02-223 第五夜 シャルルのドキドキ大作戦
いたずら心というか、面白そうだから、ホログラム装置を取り付けてみただけだ。出発前に出会った少女の話もあり、クルー不足解消の有効打になるかという期待もあったが、実際に使えるような物はにはならないだろうとも思っていた。アカリが当直中暇だろうから話し相手にちょうど良いかなと、見た目は可愛い女の子にしたのだ。中身はハイペリオンだし、ちょうどいいジョークだ、と。
ハイペリオンにはホログラム体の話し方は、女の子っぽくしてと指示はしていた。それを不気味だからと、アカリが声を変えたらしい。ハイペリオン自身は無駄な高性能を発揮してホログラムが動き回れるように投影機を改造した。簡単なモーションはデフォルトで無数にあったのだが、その動きが不気味だからと、ベアトリクスが全力で女性らしい仕草を教え込みたいとホログラムを困らせている。みんなそんなに暇だったのか。
もう引き返せないところまで来ているようだ。ならば自分がとる道は……。
食堂でベアトリクスが作り置きしてくれた食事を食べ、シャルルはある決意を胸に操縦室へ戻った。そして演劇風に茶番は始まった。
「ハイペリちゃん、俺は後悔しているよ。安易な気持ちで君を創り出してしまったことを」
『分かっています。貴重な船のリソースを単なるAIのホログラムなんかに使うのは間違ってますよね。私は元のコンソールの画像に戻ります。でもちょっと楽しかったな……』
ハイペリちゃんは本当に悲しそうに目を伏せた。
「いいノリだ。安心すると良い、俺は決めたよ」
え?と涙ぐんだ顔を上げる女優。
「君を宇宙最高のホログラムにしてみせる!」
『でも、すでにホログラム表示のために計算力の0.5パーセントを使ってしまっています』
「たったそれだけ?」
『ですが、リライトで回避行動中の兵装コントロールに支障が出るかもしれません。ホーミング魚雷とか』
「そんな武器は積んでいません。何だよホーミングとか。怖いな」
『でもカタログに』
「でもでもうるさいな。なんか趣旨が変わってきてない?というか、ハイペリオンは余剰分の計算力の数割を君に使っていると言ったぞ」
『それについてなんだが……』
『タキオンレーザーとか』
「本当にそんな超兵器積んでいても、そもそも貨物船なんだから戦闘はしないし、したとしてもその時ホログラム消せばいいだけじゃないか」
『歌わなくていいんですか?』
「馬鹿か!」
いつの間にかマイクを握りしめているホログラムに、シャルルも流石に呆れる。
『ひどい……』
「泣くな!……ベアトリクスさん、どこまでモーションを作り込んだんだか」
掛け合いが一段落したところで、コンソールから声がした。
『シャルル、計算力についてなのだが。このホログラムのプロジェクトの為に、私と同等に非常に近い複製体を使っている。黙っていたのだが、アカリの担当の時に宇宙海賊の襲撃があってな、その時のデータから計算能力の余剰を再計算した。我々のシステムで全体の20パーセントを使うのが妥当だろう。通常時はそれを限度として、我々で分けている。船を担当する私のほうが当然計算力は必要なので、複製体には全体の8パーセントを限界として割り当てた。計算力としてはかなり大きいのだが、経験の一般化のための計算にほとんど利用してしまっている。一時的に私の計算力も貸している状態だ。以上を踏まえて、計算力の一パーセントまでなら、ホログラムの強化に使用しても問題は生じないと結論する。当然クルーの生命維持は問題ない』
「ちょっと数字ばっかり言われてもわからんが、え?ほんとに兵器積んでるの」
『戦闘時に、状況に合わせて兵器類が自動で立ち上がろうとしているのを確認した。意図したものかは不明だが、降ろし忘れの実弾や、電磁兵装がそこそこ残っている。使用可能な命令コードは凍結されているがな』
兵器の降ろし忘れなんて、あり得るはずがない。つまりこの船はいずれは兵役に駆り出されることが前提でアカリに「貸与」されているのだ。
『それより、君の本気についてだが。表示を消したところで計算力の余裕は0.5パーセントしか増えない。消すならば全てをクリアにして、8パーセントを解放したほうが、高架がある』
操縦席前方のメインモニターに、全てを消去して計算領域を解放しますか?YES、NO、の表示が出る。横では美少女が半泣きで見ている。
「いや、だからここまでしたなら作り込もうかなって言ってるじゃないか」
『そうなんですか?』
「どのくらい作り込んでいいのか、聞きたかったのは事実だ。そうか0.5パーセントで現状か」
ホログラム少女の涙は一瞬で引っ込み、メイン画面には(^^)vが出ている。非常に疲れてしまったシャルルは、気分転換に食堂へ向かうのだった。
「では君の」
『ハイペリちゃんです』
「……ハイペリちゃんの動きで気になっていることは2つ」
『私を気になって……』
馬鹿な突っ込みをしようとした、ホログラムを視線で黙らせる。
「表示が薄いのと、髪の毛や服の動きが柔らかくない、の2つだ」
『薄いのは神秘的で気に入っています』
「ソウデスカ」
『動きを滑らかにするとすごく演算量が増えますよ』
「だろうね。まあでも整数の範囲での計算でいいと思う、できるかな」
『うーん、まずは人工重力の影響だけやってみます。精度を少しずつ上げていくので、丁度良いところで止めてください』
それから六時間、ほぼ自然に見える程度の重力シミュレーションが完了した。それに伴い演算力は0.8パーセントまで使用してしまった。まるで本物の人間がいるような自然な動きをするハイペリオンに、起きてきたアカリは驚愕した。
「がんばったぜアカリ。俺とベアトリクスさんの渾身の作品だ。お前の魂を込めて、仕上げてくれ」
シャルルはそう言うとコンソールに突っ伏して眠り込んでしまう。『シャルルさん!』と、まるで本当に心配しているかのように駆け寄る少女。
「何故たった半日でこんなになっているんだ」
おかしな方向に優秀すぎる、クルーたちの仕業に驚きを隠せないアカリである。




