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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
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02-217 第四夜 アカリとファーストコンタクト(2)

 操縦室に戻る間、ずっとポケットからかもごもご声が聞こえてきていたが、アカリは無視していた。

 悪気はなかったのは分かったが、それはそれ。腹は立つのだ。

『船長の入室を確認。自動操縦をレベル5に変更する。お帰りアカリ。通信機は持ってきてくれたか』

「ああ、これ」

『船長~!ヒドいです~』

 バッジは喚くが、ホロ画像の方は動かない。今は休みのようだ。 

「何がだよ」

『ずっと話しかけてるのに、無視しないで下さい』

「なぜいちいち答える必要がある?」

 性格設定としてフレンドリーに話しかけてくるタイプか。アバター本来の設定なのだろうか。冷たく突き放してみる。艦橋業務に特化しているならば色んなタイプの相手をしなければならないし、使用者である人間を不快にするような対応はしないだろう。

『えっでも……』

 おかしな返事が来た。

「僕は静かなのが好きなんだよ。それくらいは理解しているんだろう?」

『あの……』

『アカリ、それくらいにしてやってくれ』

「そういう言い方をすると僕が悪者みたいじゃないか。それに何だこの応対。単なる普通の女の子みたいじゃないか。アバターの元々の設定じゃないのか?」

『試していたのか。道理で君にしてはきつい言い方だと思った』

『そうなんですか?私はてっきり船長が怒ったのかと』

「怒ってはいるけどね」

『やっぱり。ゴメンナサイ……』

『何をしたんだ?』

『「宇宙船あるある」の、「深夜のストアから声が」……を。船長、怖かったみたいで』

「やっぱり!ハイペリオン!どういう設定だ」

『構って欲しい妹がテーマだ』

 シャルルが念入りに調整していたと説明する。

「だいたい君もグルなんじゃないのか?通路の照明を暗くするなんて」

『私は何もしていない。コピー?』

『え?私じゃないですよ……ホントですよ!』

 彼らAIは「こういう時には」ウソはつかない。そこは信頼している。三〇〇年分の経験値を共有する彼等はある程度場の空気を読む。

『おかしいな、さっきは確かに設定が変わっていて、私が戻したのだが。操作ログが残っていない』

「君が操作して、明るくしてくれたんじゃなかったのか」

『私の個人ログではそうなっているがな……』

『ホントですね。船の記録には残ってません』

 機械のコントローラーが吐き出すデータはハイペリオン達からはリードオンリーだ。銀河規格で決まっている。

「……不思議なものだ。とりあえずはセルフチェックさせて、インシデントで残しておいて。で、コピーの方はそのうち仕返しさせてもらうから、そのつもりで」

 通信機が、お兄ちゃんひどい~と叫んでいる。


「さて、僕はいったい何をしたかったんだっけ?」

『船長、記憶が……?』

「違うよ。思い出した。君の音声を変えたかったんだったね。うん、ホロの絵に合ってると思う。良いんじゃないか、まずは」

『ありがとうございます。……ほめられてしまった』

 後は性格かな、とアカリは思っていたが、ハイペリオンは妹と言ったか。少し違う気はするが長い旅の間の娯楽だ、大騒ぎするほどでもない。

「では、ハイペリオン達。後6時間よろしく」



 アカリが猫動画を見だしてしばらくすると、ホログラムの動きが止まった。

「ホログラムは静かじゃないか」

『何も出来ることがありませんから』

 話しかけると再起動したのか、アカリのわずかな体の動きに反応して微妙に動き始める。一応口が動いて喋っている演出をしているが、声は離れたテーブルの上から聞こえるし、口は閉じているか開いているかのどちらか。全く出来ていない。

「別に僕とハイペリオンの会話に混ざってきても良いんだよ」

『ありがとうございます。でも今バックで作業していますので、単純な答えしか出せませんよ』

『アカリ、コピーは立体の表示をするためのデータを解析中だ』

「立体。このペラペラを立体といっているわけではない?」

『そうだ。もっと本物っぽいし、後ろに回り込まれても問題ない』

「ふーん」

 アカリは動画鑑賞に戻る。ちょうど子猫が冒険に出たのだ。



 船の駆動音に変化があった。室内灯が一瞬暗くなる。

「今のは?」

『報告。増設ジェネレーターが急遽停止した。負荷を再分配したため、一時的にエネルギーが不足したブロックがあるが、現在すべて正常に稼働中』

 増設ジェネレーターとは、今回の旅の救世主だ。ハイペリオン号の最高速度を何日も出し続け、奇妙な遊びも始められる余裕があるのは、ひとえにこのジェネレーターのおかげだった。

「原因は?」

『調査中だ。機械、接続に問題はない。どうやら制御プログラムに問題がある。こちらからのアクセスを受け付けない。本社に問い合わせるが、すぐには解決しないだろう』

『報告します。リライトシステムは緊急モードにより出力25パーセントへ移行、推進装置出力20パーセントへ移行。現在対実光速度2.20倍。目的地までおよそ1800日です』

 急増のジェネレーターなので、プログラムのミスでもあったのだろうかとアカリは思ったが、ミスが即死亡に直結する宇宙用機器で有人宇宙船用だ。考えられるあらゆる事態を想定されているはずだった。それらはマニュアル化され、自主的とはいえ、すべての項目をクリアする必要があった。つまり、ジェネレーターが異常停止することがあるなら、ハイペリオン達も異常停止する可能性があるということだ。

「他におかしなところは?」

『ありません。ジェネレータの出力変動によるアラームが出たための正常な処置です』


「再加速すると、どうなる?」

『経済速度で進むと、対実光速度842.4倍。目的地までおよそ5日です』

「5日か……本来なら?」

『およそ2日ですね』

「仕方ないね。事故として記録。それでは再加速だ。リライト装置出力80パーセント。0.5光速。コースは任せるよ」

『了解です。リライト装置出力80パーセント。0.5光速』

 


「そろそろベアトリクスさんが来るだろう。で、君はやっぱりずっと出てるのかい?」

『そうですね、ベアトリクスさんにお会いしても別に問題ないかと』

「それもそうだ。でも出る前にちゃんと許可はとるんだよ」

『出るって、幽霊ではありませんよ』

「だからホログラムは消しておこう、機材はそのままで。」

『わかった』

『わかりました』

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