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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
24/28

02-103 アドベンチャーでプレミアム

 確かに自分達にはAPが足りないのかもしれない。ベアトリクスが本気か冗談か分からないが導入した冒険力という概念は、単なる船乗りたちを危険な冒険から遠ざける事に成功した。次の募集には推奨APも書いておいて欲しいと、アカリは言われた。

「どうやって測定するんだよそれ」

「知らないわよ」

 冒険家と船乗り達はどうやら理解し合えたようだったが、アカリにはさっぱり分からない。ボヤキが当然出たが、それを拾ってくれる人もたまにはいるのだ。

「デジレさん、ご苦労様です」

「アカリ君もお疲れ様」

 デジレもトレジエム星系で活躍する船乗りだ。最近はベアトリクスと組むことも多い。女性としては背が高く、アカリと同じくらいだ。この辺りでは珍しい黒髪を腰辺りまで伸ばしている。髪を束ねるのはカラフルな糸を組み合わせた飾り紐で、立ち姿の凛々しさもあって、黙っていればサムライレディといった風情だ。真正の痴女だという欠点がなければ、意外と常識人である。暴走するベアトリクスの押さえになってくれる頼もしいお姉さんだった。たまに役割が逆転したりするが、いいコンビではある。

「今日はベアトリクスさんが暴走するパターンですか。おっと、お尻を触らないで下さい」

「あの子も普段は、というか故郷ではいわゆるお嬢様なのにねえ。アカリ君が絡むと楽しくなるんでしょうね」

 ベアトリクスの出身星である第一三星系のベータ星は地球よりも高重力の惑星であった。入植者は移民船団本体とは異なる移民船で星団にやってきており、主にオランダ系の移民者が乗っていた。それからおよそ三〇〇年間の世代交代で彼等の子孫は強靭な肉体を手に入れたのだ。ベアトリクスは惑星の主導的な立場にある家のお嬢様らしい。

「で、私が受注したということでいいのね」

 端末の周りに集まっていた船乗りたちが元の席に戻っていく。アカリのところには二人だけが残った。

「あら、デジも受けるの?」

「アカリ君は3人ほしいのでしょう?本当は。あなた達ほど冒険力?はないけれど、私もだいぶ慣れたから資格はあるんじゃない?」

「まあいいでしょう」

「何よ、偉そうに」

 

 三人はテーブルについて詳細を詰める作業に入った。

「行先はプルミエルです。知っての通り、僕の船は通常空間しか進めないから日数がかかるよ」

 そこ以外は良い船なんだけどね、とハイペリオン号を思い出しながらベアトリクスが呟いた。

「厳しいよね。そもそもなんでそんな縛りのある船でプルミエルまでの荷物受けるの?」

 デジレが当然の疑問を出してくる。彼女は露出が多い服装を好むため、近くに座られると目のやり場に困る。

「ご指名なんで」

「またあの人?」

「ええ、まあ帰りは荷物受けず、どこか観光に寄っても良いかな、とかは思っているんですけどね。何でだか、無事に着いたら星団リゾートチケットくれるって言うし。僕としても知っている人たちと行くほうが楽だから、二人が受けてくれてよかったと思っているよ」

「……またそういうことを普通に言う」

「これって誘ってるのよね、彼」

「ごめん、またやってしまったかな?普通の感謝ととってほしい」

 ベアトリクスは英雄である条件の一つに自然に人を引き付ける力というものがあると思っている。アカリもついうっかりと思わせぶりなことを言ってしまうのだ。うっかりではあるが鈍感でもないため、気付くとこうやって訂正してくる。おかげでおかしな事にはならないのだが、人によってはショックを受けるのだろう。

「それにしてもリゾートチケットだなんて、どうしてなんだろうね?怪しすぎるよね」

「ベアトリクス、あなたは冒険好きというより、トラブルが好きなのね」

「デジ、どんなトラブルもアカリ味で冒険になる。覚えておきな」

 働けばそれだけ個人の資産は増えるが、特に働かなくても十分以上生きていくことができる、そういう世界になった。生活の保護などではなく、星団政府の方針だ。今よりも良い暮らしがしたければ働けばいい。何か他人にアピールしたいこと、たとえば料理店などを開けば対価をもらっても良い。

