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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第一章 始まり
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19/72

19話 学園長の怒り

時間は戻る。


レイがユージとアルスのもとへ歩いていく。


二人とも疲労は見えるものの、まだ戦えるだけの力は残っていた。


「ユージ達も休んでいいぞ」


「休むかーー!」


ユージが即答する。


その隣でアルスも頷いた。


「俺達はまだ戦える」


「なら戦うか」


「おうよ!」


「当たり前だ」


二人の返事を聞き、レイは小さく笑う。


そして、二人に向かって指を差した。


「なら、ここの生徒達を守ってな」


「任せろ」


「おう!」


レイは先ほどまでゼファーが展開していた領域を見上げる。


「さっきの結界みたいなのは、どんな効果だった?」


「体が動かなくなったんだよ」


ユージが答える。


「全く動かなかった」


アルスも続けた。


レイは少し考える。


「行動不能にする領域か」


「ちょっと違うわ」


ソフィアが口を挟んだ。


「時間の流れを変えて、動きを遅くする結界よ」


「時間を……」


レイは先ほどの戦いを思い返す。


「めんどくさいな」


「だが、婆ちゃんは動けていたな。何で動けたんだ?」


「私の能力が関係してるわね」


「そうなのか」


レイはゼファーを見る。


「あれを再度張られたらめんどくさいな」


「だな」


ユージも頷く。


だが、レイはすぐに別のことへ意識を向けた。


「でも、あいつは魔力を大分使ってるはずだ」


その瞬間――。


「再現――光剣!」


ゼファーの周囲に、無数の光の剣が出現する。


「……!」


次の瞬間。


無数の光剣が一斉に放たれた。


「来るぞ!」


レイが刀を抜く。


飛来する光剣を、一本、また一本と斬り落としていく。


キィン!


キィン!


キィン!


最後の一本を薙ぎ払った。


「全部落としたか……!」


ゼファーが舌打ちする。


「チッ!」


レイは刀を構えたまま、ゼファーを見据える。


「お前のその技も分かってきた」


「あ?」


「まぁ、分かったところで対策できない。強い能力だ」


ゼファーが笑う。


「俺の能力、技の何が分かった?」


レイはゼファーを真っ直ぐ見た。


「お前の能力は忘却。人の記憶を盗む」


そして、刀を握り直す。


「そして、お前の技は盗んだ記憶の中にある技や魔法を――『再現』しているんだろ」


「ハハハッ!」


ゼファーが大声で笑った。


「そうだ! そうだよ!」


両手を広げる。


「だから分かったところで何もできない。お前の言う通り、対処なんてできないんだよ!」


ゼファーの周囲に、再び魔力が集まっていく。


「俺にはたくさんの記憶がある。つまり――再現し放題ってことだ!」


レイは眉をひそめる。


「……はぁ」


「なんだ、その顔は?」


「気色悪い」


「……あ?」


レイの姿が消えた。


次の瞬間には、ゼファーの目の前。


「――ッ!」


刀が振り下ろされる。


ゼファーは咄嗟に手を掲げた。


「再現――剣!」


光が集まり、一本の剣へと変わる。


ガキィン!!


