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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
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02-210 第二夜 アカリとSOS(2)

 海賊たちがこちらの出方をうかがう一瞬にスラスター噴射で回頭し、遭難船と距離をとる。

「パトロール艦隊へ。こちら宇宙船ハイペリオン号。救難信号を確認に向かったところ、隠れていた小型艇多数に警告なしの攻撃を受けた。正当防衛として反撃を行う」

『君が腕の良いパイロットだというのはよく分かっているが、さすがに20機の相手は無茶ではないか?』

 正当防衛とは言ったが防衛に徹するつもりはアカリにはない。海賊行為はいつの時代も極刑に値する。

 しかしハイペリオン号は元は軍艦だとはいえ、現在は貨物船だ。軍籍だった頃の兵器は降ろされ、自衛のためのレーザー砲が二門搭載されているが出力などは知れたものだ。しかも無理矢理増設した貨物室のせいで、非常に重量バランスが悪く仕上がっている。

 海賊は許容できないが、相討ちになるわけにもいかない。ハイペリオンはそれを心配しているのだ。宇宙軍のパトロール艦隊が到着するまで一時間はかからないだろうが、それまでこの数を捌ききれるのだろうか。

「ハイペリオン、操縦と火器管制もらうよ。船室の慣性中和装置マックスだ」

 ハイペリオンの心配も余所に、アカリはやる気だった。宇宙海賊は幼少の頃よりの敵。彼の家でもある宇宙貨物船もよく襲われたのだ。そのほとんどをアカリが返り討ちにしていたのだが、被害が出ることもあった。

「海賊は縛り首だ!」

 武装の脆弱さなど分かりきったこと。戦艦を撃沈しようというのではないのだ、理解している者が最大限の効果を狙い、それが実行されれば良い。


 もっとも近い集団に数発打ち込むと、反撃を受けると思っていなかったのか、フォーメーションを崩し散り散りに逃げ出す海賊の戦闘機。

 その中でこちらに尾部を向けるほど急転回した一機の推進部に二発撃ち込む。推進部だけを破壊された敵はそのままの速度で流されていくしかない。

「パトロール艦隊に回収してもらえればいいね」

 アカリはこの旅の間の襲撃も視野に入れていない事はなかったが、積極的に人を殺めようとは思っていなかった。かといって手加減はしないが。

 基本方針は、後ろを向かせて推進部を潰す。

 ハイペリオン号に搭載された威嚇用のレーザーでは1発当てたところで破壊はできない。しかしアカリの得意とする精密射撃で、1発目の余熱が残る間にもう1発当ててやると、戦闘機の装甲程度ならば破壊することができる。

 動力源を破壊された戦闘機達の生命維持装置は動いていないだろう。宇宙服の活動限界が来るまでに救出されなければアウトだ。

「あ、コクピットに当てちゃった」

 突っ込んでくるものには鼻先に撃ち込み、強制的に進路を変えさせる。たまには読み違えて、急所に当たってしまうこともある。

『シールドが張られてあったようだな』

 パイロットは気絶でもしてしまったのか、回避もせずにハイペリオン号に突っ込んでくる。

「下手クソこそ死なずに済むなら、ありがたい装備だよ」

 アカリは海賊戦闘機よりもはるかに大きなハイペリオン号の船体で、衝突してくる戦闘機を軽快に避けて回り込むと、推進部を破壊した。

 瞬く間に2機を戦闘不能にされ、戸惑う海賊たちは攻撃の手を緩めてしまう。話にならない。

「素人にあんないい機体を載せるなんてもったいない。ハイペリオン、1機拿捕していい?艦載機にしようよ」

『やめてくれ、2隻ですでにいっぱいだ』

 無駄口をたたきながらも、単純な軌道になっていしまっている海賊たちを始末していく。


「これで半分か。普通なら引き始めるが?」

 戦力の半分がほんの二〇分もかからないうちに駆逐され、全滅もあり得る事態。今後の事業継続も考えるなら、とっくに引き上げを開始している筈なのだ。

「バカなのか?まだ何か余裕があるのか……」

 推進剤切れで引き返す戦闘機の背後を狙って楽しようと考えていたのだが、海賊たちは退かない。

 海賊たちにとっては、このまま引き返しても上位の者に始末されると解っているので、一か八か目標の撃墜を狙っているのだが、敵わない相手に立ち向かうような根性はもとより持っていない。結果としてアカリに事務的に撃墜されていくのみ。

