02-335 セティエム航路へ
「何だい、ハイペリちゃん、見てほしいものって」
クルーたちが帰ってくるなり、ハイペリちゃんに告げられたのだ。
『皆様、おそろいのようですね……。あ、すいません、お食事されながらで構いません』
クルーたちは宇宙港で食事は済ませ、食後の晩酌。ハイペリちゃんが言うには、ちょっとした見世物らしい。
『それでは改めまして。私の研究によりますと、物語のヒーローもヒロインも、敵役でさえ、変身を繰り返し強くなっていくのです』
「片寄った調べだな……」
ハイペリちゃんが無言でシャルルを指さす。うるさいとでも言いたいのだろう。
『この宇宙船ハイペリオン号も、先日AIの一人が変身を行い、一段強くなりました』
「そうだね、見た目は変わらないけど内なる力が、何倍にもパワーアップした。敵が一番嫌がるパターンだと、僕は思うよ」
『そ、それです船長!流石お兄ちゃんです!解ってます!』
感情と光量が紐づいているのか、ハイペリちゃんがやたら眩しく輝く。
「お兄ちゃん?……アカリ君」
『それでですね、皆さんに見てもらいたいというのは、さらに高いステージに上った、私の姿なんです!』
これ以上何をしようというのか、物理干渉能力をホログラムが手に入れた。あとは、機械の能力が許す限り強化していけばいいだけではないのか。クルーは想像が追い付かず、グラスを手に持ったまま固まっている。
『お兄ちゃん、これ読んでください』
「お兄ちゃん?」
ハイペリちゃんはアカリにメモ端末を渡した。
「これを読めと?」
『肯定です』
「ハイペリちゃん……君が手にした、新たな力を……」
『ダメー!!カットですカット。お兄ちゃん、ここはクライマックスなシーンですよ。劇場版で言えば、四分の三。これから無双するんですよ。そんなノリでどうするんですか!オリジナル!映像効果!』
作戦室が薄暗くなり、どこかで嵐でも来ているのだろう、雨音と、稲光。ハイペリちゃんに至っては、その小さい体に宿した莫大なエネルギーを何とかして抑えているようで、身体表面で細かな放電が断続的に発生している。
「……ハイペリちゃん、そういうシーンだったら、僕のセリフ短すぎないか?」
『アカリ!早く終わらせよう!』
クルーの携帯端末からハイペリオンの悲痛な叫びが聞こえる。
「被害者……」
「ハイペリオンも面倒見がいいからね」
「しょうがない。……ハイペリちゃん、君が手にした新たな力を、僕に見せてくれ!|究極の力の解放を承認《アルティメットフォース・リリース・パーミッション》!行けェ!」
『ありがとうお兄ちゃん!最終安全装置解除!〈レプリケーターモード〉!これが私の、
真の力よ!』
ハイペリちゃんを包む光の幕は虹色に輝き徐々に人の姿へ変わっていく。最後大きく弾け、光の欠片は舞い散る天使の羽へと変わる。光の翼を生やして光り輝くハイペリちゃんが、そっと降りてくる。
閉じていた眼をゆっくりと開き、光の翼と全身の輝きが消える。
『ハイペリちゃんバージョン3です!』
そこには先と度と変わらないハイペリちゃんが立っていた。
『船長、ご協力ありがとうございます!完璧でしたよ!』
ハイペリちゃんがアカリの手を取り無邪気に笑う。先ほどまでの神々しさは所詮演出だ。
「何が完璧だ、30点だ!何を研究していたんだ?変身後の決め台詞は?ポーズは!?」
しかしアカリは怒っていた。
「こんなバカ妹はリセットだ!……はしないけど」
『お兄ちゃん!お願い消さないで~!』
「待て、アカリ!それは不味い!」
「判ってるよ、リセットは言い過ぎた。謝る」
「レプリケーターモードっていうことは、実体を作ったということだよね」
「確かに感じが変わったね。光っていない」
「透けていないな」
『外で透けたら、幽霊騒ぎだって船長がおっしゃっていましたので。もう体を作っちゃえ!ということで』
レプリケーターは、エネルギーを物質化し、複製を作る機械だ。
「どうやって動いているんだ?その、粒子を一つずつ全部操作してるわけ?」
