02-641 青い惑星
『ワープアウトします』
『ワープではないぞ。固有速度合わせまで十秒』
前回は衝撃があって悔しい思いをしたハイペリちゃんには秘策があった。
『今です!リライト起動!0.02!』
モニターに映し出されている景色が漆黒の闇に変わり、通常空間に戻ったのが分かる。若干揺れたか、まあその程度だ。
『ゲート出ました、各部の簡易チェックは問題無し。……慣性消すときの衝撃がまだ少しありましたね、すいません。次はふんわりといきますね』
「次はないよ」
『船長!チャンスを下さいよ』
「いやいや、この船でバイパス路を使うことになるなんて、変なことに巻き込まれてるって事だからさ」
もう何年分かのゴタゴタをこのひと月で経験してしまった。元々自分のペースで暮らしたかったから、こんな仕事をしているのに。
『今更ですよ船長』
「はいはい。ハイペリちゃんは入港準備。ハイペリオン、トレジエム軍の少佐に繋いで」
『ベアトリクスさん、最近船長が冷たいです』
「アレじゃない?後輩に良いとこ見せようとか思って、クルーに厳しく当たる奴」
『イヤですねぇ』
「ホントねぇ」
もう本当だ、色々ありすぎだ。正直疲れた。帰路はすんなり行ったので、緊張が切れてしまったようだ。
「アカリ、気持ちは分かるが後少しだ」
「そうだね」
「俺はこの後、エレナへの報告もあるんだ。お前はまだマシだぞ」
「うわぁ同情するよ、兄さん」
船長ではなくエレナに説明とは、彼等の船も大変だ。
少しするとゲート管理局から苦情が来た。超空間に還元されるはずのエネルギーをハイペリオン号のリライト装置で奪ってしまったとのことだった。アカリは船長として謝罪せざるを得なかった。
ハイペリちゃんにとっては初めての母港だ。
凄腕の美少女クルーを連れて帰ってきたハイペリオン号の事はすぐに噂になった。やっていることはAIによる自動運転なのだが、作業の先読みのタイミングなど、見る人が見るとAIの操艦とは少し違うらしい。
『皆さん長旅大半ご苦労様でした、トレジエムへ到着です』
「ハイペリオン、ハイペリちゃん、みんなもありがとう。大変の一言では言い表せない旅だったけど、また懲りずに手伝ってほしい」
「船長お疲れ様。予想以上の体験をさせてもらったわ、またよろしくね」
「アカリ、明日にでもお前も報告に来いよ。ベアトリクスさんもまたね。ゴードン、レベッカ落ち着いたらなんか食べに行こうぜ」
接岸すればすぐにお別れだ。
ベアトリクスはそのままデジレをからかいに行くという。シャルルはすぐとなりの船に戻る。
「ハイペリオン、すまないが船をよろしく。ハイペリちゃんはクルーザーの準備を頼む。ゴードン、レベッカ。まずはユーリィの所に行こう」
惑星上の宇宙軍基地にやって来た。クルーザーは軍の敷地に直接降りることが出来た。おそらく機密情報の扱いなのだろう。
「ハイペリちゃんも付いてくるか?」
『ハイペリオン号のリライト装置だったら百メートルくらいなら外出できるんですけど、クルーザーの装置ですんでパワーが足りないです。精々五十メートルまでですね』
「そっか、副官君が会いたがっていたなと思い出してね」
『マシューさんでしたか、そうでしたね。……お兄ちゃんは私が誰かと付き合っても良いんですか?』
「何だよそれ。妹の健全な心の発達のために、家族以外と仲良くするのも良いかと思ってるんだよ」
『本当ですか?』
「口から出任せだ」
一体シャルルはどんな「妹」設定したのやら。明日行ったときに問い詰めるべきか。
「おーい、アカリ、お前が行ってくれないと進まないんだが」
ハッチの所でゴードンとレベッカが待っている。
「今行く。じゃハイペリちゃん、しばらく留守番頼むよ」
『はい船長』
船を降りると、副官君が待っていた。
「お待たせしました、マシュー少尉」
