18話 ガイム
時間は遡る。
ガイムとレイが向かい合っていた。
周囲には、先ほどまでの戦闘によって砕けた地面や壁が散らばっている。
しかし、二人ともそれを気にする様子はない。
互いの目だけを見ていた。
ガイムが口元を吊り上げる。
「さぁ、殺し合おうか」
レイはゆっくりと刀を構えた。
「かかってこい」
その言葉と同時に――
ガイムの姿が消えた。
「……!」
レイは即座に刀を抜く。
「焔纏い」
刀身に炎が纏う。
次の瞬間。
ガキィン!!
背後から振り下ろされたガイムの拳を、レイは刀で受け止めた。
「後ろか」
「反応が速いな!」
ガイムは笑いながら、さらに拳を振り抜く。
レイは身体を捻ってかわす。
拳が空を切り、地面へ叩き込まれた。
ドゴン!!
地面が大きく陥没する。
「……随分と力があるな」
「こんなもんじゃないぞ!」
ガイムの身体から魔力が噴き出す。
「魔力強化!」
全身を覆うように魔力が纏われ、筋肉がさらに強化されていく。
その姿から放たれる圧力だけで、周囲の空気が震えた。
「これならどうだ!」
ガイムが突っ込む。
速い。
先ほどとは明らかに違う速度だった。
レイは刀を横に構える。
「炎撃」
炎を纏った斬撃がガイムへ放たれる。
ズバッ!!
確かに攻撃はガイムを捉えた。
しかし――
「……ん?」
ガイムの身体が、霧のように薄くなっていく。
そして、そのまま消えた。
「どこに――」
「後ろだ!」
ドゴッ!!
背後から強烈な拳がレイを捉える。
レイの身体が前へ吹き飛ぶ。
「ぐっ……!」
数メートル先で地面を削りながら止まる。
レイはゆっくりと立ち上がった。
「相当強く殴ったつもりなんだがな」
「なんとなく耐えた」
「なんとなく?」
ガイムが笑う。
「面白い奴だ!」
再びガイムが迫る。
拳。
蹴り。
肘。
全てが一撃必殺級の威力を持っている。
レイはそれらを刀で受け流し、避けながら反撃する。
「炎撃!」
斬撃がガイムを捉える。
しかし――
まただった。
ガイムの身体が霧のように消えていく。
「またか」
「ははは!」
背後から声が聞こえる。
「俺を斬ったと思ったか?」
ガイムがレイの背後へ現れる。
「甘い!」
拳が振り抜かれる。
しかし――
レイは振り返らない。
「そこだ」
刀を後ろへ振る。
ガキィン!!
ガイムの拳と刀がぶつかった。
「なに……?」
ガイムの表情が僅かに変わる。
レイは刀を押し返しながら、冷静に呟いた。
「やっぱりな」
「何がだ?」
「お前の能力」
レイはガイムを睨む。
「分身だな」
ガイムが目を見開く。
「……大正解」
その瞬間。
ガイムの身体が霧のように薄れていく。
「お前の能力は分身を作り出す」
「しかも、その分身は攻撃までできる」
「……」
「だけど、一つだけおかしい」
レイは刀を構え直す。
「俺の攻撃を受けると、分身は消える」
ガイムが笑う。
「面白いだろ!」
「面白いな」
レイは周囲を見る。
「つまり、俺が今まで攻撃していたのは全部分身だった」
「そういうことだ!」
ガイムの姿が消える。
次の瞬間。
左右から二体。
さらに上空から一体。
背後から一体。
合計四体のガイムが現れた。
「さぁ、見つけてみろ!」
四人が同時に襲いかかる。
レイは刀を構える。
「面倒くせぇな」
一体目。
斬る。
消える。
二体目。
斬る。
消える。
三体目。
斬る。
消える。
「あと一体!」
レイが振り返る。
だが――
そこには誰もいない。
「……」
一瞬の静寂。
そして――
「後ろだ!」
ドゴォッ!!
