第4話 脱出行
夜になっても脱出の準備が進む。
避難の手伝いをしていた冒険者の一人が言った。
「軍のやつら、出撃していったぞ」
「方角は……王都ハイネンの方だ。やつら逃げやがった」
「ワルター様どうしましょう」
「うーん。この状況、どこかで……」
何かを思いだしたように、中原が突然、皆に呼び掛けた。
「皆の者、避難の開始だ。遅れるな!」
避難を手伝っている冒険者の一人が言った。
「ワルター・フォン・ヘイデル殿、われらは兵も少なく、襲われれば終わりですよ」
「大丈夫だ。敵は魔王ラインハルト。逃げ出した軍の動向など、つかんでいるに違いない。逃げられるものか。我々は軍の逃げた方向とは異なり、アデッタ村を目指す」
「しばらく音を立てず、静かに移動しようぞ」
「オリビア君、私と一緒に先頭を頼む。ユリアン君は最後尾だ」
「わかりました。ワルター様」
避難民の行列はアデッタ村へ出発した。
アデッタ村への旅程の1/3ほど来た時、道が細くなっている場所に来た。左側が川、右側は少し高い丘となっている。
丘の上に星明りに照らされて、人影が見える。兵士だ。100人近くいる。
丘から数人の騎士が降りてきた。
「魔王様の言った通りね。逃げ出す奴がいたなんて」
「私は魔王ラインハルト様の忠実なる僕、アンネ」
「降伏しなさい。逃げ出したエルシルの軍は降伏したわ」
中原が前へ出る。
「我が名は魔術士ワルター・フォン・ヘイデル。降伏するのは貴様の方だ!」
中原が「ファイア」と叫ぶ。見えない何かが飛んで行った。
アンネはそれを剣で払った。アンネの目が赤く輝く。
「なかなかやるわね。でも私には通用しませんわ」
中原が何度もファイアを繰り返した。が、全部はじかれてしまった。
アンネの剣が迫る。速い。中原は避けられなかった。
だが、中原の体には傷一つ、つかない。
「くっ。貴様は……。ではこれでどうかしら」
一旦、距離を取ってアンネは呪文を唱えた。
風が吹き始めた。嵐のようだった。アンネの頭上に水の塊が出現し始めた。
突然、風向きが変わり、大量の水が中原の方に飛んできた。
「ウップ。ゴボゲボゴボ」
中原は水にはじかれ川に落ちて行った。
「ワルター様~!」
佳織は剣を抜き、アンネと対峙した。
「あなた、魔王ラインハルトの娘ね」
「そうよ、よく知っているわね。私はラインハルト様の娘であり、忠実なる僕よ。ラインハルト様に逆らうものは許さないわ。」
「あきらめて降伏しなさい。あのへっぽこ魔術師は助けなくていいの?」
騒ぎを聞きつけ、矢向が来た。
状況を確認すると呪文を唱えた。
「ストーム!」
矢向の周りの空気が上昇していく。空から星明りが消え、雷鳴が聞こえる。
矢向は続けて叫ぶ。
「神の雷!!」
丘の上に雷が落ちた。兵士が次々に倒れていく。
「貴様、よくも私の兵士たちを」
「今、引くなら追撃はしない。立ち去れ!」
アンネは部下を連れて丘の上に戻ると、矢向のほうを向いて言った。
「貴様、名は?」
「我が名はユリアン。ユリアン・ボーゲンだ」
「覚えておくわよ。ボウヤ」
佳織は、川に落ちた中原を見つけ、助け出した。
「いいところを全部持っていかれましたね。ワルターさん」
一同はアデッタ村に到着した。
ほっとした避難民たちや村人たちが口々に叫ぶ。
「エルシルの英雄だ!」
「魔術師ユリアン!」
「ミラクル・ユリアン!」
矢向は少し照れながら頭をかいた。




