02-539 観光惑星フィノーラ
イードの軍港でドリフト接岸を華麗に決めて見せたハイペリちゃん。
注意を受けるのは船長の仕事だ。
『到着しました。接舷後救急隊が来る手はずになっています。船長は同行を求められています。「その他」は船で待機、ですって』
レプリケーターのメニューも増やしたので食事にしてはどうですか?とその他に声をかけるハイペリちゃん。実は食事をとる方法が……と胡乱なことを言いだしたが丁度救急隊が来たようで、その後は聞きそびれてしまった。
結局は当然ながら二人は入院することになった。
全身をスキャンしたところ、弱ってはいたが運動不足程度のようで意識が戻り次第普通の生活に戻れるだろうという診断だった。
アカリの方は取り調べはあったが、起こったことの確認程度ですぐに帰された。
元々英雄的行為であるし超常現象でもあり、扱いに困るというところか。
ハイペリオンの集めたデータは提供し、後日も協力することになった。
翌日、フィノーラ滞在最後の日。
浜辺に無反動着陸をしたクルーザー。その周辺で水遊びに興じる美女と美少女プラス青年二人。ハイペリちゃんが水環境に進出した日であった。
「その身体は、データにあったのかい?」
『……船長、あまり見ないで下さい』
ハイぺリちゃんは無事に「恥ずかしい感情」を覚えたようだ。水着もアカリリクエストのものと異なり、健全さが際立つ白のビキニタイプ。
『いつもの身体と同じですよ?データは船のモニターでも閲覧可能ですが、恥ずかしいのであまりじっくり見ないでください……。私はまだよく分からないんですけどわざわざ立体にするくらいですから、結構上等な身体なのでしょう?』
「娘さんや、乙女は秘密を簡単にバラさないものだぞ。ここは「モーション:恥じらいIII」だよ。貧弱な男子達よ、ここは目の保養をしておくべきだよ」
ベアトリクスとハイペリちゃんはキャッキャと笑い合う。
「それもそうだ?……アカリ、ハイペリちゃんの耐久試験を行うぞ!」
シャルルとアカリの集中砲火(水の)はハイペリちゃんが泣き出すまで執拗に繰り返され、二人はベアトリクに怒られる。
一行は存分に楽しんだのだった。
トレジエムに帰る日、フィノーラの宇宙港で出発準備中のハイペリオンに来客があった。
「ゴードン?レベッカ?どうしてここに?」
アカリが搭乗口まで迎えに行くと、二人がそこにいた。
「本当にアカリだ」
新品の制服を来た二人がやってきた。少尉待遇のワッペンを付けている。
「ヴェッソー少佐ですよ、ゴードンさん!」
「そうだった。……この度は我々二名を助けていただき、ありがとうございました!」
「ああ、元気そうだね二人とも。もう出歩いてもいいのか?」
「はい。どうやら体力が減らないような処理をされていたらしく、向こうの要素がなくなれば全く当時のままだそうです」
「加齢も少し抑えられていたようですね」
レベッカは自分の頬をペタペタと触りながら言う。
「確かに、僕らからしたら十年経っているんだけどね、君達だってすぐ分かったのも、あの頃のままだったからさ。……で、何の用?」
「聞いていないのですか?」
「アカリ……少佐がトレジエムに帰るから付いて行けって、言われたんだが」
「ゴードンさん!不敬ですよ」
ゴードンとは年も近い同期、レベッカとは同階級の後輩、当時はそうだった。
一番年下のレベッカはみんなに丁寧に話していたが、仲間内の事で多少砕けた話し方ではあった。そういう間柄なので元より不敬とかは考えてもいなかった。
「いいよレベッカ。だいたい僕は退役してるんだし」
「そう聞いたぞ」
「ええ!?嘘だぁ」
「病院に同期がいてな、聞いたんだよ」
「そうだったのか、誰?」
「パーシーが局長だったよ。オッサンになってた」
「そりゃお前、十年だぞ」
「アカリ先輩は、さらに格好良くなりましたね!」
ファンから見たら気合いの足りない顔になった、なのだがずっと憧れてきた少女から見たら、そうなるのだろう。
「なんか、色々あったみたいだな」
『船長、確認とれました。ゴードンさんの仰るとおり、お二人をトレジエムまで送り届けるミッションが来ています。また情報が止まっていました』
「……そうか、でも病み上がり?にあの航路はきついと思うが」
「今のは、乗組員の方ですか?」
