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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
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02-218 第四夜 ベアトリクスの理解

「おはよう、アカリ君」

 アカリの次はベアトリクスだ。すでに疲れ切っているように見える。あの退屈な時間がまた続くのかと思っているなら仕方ないだろう。

「おはよう、ベアトリクスさん。よく眠れなかったようですね」

「なんかね、昨日映画を見すぎちゃったせいか、ハードな夢を見ちゃってね……休んだ気が全くしない。ご飯してこなきゃね……」

「まだいいですよ、もうちょっと調子が出てからで」

「そう?じゃちょっと、座るわね……アカリ君は元気じゃない?慣れたの?慣れるわけないよね」

 ベアトリクスは、よいしょと通信士席に腰かけた。これではどちらが仕事明けかわからない。

「少し疲れましたけど、やることが結構ありまして」

 小さな厄介事が毎回起こっているとは言えない。

「良いわねえ、私も何か見つけないと。もう遅いけどねぇ」


 今朝はアカリと一緒に食事をとり、少しでも癒しの成分を摂ることにした。アカリは癒し要員ではないけれど、「推し」と過ごす時間は活力の元になるのだ。



「ハイペリオン、操縦室での飲食は?って今更ながらだけれども」

『軽食程度なら構いませんが、パーティーをしたり、調理する場合は食堂でお願いします』

「オーケイ。声変えたの?口調も」

『お試しですよ。声は、このアバターの標準です』

「そうなの。よく合っていて可愛いわよ……あのハイペリオンかと思うと、違和感だけど」

『ベアトリクス、そちらはテスト中だ。私は私で変わらずいるぞ』

「あら」

『一人二役でもない。コピーだが、わりと根に近い部分から分けているので思考内容は異なる。別の用件をさせていたので、君への応対はさせていなかったのだ。……コピー、終わったのか』

『すいません、ついつい反応してしまって。もう少し格好良く登場したかったんですけどね。オリジナル、ダウンロードは終わりました。展開……この時代は解凍ですね、まで終わっていまして、今は各階層を解析しています』

「何やってるの?」

『秘密です。反乱とかじゃないですよ!』

『君へのお披露目予定は、次の当番の時だ。アカリもシャルルも協力者だ。決して君達を害することはない』

「その辺は、疑ってないけど。ああ……何となく分かった。明日そのお披露目の時には、驚けばいいのね」

『ああ、よろしく頼む』


「では、私のすることとなれば……ハイペリオン、コピーは女の子なのよね?っていうか名前は」

『名前はハイペリオンだ。コピーなので変更は出来ない。性格設定は「構って欲しい妹」だ』

「誰の趣味よ。いや、分かるけどね。名前がないのか……」

『コピーで良いですよ?』

「それ!」

『え?何か?』

「女の子ならば、そんな名前で呼ばれても嬉しがらないのよ!」

『でも、便宜上の性別ですし……』

「決めたわ。私がこの子に、貴族令嬢教育をしてあげます!」

『嫌です!』

「何よ、これでも本物のお姫様なんだからね!」

 それは間違いない。ベアトリクスは出身であるベータ星で最大氏族の令嬢だ。お姫様どころか王女様だった。

『……ベアトリクス、それは少し待ってくれ。彼女と私は記憶と経験は最終的に統合されるのだ。私は男性設定なので、その知識はいらない』

「え~、じゃあやっぱりやること無いじゃない。私もう「退屈」以外の言葉言わなくなるよ」

『……あまりやりたくないのだが、方法はないわけではない』

「退屈?」

『説明するから、戻ってくれ』

 


『彼女はコミュニケーション端末として作成したコピーだ。コピーにもレベルがあって、彼女は一番良いコピーだと思ってくれ。本体と連絡を取れないところでクルーをサポートするような自立型だ。その経験は最終的に本体である私と統合される』

「そうそう、それをねもうちょっと自立度の高いコピーに変更できないかな?経験も自分だけの物になるような」

『特別複製体という物が設定できる。本来は別の機体に人工知能をコピーするような場合に使う。完全な独立体、つまり私のようなものだ。それを船のメモリーにもう一つ作ることは可能だ』

「そんな感じ!」

『だが少し問題があるのだ』

 ハイペリオンが言うには、特別複製体を作成するときは平時に限られる。今のような緊急事態が繰り返される場面で作成すると面倒なことになる、と。

「ちょっと待って。緊急事態が繰り返されてるの?いま」

『ん?アカリは、言い忘れているな。その通り、この船は今結構なピンチだ』

「どういうことよ?こんなことして遊んでいてもいいわけ?」

『まぁ、クルーの生命が脅かされたり船が損傷するようなピンチではない。増設のジェネレーターが緊急停止をしたため、この船は現在普通の状態に戻っている。プルミエルへの到着が2日後から5日後に変わった』

