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果てなき世界の物語!  作者: もちもち大福
第一章 始まり
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11話 それぞれの決意

魔法学園での生活が始まってから、しばらくの時が流れた。


 最初こそ慣れないことも多かったレイだったが、今では授業にも寮生活にもすっかり馴染んでいた。


 昼休み。


 レイがいつものようにユージと話していると、ユージが机に突っ伏しながら大きくため息をついた。


「俺は授業内容が頭に入らないーーー!」


 その様子を見て、レイは呆れたように笑う。


「早いな。もう詰むのか」


「マジで助けてくれ!」


「気分次第」


「おーーーい!」


 ユージの悲痛な叫びが教室に響く。


 レイは苦笑しながら手を振った。


「まぁまぁ、そんな大きな声出すなって」


「頼むからテスト前には教えてくれよー!」


「分かった、分かった」


 どうやら本当に困っているらしい。


 レイが仕方なく了承すると、ユージはすぐに機嫌を直した。


 そして、ふと思い出したように口を開く。


「そういやレイ。結局、大会参加するのか?」


「おう」


「おお! じゃあ俺もレイに勝てるように頑張るかぁ」


 ユージは拳を握りしめる。


「あと三週間か……」


 そう呟いたところで、二人のもとへカナとルナがやって来た。


「私も負けないよ〜」


 ルナが楽しそうに笑う。


「カナちゃんはどうする〜?」


「私は……」


 カナの表情が少し曇った。


 それを見て、レイが尋ねる。


「参加しないのか?」


「私、みんなと違って弱いですし……」


「そうか?」


 レイが首を傾げる。


 ルナもすぐに続いた。


「カナちゃんは充分強いと思うよ〜」


「ですが……最近、能力を少しだけ使えるようになっただけなんです」


 カナの能力――未来視。


 以前はほとんど扱うことができなかった。


 しかし、最近になって少しずつその力を使えるようになってきている。


 それでも、周囲には自分よりも強い人間が大勢いる。


 その差を、カナ自身が一番よく分かっていた。


 レイはそんなカナを見つめる。


「だが、使えるようになったんだろ?」


「……はい」


「だったら、試す機会なんじゃないか?」


 カナが顔を上げる。


「試す……機会?」


「ああ。大会なんて、結局は戦うだけだろ。勝っても負けても、自分がどこまでやれるかは分かる」


 レイの言葉を聞き、カナは少し考え込んだ。


「そ、そうですね……」


 するとルナがカナの腕を引っ張った。


「よし! じゃあ今は遊びに行こ〜!」


「えっ、あ、はい!」


 二人はそのまま教室を出ていった。


 その後ろ姿を見送りながら、ユージが呟く。


「カナちゃん、悩んでるのかぁ」


「かもな」


 レイは腕を組みながら答えた。


「自分の能力を使いこなせない自分と、能力を自由に扱える周りの人間を比べて、劣等感を感じてるんだろうな」


「そんなことないのになぁ」


「だな」


 そこへアルスも会話に加わった。


「カナって、グリードと戦った時もかなり活躍してたよな。レイはどう思う?」


 レイは少し考える。


「カナが一番努力してるんじゃないか?」


「一番?」


「ああ。毎朝、カナの魔力って半分くらいしか残ってないんだ」


 ユージとアルスが顔を見合わせる。


「それって……」


「恐らく、俺が教えたことを毎日やってるんだろうな」


 レイは淡々と話した。


「毎日、魔力がなくなるくらいまで練習してるってことか?」


 アルスが驚く。


「だな」


「すげぇ努力家だなぁ……」


 ユージは感心したように呟いた。


 そして、突然立ち上がる。


「よし! 俺もレイに勝つために練習しなきゃ!」


「俺も」


 アルスも立ち上がる。


 するとレイまで立ち上がった。


「じゃあ俺も」


「レイは特訓するな」


「え?」


 即答だった。


 レイが目を丸くする。


「レイまで特訓したら、俺たち追いつけないだろぉ!」


「フリか?」


「フリ」


「フリなのかよ」


 レイが呆れたようにため息をつく。


 アルスはそんな二人を見て、少し笑った。


「仲良いな」


「まぁな」


「そうかもな」


 レイも小さく笑う。


「あと三週間、頑張れよ」


「ああ!」


「おう!」


 ――もっとも。


 その直後だった。


「特訓も大事だが、遊ぶのも大切!」


「ん?」


 ユージが突然宣言する。


「よし、遊びに行こう!」


「お、おい。特訓は?」


「あと三週間あるから!」


