15話 襲撃
第一回戦が終わり、続いて第二回戦が始まろうとしていた。
会場には、まだ先ほどの試合の興奮が残っている。
司会を務めるクルミが、舞台中央へ進み出た。
「さぁ! 続いて第二回戦! 一年生Sクラス同士の対決です!」
会場が大きく沸く。
「ユージ選手!」
「おう!」
ユージが舞台へ上がる。
「そして対するは、ラウス選手!」
「よろしく、ユージ君」
反対側からラウスが歩いてくる。
二人が舞台中央で向かい合った。
ユージは拳を握る。
「よし……」
その視線の先には、観客席にいるレイがいた。
「レイと戦うために、ここは絶対に勝つ!」
ラウスが小さく笑う。
「僕も今回は負けるつもりはないよ」
「俺が勝つ!」
「それじゃあ――」
クルミが二人から距離を取る。
「試合開始ー!」
開始の合図と同時に、ユージが前へ飛び出した。
「先制攻撃いくぞー!」
ユージの身体に、激しい雷がまとわりつく。
「雷豪!」
バチバチと音を立てながら、ユージの身体が一気に加速した。
「速い……!」
ラウスが目を見開く。
ユージは一瞬で距離を詰め、拳を振り抜いた。
しかし――。
「雷のエンチャント?」
ラウスは冷静にユージを見る。
「それよりも強力だー!」
ユージが叫ぶ。
「でも――」
ラウスが手をかざす。
「僕との相性は、少し悪いかな」
「何?」
「遅延」
その瞬間。
ユージの身体が急激に重くなった。
「うっ……!」
先ほどまでの速度が嘘のように落ちる。
「なんだこれ……!」
「僕の能力だよ」
ラウスが一歩踏み込む。
「加速」
今度はラウス自身の速度が一気に上昇した。
「なっ――!」
ユージが反応するより早く、ラウスが距離を詰める。
「はぁっ!」
拳がユージへ迫る。
ユージは腕を交差させて防いだ。
「ぐっ!」
衝撃で後退する。
それでも、ユージはすぐに立て直した。
「なるほど……!」
ユージの口元に笑みが浮かぶ。
「加速と遅延を使う能力かぁ!」
ユージは楽しそうに笑った。
「面白い!」
「そう言っていられるのも今のうちだよ」
「だったら――」
ユージが右腕を引く。
「こいつはどうだ!」
「雷衝!」
身体にまとっていた雷が、一気に右腕へ収束していく。
そして――。
「おらぁ!」
ユージが拳を突き出した。
雷の衝撃が一気に放たれる。
「え――」
ラウスが目を見開いた。
次の瞬間、強烈な雷の衝撃によって身体が大きく吹き飛ばされる。
「うわっ!」
ラウスは舞台を転がり、なんとか立ち上がった。
「う、動きにくい……」
身体に雷が残っているのか、思うように動けない。
ユージはゆっくりと歩み寄る。
「じゃあ、そろそろ――」
「……僕もね」
ラウスが顔を上げた。
「まだ終わってないよ」
その目には、まだ戦う意志が残っていた。
「加速――乱」
ラウスの身体が一瞬で加速する。
今までとは明らかに違う速度だった。
「速っ!」
ユージも雷をさらに強くまとわせる。
「だったら俺も!」
「雷豪――相殺!」
二人が同時に地面を蹴った。
ラウスの拳と、雷をまとったユージの拳が真正面からぶつかり合う。
――轟音。
衝撃が舞台を駆け抜ける。
「うおおおお!」
「はああああ!」
互いに一歩も引かない。
そして――。
先に立っていたのは、ユージだった。
ラウスがゆっくりと倒れる。
ソフィアが二人を確認する。
「ラウス選手、戦闘不能。よって――ユージ選手の勝利!」
会場が大きな歓声に包まれた。
「よっしゃあああ!」
ユージが拳を突き上げる。
ラウスは悔しそうに笑った。
「負けたーーー!」
「いい勝負だったな!」
ユージが手を差し出す。
ラウスもその手を取った。
「うん。ユージ君もめちゃくちゃ強かったよ」
「お前の能力もめっちゃ面白かった!」
「ありがとう」
二人は笑い合った。
◇◇◇
「どうだ!」
試合を終えたユージが、レイたちのもとへ戻ってきた。
レイは腕を組んだまま頷く。
「中々強かったな」
「……中々?」
ユージの笑顔が固まる。
「それだけ?」
