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第7話 ~哲人side~ またあとでね、と白い君は言った

 白い彼女と次に会ったのは登校日だった。


 けれど学校ではなかった。


 団地に囲まれた小さな公園だった。


 始業式から一週間。


 少しは落ち着いたと思っていた。


 少なくとも、そう思いたかった。


 けれど登校日の朝になると駄目だった。


 胸の奥が妙に騒がしい。


 理由は考えないことにした。


 考えた瞬間に認めてしまいそうだったからだ。


 駅から学校まで歩く途中、その公園を見つけた。


 まだ時間があった。


 自販機で缶コーヒーを買い、ベンチへ腰を下ろす。


 一口飲んでから、ホットを選んでいたことに気づいた。


 春というより初夏の陽気だった。


 どうかしていた。


 そのとき肩を叩かれた。


 振り返る。


 「そこ、私の席です」


 僕は思わず吹き出した。


 コーヒーが少しこぼれた。


 白いTシャツに黒い染みができる。


 彼女が笑った。


 日傘を差していた。


 白い髪が光を受けていた。


 始業式の日と同じ人だった。


 なのに違って見えた。


 教室で見たときより近かった。


 「相澤です」


 気づけば名乗っていた。


 彼女がまだ何も言っていないのに。


 「相澤の『澤』って難しい字で」


 そこまで言って自分でも意味がわからなくなった。


 彼女が笑う。


 「なにそれ」


 その笑い方が普通だった。


 不思議なくらい普通だった。


 僕が勝手に抱いていた神秘的な印象を壊してしまうくらい。


 そして、

 「私は逢川です」

 と言った。


 出逢いの『逢』。

 川の『川』。

 「私も難しい『逢』です」


 彼女は説明した。


 僕は頷いた。


 けれど説明なんてほとんど聞いていなかった。


 逢川。


 その名前だけが残った。


 アルビノより先に。


 白さより先に。


 名前が残った。


 それが少し嬉しかった。


 逢川さんは僕の隣へ座った。


 何気ない調子で話し始める。


 この公園のこと。


 子どもの頃のこと。


 お母さんのこと。


 近所の人のこと。


 僕は相槌を打ちながら聞いていた。


 聞いているつもりだった。


 けれど本当は違った。


 話の内容よりも、


 話している彼女を見ていた。


 表情が変わる。


 笑う。


 少し寂しそうになる。


 また笑う。


 それだけで十分だった。


 「怖いって言われたこともあります」


 彼女はそう言った。


 まるで天気の話をするみたいだった。


 僕は思わず顔を上げた。


 彼女は笑っていた。


 けれど少しだけ寂しそうだった。


 「気持ち悪いって言われたこともあります」


 僕は何も言えなかった。


 胸の奥だけが痛んだ。


 すると彼女がこちらを見る。


 「相澤くんもそう思う?」


 僕は首を振った。


 強く。


 自分でも驚くほど強く。


 言葉より先に身体が動いていた。


 逢川さんは少し目を丸くしたあと、


 ふっと笑った。


 「そう」


 それだけだった。


 それだけだったのに、


 なぜだか救われた気がした。


 遠くで信号機の音が鳴る。


 風が吹く。


 桜が一枚だけ落ちてきた。


 「もう行こうか」


 逢川さんが立ち上がる。


 数歩歩いてから振り返った。


 「またあとでね」


 僕は返事ができなかった。


 ただ頷いた。


 彼女は行ってしまった。


 しばらくしてから、僕は小さく呟く。


 「逢川さん」


 その名前は驚くほど自然に口から出た。


 アルビノという言葉よりもずっと。

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