14話 バトルクロス開催
――大会当日の朝。
「……アカマル」
レイは困ったように、自分の頭の上を見上げた。
「そろそろ、どいてくれないか?」
「クゥゥン……」
アカマルはレイの頭の上で丸くなり、気持ちよさそうに眠っている。
「もうそろそろ学園に行かないといけないんだが……」
「クゥン……」
返事をしたと思った次の瞬間。
アカマルはさらにレイの頭に体を預けた。
「……分かったよ」
結局、レイはアカマルを頭に乗せたまま学園へ向かうことになった。
◇◇◇
「レイ! おはよぉ!」
学園へ着くと、ユージがこちらへ駆け寄ってきた。
「おはよ」
「……その頭、どうした?」
「色々あった」
「可愛いな」
ユージがアカマルを見上げる。
「可愛い」
後ろから来たアルスも頷いた。
「よっ、アルス」
「おう」
アルスはレイを見ると、少し笑った。
「今日は敵同士だな」
「そうだな」
「マジで頑張る」
「俺もだ」
そんな二人のもとへ、カナたちもやって来た。
「レイさん! ……アカマルさん?」
「アカマルが頭から離れないんだ」
「可愛いですね!」
カナが嬉しそうにアカマルを見る。
「めっちゃ可愛い〜。触りたい〜」
ルナも目を輝かせる。
「モフモフしたいですわ」
セニアまで興味津々だ。
「触るのは自由だけど、あまり触りすぎると嫌がるぞ。たぶん」
「分かった〜」
「分かりましたわ」
二人がレイの頭の上にいるアカマルへ手を伸ばす。
「ほんとにしがみついてるんだね〜」
「離れないんだよ」
ルナが優しく撫で、セニアはアカマルの尻尾をそっと触る。
「ふわふわですわ……」
「クゥゥン」
アカマルが小さく鳴いた。
すると――。
突然、アカマルがレイの頭から顔の前へ移動してきた。
「え?」
次の瞬間。
「アカマ……ゴホッ! 息が……」
アカマルがレイの顔にしがみついた。
「ちょ、待て……!」
「クゥゥン!」
「し、死ぬ……!」
レイが必死にアカマルを引き離そうとする。
「アカマルさん!」
カナがすぐにアカマルを両手で抱き上げた。
「……助かった、カナ」
レイが息を整える。
アカマルはというと、カナの膝の上に座ると、まるで何事もなかったかのように大人しくなった。
「カナちゃん、どうやって離したの〜?」
「優しく抱きしめただけですよ」
カナはアカマルを撫でながら尋ねる。
「どうしてレイさんの顔にしがみついてたんですか?」
「クゥン」
「そうなんですか!」
レイが目を丸くする。
「……カナ、お前アカマルと普通に会話してないか?」
「そうみたいですね」
「俺と同じか」
「私にも何を言っているのか分かりますよ〜」
ルナも手を挙げる。
「私も少しなら分かりますわ」
セニアまで頷く。
アカマルはそんなレイを気にすることなく、カナに抱きかかえられている。
「アカマル、カナには素直だよな」
「クゥン?」
「……なんでもない」
カナは楽しそうにアカマルを撫でる。
「可愛いです!」
その横ではルナとセニアも加わり、三人でアカマルを思い切り撫でていた。
そんな光景を見ながら、ユージがレイへ向き直る。
「レイ!」
「ん?」
「今日は俺がお前を倒す!」
「期待してるよ」
「俺も忘れるなよ」
アルスも口を挟む。
「おう! アルスもな!」
レイは小さく笑った。
「じゃあ、行くか」
「ああ!」
いよいよ――。
バトルクロスが始まる。
◇◇◇
魔法学園・闘技場。
学園最大の闘技場には、すでに大勢の生徒や教師が集まっていた。
観客席からは、期待に満ちた声が響いている。
そして中央に設置された舞台の上へ、一人の女性が立った。
「生徒の皆さん! お待ちかねの大会です!」
明るく声を響かせる。
「司会は私、三年Aクラスのクルミが担当します!」
大きな歓声が上がる。
「そして今回は、学園長が不在とのことなので――」
クルミが隣を見る。
「副学園長のソフィア様が審判を務めます!」
ソフィアが軽く手を振る。
「よろしくね」
そしてクルミが声を張り上げる。
