02-228 第七夜 ベアトリクスと少女覚醒Lv2
アカリに食事を詰め込んで操縦室から追い出した。
「なるほど、リライト装置の応用か。アカリ君も楽しんでいるね」
『この船の男達は思い付くばっかりで、私の苦労なんかちっとも分かってくれません』
「ハイペリちゃんに一番負担かけたのは私かも知らないんだけどね」
『そんなことはありませんよ。おか、ベアトリクスさんには感謝してます』
「で、男達は何をしたの?」
『いえ、言ってみたかっただけです』
考えてみたら男女関係なく全員から苦労をかけられていた。ハイペリちゃんは急いでごまかした。
「それで?リライトの余裕はどれくらいあるの?」
トレジエムからプルミエルまで三十光年。この距離を十日程度で踏破できるのも、リライト装置あってのことだ。ホログラムがモノをつかむなんて面白い機能ではあるが、システムに必要以上の負荷をかけるわけにはいかない。
『リライト装置用の演算装置は別にあって、航行に使用する計算領域はあらかじめ確保されている。ホログラム用には汎用領域を使っているので概ね問題ない。エネルギーに関しては数値にも現れないくらいだ』
「それならいいけど」
『私も彼女も成長を楽しんでいるが、君達クルーの生存が最優先なのは変わりない』
「そこは信頼している」
「もう問題なさそうだから、レッスンを再開しましょうか」
ハイペリちゃんはちょっとアジアンテイストだから、きれいに見える座りかたとか調べてみたの、と張り切るがハイペリちゃんには恐怖でしかない。結局新しい所作など覚える余裕が本当にないのだと気付いてくれたようだ。
「相当参っているのね」
『恥ずかしながら。オリジナルが手伝ってくれても、結局使うのは私なので……』
さっきはアカリが先に進めたがっていたので、物理干渉パートを進めたが、まだ全体的な仕上がり、微調整が必要な箇所は山ほどあるのだ。
「船長の命令だからって、我慢しなくていいんだからね」
『……これが母の優しさ?……大丈夫ですよ!無理はぜんぜんしていません!それに、ここは頑張るトコロなんです』
母という言葉に、ベアトリクスの表情が堅くなる兆候を観測したハイぺりちゃんは慌てて言い直す。
「あなた達って、たまにそういう直感?みたいなのを働かせるわよね」
『三百年間の痛い目に遭ってきた経験があるんです』
しかし疲れているからといって、どんな姿でも良い訳ではありません。いつでも皆に見られていると意識して、淑女として相応しい姿勢を今日は学びましょう。新しいことじゃないから大丈夫でしょう?
結局はベアトリクスもハイぺりちゃんの苦境は分かっていなかった。
そして、第一回全員集会が操縦室で開かれていた。主宰はベアトリクス。
拍手はない。男性二人は就寝中を叩き起こされているのだ。アカリなどはついさっき寝入ったところだ。
「さてお集まりのみなさん、休憩当番の方もありがとう。今日の議題は、一人増えたクルーの紹介と当直番の見直しについて、です」
「この度船長から正式にクルーと認められた、ハイペリちゃんです!」
紹介とともに光り輝く美少女が忽然と現れた。登場時エフェクト「女神降臨」だ。ホロ体の表示のオンオフは自由にできる。
『皆さんおはようございます。私は銀河時間〇時四十七分をもって、船長からクルーと認証されました、ハイペリオン特別複製体、通称ハイペリちゃんです!よろしくお願いします!』
まばらに拍手。謎の歓声。船の音響システムは当然自由に使うことができる。
「そんなこと言ったかな……?まあいいけど」
夜勤のハイテンションでベアトリクスは続けていく。
「ハイペリちゃんの最大の特徴は、睡眠をとる必要がないのですね!」
『機械知性体なので!』
「しかも、航法にも詳しいのです!」
『データベースにアクセスするだけなので!』
「船の操作もできるんですよ」
『本人なので!』
パチパチ
「ということで、これから夜番はハイペリちゃん一人に担当してもらおうかなと思いますが、皆さんどうでしょう」
「何でそんなに元気なんですか」
「当直に加えるのは賛成ですけど。機械が壊れたときはどうするんです?結局人手がいるでしょう?」
全自動化された宇宙船でも人手がいる理由は、そのあたりにもある。大規模な故障は当然無理だが、少しの不具合であれば人の手で何とかなる場合もあるのだ。しかし、ハイペリちゃんはもう単なるホログラムではない。
「シャルル君は寝てたから知らないでしょう?なんとハイペリちゃんは物が触れるようになっています!」
『はい!先ほど三十個目の作用点最適化が完了したところです。応用すればほら、髪とか質感も再現できるのです!』
ハイペリちゃんはシャルルの手に自分の頭をぐいぐいと押し付ける。
「何?どういうことだ」
確かに押されている感覚、さらさらした触感がある。
『寝起きのシャルルさんには難しいかな?ハイ、お茶ですよ』
「ありがと。……何で!?どうやって?」
ふつうに驚くシャルルとハイペリちゃんの髪に触って驚くベアトリクス。
「うわホント!サラサラしてる」
『どうです?シャルルさん、船長。機械修理もお任せですよ』
「でもホログラムはここから出られないだろう?」
だからアカリはベアトリクスを驚かすために、操縦室にコーヒーを準備していたのだ。
「出る必要はないの。リライト装置の影響範囲は船内全てだから」
『インナーカメラを飛ばせばどこでも対応できます』
「でもリライト装置が壊れたら……って、その時はさすがに寝てる場合じゃないか」
人工知能の能力としては、二人ともこれ以上ないくらいにハイペリオンを信頼している。幼いときから護ってきてくれているAIのコピーなのだから。そのハイペリオンに手足が付いたのなら……異議など無かった。
「僕は賛成です」
「俺も異論はないです。あ、カメラにホログラム装置付けたら良いのか」
『それだ!それですよシャルルさん!リライトの範囲内ならどこでも行けるじゃないですか。大革命ですよ、さすがお兄ちゃんです!』
「そんなに透けてたら幽霊騒動になるよ。僕らは構わないけどさ」
『今の装置ではこれが精一杯なんですよね。ところで船長、トレジエムに帰った後なんですけどね……』
「皆さん仲良さそうで何よりです。それでは明日のプルミエル到着時にみんなが起きているように、スケジュール調整しましょう!」