 宇宙軍のパトロール艦隊が到達するまで、あと三〇分はかからないだろう。宙域に展開する戦闘可能な敵機は5機を下回った。

『空間湾曲レーダーに本隊と推測される反応があった』

「数は?」

『三隻だ。指令船が一、戦闘艇母船が二。モニターに映そう』

 百人くらい収容できそうな大きな船と、桟橋にエンジンが付いただけの簡易な戦闘艇母船。

 背景の星雲に紛れてエネルギー反応では発見できなかったのだ。

「大きいな。どこから流れて海賊船になったんだ、あんなの」

『かなり手を入れてあるが、移民時代の小型輸送船だろう』

「あれで小型かあ、スケール感が違うな」

『テクノロジーは当然古いが、頑丈さは今の船とは比較にならないぞ。銀河を渡った船だからな』

 三〇〇年前地球を旅立ち、二十年もかけて銀河の裏側までやってきた宇宙船。途中のトラブルにも対応できるよう、装甲は厚くジェネレータは強力で多系統化されている。輸送船とはいえ、武装もかなり強力だ。

 正しく整備されていれば、パトロール艦隊一つと互角に戦うこともできるだろう。

 対してハイペリオン号は現代の貨物船。自慢のジェネレータも同じ大きさの船に比べれば強力無比、と言うだけだ。たとえアカリの精密な射撃で同じ箇所にレーザーを当て続けたとしても、焦げ跡が付くだけだろう。

「あと三〇分で、全て殺さず無力化するのは無理か?」

 母艦が撃ってこないということは、撃てないということだ。ろくな整備もされていないのだろう。


 しばらくすると、宇宙軍のパトロール艦隊が到着した。

 旗艦と数回交信して、状況を説明。戦闘記録を提出し、漂っている海賊の戦闘艇の回収を依頼する。

「済まない、三機はジェネレータの誘爆でパイロットを死亡させた」

 モニター越しで艦隊長に説明する。

「構いません。海賊行為に対しては正当防衛の許容範囲も拡大されます。全滅させたところで先輩が罪に問われることはありませんよ」

「助かるよ。僕らは仕事の途中でさ、なるべく早く元の航路に戻りたいんだ」

「分かりました、あと少しで手続きも終わります」

 パトロール艦隊の艦隊長はまたもやトレジエム宇宙軍の後輩だった。

 科こそ違ったが、小さい部隊であったし、大きな損耗もあったので、アカリが除隊する頃は皆顔見知りだった。

「先輩は復隊しないのですか?まだまだエースを張れるじゃないですか、この戦果」

「もう十分やったからね。今の仕事が身の丈に合っている」


 まもなく解放となった。

 モニターには再び艦隊長が映る。

「長々と拘束してしまいすいませんでした。手続きはすべて完了しました」

「うん。レオンも、手続き省略してくれてありがとう」

 そこはニヤリと笑うだけで明確にはしてこない。本来はもう少し煩雑なのだ。少なくとも自分がやっていた頃はそうだった。

「ところで、連中の船はどうなった?」

「拿捕しましたよ。下っ端のくせに装備がいいので、これから背後を洗う予定です。……先輩は何故あの船を沈めなかったのですか?」

「いやいや、自衛用のこのレーザーじゃ難しいよね?君たちがすぐに来るのも分かってたし、無理にやる必要もないだろう」

「……そうですか、出来ないと言わないところが恐ろしいですが、相変わらずですね。何か分かったら連絡しますよ。ではご協力を感謝します。残りの行程もお気を付けて。クリア・エーテル!」

「ありがとう」

 モニターからの敬礼に返礼し、ハイペリオン号は現場を後にした。


 

「ハイペリオン、遅れを取り戻そうか。あと二時間でベアトリクスさんが起きてくる。それまでに予定位置まで進めるかい?」

『ロスタイムはおよそ三時間。まあ問題ないだろう』

 結局戦闘よりも手続きの時間が長くかかった。

 もともと無茶な旅なので少しくらいのロスタイムは問題ないと思っているのだが、ベアトリクスがこのロスタイムの理由を知ると、面倒なことになりそうだと気が付いたのだ。

「ではハイペリオン、目的地は計画航路上の予定通過点。速度は任せる。発進!」



「おはよう、アカリ君。どうしたの?なんか凄く疲れているみたいだけど」

 時間通りにベアトリクスは操縦室に現れた。

「おはよう……。久し振りの星間航路で、何もしていないのになんか疲れました」

「まだ二日目だよ。疲れてどうするのさ……ってまあ疲れるよね。ご飯作ってくるから、交替のあと食べて行ってね」

「ありがとう。あと少し頑張るよ」

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