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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
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02-212 第二夜 シャルルのドキドキ作戦

 自分の時間が来て、シャルルが操縦室に行くとベアトリクスが挨拶もそこそこに残念そうな視線を向けてくるのが気になった。どうせ暇を持て余して見たビデオの影響なのだろうが、彼女も普通の感性を持つ人ではない。自分達の肉付きを残念がっているのだ。何度か仕事を一緒にしている間にもこういうことは幾度もあったし、性癖以外はまともな彼女の相棒が教えてくれたりもしたのだ。

「昨日は途中からMANGA読んでたからさ、今日は真面目にしなきゃと頑張ったんだけどね」

 音楽のチョイスを間違えたとか、宇宙の闇に魅入られたとか、ベアトリクスが色々言うのも珍しい。

「何をしてても良いってハイペリオンが言ってるんだから、別にビデオ視てても良いじゃないか。……その視線はやめて欲しいけど」

「やっぱり人数だよね。一人当たりがもうちょっと少なけりゃね……」

「打ち合わせ中も、旅行サイトしか見てなかったもんな。でも真面目に打ち合わせてても、よくてあと一人くらいしか増えなかったと思うよ」

「でも私だったらもう少し集められたのに、と思うと、後悔がね」

「そもそもこの船の規模で受ける仕事じゃないんだし、動き出したからには戻れない。もっとお気楽にいこうよ」

 タンパク質多めの食事が終わり、部屋に戻るベアトリクスは、「程度な運動!」と去り際に言っていた。宇宙船乗りは、続く低重力で体力が落ちるのを防ぐため、ある程度の負荷運動を毎日しなければならない。そう言う意味では適度な運動をしているのだが、彼女が目指すのはそう言うレベルではないだろう。


『シャルル、戻ってくるならストアのレプリケーターに寄ってくれ。台座ができた』

「思ったより早かったな」

『まだトレジエムに近いからか、データのダウンロードが早く終わった』

 ハイペリオン号が進んでいる周辺にはまだ幾つか、人類が居住している星系があったため、辛うじて通信網が整備されていた。この先ハイペリオン号の速度で一日行くと殆ど人のいない宙域になる。その辺になると旧式の超光速通信無人基地が、0.1光年毎に一基浮かんでいる程度だ。現代の通信速度と密度に慣れた人々にとっては許し難い環境になる。

 ストアは2つ下の第一デッキにあった。

 元は色々な予備部品を置いておく場所であったが、宇宙船ともなると重要部品の種類も大きさも海洋船舶よりも桁違いに多く巨大だ。そのため部品の状態では置いておくことができず、すべて設計図の状態で電子化、ストアは大きめの工作室に大きめのレプリケーターがあるだけというのが一般的になっていた。フライトデッキを持つ船ならば、大型部品を格納庫まで運ぶアームと気密ハッチを持つこともある。

 複製用の材料は水素の形で超空間に大量に蓄えられてある。超空間の応用が進む前は、素材として純鉄の大きな塊がストアに置かれていたらしい。不要なものを転換炉で再生してしまえば素材は最小限で済むが、そうもいかない時もあるのだ。

「これかな」

 シャルルはストアのレプリケーター台に置かれていた黒い塊に気づいた。手に持つととても軽い。

『高強度の樹脂で作ってみた。下手な金属より硬いぞ』


 ストアから持ってきた台座に機器をはめ込んでいく。シビアな位置決めがあるため、ピンは少し固目だ。

「よし、出来たぞ」

『では接続してくれ。各機器の間の通信時間も調整する必要があるのだ。完全に同期させねばならない』

「なかなか面倒だな。これ起動できる奴いるのかな」

『特に難しくは無いがな、台座だけだ……よし同期完了』

 先程にはなかった、完成した感が機械から出ているように見える。正しく調整されて初めて、機械は機械として動くことができるのだ。

「なんか上手く行きそうな気配がする……仕切り直しと行こう」

『了解した』

 船長席の横の空中に立方体の巨大なワイヤフレームが現れた。

「おお!良いんじゃないか」

『点の数を増やしていこうか』

 次々と点の数を増やしていき、球体に見えるほどになった。

「少し荒いな。向こうの色が透けて見える」

『点の大きさは変えられないようだ。少し明るくしてみよう』

「まぶしいな。でも点が大きくなったようには見える」

 

