13話 大会前日
――バトルクロス前日。
魔法学園では、明日に迫った大会の話題で持ちきりになっていた。
「明日は大会だぞーーー!」
教室中にユージの声が響き渡る。
朝から妙にテンションが高い。
レイはそんなユージを横目に見ながら、呆れたように笑った。
「良かったな」
「レイこそ楽しみだろ?」
「俺は普通」
「なんでそんなに冷静なんだよ!」
ユージが机を叩く。
その隣でアルスも笑っていた。
「確かに、明日は楽しみだな」
「だよなぁ!」
ユージは嬉しそうに頷く。
すると、教室の扉が開いた。
ローベルが入ってくる。
「お前ら、一旦席に着け」
生徒たちはそれぞれ席へ戻っていった。
ローベルは教壇に立つと、教室を見渡す。
「今日のホームルームで話すことは、明日の大会についてだ」
「本当ですか!?」
ユージが食いつく。
「ああ」
ローベルは手元の資料を見る。
「今回、一学年の参加者は二十名だ」
教室が少しざわつく。
「その内訳は、Sクラスが九名。Aクラスが八名。Bクラスが三名だ」
ローベルは続ける。
「まず、Sクラスの参加者を発表する」
教室の前方に表示が浮かび上がった。
「アルス、ルナ、ユージ、カナ、セニア、ラウス、カルマ、ラント……そしてレイ」
名前が一人ずつ表示されていく。
ユージが画面を見ながら頷いた。
「この九人か」
「そうだ」
ローベルは表示を切り替える。
「今から、この九人の対戦相手を発表する。明日のためにも、しっかり覚えておくように」
次々と対戦カードが表示されていく。
第一回戦 レイ VS ソーラル
第二回戦 ユージ VS ラウス
第三回戦 セニア VS メラギウス
第五回戦 ルナ VS カルマ
第七回戦 カナ VS ノーム
第十回戦 アルス VS ラント
教室がざわめく。
自分の対戦相手を確認する生徒たち。
レイも画面をじっと見つめた。
「以上がSクラス九名の対戦相手だ」
ローベルは資料を閉じる。
「これでホームルームを終える。授業が始まるまでは自由にしていい」
そう言い残すと、ローベルは教室を出ていった。
扉が閉まった瞬間――。
「レイー!」
ユージが勢いよくレイのもとへ駆け寄ってくる。
「なんだ?」
「対戦相手、見たか?」
「見たぞ」
「俺とレイ、勝ったら次の試合で戦えるんだよな!」
「ああ」
「絶対勝てよ!」
「善処する」
「お前、もっとやる気出せよ!」
レイは苦笑する。
「お前こそ勝てるのか?」
「頑張る!」
「急に自信なくなったな」
「いやいや、俺だって本気だからな!」
ユージは拳を握りしめた。
レイはもう一度、自分の対戦相手を確認する。
「俺の相手はAクラスか」
「俺は同じSクラスのラウスかぁ……」
ユージが少しだけ表情を引き締める。
アルスも画面を見る。
「俺もSクラスだな」
ルナも続けた。
「私もSクラスの人と戦うよ〜」
セニアは自分の対戦相手を確認する。
「私はAクラスの方ですね」
カナも頷く。
「私もAクラスの人とです!」
「俺は第一回戦目か」
レイが呟く。
「早いな」
「俺たちは最初からかぁ!」
ユージはむしろ嬉しそうだった。
「楽しみだぁーーー!」
レイも小さく笑う。
「ああ」
――誰もが、明日の大会を楽しみにしていた。
少なくとも、この時までは。
◇◇◇
――とある場所。
ラミール王国から遠く離れた場所に、一つの巨大な基地があった。
薄暗い室内。
そこには、複数の人間が集まっている。
「ボス。感情を盗む魔道具――『シーフロード』の準備ができました」
一人の男が報告する。
「そうか」
奥から声が返ってきた。
「なら、ラミール王国を地獄に落としに行こうか」
