが固まる。


フィーアが微笑んだ。


「奥様のメルナ様への愛情が、少々爆発してしまいまして」


「……あぁ」


レイは全てを察した。


「そういうことか」


「うん」


「よし」


レイは即答した。


「ようこそ、俺の部屋へ」


「ありがと、お兄ちゃん」


「母さんの愛情爆発はヤバいからな」


「本当にすごいよ」


メルナは苦笑する。


「お兄ちゃんがいなくなってから、お母さん、私にすごく甘えてきて」


「まぁ……想像できる」


レイが苦笑する。


ミレーヌはもともと家族への愛情が強い。


その中でも、子供たちに対する愛情はかなり深い。


レイが学園へ行くようになってから、その分の愛情がメルナへ集中したらしい。


「私、ちょっと疲れちゃって」


「なるほど」


「だからフィーアが連れてきてくれた」


フィーアが頷く。


「はい。メルナ様がお疲れのようでしたので」


「それで、母さんはこのこと知ってるのか?」


「知ってるよ」


メルナが答える。


「母さんはずっと『私も行くー!』って言ってた」


「……やっぱりか」


「でも父さんが止めてくれた」


「父さん、空気を読めるな」


レイはグリムに少し感心した。


「私も、メルナ様の安全のために旦那様からお願いを受けていますので、しばらく同行いたします」


「ありがとう、フィーア」


レイは笑う。


「それにしても、料理めっちゃ美味い」


「ありがとうございます」


フィーアは嬉しそうに頭を下げた。


メルナも笑う。


「じゃあ、しばらくここに泊まらせてもらうね」


「おう」


レイは頷く。


「布団はないから、自分で用意してくれよ」


「えっ」


「俺の布団は貸さない」


「お兄ちゃんのケチ」


「なんで俺が悪いんだよ」


フィーアは二人のやり取りを見ながら、楽しそうに微笑んでいた。


久しぶりに集まった兄妹。


学園での生活とは違う、どこか懐かしい時間だった。


◆


朝食を終えると、フィーアがふと思い出したように尋ねた。


「ところで、レイ様」


「ん?」


「夏休みは、何をする予定でしょうか?」


「何もない」


即答だった。


「学園も休みになってるしな」


「そうですか……」


フィーアは少し考える。


そして――。


「それなら、冒険者になってみるのはいかがでしょう?」


「冒険者?」


レイの目が少し輝く。


「いいな」


レイは以前から冒険者という存在について知っていた。


魔物討伐。


護衛。


素材の採取。


遺跡の探索。


世界中を旅しながら依頼をこなす者たち。


学園で勉強するだけでは見られない世界を、自分の目で見ることができる。


「でも、俺でもなれるのか?」


「はい」


フィーアは頷く。


「レイ様は成人されていますので、登録できます」


「そうだったな」


レイは少し考える。


「フィーアも元冒険者だったよな」


「はい」


「確か……かなり上のランクだったよな」


「そうですね」


「どれだっけ?」


フィーアは淡々と答えた。


「Sランクです」


「……やっぱりか」


レイは苦笑した。


フィーアが普通の冒険者だったとは、到底思っていなかった。


「冒険者にはランクがあるんだよな?」


「はい。F、E、D、C、B、A、Sの七つです」


「Sが一番上?」


「はい」


「じゃあ、フィーアって相当強かったんだな」


「昔の話ですよ」


「いや、今も強いだろ」


フィーアは何も答えず、笑って誤魔化した。


「俺もSランクになれるかな?」


「レイ様なら可能性はあると思います」


「そんな簡単に?」


「いいえ」


フィーアは即答した。


「Sランクは簡単にはなれません」


「だよな」


「ですが、まずは登録してみるのがいいでしょう」


「……そうだな」


レイは立ち上がる。


「とりあえず、冒険者ギルドに行こう」


「はい」


すると――。


「ちょっと待って」


メルナが口を挟んだ。


「私も行く」


「……お前も?」


「うん」


「冒険者になるのか?」


「なりたい」


メルナは迷いなく答えた。


フィーアが微笑む。


「分かりました、メルナ様」


「私も冒険者になれる?」


「なれますね。……ギリギリ」


「ギリギリ!?」


メルナが驚く。


「成人として登録できる年齢には達していますので」


「よかった……」


メルナが胸を撫で下ろす。


「メルナ様も冒険者になりたいのですか?」


フィーアが尋ねる。


「ん」


メルナは頷いた。


「お兄ちゃんと一緒に行きたい」


レイは少し驚いた。


「……そうか」


「ダメ?」


「別にダメじゃない」


レイは笑う。


「むしろ、面白そうだ」


「本当!?」


「ああ」


メルナの顔が明るくなる。


「じゃあ、行こう!」


フィーアも頷く。


「はい。メルナ様も一緒に行きましょうか」


「行く!」


その瞬間。


膝の上で寝ていたアカマルが顔を上げた。


「……ガウ?」


レイはアカマルを見る。


「お前も行くぞ」


「ガウ!」


アカマルが尻尾を振る。


「よし」


レイは立ち上がった。


夏休み。


何をするかなんて、何も決めていなかった。


だが――。


「冒険者、か」


レイは窓の外を見る。


広がる青空。


その向こうには、まだ見たことのない場所がいくつもある。


学園の外。


この国の外。


そして――この世界のどこかにある、まだ知らない景色。


「……悪くないな」


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