03-105 ハイペリちゃん歓迎パーティ!
「船長達遅いな」
エムロード号の広い食堂には料理がテーブルいっぱい並べられ、宴が始まるのを待つばかりとなっていた。
「二人で部屋に入ってから一時間くらいかな」
「料理冷めちゃうよ」
「どうするシャルル?待つか?」
「副船長でしょ、トーマスさんが決めてよ」
「怒られたくないし」
「俺だって怒られたくないよ。それに船長は怒らないしエレナはなにやっても怒る。客がいる以上、待たせるのはどうかと、俺は思う」
「それじゃ始めようか」
「……連絡入れておいた方が良いと思いますよ」
「そうだな!」
宴は始まった。と言っても主賓であるハイペリちゃんは食事できないので、グラス片手ににこにこしているだけ。時折飲もうとする仕草が怪しい。
「ハイペリちゃん、食べてみたいのかい?」
『興味はあります』
シャルルをジロリと睨む。
『この間行ったフィノーラのホテルで、「お兄ちゃん達」が美味しそうに食べているのを見て、私も食べたくなっちゃったんです。おかしいですか?』
「……子供も親が良い物食べてたら欲しがるしな」
「そうだな、おかしくはない。それよりハイペリちゃんに意地悪をしたシャルルが許せんな」
「ベアトリクスが自慢して回ってるけど、国賓級のVIP扱いだったらしいじゃないの!」
「部屋はな!」
「お前ばっかり良い目を見やがって、簀巻きにして宇宙に放り出してやる」
『えっダメですよ~』
「その件に関してはハルナとエレナにたっぷりやられたからな、お前達ごときの制裁は屁でもないさ!」
『喧嘩もだめ~』
「二人掛かりか……それは可哀想にな、まあ今日は飲んで忘れろ?」
「そうねアンタが防波堤をしなきゃ、誰かが犠牲になるもんね。ちょっとくらいの贅沢は許してあげるわ」
『あれ?喧嘩は?制裁は?』
「びっくりしたか?いつものパターンというヤツだよ」
グラスにワインを注がれながら、シャルルが説明した。
「疲れるだろ?だからあまり「お兄ちゃん」ネタでからかわないでくれると、助かる」
「それにしてもハイペリちゃんは可愛いわね。「喧嘩だめ~」って」
『なんか本当に簀巻きにされそうだったから』
「大丈夫だよ。皆、するときは闇討ちだから」
「そうそう」
『そうなんだ』
宴が始まって一時間ほど、エレナとハルナがやってきた。
「ごめんなさい遅くなって」
「先に始めてくれてたのね」
やはりシャルルの指示は正しかったか……会場がざわつく。
「あなたがアカリの船の新しいクルーね」
「誰の趣味よ」
『はじめましてハルナ船長、エレナさん。ハイペリオン号の操縦を担当しているハイペリちゃんともうします』
「……この子がそうなんだね」
「ほぼ間違いないと思っている」
『??』
「ああ、ごめんなさい。私がエムロード号の船長でアカリの姉のハルナです。よろしくねハイペリちゃん」
「私は、なんか色々聞いてるでしょうけど、間違ってはいないわね、エレナよ。アカリの、……姉と言っちゃうとちょっと違うな。まだ諦めたわけでもないし。……まあ兎に角よろしくね、ハイペリちゃん。名前何とかならない?ハイペリオンコピーの女の子だからハイペリちゃんって」
『名前の登録が上手くいかなくて』
「ハイペリオンはあなたの事なんて呼んでるの?」
「最初はコピーとかだったよな。最近は」
『君……かな』
「苦労してるな~」
エレナはハイペリオンには割といつも同情気味だった。
「アカリはどう思って……あれ?アカリは」
「そういえばいないな。どこ行った?」
「最初からいなかったわよ」
「ハイペリちゃん、アカリは何処にいるんだ?」
『船で寝てます。皆揃ったら呼んでと言われていました』
「すぐ呼びなさい」
「姉さんごめん、ぐっすり寝てしまった」
「アカリ駄目よ、ハイペリちゃんを一人で来させては」
『大丈夫でしたよ、シャルルさんもいてくれましたし』
「甘いな、やっぱりハイペリオンズはアカリに甘すぎる」
「ハイペリオンはエムロードワンの領域内では使い物にならないし。アカリがエスコートしなければ駄目なのよ?」
「やっぱり来るんじゃなかった……」
「近くにこんなに可愛いエレナちゃんがいたのに、どうして女性のエスコートが上手くできないのかしら」
アカリにも思うところはあって、エレナにはこの前試したら、照れてエスコートどころじゃなかったよとか、ハイペリちゃんにいたっては人でもないのだからとか。今言うと小言が続きそうなので言わないが。
「では姉さん」
アカリはハルナの手を取った。
「ひやっ」
「あっちにスープがあるよ。もらいに行こう」
やや強引にハルナを引っ張っていく。エスコートという言葉から想像する優雅さとはほど遠い。
「い、今はいいんだって!ちょっと……」
アカリとハルナは主賓を置いて行ってしまった。
「見ての通り、アカリレースでは、ハルナがダントツのトップなのよ」
何人参加しているのかは分からない謎レース。
『知ってます。でも私は今のところ不参加です』
「そうなの?」
『敬愛みたいな物はあるようですが、まだ肉が安定していないので直接どうしたいとかの欲求はまだ分からないです。それよりも、私は彼の船です。船長は守る対象なんですよね』
「そんなもんかね」
二人の視線の先には簀巻きにされて数人に担ぎ出されていく誰かがいた。会場内にシャルルが見当たらないので、きっと彼だろう。たぶん宇宙に放り出されてしまうのだ、狂信者の手によって。
『そろそろシャルルさんを助けに行きましょうか』
「いや、私が行くよ。あなたが行ったら余計ひどくなるよ、きっと」
エレナに怒られながらも、楽しそうなクルー達。簀巻きの誰かが床に落ちた。




