第6話 急な和睦と調印式
翌日から避難民が王都に到着し始めた。佳織たちはその対応に追われた。
ファシル王国政府には貴族「ワルター・フォン・ヘイデル」から状況を伝え、応援を要請していた。
一息ついたところで王城からの使者が来た。魔王側からの使者が来たので、貴族であるワルター・フォン・ヘイデルに同席してほしいとのことだった。
佳織たちは魔王側の使者と王国政府との交渉に立会った。和睦交渉だった。
交渉内容は以下の3つだ。
1.エルシル町、アデッタ村の魔王国への割譲
軍人を除く住人の生命・財産の保障、居住・通行の自由の保障
2.両国の捕虜の交換
エルシル町の駐屯軍の捕虜の返還と、これまでの王国軍が捕虜にした魔王軍人の返還
3.2年間の相互不可侵条約の締結
劣勢の王国にとっては願ってもない条件だった。
双方が同意し、5日後にイーゼル砦で調印式を行うことが決まった。
また、「英雄ユリアン」が王国の騎士として調印式に参列することも決まった。
魔王軍からの指名だった。
5日後、佳織たちはエルシル町のはずれにあるログインポイントにいた。町の前で王国側の使節団と合流し、イーゼル砦を目指す。
「このワルターがユリアン君の付き添いとは……」
「いいじゃないですか。3人そろって行けるので」
「この条件、なにか裏があるんじゃないかな。宿川原会長といえば、結構強引な経営で、会社を大きくした人物だ。立ちどまることなどないような気がするが……」
ユリアンが答える。
「でもこの条件は、魔王側にとっても、有利な条件ですよ。兵力は増強できるし、生産力・経済力も大きくなる。時がたてば王国側の衰退は必須ですし、相互不可侵条約の効力が切れるころには差はますます開いているでしょう」
「ところで、魔王軍側は誰が調印式にくるのでしょうか? アンネさんや宿川原会長はいるかな」
「もしいたら、バレないようにしないといけませんね。ワルターさん」
使節団はイーゼル砦の大広間に通され、調印式が始まった。
魔王軍側はアンネが代表だ。
アンネは長めの尖った耳、赤い瞳を持つエルフだった。
近くで見るとなかなかの美人だ。矢向は少し「ぽーっと」して見ている。
先日の夜は暗くてよく見えなかったのだ。
調印式が終わり、アンネがユリアンに声をかけた。
「あなた、エルシルの英雄と呼ばれていい気になっているようね」
矢向は『英雄』と言われて喜んでいる。
「いやーそれほどでも」
「魔王様が会いたいそうよ。調印式が終わったら、応接室に来てくれない? 3人一緒でいいわ」
「わかりました!」
矢向は佳織たちに相談することなく即答した。
応接室に案内され、しばらくすると魔王ラインハルトがアンネと共にやってきた。ラインハルトは金髪の美男子系イケオジだった。
佳織は、ボ――っとしながら見ていた。
「素敵な方だわ……」
アンネは佳織を睨みつけた。
「君が勇者ユリアン君かね。私の娘のアンを負かしたそうじゃないか。どうだ、私の陣営に来ないかね。君に相応しい地位を約束するぞ」
「いえ、私はワルター様の護衛騎士。主人を裏切ることはできません」
「そうか、娘のアンの婿候補に!と思ったのだが……」
アンネが慌てて言った。
「魔王様、私はそんな……!」
矢向は喜んだ顔をしている。
「私の大切な弟子を引き抜いてはこまりますな。魔王殿」
中原も慌てて制した。
「まあ、すぐに返事をするわけにもいくまい。ファシル王国とは和平が成った。本国の魔王城へいつでも遊びに来るがよい。歓待するぞ」
「フっ、ユリアンに、ワルターか……」
宿川原会長は何かに気付いたようだった。