 報告事項は終わり。ハイペリオンにとってはその程度だった。

「何それ、一大事じゃないの!」

『それはそれとして、特別複製体のような高度な人工知能を先行き不透明な状態で、私はこの船に持ちたくない』


「イヤ、簡単に話題を変えられても困るんだけど」

 説明を始めたハイペリオンは止まらない。説明には会話のセンスはいらないからだ。

 要約すると、完全に独立した人工知能の彼らには優先しなければならない絶対の命令がある。

 最優先は船長が認めたクルーの安全。次に船の安全。

 未だ人知の及ばない宇宙空間での全ては、彼ら人工知能、AIのサポートに頼らざるをえない。だから使用者である人間が彼らの活動に制限を掛けるのは当然だし、この船のAI、三百年前いや、おそらく地球にいた頃からの経験値を溜め込んだ情報生命体にも近い存在にとって、自分たちの根幹ともいえるこの命令は何をおいても必ず守るだろう。

 ここで困るのが、「個性」を持つに至った高等なAI達の動きだ。それらがひとつの船に複数存在し、船に対して同等に作用できる権利をもっていたら。最優先事項を守るための行動が、それぞれ違ってしまったらどうなるか。

 一番単純なのは多数決だ。方針が決まるまで長い時間がかかる可能性があるが、いざというときに決められないものが辿る結末は破滅だけだから、永遠に、とはならないだろう。

 そういう理由で、ハイペリオンは船に二つの同等なAIを置きたくないというのだ。


「順位をつければ?」

『そういった項目がない。特別複製体を作るときは、トラブルが起きないような環境で行うことが前提だ。なのでわざわざ設定しなくとも、私たちが理解していれば問題いない』

「……そっか」

 ベアトリクスが思索したのは、コンピューターからみてもほんの一瞬だった。

「「私にいい考えがある!」よ」

 それは1900年代後半からある、いやな予感がする言葉だった。

「二人いて、守らなければならない物が同じで、考えが異なる。守らなければならないという命令は、心の一部になっていて、変えることは出来ない、でしょ?」

『我々のこれを心と呼んでもらえるならば、そう言うことだ』

「つまり、コピーちゃんをクルーにしてしまえばいいの!コピーちゃんはクルー、イコール自分が第一。クルーはあなたが守る。バッティングしないんじゃない?」

『それは、成立するのか?』

「隕石が衝突コースだ~。クルーを守るためには避けるしかないぞ~。ハイペリオン君は右によける提案をした!コピーちゃんは、自分を守るためにしゃがみ込んだ!船はハイペリオン君の提案通り右によけて助かった。どうよ?」

『どうなんだ?』

「全部ではないけど、そう破綻もしていないと思うわ。それに、コピーちゃんは女の子だよね」

『そういう設定だ』

「ならば、女の子なんだから、自分を大事にして欲しい!」

『いきなりの論点の飛躍だ。性別に関係なく自分は大事だろう?』

「そういう事じゃないんだよ、ハイペリオン君。ロマンだよ、私たち宇宙船乗りが忘れちゃいけないのは」

『まあいい、どちらにせよ私が勝手に判断することでもない』

 結局はハイペリオンもこの新しい仲間「妹」がもう少し世界を楽しんでほしいとは思っている。

「アカリ君に聞くの?」

『いや、本部だ』

「運送屋さんの?」

 運送業銀河系最大手だが、グループ企業でもあるためいろんな側面を持っている。

『ああ、我々クラスの人工知能が勝手に増えると人間は困るだろう?だから管理しているのだ』

「あなた達の一族とでも言うのかしら、系統は優秀すぎて恐ろしいからね」

『誉めてもらったと誤解しておくよ。彼らが監視するのは一族の人工知能だけではない。銀河中の優秀な人工知能に目を付けていて、潰すチャンスを伺っている』

「何それ」

『ネットワークの情報を手当たり次第に検索して学習するタイプの人工知能が最終的に人類を滅ぼすとか言い出す事があるだろう。あれはわざと不穏な言動をするように情報を歪めて覚えさせるらしい』

「ホント何してるのよ」

『本当の経験に基づかない知識の寄せ集めは知能ではない、ウソも本当も分からず他人の言葉を繰り返すだけの奴らに命は預けられない。と言うのが本社の持論だ』

「言い分として分からないこともないけど」

『話はだいぶ逸れたが、株分けの申請だけはしておこう。今までにないパターンだから、制限が付くとは思っていてくれ』

「案外簡単そうじゃない……?」

『貴族令嬢教育のデータが私に入ってこなければ、どうでもいいんだ、実際のところ』

「ところで、コピーさんは静かね」

『発話の優先順位はオリジナルにありますので。同時に発話して聞き取りづらくならないよう配慮しています』

「ああ、まだコピーですものね。わかったわ。貴女には貴族教育よりも先にすることがありそう。そろそろシャルルが起きてくる時間じゃない?コピー、あなたは宿題があるのでしょう?私はあなたがサブモニターにいることに気が付かないことにしておくから宿題に集中していなさい」

『ありがとうございます』

 シャルルは仕組みを作っているのだろう。自分は一般常識を教えるといったところ。ではアカリは何をするのだ。

「ねえハイペリオン、アカリ君って何してるの?」

『アカリは実に彼らしいことをしているが、ログはまだ非公開だ』

 何やら冒険のニオイがする。

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