強烈な拳がレイの背中を捉えた。
「ぐっ……!」
レイが前へ吹き飛ぶ。
ガイムが笑う。
「どうだ!」
レイは地面に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。
「理解した」
「何がだ?」
「お前の能力は、分身を作るだけじゃない」
ガイムが眉を動かす。
「分身に攻撃させることもできる」
「……」
「そして、本体と分身を見分ける方法はない」
「大正解だ」
ガイムが笑う。
「ならどうする?」
「全部消せばいい」
「……は?」
レイが刀を握り直す。
刀身を覆っていた炎が、さらに大きくなる。
「鬼炎乱舞」
炎が爆発的に広がった。
「一閃」
レイの姿が消える。
ズバッ!!
一体。
「二連」
二体目。
ズバッ!!
「三段」
三体目。
ズバッ!!
斬撃が連続して放たれる。
一体。
また一体。
さらに一体。
斬られた分身は、霧のように消えていく。
だが――
消えるたびに、炎が周囲へ拡散していく。
「な、なんだこの炎は……!」
鬼炎乱舞。
それは単なる連続居合ではない。
斬撃を重ねるたびに纏った炎が拡散し、周囲一帯を焼き払う範囲攻撃へと変化していく。
一閃。
二連。
三段。
繋げるほどに、炎の勢いは増していく。
ガイムが次々と分身を作り出す。
しかし――
「無駄だ」
レイが刀を振る。
炎が周囲へ広がる。
炎が分身に触れた瞬間、消滅していく。
「くそっ!」
ガイムは距離を取ろうとする。
だが、レイは逃がさない。
「見つけた」
「……!」
レイの視線が、一点へ向く。
そこに立っていたガイムだけが――
消えない。
「やっと本体か」
ガイムの顔から笑みが消える。
「チッ……!」
レイが一気に踏み込む。
ガイムも迎え撃つ。
「これで終わりだ!」
拳を振り抜く。
レイはそれを紙一重でかわす。
そのまま懐へ潜り込み――
「終わりだ」
刀が走った。
ズバッ!!
ガイムの腹部を刀が貫く。
「ガハッ……!」
ガイムの身体から力が抜ける。
レイは刀を引き抜く。
ガイムはその場に膝をついた。
「……まさか」
ガイムは自分の身体を見つめる。
「俺の分身を……全部……」
「お前の役割が分かったからな」
レイは刀を構えたまま答える。
「お前の能力は厄介だ」
「……」
「でも、お前自身が俺を倒す必要はないんだろ?」
ガイムが僅かに笑う。
「一つ違うな」
「何?」
「俺はお前を倒すことも、ちゃんと視野に入れてる」
ガイムは血を吐きながら笑った。
「だが……」
「もう時間だ」
「時間?」
ガイムの身体が崩れ始める。
「俺がここでお前を止めている間に……」
「ボスはもう……」
レイの表情が変わる。
「……そういうことか」
ガイムは笑う。
「お前を罵りたかったが……」
「もう……そんな余裕もないな」
レイはしばらくガイムを見つめた。
「もし、次会うことがあるなら」
ガイムが顔を上げる。
レイは静かに言った。
「敵じゃなく、こいよ」
ガイムは一瞬だけ驚いたような顔をした。
そして――
「そうしてやるよ」
その言葉を最後に、ガイムは床へ倒れた。
「まぁ、死なない程度に急所を外したがな」
レイは刀を納める。
「……さて」
レイは闘技場の方へ視線を向ける。
そこには、未だに巨大な忘却領域が広がっている。
レイは小さく息を吐いた。
「時間を稼ぐってのは、そういう意味だったのか」
そして――
レイは忘却領域へ向かって歩き出す。
しかし、結界の前で足を止めた。
「……これ、どうやって入るんだ?」
レイはしばらく結界を見上げる。
「普通に入ろうとしたら、時間を遅くされるんだよな」
少し考える。
そして――
レイは拳を握った。
「だったら」
空を見上げる。
「上から入ればいい」
レイは跳躍する。
一気に忘却領域の遥か上空へ。
そして――
拳を振り下ろす。
「邪魔だ」
――バキィィィン!!
忘却領域の天井に、巨大な亀裂が走った。
そのまま亀裂は、まるで砕けたガラスのように広がっていく。
そして――
レイは、砕けた領域の中へ降りていった。