 そしてこんな世界になってマネーよりも重要になる物、それが信用だ。むしろ生活のランクを上げるためには、信用を得ることの方が昔よりも重要になってきているほどだ。

 この星団リゾートチケットは、いくらマネーを積んでも手に入らない。信用ある人物だけに発行されるチケットで、星団中の高級リゾートホテルに特別待遇で泊まることが出来るようになるのだ。生涯真面目に暮らしていてもお目にかかることはおそらく出来ない、プレミアムなチケットだ。

「アカリ味……ベアトリクスってエッチだよね」

「黙りなさいバカデジ。あ~あ、私の名言が汚されちゃった」

「ほかに確認しておくことは?」

「三人って事はないよね。後は誰が来るの」

「実はまだ決まってない。姉さん、エムロード号のところから人を出してもらうよ。二人くらい」

「なる程」

「私、シャルル君好きよ」

 痴女め。

「そうね、彼は来るでしょうね」


「ではお願いしますね。出発は五日後で、明後日ハイペリオン号で打ち合わせしましょう」


 アカリがハイペリオン号に戻ると貨物船の船長から返事が来ていた。

『立候補者多数、決めきれないからまずは予定を知らせよ。というか私も行きたいんだけど』

 姉からの魅力的な提案に心が躍る。

「まあそれは無理だよ、姉さん」

 実際問題として、よその船の船長をひと月以上借りることは不可能だろう。そう考えると、よその船のクルーをひと月以上借りることも無理なように思えてくる。

「最悪の場合、僕がプルミエルまでの定期航路で荷物を運ぶ?」

 それなら往復一週間、ダメだぜんぜん楽しそうじゃない。アカリは考えを即却下した。

「出発は五日後。プルミエルまで往復、惑星時間で四十日ほど予定。希望数は二名、ミーティングは明後日行います……っと、よし。」

 誰が来てくれるだろうか。姉からの返事を楽しみに待つことにするのだった。


『アカリ、来客だ』

「ベアトリクスさん達だろう、入ってもらって。食堂に通してね」

 ハイペリオン号内の食堂でコーヒーを用意して待っていると、見知った二人が入ってきた。知り合いに頼んだので当然顔見知りだが、思っていた組み合わせではなかったのだ。

「あれ?ベアトリクスさんとシャルル?」

「やあアカリ君、おじゃまするね」

 やはり二人しかいない。

「デジレさんは?」

「それがさぁ、旦那さんの説得に失敗したらしくて。今朝まで粘ったみたいなんだけど」

「ああ、……名前忘れた、彼ね。やっぱり根に持ってたか」

 ダイヤモンドタウンでアカリに遊ばれたあげく、やっつけられた可哀想な戦士だ。

「知り合い?」

「ベアトリクスさんは、会ってないね」

 あの時はエレナと二人で、軌道上のハイペリオン号の中でぬくぬくとしていたのだ。

「運命の巡り合わせが悪くてね。悲しい事故だった。仕方ない、デジレさんは不参加だ」

 弱いのは仕方ないが、アカリの計画の邪魔になるのは頂けない。後でデジレに伝言を頼もうと誓った。

「お土産を持って行って悔しがらせてあげないと」

  

「アカリ、ベアトリクスさんなんか遊びに行くと間違えてないか?さっきからずっとこんな感じなんだが」

「あとで詳しく話すよ。ウチからはシャルルだけ?」

「丁度こっちも長期が入っていてさ。エレナが凄く来たがってたけど、こっちが終わる少し前に出る事になってて。改修後初の長距離に主任の操舵士は外せないだろ?エレナが、私が行けないのなら誰も行かせないって暴れて」

「よく来れたね」

 アカリと同じ船で育った兄のようなシャルルはアカリを大層可愛がっており、アカリが独り立ちして船に戻ってこなくなったのが寂しいらしい。たまに誘うと喜ぶからと、長期の航行にはクルーをお願いしているが、やはり一緒にいて気疲れしないのが最大の理由なのかもしれない。

「流石におまえに迷惑掛けたくなかったのか、俺だけは許可された。たまには帰ってきてあいつに構ってやってくれ。ホント頼むよ」

 今回は独裁者の命令らしいが。

「第七惑星にも一緒に行ったじゃないか」

「明日は休暇だそうだ」

「……わかりました」

「それでは早速旅行の話をしましょう!なかなかに良いメンバーじゃない?」

 六人のつもりが三人になってしまった。

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