02-229 第七夜 シャルルとアカリ
「おはよう、シャルル兄さん」
「ああ、おはよう」
『船長、おはようございます』
「ああ、ハイペリちゃん。報告すべきことは?」
『ありません。順調に進んでいます。プルミエル外縁には24時間ちょうどで到着します」
明日からの人員配置時間変更のため、アカリは4時間早く起きてきた。
あと一日なら今更とは思うが、美しいと評判のプルミエル系の首都星レカンを皆で眺めるのも悪くない。
睡眠時間を一番削られるのはシャルルだ。
「そうだ、さっき思い出したんだけど、明日のために「釣り」をしないといけなかったね」
アカリは本当に暇な日に釣りに誘うようなテンションで言う。
『本当にするんですか?』
「プルミエルに入る直前にバタつくのも嫌だしね」
「アカリ、釣りってなんだ?」
「海賊釣りだよ。予想では毎日来るはずだったんだけど、まだ一回しか襲撃がなくてね。かなりの数が待機しているんじゃないかと怪しんでる」
『彼らはこの船を見失っているようなので、アクティブソナーを打てば見つけてくれるのではないか、とアカリは考えている』
アカリは昔から宇宙海賊が嫌いだった。自分の家たる宇宙船を勝手な理由で襲ってくるのだ、誰だって好きにはなれないだろう。少年になってアカリは、彼の父のようにエムロード号の艦載機パイロットになった。
そこからは暴れ放題だ。襲ってくる海賊たちはほとんど返り討ち。稀に被弾して帰還すると、姉たちは大泣きで、もう出撃するなと懇願する。しかし父がいない分、家族を守るのは自分しかいないと、いくら止めても出撃するのだ。
そして軍の宇宙海賊一斉討伐が終わり、星団宇宙はほぼ安全になった。アカリが船を降りて宇宙軍に入ったのはそのころだ。
「アカリ、宇宙海賊を誘い出すのは反対だ。リスクしかない」
「どうして?今狩らないとプルミエルに海賊トレインする事になるよ」
アカリ氏はゲームも好きだ。
「落ち着けよ。プルミエルまで後少しだ、ここまで来たならばハイペリオン号だって軍に認知されている。ましてや怪しい宇宙船の群れなんて、もうすでに見つかって処理されているさ。ハイペリオン、公開情報は出ていないか?」
『それらしき記事は出ていない』
「じゃあまだチャンスが……」
「ダメだ」
「ハイペリオン号は僕の……」
「アカリ、俺たちの仕事は運送屋だ。海賊狩りじゃない。積み荷と、船とクルーを積極的に危険なことに巻き込むのは駄目だ。船長の罷免動議を出さなくてはならなくなる」
「兄さん……」
アカリも頭では理解はするが、海賊を許せない心がついてこれない。兄が臆病で言っているわけではない事も分かっている。
「……ハイペリオン、さっきの僕の推測をまとめてプルミエル軍に送信して」
『了解』
「ちょっとコーヒーでも貰ってくる」
兄の前で子供っぽい事をしてしまった。それが恥ずかしい。素直にお礼が言えるようになるために、少し離れたかった。
『アカリ、軍から返信だ。プルミエル時間で二日前に、宇宙海賊ゾディアックのメンバーを星系外縁で多数捕縛。特定の船を襲撃するために集合していたとのことだ。戦艦クラス1巡洋艦クラス8艦載機母艦3小型艦20』
「ありがとう」
アカリは操縦室から出て行った。
『船長、すごく恨まれていませんか?宇宙海賊に』
「俺もびっくりした。機動艦隊クラスじゃないか」
『ですよね!ハイペリオン号みたいな小さな船にそんな大艦隊が出てくるほどに目の敵にされるものでしょうか?』
「エムロード号を降りてから、軍で相当狩ってたらしいからな」
そのころアカリは、食堂でコーヒーを飲みながら反省していた。
「また兄さんの常識に助けられた……」
既に宇宙海賊達は捕まってしまったらしいから大丈夫なのだろうが、調子に乗ってアクティブソナーを打っていたら、運が悪ければあの大群に囲まれていたということだ。さすがに勝ち目が全くないことくらいはアカリにも分かる。
「でも機動艦隊並みの戦力だった。何で僕、そんなに狙われてるんだ?」
「あ~シャルル兄さん、さっきはありがとう」
「おう。落ち着いたか」
「うん。兄さんにはいつも助けられているね」
素直にはなれたが、恥ずかしいのは恥ずかしいのだ。いくぶん照れが入る謝罪になってしまう。
『(こ、これが「デレ」というものですね!眼福です……!)』
「じゃあまずは、このやかましいAIをリセットしようか」
『船長ゴメンナサイ!』




