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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
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29/41

02-208 第一夜 シャルルのドキドキ大作戦

 緊急事態だった。

 まだ一日目だというのに、ベアトリクスはやることが無くなってしまったようだ。アカリはまだ本格的な当番には当たっていないがそちらも時間の問題だろう。

 この後は二人して「退屈」を連呼するだけだろう。特に直前の当番であるベアトリクスは間違いなく言いそうだ。朝会う度に「退屈」連呼されるのは想像するだけで嫌になる。シャルルは計画の開始を早めることにした。

 

 あの不毛な打ち合わせの後、シャルルは一人斡旋所へ出向いていた。

 アカリの出した依頼はベアトリクスだけが受けたことになっていて、要求の数には足りていないが募集は終了になっていた。

「どうしようか。勝手に募集出すわけにはいかないしな」

 クローズになっていなければ知り合いを捕まえて無理矢理エントリーさせることもできたのだが。


「ねえ、アカリさんの仕事。結局メンバーはどうなったの?」

 シャルルが美味しくないコーヒーを飲んでいると声をかけてくる女性がいた。

「君も船乗りか?」

 おかしな事を聞いてしまったとシャルルは反省した。

 あまり見ない顔だった。しかしアカリと違い入り浸っているわけではないので、全ての船乗りを覚えてはいないのだ。

「船乗りではないんだけどね。代わりに動いてくれる人を探してるってトコではアカリさんと同じ立場かな?……何ジロジロ見てるのよ」

「ああ、ごめん」

 女性がやたらと小さく幼く見えたので、船乗りとしてやっていけるか疑問だったのだが、使う側専門なら納得だ。頭脳とカリスマがあれば人を率いていくのに問題はない。

「アカリの仕事のメンバーだったか?残念ながら俺とベアトリクスさんの二人だけだ。船のAIフル稼働でもかなり困難でね。追加を募集できないかと来てみたわけだけど」

 締め切られて途方に暮れていたという事を説明した。

「どのみちこのAP10,000てトコで誰もエントリーできなかったのよ。アドベンチャーポイント」

「ああ、アドベンチャーか」

 どうしてだろう、ベアトリクスの言うことよりも初めて会うこの少女の言い分の方が正しいように感じる。発案者はベアトリクスなので、その時々のノリで変わるのだろうけど。

「私だったら」

 少女は当たり前な内容を説明するかのように話し出した。

「AIを使うわ。ハイペリオン君って優秀なんでしょ?」

「ああ、あいつには頑張ってもらわないと」

「違うわよ、話し相手」

「ハイペリオンは話し相手としてはあまりオススメできないぞ。冗談のセンスもズレてるし」

「違う違う。1人、仮想のクルーを作るの。ハイペリオン君がというか、船の計算力は余力あるでしょ?あのね30光年ってすごい距離なの。計算上はどうにかなるかもしれないけど、たった3人でなんて不可能。心が壊れてみんな死ぬわ」

「それは、経験談?」

「……知識としては色々」

「でもなぁ、モニター相手にしても。却ってヤバくなりそうだけど?」

「だったら何か考えなさいよ」

「ここまできて突き放すのかよ……アンドロイドボディとか、今からじゃ手には入らないなあ。難しいよな」

「そう?やってみたら案外出来ちゃうかもよ?」

 年相応の笑顔で微笑むと、後ろを向いて去っていってしまう。


「というようなことがあってさ。なんか納得してしまったワケ」

『私のジョークはズレているのか?』

「あ、そこ気になったか。だな、少なくとも人寄りではない」

 ハイペリオンは黙り込んだ。評価を気にするAIなんて面倒臭いことこの上ない!