刀と剣が激突する。


そのまま二人は互いに距離を詰め、激しい斬り合いを始めた。


一撃。


二撃。


三撃。


刃がぶつかるたび、甲高い音が闘技場へ響く。


ユージが思わず息を呑む。


「あの戦闘には入れないな」


「入れないな。入ったところで足手まといだからな」


アルスも二人の戦いを見つめる。


ゼファーが一歩下がった。


「再現――刹那!」


瞬間。


ゼファーの剣速が跳ね上がった。


目で追うことすら難しい速度で、何度も斬撃が放たれる。


だが――。


レイはその全てを刀で受け切った。


「ちょこまかと……!」


ゼファーが苛立ったように吐き捨てる。


レイは小さく息を吐いた。


「はぁー……」


そして、一瞬だけ姿勢を低くする。


「――日輪」


レイがゼファーの背後へ回り込む。


上から円を描くように刀を振り下ろした。


だが――。


ゼファーは受け止める。


「軽い」


「軽くてすまんな」


「そんな技で勝てるとでも?」


「お前こそ」


レイとゼファーの視線が交差する。


「……やってやるよ!」


ゼファーの魔力が膨れ上がる。


「再現――絶縁朧月!」


ゼファーの姿が消えた。


否。


消えたように見えただけだった。


超高速で移動しながら、連続した斬撃を繰り出している。


あまりの速度に、まるで瞬間移動しているかのように見える。


そして、その斬撃を受けた者は一時的に思考力まで鈍らされる。


レイが受け身を取ろうとした、その瞬間。


「――!」


斬撃が入った。


レイの身体が僅かによろめく。


ゼファーが笑った。


「ハハハッ! どうだ、俺の技は!」


レイは自分の傷を確認する。


そして、ゼファーを睨んだ。


「……偽物が」


「あ?」


「レイ……!」


ユージが驚く。


レイは刀を握り直した。


「お前の技じゃない」


ゼファーの笑みが消える。


「お前のソレは、他人の記憶から盗んで、努力もせずに普通に使ってる――偽物の技だ」


「……偽物?」


「ああ」


レイは静かに答えた。


「その技も知ってる」


そして、一歩前へ出る。


「だがな――その技は、もっと速いぞ」


「舐めるなよ……!」


ゼファーの魔力が荒々しく膨れ上がる。


「お前こそ――」


レイの目が鋭くなる。


「他人の記憶、技、魔法を舐めるな」


「知るか!」


ゼファーが叫ぶ。


「その怪我じゃ、まともに動けないだろ!」


レイは笑った。


「それはどうかな?」


レイの身体を魔力が包む。


回復魔法によって傷が癒えていく。


そして――。


深く息を吸った。


「酒呑豪嵐」


轟ッ!!


巨大な炎の竜巻が発生した。


炎の渦が周囲を飲み込み、ゼファーの身体を一気に空中へ巻き上げる。


「な、なんだ……!」


ゼファーの身体が宙へ持ち上げられる。


「ど、どこにいる!」


その瞬間。


レイの姿がゼファーの真上へ現れた。


「――日輪」


ズバッ!


レイは円を描くように刀をゼファーに振る


斬撃が走る。


「グハァッ!」


ゼファーの身体が勢いよく落下する。


レイは着地し、ゼファーを見下ろした。


「どうだ?」


ゼファーが顔を上げる。


「お前が軽いと言った技だ」


「……殺してやる」


ゼファーが怒りに震える。


その瞬間――。


「キレたいのは、こっちのセリフだ」


低い声が響いた。


レイが振り返る。


「……爺ちゃん」


そこには、クラウスが立っていた。


「もう来たか」


ゼファーが呟く。


クラウスはゼファーを睨みつける。


「久しぶりだのぉ、外道が」


「……」


「レイ」


クラウスがレイを見る。


「ありがとうのぉ」


レイは少し俯いた。


「感謝されるほどのことはしてない」


「そんなことないわい」


クラウスは周囲を見渡す。


記憶を失った生徒。


感情を失った生徒。


そして、傷を負ったソフィア。


その光景を見た瞬間――。


クラウスの表情から、いつもの穏やかさが消えた。


「……久しぶりに腹が立った」


「爺ちゃん……」


クラウスはゼファーへ歩いていく。


「ゼファー」


「……なんだ?」


「立て」


クラウスは懐から回復のポーションを取り出し、ゼファーへ投げた。


「それを使え」


「……?」


「お前の言い訳を聞きたくない」


クラウスの目が鋭くなる。


「万全な状態で――俺と戦え」


ゼファーが笑った。


「ハハハッ……」


ポーションを使い、傷が回復していく。


「やってやるよ」


立ち上がったゼファーの顔には、先ほどまでの余裕が戻っていた。


「何もかも終わらせてやるよ!」


「やってみろ」


クラウスから、凄まじい圧が放たれる。


魔力が周囲を震わせる。


ユージとアルスが思わず息を呑んだ。


「……なんだよ、この圧」


「これが……学園長?」


ゼファーが目を細める。


「忘却領――」


その瞬間。


ドゴォン!!


ゼファーの身体が真上へ吹き飛んだ。


「……は?」


クラウスが消える。


次の瞬間には、ゼファーよりもさらに高い場所にいた。


「何度でも殺してやるよ」


クラウスが空中で身体を翻す。


そして――。


ゼファーを思いっきり蹴り落とした。


ドゴォン!!


ゼファーの身体が地面へ叩きつけられる。


地面に亀裂が走った。


だが、それだけでは終わらない。


クラウスは落下しながら腕に魔力を集中させる。


そして――。


ドガァン!!


