03-109 追悼と思い出
星の暦でおよそ八年前。
月軌道の内側で起こった異星文明との戦闘。
異星文明の大船団からの先制攻撃で戦端は開かれた。短期で終わると考えられた戦闘であったが、異星人たちの内乱に巻き込まれ、ついには星団の殲滅艦隊が出動する事態にまで発展した。
戦闘は殲滅艦隊が到着する直前に終わり、一方的な虐殺だけは回避された。
しかしトレジエム軍は、年若く練度の高い精鋭の大半を失った。
第四惑星の宇宙軍基地。今日はそこで先の戦闘の追悼式典が行われていた。殉職者、犠牲者を追悼し戦意の高揚を目的とするものだ。
「こういうのがあると、みんな死んじゃったんだなって実感しますね」
10年前に惑星フィノーラでの演習で行方不明となり、数か月前に帰還してきたレベッカ。
「私もあんなことがなければ参戦してたんでしょうね。そしたらたぶん……」
「どうなるかなんて誰にもわかんないよ」
あの戦闘で最も敵機を撃墜し、敵側の内戦終結にも貢献した若者はトレジエムの英雄と呼ばれ、「事件」を象徴するアイコンとなった。英雄と呼ばれてもアカリには友人たちがただ死んでいくのをどうすることもできなかったことへの後悔しかない。自分が臆病で卑怯なふるまいをしたとは思っていない。ただ、どうしようもない状況だった。
星系政府からすると、アカリのおかげで両者共倒れは回避され、両者の発展的な和平という、最良の形で終結したのだから英雄扱いでもまだ自重したほうだ。
式典はつつがなく行われ、昼には解散となる。
「レベッカ。昼食でもどうだい?小隊の同窓会ってことで。……僕らしか残っていないけど」
正式にはレベッカが抜けて再編成されているので、同じ隊ではないが。
「は、はい!先輩とお昼ご飯、喜んでご一緒させていただきます!」
当時は濃い属性持ちが多くて埋もれ気味だったレベッカだ。それでも実力でアカリと同じ隊に入ったのだから、彼女も周囲から相当羨ましがられて、憧れの対象であったのだが。
今、アカリにお付き合いしている相手がいるのかは確認できていないが、いずれ起こるであろうその争いに自分が食い込むためには、どんなチャンスも逃すつもりはない。戦士の国に旅立った恋敵たちが力をくれる!
「アカリ~っと少佐、いたいた」
「ゴードンさん……」
レベッカと同様に行方不明の帰還者ゴードンが、仲間をぞろぞろ連れてやってきた。
「レベッカ怖いな。そう睨むなよ、俺もこいつらをアカリに引き合わせたいんだよ」
「貸しですからね!」
「意味が解らん、お前がもたついてさっさと出ていかないからだ」
「分かってるなら、また今度にしてくださいよ!」
ゴードンはせっかっく連れてきた若者たちを置いてレベッカと口論を始めてしまった。
「何やってるんだあいつらは」
「お二人、仲いいですもんね」
レベッカの名誉のために注釈を入れる。今は周囲と基本の話が合わないので二人で話すことが多いだけだ。いずれは「同年代」の友人も出来るだろう。
「君たちは?」
「はい、自分たちは教育大隊でゴードンさんと同じ班になる、ジャーヴィと言います。でこっちが、トーマス、エドワード、ヘンリーです」
なるほど、ジャーヴィだけ出典が違うな。
「お会いできて光栄です!」
「君たちの中で僕がどんな扱いになってるのかは知らないけど、よろしく」
特にどうといった話はなかったが、会話の中でジャーヴィが自分をそれとなく探っているようなのが、アカリは少し気になった。
「アカリももうじき復隊だろ?だったら俺たちが教育隊では先輩だからな!」
「ゴードン。まだ決まっていないことを言いふらすなよ」
「でも、教官殿とか普通に話してるけど?なあ」
「……たとえ復隊したとしても、教育隊からなんてあるか。誰が僕に何を教えるんだ?」
教官いじめか?それならばできそうだ。アカリは邪悪に微笑む。
「確かに。おいお前ら、こんなブランクのあるおっさん、勝てるかもとか少しは思ってるだろう?絶対無理だからな。特に戦闘機の腕では誰も敵わないぞ」
「皆死んじゃったからね」
「そういうことを言うな……」
「隊長に挑む資格があるか、私が選別します!第一小隊五番機の私が相手だぁ」
レベッカとコードンは十年のブランクがあるように思われているが、彼らにとってはほんの数日眠らされていた感覚だ。体力が戻り、多少の加齢によるギャップを体が理解したならば、本来の技量は教官枠だろう。
「だなあ、対人戦も俺に勝てないとレベッカには絶対勝てないし、アカリは除隊後も色々やってるみたいだからな。人間枠では無理じゃないか?」
いろいろ言われてしまっているが、確かに2、3年の新人程度なら訓練だろうが実践だろうが
「立ち話もなんだし、君たちも一緒に食事でも……」
「隊長!?」
「お、俺たちは午後は訓練なんで宿舎に戻らなきゃ……また今度誘ってください!それでは」
四人は綺麗に敬礼すると逃げるように走っていった。レベッカの殺気に耐えられるほど心はまだ鍛えられていないようだ。
「じゃあ行こうぜ」
「どうしてゴードンさんもいるんですか!」
「俺だって知りたいことがあるんだよ……」
「それはそうでしょうけど」
そう言われるとレベッカも退くしかない。
三人で食事処に個室を取り、賑やかにしたりしんみりしたり。アカリも言う相手のいなかった話をする事が出来た。
「そろそろ出るか」
「はい、またこういう機会作りましょうね」
「そうだな。あ、トイレ行くから先出といて。後で払う」
個室から出てレベッカとアカリは二人で歩く。
「隊長は、ずっと誰にも話せずいたんですね」
「まあね。いたとしてもユーリイくらいだったろうけど、僕がイジケてるうちにあいつ転属になっててさ」
「今は、私が!」
通路が一般席に出た途端賑やかな話し声に包まれる。そして当たり前のようにアカリの視線はある女性で止まる。
プラチナブロンドの輝く髪に、絶世の美貌。よく変わる表情が、彼女に尊大さではなく愛らしさを与える。周囲の友人たちからも愛されていると一目でわかる。アカリが今一番気になる事象である、レティシアがいた。
レティシアもすぐにアカリを感じ取ったようだ。嬉しそうな表情だがすぐに驚愕に変わる。小さく手を振ってくれたから大したことではないのだろうが、何に驚いたのだろう。