「早速ですが、一年生の部から始めましょう!」
闘技場全体が静かになる。
「ルールは簡単! 魔法、能力の使用は自由!」
観客席から歓声が上がる。
「相手を気絶、戦闘不能、または降参させれば勝利です!」
そして――。
「それでは一年生の部、第一回戦! 選手は前へ!」
「早速俺か」
レイが立ち上がる。
「行ってくる」
「おう! 頑張れ!」
ユージが拳を握る。
「勝ってこい」
アルスも頷く。
「応援してます!」
カナが笑顔で声をかける。
「がんば〜」
「あなたなら勝てますわ」
ルナとセニアも続いた。
「ああ」
レイは闘技場へ向かった。
◇◇◇
「さぁ! 第一回戦!」
クルミが叫ぶ。
「Sクラス、レイ!」
レイが舞台へ上がる。
「対するは、Aクラス、ソーラル!」
反対側からソーラルが姿を現した。
向かい合う二人。
ソーラルが静かに口を開く。
「Sクラスの人に勝つ。それが僕の目標なんだ」
「そうか」
レイは刀へ手を添える。
「俺も少し負けられなくてな。悪いけど、勝たせてもらう」
「じゃあ、始めようか」
「ああ」
クルミが二人を確認する。
「それでは――」
会場が静まり返る。
「第一回戦、開始です!」
「風魔法――ウインドブラスト!」
ソーラルの手から、巨大な風が放たれた。
凄まじい勢いでレイへ迫る。
しかし――。
レイは慌てることなく刀を抜いた。
――一閃。
巨大な風が、真っ二つに割れた。
「……は?」
ソーラルが目を見開く。
「風が……斬れた?」
レイは刀を構えたまま、淡々と尋ねる。
「もう攻撃は終わりか?」
「くっ……!」
ソーラルが距離を取る。
「なら――風魔法!」
無数の風の塊がソーラルの周囲に現れる。
「風純!」
無数の風弾が一斉にレイへ向かって飛んでいく。
「風魔法か」
レイは刀を構えた。
「なら――」
刀身が炎に包まれる。
「焔纏い」
炎が刀を覆う。
「業火烈破」
レイが刀を地面へ突き刺す。
次の瞬間――。
前方へ向かって、扇状に爆炎が噴き出した。
迫っていた無数の風弾が、一瞬で炎の中へ飲み込まれていく。
「う、嘘だろ……」
ソーラルが呆然とする。
「あんな量の風を、一瞬で……」
レイは刀を抜く。
「じゃあ、今度は俺から攻める」
「……!」
レイの姿が消えた。
「鬼炎乱舞――」
次の瞬間、ソーラルの目の前に現れる。
「一閃」
刀が振り抜かれる。
飛ばされた斬撃が炎を纏いながら進み、ソーラルへ迫る。
「くっ……!」
「熱っ……!」
ソーラルが後退する。
「まだだ!」
レイが続ける。
「二連」
先ほどより速く、強い斬撃が放たれる。
「うぅ!」
ソーラルの防御が崩れる。
それでもソーラルは立ち上がった。
「まだ……!」
「風壁!」
巨大な風の壁を展開する。
「これで――」
「三段」
レイの刀が振り抜かれた。
先ほどまでとは比べ物にならない速度。
風の壁を斬り裂き、そのままソーラルの前へ迫る。
「……!」
炎を纏った斬撃がソーラルを捉える。
ソーラルはその場に倒れ込んだ。
「ソーラル!」
会場から声が上がる。
しばらくして――。
「ま、まだ……」
ソーラルがなんとか起き上がろうとする。
レイは静かに声をかけた。
「立ったら傷が悪化するぞ」
「うぅ……」
「まだ戦うのか?」
「……」
ソーラルはしばらく黙っていた。
そして、苦笑する。
「……負けたよ」
ソフィアが確認する。
「ソーラル選手、降参を確認。勝者――レイ」
闘技場に歓声が響き渡った。
ソーラルは倒れたまま笑う。
「君……ほんと強いね」
「まぁな」
「完敗だよ」
レイは刀を収める。
「でも、中々いい技だった」
「……ありがとう」
レイはソーラルへ背を向け、仲間たちのもとへ戻っていった。
◇◇◇
「よっ」
レイが戻ってくる。
ユージがすぐに叫んだ。
「レイ、お前やっぱ強すぎん!?」
「気のせいじゃないか?」
「気のせいのわけないだろーーー!」
ユージが頭を抱える。
アルスも苦笑した。
「まさか相手の技をほぼ完封するとはな」