「そうだよ。僕と今の子?以外に二人いる」
「三十光年を四人って、相変わらずおかしい奴だな」
「おかしいんですか?」
「だって、この船「ハイペリオン級」だろ?」
基本、星系内での運用が想定されている多目的艦だ。例え船体が改造を受けていても、艦船マニアのゴードンには正体を見抜くことなど造作もない。
『船長、そろそろ出ますよ。早く乗って下さい』
「そうだね、行こうか。荷物は……ないか。着替えくらい持たされなかったのか?」
船内通路はゴードンの記憶にある、宇宙艦艇よりも少し天井が高い。乗務員の生活環境改善に本格的に取り組み始めたのはこの級からだったか。
「部屋にはあとで案内するから、クルーの顔合わせといこう。みんな操縦室に集まっているはずだ」
「お待たせ。まずは港から出ようか。コースと操船は任せる。スゴン系を出るまでは0.5光速だ」
『船長。お二人をトレジエムまで送るために、超空間バイパス路の使用が許可されています』
「そうなの?ではゲートに向かおう」
『分かりました。ゲートまで推奨速度で向かいますね。およそ二時間の予定です』
「さて、今の操縦士がハイペリちゃんだ」
「ハイペリ?」
「これはまた、えらく可愛い人ですね」
「あとで話すよ。で、彼女がベアトリクスさん。経理から白兵戦まで何でも出来るというのが、キャッチコピーでしたよね」
「改めていうと恥ずかしいわね。よろしく、今回は主に料理担当よ」
「こっちがシャルル。僕の元いた船のメカニックで兄みたいな人だ」
「よろしく。アカリの兄です」
「あ、貴方があの……」
「お会いできて光栄です!」
「え?」
シャルルは被害者である。アカリが学生時代に語った、尊敬する兄の武勇伝が伝説になっているだけだ。
「こっちがゴードン君。僕の同期で機関科の艦船マニアです。そしてレベッカ君、パイロットコースで僕の後輩です」
「アカリさんからお話は聞いているかも知れませんが、俺たち二人はフィノーラで演習中に超常現象に巻き込まれたらしいんです。十年間の情報ブランクがあるみたいなので、色々教えて下さい」
『まもなくゲートに到着します。オリジナル、ゲートとの通信を開始して下さい』
『了解。通信は良好だ、進入路の情報をもらった。四番の誘導ビーコンに従え』
『わかりました。四番にセットします。船長、ここレベル六対応です。どうします?』
「……レベル七で行こう」
レベル六どころか、AI単独でのシャトル操船をやったばかりのホログラム娘が何を言っているんだ、やりたい放題のAIめ。アカリは皮肉を込めてつぶやいたのだが、ハイペリちゃんには通じなかったようだ。
『わかりました。ではオリジナルに操船権限を引き渡します。管制から連絡です、現在三番進入路で待機中の第八十五パトロール艦隊の次に進入するようにとのことです』
『了解した』
「あの娘、管制相手に堂々としたもんだな」
「私と歳も大して違わないと思います、船を知り尽くした自信というか、凄いですね」
「後は任せたよ。二人を部屋に案内してくる」
『あ、了解です。あとで交代勤務の相談させて下さい』
ハイペリオン号の客室は六つ。その内四つが埋まるなんてなかなかない。ちなみにアカリは船長室だ。
「部屋はこの二つを使ってくれ。レベッカの隣はベアトリクスさん。ゴードンの隣はシャルル兄さんだ。部屋の物は好きに使ってくれ。モニターで銀河ネットも使える」
ハイペリオン号の食堂はちょっと広い。本物のキッチンはベアトリクスのリクエストではなく、最初の改造時に取り付けられた。
「食事は食堂で。ベアトリクスさんが何か作ってくれていたら、食べても良い。レプリケーターで大体の物は出せる。ただし食べ物飲み物以外は出すな。あ、器は一緒に出ちゃうからそれは構わない」
「他の物は、悪いがストアのレプリケーターを使ってくれ、衣類とか。ハイペリちゃんが変なデータを入れたらしいがそこは見なかったことにしてあげて」
ハイペリちゃんは一体何を作ったのだろうか。
「二人はお客さんだから、トレジエムまでのんびりしておいてくれたらいい。暇になったら、ビデオでもゲームでもネットで探しておくれ。使い方は十年前とそう変わっていない。船内をうろついても良いが、ハイペリオンが制止したところは入ることは出来ない」