「確かにな」


「お前、納得するの早くないか?」


 アルスが呆れながらも立ち上がる。


「俺も行く」


「分かった」


 こうして三人は、特訓より先に遊びに行くことになった。


 ◇◇◇


 三人が向かったのは、街中にあるレストランだった。


 店内に入り、席につく。


 ユージがメニューを覗き込む。


「何食う?」


「俺はパスタで」


「俺はハンバーグ」


 アルスが答える。


「どれも美味そうだなぁ……」


 ユージは悩みに悩んだ末、顔を上げた。


「俺はオムライス!」


「結局そこかよ」


 レイが笑う。


 料理を注文しようとした、その時だった。


「あれって?」


 アルスが店の奥を指差した。


「どうした?」


 ユージが振り返る。


「あれって、ルナたちじゃないか?」


「ほんとだ」


 そこには、カナ、ルナ、そしてセニアがいた。


 三人は同じテーブルを囲み、何やら楽しそうに話している。


 そしてテーブルの上には――。


 大量のパフェが並んでいた。


「おーい!」


 ユージが声をかける。


 ルナがこちらを振り向く。


「あ、お調子者〜」


「え?」


 ユージの表情が固まった。


 セニアも平然と続ける。


「本当にお調子者ですわね」


「カナちゃんまで……!」


 カナは困ったように笑う。


「ユージさん……」


「いや、あだ名もうちょっといいのあったんじゃないの?」


「ないわよ」


 セニアの即答。


「ひどい!」


 ユージが頭を抱える。


 そんなユージをよそに、ルナがレイたちを見る。


「レイとアルスもいたんだ〜」


「おう」


「まぁな」


 カナも嬉しそうに微笑んだ。


「三人も食べに来たんですね」


「おう! 腹減ったしな。そっちこそ、たくさん食べるんだな」


 ユージがテーブルを見る。


 そこには五つのパフェが並んでいた。


「私とセニアちゃんは一つずつしか食べてないよ〜」


 ルナが指を一本立てる。


 レイは残りのパフェを見る。


「じゃあ、カナが三つ食べたと」


「へ!?」


 カナの肩が跳ねた。


「ち、違くて、その……!」


 セニアが静かに口を開く。


「カナちゃんが三つ食べましたわ」


「セニアさん!?」


 カナが慌てる。


 レイは驚いたようにカナを見る。


「三つ?」


「……はい」


 カナは恥ずかしそうに視線を逸らした。


「だって……美味しかったので……」


「なるほど」


 レイは納得した。


 しかし、その一言が余計だった。


「まぁ、よく食べるな。でも、そんな食べたら太るぞ」


「……」


 カナが静かにレイを見る。


「ん?」


 何かがおかしい。


 レイはそう感じた。


 カナから、妙な圧を感じる。


「……レイさん?」


「はっ!?」


 アルスがレイに小声で言う。


「レイ。せめて、もうちょっとオブラートに包むべきだったな」


 ユージも静かに頷いた。


「いい奴だったよ」


「待て待て待て!」


 レイが慌てる。


「カナ、悪気はなくてだな……」


 しかし、カナから放たれる圧はどんどん強くなっていく。


「なんだこの圧……」


 レイは思わず後ずさる。


「ゴリラの威嚇みたいな……」


「あらら」


 セニアが頬に手を当てる。


「火に油を注いじゃいましたわね」


「え?」


 カナがゆっくりとレイへ近づいていく。


 その顔には、満面の笑み。


「ま、負けました」


 レイは両手を上げた。


 カナがレイの目の前で立ち止まる。


「お説教です」


「ゆ、許してくれ!」


「安心してください」


 カナはにっこりと笑った。


「お説教をするだけです」


「はい……」


 レイは抵抗することを諦めた。


 そしてカナはユージとアルスに向き直る。


「少しお説教のために、レイさんを借りてもいいですか?」


「は、はい」


「どうぞ」


 二人の返事は異様に早かった。


「ありがとうございます」


「おい待て!」


 レイが慌てて声を上げる。


「俺の頼んだパスタは!?」


「俺が責任持って食べとくよ」


「え?」


「行きますよ、レイさん」


「ま、待て! ルナ! セニア! 助けてくれー!」


 ルナは笑顔で手を振った。


「カナちゃん、楽しんで〜」


 セニアも同じように笑う。


「頑張りなさい」


「味方がいねぇ!」


 こうしてレイは、カナに連れられてレストランを後にした。


◇◇◇


「……なぜ俺の部屋なんだ?」


 寮に戻ったレイは、部屋の中を見回した。


「アカマルさんがいるからです!」


「ガウ!」


 部屋の中では、アカマルが尻尾を振っている。