魔力で強化された拳がゼファーを捉え、そのまま地面ごと大きく砕いた。


「ガハッ……!」


ゼファーが地面に倒れ込む。


クラウスは立ち上がる。


「おい」


ゼファーは僅かに身体を動かす。


「立てよ」


「……グッ」


「俺を殺すんだろ?」


クラウスがゼファーを見下ろす。


「立て」


ゼファーは震える手を動かした。


「再現……ヒー……」


回復魔法を使おうとする。


しかし――。


クラウスが一気に距離を詰めた。


ゼファーを地面に押さえつける。


そして、何度も拳を振り下ろす。


「抗ってみろよ」


ゼファーは必死に抵抗する。


だが、クラウスの攻撃は止まらない。


やがてゼファーの意識が途切れた。


「……」


静寂。


誰も言葉を発せなかった。


ユージが呆然と呟く。


「な、なんだよ……あれ……」


アルスも目を見開いている。


「目で……追えなかった」


クラウスはゆっくりと立ち上がった。


そして、周囲を見る。


「……すまないな、皆」


先ほどまでの怒りが、少しずつ消えていく。


「怖いことに巻き込んでのぉ」


「爺ちゃん」


レイが近づく。


「ありがとう」


クラウスはゼファーを見る。


「……ほんとに、すまない」


「……あいつはどうするんだ?」


「まずは、記憶と感情を失った生徒たちを戻す」


レイが頷く。


「あの魔道具だよな。感情を盗むっていう」


「そうじゃ」


その会話を聞いていたユージが、目を丸くする。


「ま、待ってくれ」


そしてレイを見る。


「レイのお爺ちゃんって……」


「そうだ」


レイが答える。


「学園長」


「ま、まじか……!」


アルスも驚きを隠せない。


その頃、クラウスは意識を失ったゼファーへ近づいていた。


「さて……」


ゼファーが持っていた魔道具――シーフロードへ手を伸ばす。


その瞬間。


「……させるかよ」


「!」


ゼファーが目を開いた。


クラウスへ向けて魔力を放つ。


「まだ起きるか」


クラウスが吹き飛ばされる。


ゼファーはふらつきながら立ち上がった。


「ハハハッ……!」


そして、手を掲げる。


「じゃあな」


「再現――転移魔法!」


「させるか!」


クラウスが一瞬で距離を詰める。


だが――。


ゼファーは笑った。


「にひひ!」


「同時再現――大蛇!」


ズンッ!!


生徒達の前に、巨大な白い大蛇が出現した。


「……!」


あまりの大きさに、生徒達から悲鳴が上がる。


ゼファーが笑う。


「あいつを倒さないと――生徒達は死ぬぞ」


「チッ!」


クラウスはゼファーを追うのをやめ、生徒達の前へ向き直った。


その隙に――。


「ハハハッ! また会おう!」


ゼファーの身体が光に包まれる。


「転移魔法!」


次の瞬間。


ゼファーの姿が消えた。


「逃げたか……!」


クラウスは大蛇を睨む。


「うちの生徒に手を出すな」


クラウスが一気に踏み込む。


そして――。


ドゴォン!!


大蛇へ強烈な蹴りを叩き込む。


大蛇の巨体が揺れ、闘技場の壁が大きく崩れる。


「少々、硬いみたいのぉ」


その時。


レイの中から声が響いた。


『所詮は八岐大蛇の偽物に過ぎない』


「八岐大蛇の偽物?」


『小僧には関係ないことだ』


「まぁ、後からまた聞くわ」


レイは刀を抜く。


「爺ちゃん、俺も手伝う」


クラウスが振り返る。


「必要ないと言いたいが……」


大蛇が再び暴れ始める。


「手伝ってもらおうかのぉ」


「おう」


「俺も手伝う!」


アルスが前へ出る。


「俺も!!」


ユージも続く。


レイが二人を見る。


「皆んなの方が、すぐに倒せるか」


「そうじゃの」


そこへクウガも駆けてくる。


「俺にも手伝わせてください!」


「クウガ?」


「さっきはやられっぱなしだったので……」


クウガは拳を握る。


「生徒代表が、弱い姿を見せられない」


クラウスは少し笑った。


「もちろんじゃ」


レイは刀を構えながら尋ねる。


「酒呑童子、大蛇ってどのくらい強いんだ?」


『ただデカいだけの蛇だ』


「なら、すぐ倒せるか」


「じゃが、毒には注意じゃ」


クラウスが注意を促す。


「はい!」


全員が大蛇へ向かって走り出す。


「雷衝!」


ユージの雷が走る。


「真空斬!」


アルスの斬撃が大蛇を捉える。


「水星!」


クウガの攻撃が直撃する。


「衝波!」


クラウスの一撃が大蛇を吹き飛ばす。


ドォン!!


