03-110 アイコンタクトしかできない!
「隊長のお知り合いですか」
外に出るとやはりレベッカは一番に聞いてきた。あんなにあからさまにアクションすれば、レベッカでなくても気が付くというものだ。
「ん?ああ、仕事のお得意さんの姪っ子らしいよ」
店の外は良く晴れて、暑かった。涼しかった店内の余韻は一瞬で消え、汗が吹き出る。この季節のサントルはこんな極端に暑い日がたまにある。
「あの子達、涼しそうなおやつでしたね」
「そうだったか?見てなかった。……それにしてもゴードンはまだか」
個室からの通路を出てからレティシアのことしか見ていなかったので、何を食べていたかは本当に気にもしていなかったのだ。
アカリはコスモノワールと言われる特別な黒に染められた宇宙軍士官服の一番上のボタンを留めた。正しく着ることで、宇宙服同様に空調が働くのだ。レベッカも倣ってボタンを留めようとするが、体型上難しいようで断念する。制服姿をスマートに見せるための作りは、一部の胸囲が大きい女性達には相当無理をさせることになっていた。
「君も大変だな。もっと大きめのものを支給してもらったら?」
「はい、庶務には言ってるんですけど、時間がかかるらしくて。滅多に着ない儀礼用の服ですし、まあ我慢しようかなって」
「そうか。流石に外であまり着崩すわけにもいかないし、なら店内で待たせてもらったらいい」
アカリはともかく、空調のないレベッカはかなり暑いのだ。制服も黒いので。
「隊長は?」
「僕は外にいる。知り合いがいるとちょっと気まずい」
「そうさせてもらいますね……彼女ですか?」
「違うよ。照れとかではなく、単に知り合ったばかり。これからの関係に期待ってとこ」
「あのアカリさんがそんな風に言うとは……」
「早く入れよ。ゴードンも見てきて」
「はーい」
やっぱり照れているアカリを戦士達の国に旅立った皆にも見せてやりたかったと、レベッカは思うのだった。
かなり待った。レベッカが報告に来ないので、異常事態ではないのだろうが、長すぎる。店に入って確認してみよう。レティシアの顔も見れたらなお良し。
「ごめん下さい、私の仲間が……」
出迎えてくれた店員に来訪の理由を告げると、そっと店内を指し示された。
レティシア達四人と黒い二人が仲良くデザートを食べているではないか。アカリは六人分の支払いを済ませると、店員にあらかじめ謝ってから黒い二人に背後から近づいた。
接近に気付いたのは、レティシアだった。空間的位置上当然なのだが、うれしそうな笑顔を見せたレティシアを見て、怒りが一瞬消えかけたが手前の黒い二人の背中を見ると、再燃する。
レティシア達の様子が変わったことに二人は気付く。そして上官を待たせていたことも思い出した。背後で膨らむ怒りの気配。
「……ゴードンさん、やばいよこれ。隊でタナカ君がお仕置きされてた時のオーラです」
「え、タナカって廃人になったあの?」
「あ、それはまた別の理由で……」
レティシアと友人たちには悪いが、アカリは少し厳しい様子を出して問いただす。
「君達、これはどういう状況だ?」
「ゴードンさんを待っていたら、皆さんが会話に誘って下さってお喋りしてました」
レベッカにはゴードンに対する優しさなど持ち合わせていない。真っ先に責任をゴードンになすりつけた。
「それは理解した。皆さん、レベッカがお世話になったね。僕は彼女の元上官で、アカ……すまない、名前はここでは控えさせてもらう」
「レティシアの彼氏さんでしょ?」
「ソフィア!」
「だと良いんだけどね。まあこんな格好しているけど軍属ではない。街であったら挨拶くらいはさせてもらうよ。で、ゴードンは?」
「戻ってきて、私がこの席にいるのを見つけたら勝手に混ざってきて……」
今日の仕返しも込めた華麗な追い打ち。
「ゴードン」
「おう……じゃない、はい!」
「体調は戻ったのか」
「はい、快調です」
アカリはため息とともに怒りを消すと、レティシアたちのテーブルのリーダーと思われる女性に話しかける。
「君達、大事な時間をとらせて済まなかった。……もしこの後時間があればで良いんだが、もう少し彼らに付き合ってやってくれないか?」
「私は良いけど、皆は」
彼女の問いかけにそれぞれ肯定する。
「ありがとう。彼らはちょっと事情があってね、友人がいないんだ」
「隊長、言い方!」
「君達もどうせ戻っても訓練だけだろう?大尉殿には言っておくから、社会勉強しておけよ。着替え屋に服持ってきてもらえ。制服は目立ちすぎる」
「お前はどうするんだ?一緒じゃないのか」
「そうなの!?」
叫んだレティシアに心の中で謝る。
「十歳も若い連中の中に混ざるのは勘弁だよ」
というか、茶化されたくない。
「じゃあね、レティシアさんまた。ご友人達もお騒がせしました」
支払いは済ましたが、追加はお前が払えよとゴードンには釘を刺しておく。
「ええ~!」
「……彼女残して行っちゃうんだ」
誰かに非難されたようだが、逃げるのが最善だとアカリは判断する。