「いや、かなり強かったぞ」
「最初からそう言ってくれ!」
アルスが笑う。
「強かったぞ、ユージ」
ルナも続く。
「中々やるじゃん〜」
カナも嬉しそうに頷いた。
「速かったです!」
セニアは少し腕を組む。
「まぁまぁですわね」
「お前まで!」
ユージが頭を抱える。
「俺、勝ったんだからもっと褒めてくれてもいいだろ!」
「確かに強かったわ」
セニアが微笑む。
「よぉし!」
ユージは満足そうに胸を張った。
その時、ルナがお腹を押さえる。
「カナちゃん、セニアちゃん。私、お腹すいたから何か買いに行こ〜」
「はい! 私も何か食べたいです!」
「ですわね」
カナとセニアも立ち上がる。
アルスも続いた。
「俺たちも何か買いに行くか」
「おう」
レイも立ち上がる。
「何食べようかなぁーー!」
ユージも楽しそうに歩き出した。
――その瞬間だった。
「……さぁ」
どこからともなく、低い声が響いた。
「地獄の始まりだ」
「……?」
レイが足を止める。
「今、何か聞こえなかったか?」
「え?」
ユージが振り返る。
次の瞬間――。
闘技場全体が、黒い光に包まれた。
「な、なんだ!?」
生徒たちが一斉に騒ぎ始める。
闘技場の周囲に、巨大な結界が張られていく。
「結界……!?」
アルスが近くの壁へ駆け寄る。
手を触れてみる。
「出られない!」
「……!」
レイの表情が変わった。
「まさか……」
闘技場の中央。
そこに、黒い霧が集まり始めた。
霧は次第に濃くなり――。
二人の人影が現れた。
一人は、黒いローブを身にまとった男。
もう一人は、その隣に立つ大柄な男。
黒いローブの男が、ゆっくりと歩き出す。
カツ。
カツ。
靴音が闘技場に響く。
「地獄に堕ちろ」
その言葉と同時に――。
近くにいた一人の生徒が、その場に崩れ落ちた。
「え……?」
周囲にいた生徒たちが凍りつく。
「何が起きた!?」
「おい! 大丈夫か!」
倒れた生徒へ駆け寄る。
しかし、返事がない。
「まさか……!」
レイは男を見る。
「感情を……盗んだのか?」
黒いローブの男は答えない。
そのまま、ゆっくりと生徒たちへ近づいていく。
「逃げろ!」
「結界を壊せ!」
「魔法を撃て!」
生徒たちが一斉に結界へ攻撃を始める。
しかし――。
「無駄だ」
黒いローブの男が淡々と言う。
「その結界は、お前ら如きでは壊せない」
「……!」
「諦めろ」
男が歩みを進める。
その姿に、生徒たちの恐怖が広がっていく。
「カナ……」
レイが振り返る。
カナは男たちを見つめ、震えながら呟いた。
「あ、あの人たちは……」
「分からない」
しかし、レイには一つだけ分かっていた。
――忘却の楽園
「やばい……!」
アルスも構える。
ユージも拳を握る。
「俺たちで――」
その時。
「皆さん、落ち着いてください!」
ソフィアが生徒たちの前へ出た。
「慌ててはいけません!」
ソフィアは静かに敵を見据える。
「お前だけで、この数の生徒を守れるのか?」
黒いローブの男が問いかける。
ソフィアは答えた。
「私だけじゃないわ」
その瞬間。
学園の教師たちが次々とソフィアの前へ並んだ。
ローベルもその中にいる。
「生徒たちには指一本触れさせない」
ローベルが言い放つ。
黒いローブの男は、愉快そうに笑った。
「ハハハッ!」
そして両手を広げる。
「雑魚が何人湧いて出てきたところで、結果は変わらん!」
ローベルが睨みつける。
「お前らは何者だ」
「自己紹介がまだだったな」
男は足を止めた。
「どうも。忘却の楽園――リーダー、ゼファーだ」
そして隣の男へ視線を向ける。
「こいつは幹部のガイム」
大柄な男――ガイムが一歩前へ出る。
「……」
「お前らが……忘却の楽園か」
ローベルの表情が険しくなる。
「学園長はどこにいる!」
ゼファーは少し笑った。
「ああ」
そして――。
「死んだよ」
「……は?」
ローベルの表情が固まる。
ソフィアも一瞬、言葉を失った。
だが――。
ソフィアはすぐにレイのもとへ近づいた。