『人間サイズの直方体にしてみよう』

 フレームは滑らかに形を変えて高さ二メートル弱、五〇センチメートル角のブロックになった。

「肝心の顔に当たる部分が荒いかな」

『光点の数は変えられないからな、中心から離れると荒さが目立つな』

「背を低くしようか。……ああ、そのくらい。丁度良いんじゃないか」

 身長は150センチメートル程度になった。


 薄暗い操縦室に浮遊する輝く直方体。

「神秘的ではある」

『これが神秘的ということか』

「まあ、その一面?」

 シャルルは部屋の一番下の段、操縦士席まで歩いていく。普段座るとなると操縦士つまりアカリだろうが、彼は船長だし、人が操縦する場面でもない。

「ふむふむ」

『何をしているんだ』

 続いて一段上り、機関員席。シャルルが座るとしたらここだ。この旅でも特に用事がなければここに座ろうと思っている。コンソールに向かい、タッチキーを操作して仕事をしているつもりになってみると。

 あ、これ怖いわ。何かいるような気がするし、光ってるのがモニターに映り込んで、落ち着かないし。

 コレは……人型にしたらもっと怖いんじゃないか?当直者の方をずっと見つめるプログラムにしたら……ホラーだ。

『私の解析によると。この状況は人間の精神活動としてはかなり怖いのではないか?』

 ハイペリオンは人間の感情をある程度理解し、感じることが出来る。退屈を感じず黙々と作業を続けるべき機械なのだが、溜め込んだ膨大な経験から感情を学んでしまった。これは系列のAI全てに共通する弱点であり利点であった。

「しかし、後には引けない……!」

 そう、やるしかない。少女の予言によればこのままでは自分たちは死んでしまうのだから。


「再開だ、ハイペリオン」

『君の中の問題は解決したのか』

「ん?ああ、大したことではなかったこともないがなかったよ。ただ単に怖かっただけ」

 シャルルはあえて気にしないことにした。まずは楽しもう。

 

「怖いのは置いて於いて、話せる友達美少女を作ろう。名付けて、ドキドキ美少女クルー大作戦!」

 拍手と歓声。コピーはなかなかノリが良いようだ。

「ところでハイペリオン、ドキドキ美少女の3Dモデルの入手に目途は立ったのか?」

『何のことだ?』

「なんだ探していなかったのか!」

『先ずは性能を試してみると言ったろう。3Dデータは次のステップだ』

「……確かにそう言っていた。では改めて。ハイペリオン、ステップ1の総評は?」

 これにはコピーが答えるようだ。

『今の計算量、つまり割と単純な図形を1軸回転させる程度であれば、二〇〇万の光点を六〇ヘルツで表示させる計算量、最大値ですね、はシステムの並列処理でも特別に負荷が掛かるようなものではありません。計測可能値未満です。投影装置の描画コマンドを併用するならば、負荷はほとんどゼロですね』

「なる程、よくわからん」

『しかしです、人体は各点が単純ではないので3Dデータがあって表示ができたとしても、動きを表現することはかなり難しいでしょう』

「つまり、激しく動くようになればかなりの負荷になるということだな。ベアトリクスさんの好きなアニメーションみたいに一秒間に何百ものパンチを繰り出すような動きには対応しかねる、と」

『そうだな。動かす点を決めておいて、その間はコマンドで塗りつぶす。いわゆるポリゴン処理を行う必要がある。それでもかなりの負荷だが。表示の荒さは相談しながらやっていこう』

「心得た」

『この試みには、計算機の負荷率五パーセントまでを許可しようと考えている』

「少ないな」

『そんなことはないぞ、この船の能力の5パーセントというと……』

 シャルルはしばらくこの宇宙船の計算機がいかに素晴らしいかをAI二人がかりで説明された。


「じゃあ、残り時間はステップ2の準備だ。一緒にデータを探そう。俺は一度装置を片づけてくるから先に初めておいてくれ」

『了解。アカリ達にはまだ言わないのだな』

「形にもなっていないしな、まだいいだろう」

 シャルルはホロ装置を取り外し、丁寧に箱詰めした。

「部屋に寄るついでに、コーヒーブレイクしてくる」

『ああ』

 荷物を抱えて。シャルルは操縦室を出て行った。

『当直者の離席を確認。自動操縦をレベル6に移行』

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