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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
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02-213 第三夜 アカリと廃棄惑星

 照度を極力落とした宇宙船の操縦室。

 正面のメインモニターはハイペリオン号の船外の景色を映しだしている。星の少ないこの宙域ではモニターいっぱいに星々が輝いていても、動いて見える星はほとんどない。時折船のエネルギーシールドに星間物質が衝突し、美しく輝く以外あまり派手な現象は起きない。

 生命維持装置や電子機器類のファンの音もわずかに聞こえてくるが、慣れてしまえば無音のようなものだ。


 この時間帯の当直をしている船長のアカリは、ぼんやりとメインモニターを眺めていた。

 五人が定員の操縦室は三段になっていて、前二段は二列で専門席、一番上は船長席だ。そのシートに深く座ってアカリは広いメインモニターをただ見ていた。景色が流れて行っているらしいのを、眺めているしかない、退屈な恒星間航路である。


 星系随一の快速艇である宇宙船ハイペリオン号は、通常宇宙空間を単独で航行していた。この三百年間で調査され尽くし、定期的に宇宙軍のパトロールが行われているこの航路は基本的に安全だ。岩石宙域も、宇宙サルガッソーも場所が判っていれば危険なことはない。しかしより早く安全な超空間バイパス路が整備された今では通常空間を行く航路はめったに使われなくなってしまった。通常空間航路は、ブースト有りのハイペリオン号をもってしてもプルミエルまでは五日かかる。超空間バイパス路では約三日だ。荷主はこの辺りの事情を理解しているのだろうか、ハイペリオン号は超空間バイパス路を使うことができないのに。

 アカリは疑問に思うが直ぐにそれを引っ込める。あの人が、そこまで気にしているはずがないと。変わった人なのだ。


 リクライニングモードにしている座席のカップホルダーに手を伸ばしかけ、コーヒーをすでに飲み干したことを思い出した。

「食堂に行ってくるよ」

『了解。自動操縦モードをレベル6へ切り替える』

 このレベル6完全自動操縦モードであれば、本来は人手は不要なのだが、様々な法の解釈の結果、なるべく監視する人員を付けた方が良いのではないかという世論に納まっていた。とにかく長時間の使用はまだ公には認められていない。どこからが長時間かは明確にはなっていないが、食事をとるための長くて一時間が妥当なところだろう。

 正しくは、監視者は必要ではなく監視できるようにすることなのだが、高等な判断が可能な人工知能があまり普及していないため、監視=人間という図式がまかり通っているにすぎない。


 今の時点で八時間交替の残り六時間、交替が起きてくるまで五時間。つまり一人業務に切り替わってからまだ一時間しか経っていないのだが、アカリはひどく退屈していた。

 船内は目的地到着まで、出発地であるトレジエムの時間が適用される。トレジエムの一日は銀河協定時間でおよそ二〇時間。三交替では毎日少しずつずれていくが、特に問題はない。恒星から遠く離れているのだから、便宜上の数え方というだけだ。

 

 食堂から戻り、操縦室の扉を開けると即座に室内の明かりが通路と同じ光量になる。アカリが船長席に座るとゆっくり暗くなっていくのだ。

『船長の着席を確認。自動操縦レベルを5に設定する』

 もう6のままで良いじゃないか、と思うのだがこれも仕事だ、再びモニターを眺める作業に戻った。

 しばらくすると、突然エネルギーシールドが赤く輝いた。室内の計器の陰がくっきりと見えるほどの強い光だった。

「今のは、問題ないか」

 進路上の二十五光時先まで、障害物がないか詳細スキャンしているはずなのに、あれだけのエネルギーを持つ障害物を避けきれなかったという事実に、宇宙船の不調を疑った。同時にゆるんでいた気持ちが張り詰める。

『問題ない。船長が退屈のようだったので、大きめの岩塊をシールドに当ててみた。お気に召しましたか?』

 アカリの気分はAIにもばれていて気を使われている。

「君の厚意はありがたいが、僕に気を使う必要はないよ。安全第一でお願いする」

 そのあとも、気の利くAIは「宇宙空間の音」や「星虹エフェクト」など、ちょっとした演出でアカリを楽しませようとしてくれた。おせっかいとは思いつつも、気が紛れたのは確かだった。


『アカリ、航路上に自由浮遊惑星を発見した。おそらく未登録だ』

「面倒だな。ハイペリオン、近付いたら一旦通常速度だ、簡易スキャンをかけて報告するよ」

 自由浮遊惑星とは通常恒星の周囲を回っている惑星が、何らかの理由で弾き出され宇宙空間を彷徨うようになったものだ。銀河系だけでも何億個も存在すると言われており、大きさや固有速度は様々。

 厄介なのは自分でエネルギーをほとんど出さないため、発見が難しい所だ。一度見つければ軌道計算が出来る。それを定期的に追跡している。

 惑星サイズの質量を持つ猛スピードの物体が、いきなり自分の星の目の前に現れたら、どうしようもない。逃げ出す間もなく壊滅する。そんな悲劇が起きないよう、宇宙を行く船は自由浮遊惑星を発見次第、最低でも位置を報告する義務があった。ハイペリオン号のように惑星スキャンが出来る設備がある場合は、簡易的な情報も報告するのがよい。

『これは珍しいな』

「何が」

 暗黒の宇宙空間で自ら発光しないものを地球人類は見ることはできない。ハイペリオンには見えているであろうその惑星の姿を操縦室のメインモニターは映し出せていなかった。

『大きさは地球クラス。惑星表面は温かく、まだ海がある』

「最近弾き出されたのかな」

『かもな。放射系元素がやや多めだから自分で暖まっているのかもしれない』

 ハイペリオン号は惑星を数度周回し、大まかなデータを得ると、宇宙軍に送信した。

『では戻ろう。ロスタイムはゼロにすればいいんだな』

「ベアトリクスさんにバレないように頼む」

 

『アカリ、先ほどの惑星だが』

 特に大きな寄り道ではなかったので、予定コースにはすぐに戻ることができた。アカリは船長席にコーヒーを持ってきて一服している。

『発展した都市がいくつもあった。どれも無人』

「そうか。みんな脱出できていれば良いんだけどな。で、住み着くのは先住民のいない星にしてくれるとなお良いね」

 宇宙空間に進出可能なだけの文明ならばいくつも発見されているが、銀河系内を自由に移動できる手段を持つに至った文明は未だ3つしか発見されていない。

 アカリが思うのは一〇年前の出来事だ。低レベルの技術で銀河宇宙域に出た人々の将来は決して明るくはない。

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