「はっ! 皆、いつでも出られます!」
「いや」
その男――ゼファーは、ゆっくりと首を横に振った。
「お前らはここに残れ」
「……え?」
「俺一人で充分だ」
部下たちがざわつく。
「しかし――」
「明日には、魔法学園の学園長がここへ来る」
ゼファーは淡々と言った。
「だから、お前らが相手をしろ」
「学園長を……ですか?」
「ああ。少しでも時間を稼げ」
部下たちは互いに顔を見合わせる。
しかし、ゼファーの命令に逆らう者はいなかった。
「……分かりました!」
「よし」
ゼファーは満足そうに笑った。
「それと――」
ゼファーは部下の一人へ視線を向ける。
「学園の手先だった、あいつはどうした?」
「まだ拘束しています」
「そうか」
ゼファーはゆっくりと歩き出した。
「なら、そろそろあいつの感情を盗もうか」
「はい!」
◇◇◇
基地の奥。
そこには、一人の男が鎖で拘束されていた。
長い間捕らえられていたのか、疲れ切った様子で俯いている。
ゼファーが目の前まで歩いていく。
「……まだそんなことを言えるのか」
男は顔を上げた。
「はぁ……はぁ……」
それでも、その目には強い意志が残っていた。
「お前らは……どうせ、すぐ終わる」
ゼファーが少しだけ笑う。
「まだそんなことを言えるのか」
「黙れ!」
男は睨みつける。
「ゼファー! 人の記憶を盗んで、何が楽しいんだ!」
ゼファーは答えた。
「強くなるためだ」
その言葉に迷いはない。
「俺は、人の記憶を奪うことで、その人間が持つ知識や経験を手に入れられる」
ゼファーは男を見下ろした。
「これほど効率のいい力はないだろ?」
「……ふざけるな」
「いやぁ、それにしても――」
ゼファーは楽しそうに笑う。
「まさか俺たちの集団に、スパイが紛れ込んでいるとはな」
男の表情が変わる。
「……!」
「驚いたか?」
ゼファーは愉快そうだった。
「だが、もう遅い」
男は歯を食いしばる。
「ラミール王国がお前らを全力で破壊する」
「ハハハッ!」
ゼファーが笑い出す。
「何がおかしい!」
男が怒鳴る。
「ラミール王国に、強い奴がいるのか?」
「魔法学園の学園長だ」
「学園長……?」
ゼファーは少し考えた。
「今の俺と、どっちが強いだろうな」
そして、また笑う。
「まぁ、どちらでもいい」
「……何?」
「お前のおかげで助かったよ」
男が怪訝そうにする。
「お前の記憶を見たおかげで――」
ゼファーの笑みが深くなる。
「その学園長が、明日ここへ来ることを予測できたからな」
「……クッ!」
男は悔しそうに拳を握る。
「だが、どれだけ強くても意味はない」
ゼファーは背を向ける。
「学園長がここへ着く頃には、俺はもういない」
「何……?」
「さて」
ゼファーが振り返る。
「そろそろ始めようか」
男の顔が強張る。
「お前の感情と――記憶を」
「やめろ!」
男が抵抗する。
だが、拘束された身体ではどうすることもできない。
ゼファーは手に持った魔道具――シーフロードを起動した。
鎖のような光が男へ伸びていく。
「……!」
男の表情から、少しずつ感情が薄れていく。
ゼファーはそれを眺めながら、静かに呟いた。
「忘却」
そして次に、男へ手を伸ばす。
触れた瞬間――。
ゼファーの能力が発動した。
男の記憶が、ゼファーの中へ流れ込んでいく。
家族。
仲間。
故郷。
これまで生きてきた記憶。
それらが一つずつ失われていく。
やがて――。
男は何も言わなくなった。
ただ、そこに座っているだけだった。
ゼファーはその様子を見て、満足そうに笑う。
「……フッ」
「封印を解くまで――あと少しだ」
薄暗い基地の中に、ゼファーの笑い声だけが響く。