 カナは嬉しそうにアカマルを抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。


「可愛い……」


「完全に目的変わってないか?」


「いえいえ」


 カナは笑顔のままレイを見る。


「説教の続きもしっかりしますよ」


「いやです」


「ダメです」


「はい」


「正座してください」


「うい」


 レイは素直に正座した。


 こうして――。


 カナによる、ありがたくも恐ろしい説教が始まった。


 それは三時間にも及んだ。


 ◇◇◇


「……あ、足が死ぬ」


「はい?」


「いえ、なんでもありません」


 レイは正座した足をさすりながら、なんとか笑顔を作る。


「ありがたい説教をしていただき、ありがとうございました」


「もちろんです!」


 カナは満足そうに頷いた。


 レイは心の中で静かに呟く。


 ――あの説教は怖かった。


 あんなに圧を感じたのは久々だ。


「何か言いました?」


「いえ、何も」


 カナは膝の上のアカマルを撫でながら、話題を変えた。


「話を変えますね」


「おう」


「大会の話です」


「大会か」


 レイが聞き返す。


「参加するのか?」


「迷ってて……」


「そんなに迷うことないんじゃね?」


「へ?」


 レイはベッドに腰掛けながら話す。


「別にこの大会は、ただ戦うだけだからな。そんなに大切なことでもないだろ」


「私は……」


「俺は参加するのもありなんじゃないかと思う」


 カナが顔を上げる。


「勝ち負けだけが目的じゃない。自分の実力を知ることもできるだろ?」


「……」


 カナはしばらく黙って考えた。


 やがて、ゆっくりと顔を上げる。


「そうですね」


 その表情には、先ほどまでの迷いが少しだけ薄れていた。


「レイさんは、人を励ますのが上手ですね!」


「そうか?」


「はい!」


 カナは嬉しそうに頷いた。


「私、目標を決めました!」


「どんな目標だ?」


「今の私じゃ、勝つことは難しいと思います」


 カナは自分の手を見つめる。


「だから、能力――未来視をもっと使いこなせるようになって、実戦で扱えるようにします!」


 その言葉には、強い決意が込められていた。


 レイは微笑む。


「良い目標だな」


「はい!」


「なら、お互い頑張るか」


「頑張りましょう!」


「ああ」


 アカマルも二人の間で、


「ガウ!」


 と元気よく鳴いた。


 ◇◇◇


 ――同じ頃。


 魔法学園、学園長室。


 静かな部屋に、ローベルの声が響いていた。


「学園長。奴らに動きがありました」


 机に向かっていたクラウスが顔を上げる。


「ほぉう。どのような動きじゃ?」


「ここから少し遠い場所ですが……村が襲われました」


 クラウスの表情が変わる。


「被害は?」


「住民の多くが、まともに意思疎通できない状態にされています」


「……そうか」


 クラウスは静かに目を細める。


「奴らも、本格的に動き始めたかのぉ」


「はい」


「正直、厄介な奴らじゃ」


 ローベルは頷いた。


「もう一つ、分かっていることがあります」


「ほぉう」


「奴らは――大会の日に、この学園を襲う可能性が高いです」


 クラウスの目が鋭くなる。


「どこの情報じゃ?」


「奴ら――『忘却の楽園』に、一人スパイを送り込んでいます。その者からの情報です」


「……なるほどのぉ」


 クラウスは椅子から立ち上がった。


「ならば、対処せんとな」


「はい。私が行きましょうか?」


「いや」


 クラウスは首を横に振る。


「わしが行こう」


「ですが、学園長は……」


「大丈夫じゃ」


 クラウスは穏やかに笑った。


「学園のために動くのが、学園長の仕事じゃからのぉ」


「……分かりました」


 ローベルは頷く。


 しかし、部屋を出る直前に振り返った。


「ですが、ご注意ください」


「何じゃ?」


「忘却の楽園のボスは――相当な強さらしいです」


 クラウスはしばらく黙っていた。


 そして、いつものような穏やかな笑みを浮かべる。


「報告ありがとう。あとはわしに任せてくれのぉ」


「はい」


 ローベルが部屋を出ていく。


 扉が閉じる。


 静寂が戻った学園長室で、クラウスは窓の外を眺めた。


「……忘却の楽園が、動き出したかのぉ」


「ですねぇ」


 背後から、ソフィアの声が聞こえた。


 クラウスは振り返らない。


「大会まで、あと三週間……か」


 学園では、何も知らない生徒たちが、いつも通りの日常を過ごしている。


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