「レイ」
「何?」
「大丈夫よ」
ソフィアはレイを見つめる。
「クラウスが、あんな奴らに負けるわけないわ」
「……そうだな」
レイも頷く。
そして、ゼファーを見つめる。
「……嘘をついてるな」
ゼファーがこちらを見る。
「ほう?」
「爺ちゃんは死んでない」
レイは確信していた。
その頃、ユージが小声でアルスへ話しかける。
「あいつら馬鹿じゃない?」
「何が?」
「こんな人数の生徒がいて、先生もいて、しかも魔法学園だぞ?」
ユージは敵を指差す。
「それなのに二人だけで乗り込んできたんだぜ?」
「……確かに」
アルスも頷く。
しかし、ソフィアは首を横に振った。
「いや……違うわ」
「え?」
「あのゼファーという男」
ソフィアは真剣な表情を浮かべる。
「口だけではないわ」
レイもゼファーを見つめていた。
「……魔力量が多いな」
「ええ」
ソフィアも頷く。
「私には分かる」
ソフィアは一度目を閉じ、そして静かに息を吐いた。
「副学園長として――」
レイを見る。
「そして、お婆ちゃんとして。私はあなたたちを守らなければならない立場だと分かっている」
その声には、普段の穏やかさがなかった。
「でも……」
ソフィアはゼファーを見る。
「私じゃ、あいつには勝てない」
「……!」
「だからレイ」
ソフィアがレイへ手を伸ばす。
「力を貸してくれる?」
レイは迷うことなく頷いた。
「もちろんだ」
そのやり取りを、ガイムが見ていた。
「ボス」
「なんだ?」
「あの刀を持って、副学園長と話している奴」
ガイムはレイを見る。
「中々の強さです」
ゼファーは興味深そうにレイを見た。
「ふーん」
そしてガイムへ尋ねる。
「ガイム。お前、できるか?」
「はっ!」
ガイムが拳を握る。
「では、あいつを倒してきます」
「頼んだ」
ガイムがレイへ向かって歩き出した。
カツ。
カツ。
その足音が近づいてくる。
「……あいつ、近づいてきてるわ!」
セニアが構える。
「俺たちで倒す!」
アルスが前へ出る。
「ああ!」
ユージも並ぶ。
しかし――。
「どけ」
ガイムが低く呟いた。
「は?」
次の瞬間。
ガイムはアルスとユージの間を一瞬で抜けた。
「なっ――!」
そして、そのままレイの胸元を掴む。
「レイ!」
ソフィアが叫ぶ。
「レイさん!」
カナも声を上げる。
「レイ!」
アルスが振り返る。
「レイを離せ!」
ユージが叫ぶ。
「どいて!」
ルナも走り出す。
セニアも続く。
「レイ!」
しかし――。
ガイムはレイを掴んだまま、地面を蹴った。
そのまま一気に上空へ飛び上がる。
「なっ……!」
そして、結界の外へ出た。
「結界の外へ……?」
レイは驚く。
「この結界、任意の人間は出られるのか」
「今はそんなことを気にしている場合か?」
ガイムが笑う。
レイは落ち着いていた。
「そうだな」
そしてガイムを見つめる。
「お前を倒して、すぐに戻ればいい」
「……生意気なガキが」
ガイムがレイを放す。
二人は地面へ降り立ち、向かい合った。
レイは刀へ手を添える。
「倒す前に一つ聞かせろ」
「何だ?」
「お前らの目的は何だ」
ガイムは答えない。
「なぜ魔法学園を襲う?」
「知ってどうする?」
「特に何もしない」
「なら教える必要もないな」
ガイムがニヤリと笑う。
「目的は教えられない」
「……そうか」
「だが――」
ガイムは続ける。
「なぜここを襲ったのかくらいは教えてやる」
レイが目を細める。
「ここの学園長」
ガイムは笑った。
「あいつを苦しめるためさ」
「……そうか」
レイの表情から、笑みが消える。
「なら――」
刀を抜く。
「尚更、お前らを倒さなくちゃならなくなった」
「やってみろよ、ガキ」
ガイムが構える。
「ああ」
レイも構えた。
二人の間に、静かな緊張が走る。
――その頃。
闘技場では、ゼファーが生徒たちを見下ろしていた。
「さて……」
その口元に、不気味な笑みが浮かぶ。
「地獄の続きを始めようか」




