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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
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02-216 第四夜 アカリとファーストコンタクト(1)

 ハイペリオン号のメインAIの音声は、男声の合成音だった。本物の肉声のような音声も出せるらしいのだが、本人は少し機械的エコーがかかった設定を気に入って使用していた。その声でアニメ系美少女のコンソール用アバターがしゃべるのだから、不気味ではあったが、慣れれば面白いものであった。その彼は今も船長席のモニターの中にいる。心なしか楽しそうだ。

 昨日と違うのは、シャルルが取り付けたホログラム装置で映し出された美少女の全身像だ。一応アカリの正面を追いかけてこちらを向くようになっている。裏側はどうなっているのか気になるが、アカリからは正面しか見えない。絶対に見せない。

 集中力が散漫になってきたと判断されたのか、補助席のコンソールから声がかかった。ホログラムは補助席のスピーカーと決めたようだ。

『船長、無理に着席している必要はないのですよ。他の二人のように、自由に過ごしていればいいと思います』

「そうなんだけどねぇ」

 シャルルも、ここまでするなら声も何とかすればいいのに。アカリはシャルルを呪った。AIがどこで学習してきたか、ていねいな女の子っぽい話し方をしている、優秀なAIだ。

「ハイペリオン、ホログラム消さないか?なんか不気味だ」

『すみません船長。クルーの勤務環境改善のため、データを取っているんです。シャルルさんの次の当番まで、消さないよう言われています』

 消す気はないらしい。船長命令をこういう時に使うのも何か違う気がしたので、アカリは違う対策をとることにした。

「それなら、声を変えよう。そもそもそこに表示されているのに、音声が補助席のコンソールから出ているのもおかしい」

『それは、次のシャルルの当番時のタスクだったのだが、アカリがステップを進めたいなら別にかまわない。準備しよう』

 アカリの目の前のコンソールのハイペリオンが言う。隣で宙に浮いている少女は同じ顔でところどころ色違いだ。

「いやいや、タスクとかそんな大袈裟なもんじゃないよ。それはシャルルの楽しみにとっておいてあげて」

 兄はこういう仕掛け類が大好きだ。昔からちょっとした仕掛けを作っては、生活環境、つまりは職場環境を退屈から救ってきた、とは本人の言い訳だ。

 対してアカリはそこまでこだわらない。そこにある物を使って、ミニマムでの達成を目指す事が多い。

「予備の通信機があったろう?声はとりあえずそこから出すようにして。投影機の足下にでも置いておけばいいだろ」

『わかった。後でストアから取ってきてくれ』

「それから声は、そのアバターのデフォルトで構わないね。……君もシャルルも、やるからにはこだわるのは知ってるけど、先ずはストレスのたまらない環境にしたい。全身美少女キャラが男の声なのは僕がイヤだ。そのうち動き回るように音響装置をいじるんだろ?その時にとことんやればいいよ」

『不満と言うほどでは無かったのだが。シャルルの工程とズレてしまったので戸惑ってはいた』

「そうなのか。それで、このホログラムに対応しているのはハイペリオン、君本人か?」

『臨時案件のコピーAIを期限無設定で作製してある。最終的な統合先は同じだが別人だといえる』

「オーケイ。じゃあストアから通信機持ってくるから、後の準備よろしく。ついでに食堂でドリンクも取ってくる」

 あっという間に指示を終えると、操縦室から出て行ってしまう。

『自分の求める事、解決すべき事に対しての処理能力は高い、海賊たちとの戦果もそういうことなのだろうな。それがベストの結果かどうかは状況次第か』

 しかしハイペリオンはアカリには忠実だ。どんな状況になろうとも、自分が破壊される最後の瞬間でもそれは変わらない。

 

「ちょっと強引だったかな?」

 ストアへの通路を歩きながら、アカリは呟いた。

 アカリもたまには反省する。否、反省し修正できることが彼の美徳であった。でも今回の事については強引に押し通す必要があった。本当に不気味だったのだから。

「ホログラムはうっすら光ってるし、じっとこっちを見てるし。瞬きしていないからかな?声は遠くから聞こえるし、ハイペリオンの声だし」

 信頼するAIに宇宙の真ん中で監禁されてしまう。そんな宇宙的恐怖の定番が頭をよぎる。あれだって大抵はAIが不気味になってくるのだ。


 階段を下りてストアのある一番下のデッキに向かう。通路がやけに薄暗く感じるのは気のせいだろうか。

「ハイペリオン、通路の照明が暗いよ」

『……済まない、自動モードがオフになっていた。すぐに戻す』

 少し心細く感じるが、ホログラムの不気味さに感情が引っ張られているのだろう。アカリは明るくなった通路の先のストアへ進む。近づくと、物音いや、声が聞こえた。

「…………ダヨ。…………ダヨ」

 女の子が、何か呟いているようだ。

 この時代、オカルト、心霊、超常現象の類は「あえて否定されていない」。人が宇宙に飛び出してから地球系科学で解明されない事象は数え切れないほど観測されているのだ。宇宙人もいたし。宇宙サルガッソーで故人の声を聞いたという話もよく聞く。元軍艦のこの船にだけは何か霊的な物が憑いていないと思うのは楽観的にすぎるだろう。

「コ……ダヨ。……ダヨ。コレヲ……ッテヨ。コ……」

 声はあるパターンを繰り返しているようだ。

 生前に残してきた未練だけが残って同じ事を繰り返すしか出来なくなった悪霊か、……船のAIの悪戯か。

 犯人は分かった。アカリは警戒を解いてストアへ入った。ほんの少し本気で怖かったのは後で復讐しても良いはずだ。

 通信機の保管棚から声は聞こえる。

『コレダヨ。コレダヨ。コレヲツカッテヨ。コレダヨ。コレダヨ……』

 菱形のバッジの形をした通信機から女の子の声が聞こえている。これがホログラムの声なのだろう。アカリは通信機に話しかけた。

「もういいよ、見つけたから」

『すぐわかりましたか?船長』

「初めまして、かな?この声では。最悪のファーストコンタクトだよ」

『えっ?どうしてですか』

 別にアカリを怖がらせようとしたわけではなく、ただの親切心だったようだ。

「……後で持って行くから。瞬きできるようになっておいてよ」

『まばたき……?』

 それには答えずに、アカリはポケットに通信機をつっこむと、食堂に行くために歩き出した。

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