大蛇が大きく揺らぐ。


レイがその様子を見て呟いた。


「流石に大蛇に同情するな」


だが、すぐに表情を変える。


「……これ以上暴れられると困るな」


レイは大きく息を吸う。


刀を構える。


「――鬼炎乱舞」


一瞬。


レイの姿が消えた。


そして――。


一閃。


大蛇の首元を斬り抜ける。


巨大な身体が静かに崩れた。


クラウスが感心したように笑う。


「さすがじゃ」


ユージが頭を抱える。


「おかしいだろ、その剣術……」


「ほんと驚かされるな」


アルスも苦笑する。


クウガはレイを見ながら呟いた。


「先程といい……何度も助けられて、生徒会長の名が恥ずかしい」


レイは笑った。


「最前線で戦ったんだから、かっこよくね?」


「……そう言われると嬉しいよ」


クウガが笑う。


だが、クラウスの表情は晴れない。


「……あいつを逃してしまったのぉ」


レイも頷く。


「あいつは本当に危険な奴だ」


「本当にそうだ」


クウガが拳を握る。


「俺の仲間が……」


レイがクラウスへ尋ねる。


「記憶や感情を取り返す方法はあるのか?」


クラウスは少し考える。


「感情はある」


「感情は?」


「あいつが持っていた、あの魔道具を取り返せば戻すことができるであろうな」


「じゃあ、記憶は?」


クラウスの表情が曇る。


「分からんのぉ」


「……」


「あいつの能力だからのぉ」


レイは少し考える。


「人は死ぬと能力がなくなるんだよな」


「あぁ」


「なら、ゼファーを倒したら能力は無くなって……記憶が戻るって可能性も?」


「無くはないかもしれん」


クラウスはそう答えた。


しかし、次の言葉は重かった。


「一つ、やばいことがあるとするなら――感情の方じゃ」


「感情?」


「あいつは盗んだ感情を、奈落の悪魔に与えておる」


全員の表情が変わる。


「だからじゃ」


クラウスが続ける。


「奈落の悪魔に盗んだ感情を与えてしまえば……その感情は、もう取り戻せないかもしれん」


「そ、そんな……」


クウガが呟く。


レイは拳を握る。


「……その前に、相手の基地に乗り込む」


「そうしたいのじゃが……」


クラウスが首を横に振る。


「わしが以前行った基地には、奈落の悪魔の封印場所は無かったのじゃ」


「……本拠点は別にあるってことか」


「その通りじゃ」


「どこに?」


クウガが尋ねる。


「まだ分からんのじゃ」


クラウスは空を見上げる。


「だが、早めに手を打たないとな」


レイが一歩前へ出る。


「手伝うよ」


クラウスがレイを見る。


「相手の拠点を探すぞ」


「おう」


クウガも続く。


「俺もです!」


強い意志を込めて拳を握る。


「仲間の記憶や感情を取り返したい!」


「なら俺たちも!」


ユージが声を上げる。


「おう」


アルスも頷いた。


クラウスは全員を見渡す。


「皆よ、学園に戻るのじゃ」


「怪我人、記憶を失った者、感情を失った者は教会に連れていく」


「分かったわ」


ソフィアが答える。


だが、クラウスはソフィアへ視線を向けた。


「ソフィアも休んでおれ」


「え?」


「その怪我じゃ、まともに動けまい」


ソフィアは自分の傷を見る。


「そんなことないわ」


そして、悔しそうに俯いた。


「私が弱いせいで、生徒達が……」


「そんなことない」


レイが静かに言った。


ソフィアが顔を上げる。


「……レイ」


「婆ちゃんは十分やったよ」


クラウスも頷く。


「あぁ」


そして、ゼファーが消えた方向を見る。


「すぐにゼファーを倒しに行く準備をしよう」


レイが尋ねる。


「拠点については?」


クラウスは意味ありげに笑った。


「一つ、方法があるからのぉ」


「一つ?」


「あぁ」


クラウスは歩き出す。


「まぁまぁ、とりあえず学園に戻るのじゃ」

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