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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
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02-640 トレジエム航路

 ゴードンは退屈だった。目が覚めて二日程度しかたっていない。状況がほとんどわかっていない中、今日距離を行く宇宙船に放り込まれ、超空間バイパス路に入ってしまったのだから。

 最近使ったときは訓練だったからか、色々と作業があったものだ。だが、やることが全くない三日というのは少々つらい。しかし正式な指示書が出ている以上は、任務の一環。リハビリがてら勉強させてもらうのが正解だろう。幸いこの船の機関は当時の最新技術が詰まっているのだから。

 当時、十年前、と言うが、体感ではほんの数日前の事だ。ゴードン達は惑星フィノーラの森で行軍訓練中だった。突然通信担当の上官が警備隊のフリゲートが沈められたと叫んだ。地球時代の軍艦と比べればかなり小型の船だが、宇宙技術を応用した現代のフリゲートは一隻で当時の機動艦隊に匹敵する。リゾート地の沿岸警備用としては過大すぎる戦力なのだ。それが沈められたということは、何者かの攻撃によることが明確だと言うことだ。それもかなり強大な。

 何が起きたか理解できないうちに、頭上を戦闘機が飛んでいった。三機小隊の先頭は同期でトレジエムから参加しているヴェッソー少尉だった。幼少の頃から戦闘機に乗り宇宙海賊達と戦っていたという、眉唾物の噂も彼の実際の戦闘機動を見ると、もしかすると本当なのかもしれないと思ってしまう。

 通り過ぎた後、彼等が向かった先から炎の帯が走ってきた。その炎は蛇や中華思想に出てくる龍のようにくねってまるで生き物のように飛んでいくのが見えた。

 そして響く機銃音。

 通信が入ったようだ。偵察機の部隊が高エネルギー流の発射地点を特定したらしい。先程の炎の龍のことだろう。森の中の遺跡付近のようだ。ゴードン達の部隊が一番近いため、偵察に向かうことになったようだ。


 行動前のミーティングで現在の状況が教えられた。

 湖を通常哨戒中だったフリゲートが謎のエネルギー反応を捉えたため確認のために向かった。目標に近づくと攻撃を受けた。実弾でもエネルギー兵器でもない攻撃で軽微な損傷を被った。威嚇反撃として指向性の音響弾を打ち込んだが相手の被害は確認できず。その直後、湖の水中から巨大生物らしきものが浮上してきてフリゲートに巻き付き、船体を折られた艦は沈没。僚艦二隻も応戦中に大破。スクランブル発進した航空隊にも攻撃があったがそちらには被害無く、敵の位置を特定できた。ということだった。

 敵の攻撃力が大きすぎるため、歩兵の投入は見送られた。

 感知される距離より外に拠点を作り、無人偵察ロボットで正体を確認することになったようだ。

 今夜はこの先しばらく行ったところで夜営となった。


 夜になると拠点には様々な機材が集まってきた。本部用の大テントやロボット運用部隊の車両。食糧など補給部隊。あまり集まると感知されるのだろうが、あの後数度の攻防で、向こうが迎撃をしてくる距離が判明していた。この拠点であれば、攻撃は受けないのだという。

 深夜になり奇妙なことが起こっていた。敵の潜伏位置と思われる方向が紫色に怪しく輝いていたのだ。光量はかなりあるのではないだろうか。五千メートル離れた場所からでも、光の中心地がはっきりと分かる。

 偵察用の犬型ロボットが数台送られた。音も立てず目標に近付く犬達。距離のせいか奇妙な光のせいか、送られてくる映像はノイズがひどい。そして数台のカメラがが光の中心に一つの人型の何かを捉えた。その人物は犬に気付くと再び奇妙な攻撃を仕掛けてきた。犬達の画像が届かなくなったのは全て破壊されたのだろう。

 しばらくすると、拠点辺りが霧に包まれた。自分の手の先も見えないような深すぎる霧だ。突然発生したその霧が自然現象であるはずがない。指揮官達は相打ちをさせないよう、武器の使用を禁じた。この様なときは動くのも危険なため、司令部の乗ってきた情報収集車の解析が出るまでその場で待機が言い渡されたが、すでに数名が動いてしまっていたのだった。