「かっこよかったよぉ〜」
ルナが笑う。
「すごい技術でしたわ」
セニアも頷く。
「ありがと」
レイは軽く手を上げる。
その隣では、カナがアカマルを膝の上に乗せたままレイを見ていた。
「とってもかっこよかったです!!」
「ありがとな」
レイは笑う。
「まぁ、あんまり褒められすぎると困るけどな。揶揄いすぎだしな」
「……」
カナが小さく呟く。
「揶揄ってないんですが……」
「ん? 何か言ったか?」
「へっ!? い、いえ、何も!」
カナの頬が少し赤くなる。
「そうか」
レイは特に気にせず、次の試合を確認する。
「次は――」
ユージが立ち上がった。
「俺か!」
「俺と戦いたいなら、まず勝てよ」
「おうよ!」
ユージは拳を握る。
「絶対勝つ!」
その様子を見て、レイは笑った。
「頑張れよ」
そして、クルミの声が闘技場に響き渡る。
「さぁ、続いての試合も盛り上がっていきましょう!」
バトルクロスは、まだ始まったばかりだった。
◇◇◇
――同じ頃。
ラミール王国から離れた場所。
忘却の楽園の基地。
「ボスが帰ってくるまで、待つしかないかぁ」
「そうだな」
男たちがそう話していた、その時。
――コツ。
――コツ。
外から、足音が聞こえてきた。
「……誰だ?」
男たちが入口を見る。
「ボスか?」
しかし、現れたのは――。
「こんなところに基地があるとはのぉ」
老人だった。
「……あぁ?」
一人の男が睨みつける。
「お前、誰だ」
老人は穏やかに笑った。
「どこぞの学園長、とでも言えば分かるかの?」
「……は?」
「邪魔をしないでもらいたい」
その言葉に、男たちが一斉に立ち上がった。
「お前、ここに何人いるか分かってんのか?」
基地内には、ざっと見ただけでも五十人以上。
それでも老人――クラウスは、まったく動じなかった。
「そんなの関係ないわい」
「……舐めやがって!」
「お前ら、やれー!」
男たちが一斉にクラウスへ襲いかかる。
クラウスはため息をついた。
「単純じゃの」
次の瞬間――。
轟音が響いた。
基地の壁が大きく揺れる。
そして――。
五十人を超える男たちが、一斉に吹き飛ばされた。
その衝撃で、基地そのものまで崩壊していく。
「な、何を……」
男の一人が呆然とする。
クラウスは周囲を見渡した。
「お前らのボスはどこじゃ?」
男は震えながら笑う。
「ハ、ハハハ……!」
「何がおかしい?」
「ボスは……お前の国を破壊しに行った!」
男は叫ぶ。
「お前が帰る場所なんて、もう無くなるんだ!」
クラウスの表情から笑みが消えた。
「……黙れよ」
低い声だった。
「無礼者」
クラウスが男を睨む。
男はその圧に怯みながらも、なお笑おうとする。
「ひっ……!」
クラウスはその男を軽く制圧した。
「さて……」
クラウスは周囲を見渡す。
「やられたのぉ」
そして、壊れた基地を見る。
「早く帰らんとな」
しかし――。
「その前に、スパイをしてもらっていた者を探すかのぉ」
その時。
崩壊した基地の奥から、誰かが歩いてきた。
「……お前もこいつらの仲間かのぉ?」
クラウスが問いかける。
男は答えた。
「俺はガイム」
そして、ゆっくりと名乗る。
「忘却の楽園の幹部だ」
ガイムの右手には、意識を失ったスパイが抱えられていた。
クラウスの目が細くなる。
「ほぉ……」
「よくもまぁ、こんなに暴れてくれたな」
「お前もすぐ、こいつらのようになるのぉ」
「やってみろ」
ガイムが戦闘態勢に入った。
――その瞬間。
クラウスの姿が消えた。
「……!」
次の瞬間には、ガイムの首元を狙う一撃が放たれていた。
ガイムの姿が崩れる。
しかし――。
その身体は黒い霧のように変化し、その場から消えていった。
クラウスは目を細める。
「……能力か」
ガイムの姿は、もうどこにもない。
クラウスは周囲を見渡す。
「まぁ、よい」
そして、意識を失ったスパイへ目を向ける。
「早めに帰るかのぉ」
崩壊した基地を背に、クラウスは歩き出した。




