23話 帰還!
黄昏の城での戦いを終え――。
レイたちは、ゼファーを連れて王国へ戻ってきた。
王国の入口では、何人もの兵士たちが待っていた。
クラウスがゼファーを引き渡す。
「そ、そいつがゼファーですか!」
兵士が驚いたように声を上げる。
「そうじゃ」
クラウスが答える。
兵士はゼファーを警戒しながら近づいていく。
「そいつを牢に入れます」
「儂もついていこう」
クラウスがゼファーを見る。
すると――。
「絶対殺してやるからな……」
ゼファーが不気味に笑う。
「ハハハッ!」
レイはその言葉を聞きながら、何も言わずにゼファーを見つめていた。
クラウスがそんなレイを見て口を開く。
「レイ達よ。儂はこいつを牢獄にぶち込むのについていくから、君たちは先に帰りなさい」
そして、少しだけ表情を和らげる。
「明日、学園で君たちの勇敢を祝おう」
「はい!」
ユージが元気よく返事をする。
「いい経験になりました」
アルスも頷く。
「分かりました」
クウガも答えた。
レイは軽く手を上げる。
「うい」
クラウスは兵士たちと共にゼファーを連れていった。
その背中を見送る。
「……終わったな」
レイが呟く。
「終わったなぁ!」
ユージが大きく伸びをする。
「腹減った!」
「お前、さっきまで戦ってたのによく食欲あるな」
「疲れた時こそいっぱい食うんだよ!」
「俺は食べる気力もないわ……」
レイは疲れ切った様子で呟く。
「大丈夫か?」
アルスが心配そうに聞く。
「まあ、大丈夫」
レイが答える。
するとクウガが口を開いた。
「それじゃあ、今日は俺が奢るよ」
「え!?」
ユージの目が輝く。
「先輩~~!」
「嬉しい」
アルスも素直に喜ぶ。
クウガは苦笑する。
「君たちの強さに驚いたからね。これくらいはさせてよ」
「先輩こそ、さっきはありがとうございました」
アルスが頭を下げる。
「気にしなくていいよ」
四人はそのまま近くのレストランへ向かった。
その間――。
レイの頭の上では、アカマルがぐったりとしていた。
「……」
小さな身体をレイの頭に乗せたまま、完全に力が抜けている。
レイが上を見ようとする。
「アカマルも疲れたか」
「……クゥ」
小さな鳴き声が返ってきた。
「今日は頑張ったからな」
レイは少し笑う。
「ガウ……」
アカマルはそのままレイの頭に顎を乗せた。
「寝たな」
ユージが笑う。
「可愛いな」
アルスもアカマルを見る。
「戦ってる時はあんなに凄いのにね」
「まあ、あれでも相当疲れたんだろ」
クウガが笑った。
レストランへ入ると、四人は席についた。
「何食う?」
ユージがメニューを開く。
レイは即答した。
「ポテト」
「またかよ」
「美味いからな」
「俺はパスタを」
アルスが選ぶ。
クウガは少し考える。
「じゃあ、カレーライスを食べようかな」
「俺はハンバーグ!」
ユージが即答する。
「じゃあ頼むね」
クウガが店員を呼ぶ。
注文を終えると、四人はようやく一息ついた。
「……本当に、君たちはすごいね」
クウガが改めて三人を見る。
「それほどでも!」
ユージが胸を張る。
「特訓した甲斐があったな」
アルスが笑う。
クウガはレイを見る。
「君、学園長のお孫さんだったよね」
「まぁな」
「それにしても、あの魚をたった一人で倒したんだろ?」
「グランドジークのことか?」
「ああ。すごいよ。生徒会長として、ちょっと恥ずかしくなるくらいだ」
クウガが苦笑する。
レイは首を傾げる。
「ん? そうか?」
「そうだよ」
「勇敢に立ち向かったんだから、一番かっこいいだろ」
「……」
クウガは少し驚いたようにレイを見る。
そして――。
「ありがたいね。そんな言い方されると」
「?」
レイは不思議そうな顔をする。
クウガが続ける。
「一つ聞いていいかい?」
「何だ?」
「なぜ、そんなに強いんだい?」
レイは少し考える。
「……なんとなく?」
「濁してるね」