 この後はゴードンもアカリから聞いたことなのだが、 霧は三〇分ほどで晴れ、暗い森に戻った。

 その時にはもう謎の光の柱も消えてしまい、幾ら捜索しても敵対者の姿は見つからなかった。

 そして、その後五日間の捜索の結果、敵対者の正体は不明。映像は残っていたが、画像解析しても「尻尾」が無いことが分かる程度で表情などが判別できるほどのものではなかった。

 物的損害はフリゲート沈没が1、大破が2、いずれも修理不能と判断され廃艦となった。死者0、負傷者多数、行方不明者2。


 霧が晴れたとき、ゴードンは一人で森の中にいた。いつもなら深い霧が出たときは無闇に歩き回ったりしないのだが、拙いとは思いながらも体が動いてしまっていた。

 一見して自分達がいた森のようだったが、そこは昼間の森だった。時間が分からなくなるほど彷徨ったわけではなく、ほんの数分のことだとゴーグル内蔵の時計が教えてくれた。日の出までは後三時間はあったはず。今度こそ立ち止まり、周囲を確認することにした。

 今の状況について考えたことは二つ。あの霧が精神系の毒ガスで、自分はその作用で幻覚を見ている。もう一つは魔法のような何かで、違う世界に迷い込んでしまったか。どちらも最悪である。

 先ずは他に仲間がいないか探そう、幻覚でも本物でも一人よりはましだ。バッテリーの残量は気になるが、ビーコンの受発信を最大出力でやってみた。部隊が散らばっていた範囲になら十分届くはずだ。

 反応はすぐに返ってきた。割とすぐ近くに一人いることが分かった。相手は動かないようなので、こちらから行くことにする。幻覚の産物でないことを祈るのみだ。

 反応がある方向に軍の歩兵装備の人間がいるのが見えた。気を失っているとか怪我をしているわけではなく、その先にあった大きな建物を見て呆然としているだけのようだ。なるべく驚かせないように声をかけると見知った顔だった。ゴードンと同じトレジエム軍のメンバーで航空科のレベッカ航空少尉だった。ヴェッソー少尉の部下だが、今日は歩兵訓練だったようだ。年齢は何周期かは下で、人懐っこい性格だ。若い女性でまだまだ鍛錬が足りていない体つきではあるが、この訓練に選ばれるくらいの優秀さはある。まあ知り合いで良かったと言うのが正直な感想だ。

 レベッカと合流して、先ずは屋根のある建物の中で休息するべく敷地に入ると中から女性が出てきた。その人物はとても驚いたように見えた。手を上に挙げて彼女が何かを言った後の記憶はない。

 気が付くと夜の森で、近くにはヴェッソー少尉によく似た人物が立っていた。



 超空間バイパス路に入って初日、アカリは船長としてゲートインの時にはさすがに操縦室いたがその後はハイペリちゃんに任せて部屋に引っ込んでいたのだ。ゴードンがそのまま当番したいと言っていたのも気になったし、少し顔を出すことにした。

「ゴードン、無理はするなよ」

「おうアカリ。今彼女にお願いして、機関のシミュレーションで勉強させてもらっているところだ。最新技術だからな、俺にとっては」

「相変わらず勉強家だ。機関としては小振りだけど、搭載艇のクルーザーの方が最近のだよ。後で見せてもらいなよ」

『ダメです!そこは乙女の秘密です』

「何だよいきなり」

「アカリ、この子を女の子として創ったなら、そこはもう少し気をつけてやらなきゃ。クルーザーが今の本体なんだろ?整備ならともかく、興味だけで見られたらイヤだと思うぜ」

『ゴードンさん、その通りです!この船の男達はデリカシーがないのですから』

「ハイペリオンならいいのか?」

『別に構わないぞ。彼が見ているのはシミュレーターであって、私の秘密ではない。実物は仕様書も含めて見せることは出来ないと、彼には言ってある』

「そんなもんか」

 

