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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
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02-207 第一夜 ベアトリクスの考察

 アカリの時間が終わり、ちゃんと食べてから戻るように言いつけて、ベアトリクスは船長席に座った。

「改めてよろしく、ハイペリオン」

『まあ何もないとは思うが、よろしく』

「と言うことは、報告事項も特にないわけね」

『ああ。ルート逸脱度は1パーセント以内で問題ない。トレジエムの恒星圏を先ほど出たところだ。シールドへの衝撃は想定内で収まった』

「了解。つまりここからが本当の退屈との戦いなのね……」

 この先は基本何も起こらない。起これば終わりだ。

『自動操縦はレベル5だが、6相当の警戒はしている。映画でも音楽でも寛いだら良い』

 そのうち退屈に負けてそういうことをしだすとは思うが、初日ぐらいは監視のウェイトを多く置いておきたい。

「まあ、フィノーラの観光スポットの予習でもしておくわ」

『それならアカリが、過去の事件の報告書を探し出した。君にはぜひ読んで欲しいそうだ』

「……後でね」

 目的地の惑星フィノーラは星系の中心都市がある観光保養惑星だ。トレジエムの青い惑星と同様に温暖で過ごしやすい。

 

 一人で観光を想像しても大して面白くない。だいたい旅行雑誌は何度も読み込んで来ているのだ。新しい情報なんてあるわけ無かった。わずか一時間で検討は終わってしまい、観光地の紹介動画もほとんど見終えてしまった。結局は凄惨なレポートを読む羽目になるのだった。

「これならアカリ君が怖がるのもわかる気がするけど……軍の正式な報告書だし、事実がまとめられているんだろうけど、変な話だ」

 動画も一部公開されていて、相手の姿は見えないが確かに戦闘が発生している。沈む船のブリッジからの映像だろうか、触手のようなもので海に引きずり込まれているようにも見える。空中では炎の渦が戦闘機に襲いかかる。

「あ、避けた。パイロットはアカリ君かな」

 ベアトリクスはアカリフリークである。彼が実行しそうな機動は熟知していた。

 ちょっとだけ楽しくなってきた。

「確かに不気味に森が光っているね。これがホントなら隠しようもないんだけど、どこにも書いてなかったし……」

 実際の出来事は軍の演習区域で起こっており、一日もかからずに終わったので関係者以外の目撃者はほとんどいない。

 事件は公表されているが誰も知らないことなので、調べる人間もいない。アカリの持ってきた資料は数年ぶりに請求された、通算三例目のものだった。

 

 残る時間はあと四時間。何も起こらないモニターを眺めていても精神がおかしくなるだけだし、ベアトリクスは船内の見回りを行うことにした。運航の手引きで推奨されていることで、一般的にも広く行われているが、機械類が綺麗にパネルの裏に隠れてしまっている現代の宇宙船ではどれほど効果があるのかはわからない。今は軽い散歩と考えておいていいだろう。

 メイン通路のある第3デッキを歩いていた。生活区画でもあるこのデッキには食堂や客室がある。シャワールームが下のデッキにあることを除けば、生活はこの一〇〇メートルの中で完結してしまう。小さい船のレイアウトはよく考えられているのだ。

 つま先に何かがぶつかった。床掃除ロボットだ。「おっと、ゴメンよ」

 床掃除ロボットとは割とよく出会う。彼らのおかげで床や壁や天井は綺麗なのだが、平面以外の部分、例えば食堂や客室は時折清掃業者に掃除を頼むのだという。

 ちょうど掃除ロボットの進路をふさいだ形になってしまった。ロボットにいわゆる眼というものはないのだが、ベアトリクスにはロボットがじっと見上げているように感じた。「退けよ」と言われているような気がしてならない。が、こういう時無理に避けると、ロボットを踏んでしまうことがある。ロボットとベアトリクスは見つめあった。しばらくして目の前の彼女を動かない障害物と判断したロボットはベアトリクスの足元だけを綺麗に避けて動き出した。

 見回りは第3デッキだけで終えてベアトリクスは操縦室に戻った。

『見回りご苦労様。何か問題はあったか』

「完璧でございましたよ」

 残り時間は読書に充てることにした。まだ初日だというのに、最後の切り札を使ってしまったような気がする。

 ハイペリオン文庫のMANGAはベアトリクスの好みではないので、ネットワークにも流通しているものを選ぶ。バトル物か、学園物が大層好みだった。

 このリライト装置によるフィールド内でも外部とのやりとりは可能だった。光の速度に依存しない仮想粒子タキオンによる通信方法が一世紀近く前に開発されていた。タキオン粒子の「補足しにくさ」由来から来ている通信容量の少なささえ気にしなければ星団中のどこでどんな状態でもデータ通信は可能だ。

 神から賜った防具を身に付けた少年たちが、拳で戦う物語が好きだった。ビデオ版もあるのだがそちらはたまに線が細すぎる回があるため、好みではなかった。これ、うちの星の神様編描いてくれないかな?とは何度思ったことか。

 学園物では、ニッポンのハイスクール物が良い。かの国独特の学校制度があって、それを知らなければ基本設定すら付いていけないのだけど、それらをクリアすればかなり楽しめた。最強生徒会系は嫌いではないが好みではなかった。どちらかというと睨まれている側、サークル活動の部屋を巡ってその生徒会と戦うみたいなのが好きだ。

 

 ベアトリクスの勤務時間も終わりに近づいた、引き継ぎタイム。シャルルが操縦室に現れた。

「おはよう、ベアトリクスさん」

「おはよう、真面目に起きてきたね」

「まあ一日目だからね、まだ」

 見た目と言動で、あまり真面目な印象は受けないのだが、シャルルは仕事は真面目にこなす。本人はそういう風に見られたくないのは分かっているので、少し不真面目風に扱ってやるのだ。

「そういうベアトリクスさんは、たいそうお疲れの様子。何かありました?」

「逆よ、何もないの」

 だからMANGA読んで良いのかっていう葛藤がね……これをあと七回繰り返さなきゃならないなんて……ぶつぶつ呟くベアトリクス。

「俺にはやることがいっぱいあるので。八時間じゃ足りないくらいですよ。さあ、ご飯作ってきてくださいな、お腹すいちゃったよ」

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