「まあな」
レイは苦笑する。
「師匠と、家のメイドが強くしてくれたからだ」
「ふーん」
クウガは興味深そうに聞く。
「君の師匠は学園長かい?」
「違う」
「そうか」
クウガは笑う。
「君は恵まれてるね」
レイは少しだけ黙った。
そして――。
「ああ」
小さく笑った。
「恵まれてる」
その時。
「お待たせしました」
料理が運ばれてくる。
「おっ!」
ユージの顔が明るくなる。
「ハンバーグ!」
レイも自分の皿を見る。
「ポテトうま」
「レイ、毎回ポテト食ってるよなぁ」
「美味いからな」
「レイ、ハンバーグ一口やるよ!」
「ありがと」
ユージから一口分を受け取り、レイが食べる。
「……やっぱ美味いな」
「だろ?」
アルスも自分の料理を食べる。
「俺のも美味い」
「食べたかったらもっと食べな」
クウガが笑う。
しばらく四人は食事を楽しんだ。
そして――。
ふと、ユージが箸を止めた。
「そういえばさ」
「ん?」
「奈落の悪魔の祭壇……あれ、どうなるんだ?」
その言葉に、全員の空気が少し変わった。
クウガが答える。
「どうにもできないよ、あれは」
「どうにも?」
「あの封印を解いたら、あいつが復活するからね」
クウガは真剣な表情になる。
「だから、下手に破壊することもできない」
「……」
アルスが思い出す。
あの祭壇から放たれていた、あまりにも禍々しい魔力。
「……あの魔力、恐ろしかった」
「俺も」
レイが頷く。
「危なかったな」
ユージが苦笑する。
「俺なんか、気を失いかけたぞ」
「俺も似たようなものだったよ」
クウガも笑う。
「それでも、よく戻ってこれた」
食事を終える。
「じゃあ、行こうか」
クウガが席を立つ。
「先輩、ありがとうございます!」
ユージが頭を下げる。
「ありがとうございます」
アルスも続く。
レイも軽く頭を下げた。
「奢っていただき、ありがたく思います」
「そんなかしこまらなくてもいいよ」
「うい」
アカマルはまだレイの頭の上で眠っている。
「また明日、みんな」
「はい!」
「また明日」
「じゃあな」
四人はそれぞれの帰路へ向かった。
レイも一人――。
いや。
頭の上で眠るアカマルと共に、寮へ向かって歩き出す。
夜の王都。
昼間とは違う静かな街並みを歩いていると――。
「……ん?」
レイが足を止めた。
少し先に、人だかりができている。
何かと思って近づいてみる。
そこにいたのは――。
奴隷商人だった。
「さあさあ! 新しい奴隷が入りましたよぉ!」
男が大きな声を上げている。
「このエルフの子は風の魔法が得意ですよぉ~!」
その隣には、檻が置かれていた。
「こいつは人気なのですぐ売り切れるかも!」
商人が笑う。
「さあ、安く買うなら今のうちですよ!」
レイの足が止まった。
「……奴隷か」
低い声が漏れる。
「卑劣なことを……」
檻の中。
一人のエルフの少女が座っている。
少女は周囲を見回していた。
そして――。
レイと目が合った。
少女の瞳が、ほんの少し揺れる。
レイは何も言えなかった。
助けたい。
そう思った。
でも――。
今の自分には、何もできない。
レイは少女から視線を逸らす。
そして、静かに横を通り過ぎた。
「……ごめんな」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。
レイはそのまま寮へ戻った。
部屋に入り、ベッドへ腰を下ろす。
頭の上からアカマルを降ろす。
「今日は疲れたな」
「クゥ……」
アカマルはそのままベッドの上で丸くなる。
レイも横になる。
しかし――。
眠れない。
頭の中に、さっきの少女の姿が浮かんでくる。
「……あれは、どうすればよかったんだ」
目を閉じても、あの瞳が消えない。
助けるべきだったのか。
それとも――。
「……」
答えは出なかった。
レイはモヤモヤしたまま、夜の闇へ意識を沈めていった。