『いろいろ試したんですよ?肉だけだったらすぐ落ちてきちゃうんで、骨格を作って補強しつつ……』
肉が落ちてくるあたりでクルーはイヤそうな顔をする。
『骨格システムを導入したことによって、稼働個所を関節部分に限定できましたし、骨格に付いた肉も一緒についてきますし、力を加えすぎない限りは変な方向に曲がることもありませんからね!ほとんど計算知らずです!』
目の前の可愛いハイペリちゃんの中の骨格が見えた気がする。それは単なる金属の棒なのかもしれないが、おそらく彼らの事だ、「データがあったから」程度の理由でほぼ完全に再現しているのだろう。
『あとはですね……』
「あ、今日はもういいや」
「そうね、食後でよかった……」
「じゃぁ皆、解散!明日は0800出発。準備とか、朝早いから注意してください。お休み!」
『あの、まだ説明が……』
これ以上グロ話に付き合いたくないクルー達は続きを話したそうにしているハイペリちゃんを無視して各部屋に戻って行ってしまう。
『オリジナル、皆さんどうしたのでしょうか……船長の言うように完成度が低くて怒ってしまったのでしょうか?』
『どうだろうか、わたしから見てもよくできている。完成度の問題ではないだろう。明日の時間のための調整時間だけだと思うぞ、これもアカリの言う通りだが』
『そうだと良いんですが……。クヨクヨしていても仕方ないですね、バージョン3.1の準備でもしておきます』
『その意気だ。ああ、それと少し思ったのだが……』
誰もいない宇宙船の作戦室で続く、人工知能たちのさらなる精進のための会話を人間達は聞いていない。
レカンの宇宙港。惑星標準時で午前八時。
ハイペリオン号はセティエムに向けて出発した。
『船長、宇宙軍のルブラン少佐から通信です。映像で出します』
「やあ、お見送りありがとう、ユーリイ。行ってくるよ」
『ああ頼んだよ。道中気を付けて。ジュルダン司令からも催促が来てるんで、まずは第九惑星ドックに行っておくれ』
「面着しないとダメかな?」
『多分本人が迎えに来るよ。それとセティエム方面で海賊が活動を活発化させていてね、もしものためにハイペリオン号の全兵装使用許可コードを発行しておくよ。スゴンの哨戒線まで有効にしておくから、気軽に使ってくれ』
「どんな艦隊と戦わせる気だ?」
積まれている兵器類を思い出すと、パトロール小隊程度ならば互角に戦えそうだ。ましてや貧弱な海賊相手なら艦隊クラスでも相手ができるだろう。
『兵装許可コード受領しました。セティエムとスゴン間の超空間バイパス路使用許可も受領しました』
『バイパスには十日以内に入ってね。新人ちゃんも頑張ってね』
『ありがとうございます、少佐殿。……名前は本部の都合でまだありませんので、すいません』
『……ああ、そういうことか』
他人の都合で名前がない。それは地球ケンタウリ政府に所属する人類種にとってありえないことである。つまり「そういうこと」なのだ。
「マシュー君には悪いけど、そういうこと。では行ってくる。いろいろありがとう」
『みんな気を付けて。航行の無事を祈っているよ』
宇宙船ハイペリオン号は、プルミエルの宇宙港領域を離脱した。
「船が管制とのやりとりもやっちゃって、本当に全自動になったわね、この船」
「うん。なんか出港の時の特別感みたいなのが無くなるな」
『え~スイマセン。私が対応してしまって……良くなかったですか』
「いやいや、満点だよ。めんどくさい管制がいてもこれからはお任せだ。完璧だよ」
「ハイペリオン……オリジナルとハイペリちゃんの役割分担はこんな感じでいくのかな?」
『そうですね、普通の船で人がやっている部分は私が担当します。皆さんにも分かるようにオリジナルとは音声通話でやり取りしますよ。急ぎの時は別ですけど』
「了解したよ。じゃあとりあえず、プルミエルを出ようか。ハイペリオン、セティエム方面のチェックエリアに向けて通常加速」
「急ぎよ!」
「……リライト起動。0.5光速」
『了解。セティエム方面、リライト起動0.5光速』