「でもほら、アカリは気に入ってるみたいだろ」

『ふむ。で私になにをさせたい?』

 単純だ。普段クールぶって兄貴ぶっているこのAIは船長であるアカリのことが大好きなのだ、と自分の事にも言及しているなんてシャルルは気付いてもいない。

「言ったろ?もう一人クルーを作るって。あれで始めよう、探査サポート用のコピー」

 理不尽に長い旅の期間、ハイペリオンはクルーの要望にはなるべく応えようと思っている。シャルル辺りがこういう事を言い出すのも当然想定のうちだった。コピーを動かす程度のリソースが持って行かれても船の制御には全く問題はない。何故ならば、ハイペリオンを含むシステムは後付けだからだ。電力を生み出すジェネレーターは流石に共用だが、武装を使用しないハイペリオン号は現在かなりの余力を持っていることになる。

『当然だが、本船には探査用の装備は積まれていない。なので物理的に独立した私の子機というサポートAIは生成することは出来ない。ただ同様のものを船のシステムに作ることは可能だ。シャルルは別にアンドロイド体にはこだわらないのだろう?話が下手な私とは思考が異なるAIでいろいろ試したい、という認識で良いならば、どうとでも出来る』

「根に持ってるな。話が下手というよりは感性が独特というだけだ。それに使うのは船内で構わないし、ボディにはアテがある」

『わかった。準備に少し時間がかかる。見回りでもしてきてくれ』

「だったら、与圧貨物室の荷物を取りに行くから、扉を開けておいてくれないか」

『了解だ』


 

 貨物室に向かいながら、誰もいない通路に声をかける。

「なぁ、30光年ってそんなに遠いかな。俺たちのいつもの感覚でいうと三日だ。近くはないが、命に関わるような時間じゃない」

 答えは左腕のブレスレットから返ってきた。細い金色の腕輪にしか見えないが、実は通信機だ。アカリとお揃いなのだ。

『あの少女の話か』

「ああ。知識で知っていると言ってたけど、なんか実感がこもっててな。ちなみに、今の俺達の状態での成功例は?」

『データベース上には無い。何故なら三十光年の距離を行く船は我々よりももっと大きく、乗組員も多いからな。我々の規模で実行するのは理論上不可能ではないが、実際はかなりクレイジーだとは考えている』

「そんなもんか。……だったら止めろよ」

『アカリが行きたいのなら、実現させる。実のところシャルル、君と同じことを考えてはいたんだ』

 流石は星系随一のデータベース、三〇〇年分のAI達の経験値にアクセスできるAIだ。その洗練された思考アルゴリズムの性能も相まって、柔軟な考えができるようだ。

『君たちが精神的にもう少し追い詰められてから提案しようとしていたのだ。君から提案があるのなら即実行しても良い。それに君の案のほうが「楽しそう」なのだろう?』

 性能が良い反面、クレイジーでもある。

 ともあれ、それならば話は早い。

 

 シャルルはデッキを一つ降りた、与圧貨物室に着いた。ようはなんでも詰め込める物置だ。

「来たときも思ったが、片付けろよ。こんなの要るのかよ」

『それは船長に言ってくれ。それとエレナも何か置いているはずだ、気を付けてくれ』

 それは重要な情報だ。貨物室の一番手前に押し込んでいた一抱えある箱を慎重に引っ張り出した。

 

 シャルルは操縦室に戻ってきた。

「さて、始めるか……ハイペリオン」

 コンソールのモニターには何時ものように『アニメ美少女系』のアバターが映し出されている。元のAIから引き継いだものを好んで使用しているのだが、音声はエコーがかかった男性だ。本人はこれをギャップ萌えと称していたが、違うし。ここのAIはどこまで自由なのだろうか。