「お久しぶりですヴェッソー少佐」
彼等の中ではそうなのだろうから、いちいち訂正しない。
「済まないね、君達もプルミエルから来たばかりだろうに」
「私達は二日前に着いたのです。問題ありません」
「そうか。こちらの二人が連絡していたゴードンとレベッカだ。少佐にまず会わせればいいのだっけ」
「はい、ご案内します。あ、」
マシューはクルーザーのハッチにいるハイペリちゃんに気付いたようだ。
「ああ、訳あってあそこまでしか出れないんだよ」
「はい!ルブラン少佐からはあまり詮索しないように言われております!……しかし本当に存在しているんですね……」
「さあ行こう」
トレジエムの基地建物は、首都の物と違って少々古めかしい。建物だけは贅沢にという時代があって、そのころ建てられたホテルかを改修して使っていると聞いた。アカリがまだ研修生の頃だが。だから階毎に表情が異なって分かりやすい。
「こちらです」
アカリたちは部屋の一つに案内された。プルミエルの部屋よりも、よっぽど佐官の執務室らしい。
「……ここは」
「坊ちゃんクラスだ」
「おま、バカ!」
「……レベッカ達もそう呼んでたのか」
「あ、ごめんなさい」
トレジエムに身分制度はなかったが、その年は上級士官コースに進む者のほとんどがいわゆる名家の出身であった。ここは彼らの教室だったのだ。
「良いよ良いよ、実際坊ちゃんだったしね。でも使えない奴はいなかっただろう?」
アカリは不敵に微笑む。
坊ちゃんクラスの扉から坊ちゃんの親玉が出てきた。
「いいねその表情、ひさしぶりだ。だいぶん昔に戻ってるじゃないか、アカリ。ゴードン達としばらく居たからかな」
部屋に通され、上等なソファに座らされた。
「ゴードン、レベッカ。君達にはあまり実感はないだろうが、生きていて良かった」
ユーリィは二人と強く握手しながら言った。
「君たちの扱いなんだけど……」
年齢については、そのまま。アカリたちと同じように周期を数えるのだという。向こうに4年いたらしいが、比較ができない。
「自称年齢は勝手に考えてくれ」
「ゴードンは若作りが過ぎるおっさんか。ネタにしても面白くないな。レベッカは元々若く見えてたし、いいんじゃないか?」
所属は、しばらくは訓練大隊で新兵と同じカリキュラムで体を慣らすそうだ。すぐに新兵たちが可愛そうになるだろう。体が慣れると、元の兵科に戻されるという。ゴードンは機関科、レベッカは航空科。どちらも当時の後輩が上官だ。
「……当然だけど、除隊という選択肢もある」
心や体に傷を負い、軍人を辞めて民間人に戻る者も多い。
「アカリは逆だぞ。復隊に拒否は出来ないだろう。どういう形で来るかは分からないけど、そろそろ覚悟、というか準備しておけよ」
「あとは、住むところだね。いちおう少尉さんなんでね、寮じゃなくてもいいんだけど。そこはご家族と相談してほしい。今日は検査とかあるから、ここで泊まりだけどね」
行方不明扱いになった後、個室の物品は処分されることなく全て倉庫に保管していたという。
「え?あの部屋に入ったんですか!」
「仕方ないだろう?引っ越し業者に守秘義務を課したから安心すると良い。と言うわけで、君達の私物は焦らず整理したらいいよ」
この後は検査、昼食、検査だ。
「夜は四人で食事会を考えてるから。そこでは元同階級の生き残りだ、いろいろ話をしようじゃないか」
「じゃあ終わったら連絡をくれ」
アカリは深いソファから立ち上がる。
「何言ってるんだ、君も検査に決まっているだろう?滞在時間こそゴードン達は長いけど、体感ではほんの数分らしいじゃないか。君のほうが現地人と長く接しているんだ。情報部門が見逃してくれる訳ないだろ?ちなみに、部長はオドーだ」
「い、嫌だ、あいつ絶対根に持ってるじゃないか!」
「隊長、オドー君にもやり返す権利はありますよ」




