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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
26/28

02-105 狂気の旅へ出発

 出発の日(ゼロデイ)だ。

 局に運行計画を提出したとき、計画の再考を求められたが、荷主のたっての希望と言うことで認められた。不可能な行程ではないし、パトロールも頻繁に行われているルートなのだ。最悪のことにはならないだろうし、計画書の提出以外は運行を中止させる権限は残念ながら局には無い。本人達がわざわざ時間を掛けて運ぶ意味を説明できなかったのには一抹の不安は残るが。

 

 シャルルとベアトリクスがハイペリオン号を着けてある桟橋に行くと、貨物倉庫から出された積み荷が無人の作業船によって運び込まれようとしているところが見えた。

 二人は船に乗り込み、それぞれ好きな客室に荷物を置くと出発前の打ち合わせのために操縦室へ向かった。

 待ちかまえていたアカリは想定外の笑顔だ。無理しているのかもしれない。これから望まない狂気の旅が始まるのだから。

「みなさんに朗報です」

 人員補充か?シャルルは頭に浮かんだその考えを即座に否定した。アカリには不可能だ。

「何と、本社が力を貸してくれました。増設ジェネレーターをハイペリオン号専用エクステンションとして作って届けてくれました!」

 何ともご都合主義だが、ありがたいことには違いない。

「リライトシステム3段分底上げのエネルギーだよ。だから、ハイペリオン号のリライト出力80パーセントでも……どのくらい?」

『ほぼ7.0だな』

「凄いよね!」

『装置に無理をさせるわけではないが、いつもと違うレンジだ。到着すれば念入りに点検が必要だな』

「プルトニウムもたっぷり。これ、五日ぐらいで行けるんじゃないか?」

 その装置をわざわざプルミエルの本社から持ってきたのだという。だったらアカリが届ける予定の積み荷を持って帰れと言いたい。


「せっかく早くから来てもらったけど、航路日程の再計算をするから、少し待ってて。コーヒーでも飲んで」

 喫茶ハイペリオンのマスターは何も言わねばコーヒー以外を淹れてくれない。そしてそれほど美味しくはない。複製機のせいではなく、レシピから今一つ美味しくないのだ。まるで斡旋所の無料コーヒーのようだ。

「お待たせしました。ハイペリオン、みなさんに説明を」

『ブースターのおかげでかなり短縮ができた。コースと日程は、トレジエムからプルミエルまでは、およそ五日。中間のキャトリエルには寄港しない。プルミエルで一日滞在。プルミエルからスゴンまではセティエムの惑星圏を避ける形で二日。フィノーラで三日滞在。フィノーラからトレジエムまで五日の合計十六日。船内時間はGST-DTを発信するので合わせてくれ』

 リライト装置は贅沢に90パーセント出力。余剰分のエネルギーを使えば0.9光速程度出すことはできるが、時間遅延の影響を考慮し、0.5光速に留める。

『当然、必要があれば速度はこの限りではない』

 ハイペリオンの最後の一言にアカリの瞳が輝く。

「困るな、ハイペリオン。今のは不用意な発言だよ」

『何!?』

「フラグだよ、フラグ」

 ハイペリオンはすぐさま反論する。

『データベースを過去に遡って調べたし、みんなにも聞いたが、フラグという物は非常に主観的なもので、クルーの発言により事象が変更されたと言えるような、観測記録はない』

 アカリのお楽しみ、ハイペリオンへのフラグいじりだ。因みにアカリは全く気にしていない。トラブルが起きたところでねじ伏せるだけだから。

「ハイペリオン、気にしてるわよね」

「アカリの船だからな、統計データでは出ないが、実感として何かあるんだろ。不憫だ」

 ベアトリクスとシャルルは可哀想なAIに同情した。

 

「うん。次はルーティンを決めよう。細かく区切っても、ゆっくり休めないだろうから、一人八時間。前後一時間は重なるようにしよう。外惑星域から出てキリの良いところから始めるのでどうかな。まあ標準仕様だね。最初は僕が担当するよ」

「じゃあ次は私で良い?」

「最後は俺か」

「決まりだ。では出航準備にかかるよ」


 シャルルはメカニックであり機関員だ。ハイペリオン号へのお祝い、という名目のイタズラにも加わったくらいなので、この船の機関に関しては知り尽くしていた。ベアトリクスは流れの船乗りで基本何でもできる。この仕事では主に料理担当なのだが、出発の時くらいはと管制との通信を担当する。アカリは船長兼操縦士だ。残りは全てメインAIのハイペリオンがコントロールする。

「ハイペリオン、機関チェックを開始する。リストを機関士席に出してくれ」

「ハイペリオン、港の管制につないで頂戴。……管制、こちら貨物船ハイペリオン号です。あら、エリック。……そう、もうじき出るわよ。……心配してくれてありがとう。新しい計画が出たのよ、送るわ。なんとかなりそうでしょう?」

『船長、貨物の輸出許可が出た。第一貨物室に積んで固定も完了している』

「ありがとう」

『内容物を確認するか?』

「それはいいよ、また後で」

 

「船長、機関はO.K.だ。待機出力で運転中」

「航路もオッケー。港内の認可ルートはハイペリオンに送信したわ」

『ルート受信している。桟橋とのドッキング解除確認。船内環境制御問題ない』

「では、ハイペリオン号発進します。推進装置に動力を接続、コントロールをこっちに寄越して」

「繋いだよ。コントロール切り替えもヨシ」

「ありがとう。ベアトリクスさん管制に挨拶しておいて」

 宇宙ステーションと分離したハイペリオン号は、スラスターを慎重に噴射して港の出口に船首を向けた。補助推進装置を使って、ゆっくりと港内を移動していく。

「西出口まで港内速度で。ハイペリオン、サポートよろしく」

『了解。アカリ、エムロード号から通信だ』

「繋いで」

 操縦室の正面大型モニターに姉二人が映る。

「アカリ、気を付けて行ってくるのよ。シャルルもしっかりね」

 もうそんな歳でもないが、姉妹の心配がありがたく男達は照れ笑いになる。

「ベアトリクスも気を付けてね。帰ってきたら楽しいOHANASHI楽しみにしてるわ」

「……うん」

「アカリ!」

 エレナが交代で映る。

「気を付けて行ってくるのよ。帰ってきたらさ、あの、また……」

 突然モニターの画像と音声にノイズが走る。

『おっと済まない。アンテナかな。通信回復する』

「良いところで……とにかく気を付けて行ってくるのよ」

「ありがとう、エレナ。ハイペリオン、ナイスだ」

 フラグハンターハイペリオン。

「ベアトリクスは調子のらない事ね」

「分かってるわ、オネェチャン」

「ありがとう二人とも。行ってきます」


とうとう出発しましたね。この先25話にわたって、退屈な宇宙の旅が始まります。

3人とも、正気を保ってくれればいいのですがね。くれぐれも「4人いる!」みたいにはなりませんよう……

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