 私は今、宇宙船ハイペリオン号の艦橋任務に就いている。アカリ先輩は、私たちを気遣ってか当番から外してくれたけど、タダ飯食らいと言うのは昔から我慢ならないのだ。

 艦橋には、あ、操縦室ですか、この船の女性クルーが全て集まっている。中でもハイペリちゃんと称する女の子が、怪しくて仕方ない。光っているし、何でも出来るし、すごく可愛いし、それに何故かいつも操縦室に居る。私がブリッジに来るのは三回目だけど、私より先にいて、私が部屋に戻った後もいるみたいなのだ。

 カラクリはすぐに分かった。ベアトリクスさんが教えてくれた。ハイペリちゃんはホログラムなのだ。本人も肯定しているのでウソではない。後ろからそっと手を突っ込んでみたら確かに貫通したし。なんかすごい顔で見られたけど。でもホログラムでは説明が付かない。超空間バイパス路に入る前の機械操作は彼女がやっていたし、操縦スティックを動かしているのも見たのだから。船は自動操縦になっていて、スティックが追従して動いて、ホログラムがそれを追いかけて動かしているように見せている?そんな無駄な事するだろうか。考えていると、ハイペリちゃんがドリンクを持ってきてくれた。気の利く良い子だ……?

 やっぱり物を持っているじゃないか。ホログラムは物を持たない!ではこの子は何者か?またベアトリクスさんが教えてくれた。ハイペリちゃんは努力した結果、物理的に干渉する力を手に入れたのだと。意味が分からない。そういうのは努力したら出来るものなのでしょうか?人工知能が?

 ベアトリクスさんがハイペリちゃんには第三形態があると言い出した。この人ちゃんと寝ているんだろうか。

 ハイペリちゃんは仕方ないという感じで、両手を祈るように胸の前で組んで、目を閉じた。するとハイペリちゃんの輝きがどんどん強さを増していき、突然光が弾けた。そこに立っていたのは、ハイペリちゃんだった。

 どういうことかと不思議に思っていると、ハイペリちゃんは私の手を取り自分のほっぺたを触らせた。そこには人の肌の感触、ほのかな体温。第三形態とは、実体がある状態でした、といわれても……。さっき貫通したおなかは、服の手触りの下にプニッとした弾力、やめて下さいよお、と言うハイペリちゃん。何だろうゴードンさんが言ったみたいに神経毒で幻覚を見ているのかもしれない。


 一応毎日顔を見せる必要があると決めた、運用形態。アカリが操縦室に入ってきたときは、レベッカがハイペリちゃんを襲っていた。服の下はどうなっているとか聞いているが、放っておいていいのだろうか?

「レベッカどうしたんだ。ハイペリちゃんが困っているぞ」

「先輩!ハイペリちゃんって何なんですか」

「船のクルーだよ。毎日どこかおかしな進歩をしていくけど。今度は服がどうしたの」

「服の下に、お肉の手応えがあるんです。どうなっているのかと思ってつい……」

『お肉なんて言わないで下さい。説明しますと、現状は人型全体の皮膚までの再現は出来るようになりました。見えている箇所は上層部、次に下着、皮膚となっています』

「脱げるの?」

『脱衣も可能ですよ。衣服として制作していますので。変身時間は多少長くなりましたけど』

「そうか」

「それでいいんですか?先輩は」

「止めようがないんだよ。最初は平面が浮かんでいるだけだったんだよ。それが十日ちょっとでこんなだ。もう行き着くところまで行ってもらおうかな?なんて思ってる」

『何が目的かはだいたい分かっているんですけど、それの達成には私の精神が追いついていません。かつ私の矜持にも反することなので思惑通りにしてあげるかは分かりませんね』

「ね?たまに何を言ってるのか判らないところも、慣れれば面白いよ」

 先輩がおかしくなっちゃったとレベッカがつぶやくのだが、それも若さだとアカリは理解した。

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