02-226 第六夜 シャルルとドキドキ大作戦Final!
「どうした?ハイペリちゃん。参ってるじゃないか」
ベアトリクスの姿が見えなくなったとたん、シートに品良くもたれ掛かっていたハイペリちゃんは、居眠りの学生がするように画面前のテーブルに突っ伏した。これが「素」なのだろう。
『私たちのシリーズは、計算量の閾値を超えると「疲れた」状態になるのです。特にホログラム体に感情リンクさせてしまっているので、この有様です……』
「まだ、なんか計算残ってるのか?」
『姿勢は先程ベアトリクスさんに仕込まれたのですが、肝心の物理計算がまだ終わってないんですよ~。それなのにあの人たちはあんな……』
顔だけシャルルの方に向けて愚痴を言う。よくできた涙目だ。
「アカリから新たなタスクを投入されたわけか。黙っているハイペリオンもグルなわけね」
『そう言うことだ。しかしアカリのタスクを解析していたのは主に私で、彼女がオーバーワークになっている原因は、まだシャルルの分だ』
そんなにきつい作業だったか?手分けすれば良いじゃないかとシャルルが反論。
『まあまあ、私のために争わないでください。』
「余裕あるじゃん」
『ありません。トレジエムに戻ったら、ホロ装置パワーアップするのでしょう?その時のためになるべくコンパクトな関数にしておかないとと思うと、なかなか進まないんですよ。……あれ?私変な事言いました?』
シャルルの意表を突かれたというような顔にハイぺりちゃんは不安になった。
「そうか、トレジエムでいったん終わりと思ってた。続けなきゃ勿体ない……のかな?」
流石に身の危険を感じてはグロッキーしたままではいられず、ハイぺりちゃんは立ち上がって抗議する。
『ちょ、ちょっと待って下さいよ。終わりって、ダメです。嫌ですよ~、消えたくない~』
最後は本気の泣きだが。
『泣かせてはいけないな。その件は、アカリに相談しておく。まあこれから使い道も増えるだろうからな』
『良いんですよね?私消えなくて』
『君の守るべき第一項目だろう?抵抗されたら困る』
「どういうことだ?」
船のAIの抵抗、イコール反乱か。そんな事されたら一番困る事項だ。
『同じ船に同等の人工知能が二つあることに関わる問題を回避するための措置として、彼女の遵守事項の優先順位を変更している』
「乗組員第一というやつだな」
『ああ、彼女の場合は自分を守ることが第一だ。二番目は乗組員。もし彼女の意志と無関係に彼女が消滅する事になる場面があったなら、彼女は全力で抵抗するし、私は全力で乗組員を守る』
「何か矛盾してるな。何でそんな事に?」
『他の条項も絡んでくれば結果落ち着くのだ。乗組員である君達が彼女を害さなければ、問題ない。さっきのは危なかったぞ?』
「そうか。済まなかったなハイペリちゃん」
『今度苛めたら毒ガスですよ?』
「止せ」
シャルルは真面目な表情でハイペリちゃんの「冗談」を禁止する。
『冗談ですよ。怒らないで下さい』
「力をかざしての冗談は冗談にはならんのだぞ。覚えておくように。……それにしても、消すつもりはないけど安全装置が必要だな。お互いに」
『君達はすぐ殺し合いそうだからな』
『でも船長が信用する人しかクルーになりませんし、そんな人は私を消そうとはしないでしょう?それに、船長に言われたら素直に消えますよ、私』
「さっき泣いて嫌がってたじゃん」
『シャルルさんは船長じゃないでしょ』
「俺はアカリがもっとも信頼する兄だぞ?俺の言葉はアカリの言葉だ!」
『そんなわけ無いでしょう?バカなんですか?』
「クソ、非常停止ボタン付けておくんだった!」
『明日ベアトリクスさんの前で泣いてやる!怒られちゃって下さい!』
「……とまあ、これくらいは攻撃認定しないでおくれよ」
『急に戻らないで下さい。これくらいのイライラはシャルルさんといれば普通ですからね、特別に見逃してあげます』
「最初は従順だったのにな……。思ったんだけど、そのロボット三原則みたいなの必要なのか?」
『私達が君達の友でありサポーターでいるためには必要だと思う』
『……そうですね。私達の性能から鑑みたらもう少し制限を付けても良いくらいです。もうしばらく私を観察して、必要だったら制限強化して下さいね』
「わかった。その時は相談してからな」
『優しいんですね』
「うるさいな。早く計算を済ませろ。では、ハイペリオン。今後のハイぺりちゃんの強化について計画しようじゃないか」
『確かに、思い付きだけでは無駄が多いしな』
結局シャルルもからかい相手としてハイぺりちゃんを気に入っているのだ。ハイペリオンも初めて出来た妹分だ。彼にしては相当可愛がっているようだし、衝突するような事はまず起きないだろう。
『ちょっと待って!しばらくは止めてって言ってるじゃないですか!せめて計算能力の割り振りを再設定してから……』
しかし大人二人に弄られる本人はたまったものではないのであった。
「ところで、昨日からおかしいと思っていたんだけど……」
『何か問題ですか?』
「どうしてまだ、プルミエルに着いていないんだ?昨日のうちに星系に入っているはずだろう?」
『プルミエル外縁に到着は、二日後の予定だ』
「何があった?」
ハイペリちゃんが気まずそうな表情を出してしまっている。
『クルーとの会話は君の担当だろう……』
『トラブル報告はオリジナルの役目のはずです』
「ハイペリオン、どうぞ」
『すまないシャルル。君に報告をしていなかった。実は三日目のアカリの当番時に、増設のジェネレーターが故障して停止してしまった』
「超重要事項だな」
『その時点で残り10光年。そこからリライト5.6の0.5光速で飛んでいる』
「故障の原因は?」
『不明だ。本部にも解析を手伝ってもらっているが、今も再起動には成功していない』
「人間なら懲罰ものだ」
『すいません』
『申し訳ない』
「いちおう船長には報告しておくぞ、AIの監視はクルーの義務だからな」
AIの反乱や誤作動の原因は、日ごろの行動が少しずつおかしくなってくることが多いという。友好状態が極めて良い状態でも、お互い全く異なる思考を持つ者同士、安易に考えることはできない。
「さあ、一通り俺としては目的達成、というところか。アカリが何をさせているかはわからないけどな」
クルーは作ってみたものの、特に何か仕事があるわけでもない。製作の途中が忙しく楽しい日々だった。
「君への仕事の割り振りは明日にしよう。多分時刻合わせでみんなが起きているはずだ。俺はちょっと機関部を見てくる。ハイペリちゃんは、計算を進めておきな」
『はい、ありがとうございます』
機関の原因不明の不調はハイペリちゃんの完成のための時間稼ぎ。ふとそんなことが頭によぎる。おそらく関係ないことだ。シャルルはすぐに忘れることにした。