 そして今はもう一人、分割画面に色違いのアバターが表示されている。

「お、出来てたんだ」

『はじめまして、ミスターシャルル。詳細設定を行いますか?この設定は後からでも変更できます』

「後でいいや。名前は?なんと呼べばいい?」

『申し訳ございません。登録名はハイペリオンから変更できません』

『すまない。今のコピーの権限では名前の登録が出来ない。愛称を付けてやってくれ』

「じゃあそれも後だな。しばらくはコピーと呼ぶよ」

『わかりました』

「では始めよう。これ、なんだと思う?」

 シャルルが持って来た箱には小型のホログラム投影機が入っていた。

「つまり、これでAIクルーの外側を作ってしまおう!と思う」

『やはりな。恐らく、人型というのが大事なのだろう。話し相手だけならば私がいればそれで済むのだから。話が合うかは別にして』

「うるさいな。コンソールのおっさん声美少女と話すより、美少女声の美少女の人型のほうが絶対良いって。俺ならそう思う」

 つまり、シャルルも暇なのだなと2人のAIは理解した。


「流通しているコンパクトなもので、一番良いやつを選んだんだ」

 船長席の後ろにあるちょっとしたスペースにホログラム装置の台座を置く。

「まずは有線で行こうか。船長席横の補助席に繋ぐぞ」

 この時代にもいわゆるコンピューターウィルスという物は流行っていて、シャルルがやったように、信頼できるか分からない機械を直接繋ぐ行為は絶対にしてはならない。

「どうだい、使い方は理解したか」

『単純な三次元座標と色彩データを機器に送るだけですね。何も難しくは有りませんが』

「問題でも?」

『表示するデータはどこにあるのですか』

 人型を作ろうとするなら当然それなりの何かが要るだろう。

「ああそれね。セットで売ってたのが全部イラスト調でさ、嫌だったから。やっぱり、リアルな女の子が良いじゃない?」

『君の趣味はどうでも良いが、データがないと始まらないぞ』

「そこを何とか」

『……先ずはいろいろ試してみましょう。表示にかかる負荷がどのくらいか知っておきたいですし』

 特に成功する必要もない遊びなので、ハイペリオンは煩く言わないでおいた。片やコピーは自分の表示のことなので真面目に取り組む姿勢を見せる。シャルルが性格を設定しなくてもある程度は決まりそうだった。

『立方体でも描画してみます』

 空間上にエネルギービームを数本交差させた点に光線を当て、光点を浮かび上がらせる仕組みだ。それぞれのビーム発生装置の位置と同期が重要になる。どれかがズレていれば、平面のホログラムですら描き出せないだろう。

「何も出ないぞ?」

 発光器がうっすらと光っているため、装置が動いていることは分かるが、立方体はどこにも出てこない。

『取扱説明書を解析した。……こういう事は普通人間がやるものだ』

 地球人類はたった二つに分類できる。取説を読む人と読まない人だ。と古代の賢者は言った。取説すら理解する優秀なAIがいる環境下で育ったシャルルは、実は読む人だ。

「ごめんごめん、ちょっと焦ってた。で?」

『機械の能力は、1スキャンで二〇〇万の点が描画可能だそうだ。後細かいことは色々あるが、最も重要なのがそれぞれの機械の位置で、0.01ミリ単位で位置合わせが必要らしい』

「しっかりしたフレームでも作らなきゃな……」

『実は設計図は無償でダウンロードできる。レプリケーターで作れば、位置合わせの精度は原子レベルで保証される』

 レプリケーターのレシピは原子の配列なのだから、むしろ適当なものは作ることができない。

『機器側の筐体も同じ程度の精度らしい。組み立ててしまえば、それでうまく動くだろう』

「それでは早速作ろうか!」

『それも今から設計図をダウンロードする。このような環境だから、すぐには終わらないだろう』

「うまく行かないな……」

『どうした。さっきから何故そんなに急いでいる?君らしくないぞ』

 シャルルの性格は冷静沈着にはほど遠いが、癖のあるきょうだい達の中ではかなり慎重派だ。

「……確かにおかしいな。俺もこの旅をどこか不安に思って焦っているのか?いや、不安は最初からあったし」

『まあ良い。台座のダウンロードにも製作にも時間がかかる。今日の君の番では終わらないぞ』

「ちょっと頭を冷やしてくるよ」

『ああ、ゆっくりしてくると良い』


 気分転換の場所といえば食堂だ。

 ベアトリクスが作り置きしてくれていた食事と業務時間用ワインをレプリケーターで出して長めの休憩をとることにした。

 残りの時間はホロのデータを探してみよう。そしてあの二人にはもう少し内緒にしておこう。

 

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